前号「レセプターに蓋」には無論賛成意見は少ない筈です。しかし馬鹿にはなりませんよ。わが家は過去30年間、この手法で鶏のウイルス性呼吸器病を全く押さえているのですから。 発端は昭和40年代、当時の家衛試の椿原先生との話からです。(何度か書きました)ようやくIBの生ワクが使えるようになり、サルスベリーのコネチカット、デュファーのマサチューセッツのどちらが実際の野外毒に有効かと云う話になり、採種して攻撃試験をやったらどっちも有効であるばかりかNDも押さえてしまったのです。先生は無論認めません。でも今で云うトライ&エラーは現場の精神です。ワクチンウイルスがどのくらい生きているかと云うようなことは聞かねばならないが、効く効かないは現場の判断だ位の調子でした。勝手に《お山の大将方式》と名付けたのは書いた通りです。後にこれが干渉現象であり競合排除であることを知ります。 NDLVもIBLVもそれぞれの使用書に、他のワクチンと混ぜないように書いてあります。実際両者の間に干渉作用が起こりますが、むしろ同時にやるとそれが起こりません。使用書に反して混ぜた方がいいのです。其の際レセプターを折半することで理屈の上では単独より効きが悪いのかも知れませんが、接種時期をずらすより間違いは有りません。 実際の野外ではウイルス同志の混合感染もしばしばです。しかし必ず主と従の関係があります。同じ群でNDとIB同時にバタバタというのは見たことが有りません。ただ常に逆転現象が起こるので、優位を保たせたいほうを補給しなければなりません。その時期はせいぜい1、5ケ月です。南中国でのH9N2とH5N1の関係もこれを裏付けていて興味がありました。 我々はこれを実際NDに応用してきました。IBは伝染速度が速く先回りが困難でした。NDに関しては、緊急のスプレーで十分間に合います。 さてこれのAIに対する応用です。 AIVとNDVが同一のレセプターを必要とするなら、予めNDVによる占拠が可能かも知れません。この場合INFの産生がどのくらい期待出来るかなどは現場で知る由もなく、免疫に対する期待も全く有りません。それに細胞の組み合わせは特異的だと聞いて居るので、内在性干渉については期待出来るかどうか分かりません。 ノイラミニダーゼ阻害剤はレセプターから離れないように作用します。投与は発熱後24時間以内とされているのはその為です。それなら最初からレセプターに蓋をしろと考えても不思議ではありません。それなら入って来たウイルスは素通りで、ドリフトもシフトもサイレントエピデミックもない筈です。 まあこちらで言うレセプターそのものが概念的なとらえ方でシアル酸がどうのこうのという専門的な話では無論ありません。 要は繰り返すように、現場はあくまで 「トライ&エラー」です。通り一遍の反対論くらいに怖じけずかず、やってみるべし。但し誰も賛成しないこと、責任は取りかねますよ。 「やってみろよ、責任は取らないよ」は椿原さんでした。 すべからく常識内の話は何の発見も無く面白く有りません。常識外(非常識ではない)のヒントを貰ってこそ秀れた講師だと評価したものです。 先日の茨城で採れたウイルスは実験では感染しなかったそうです。「実験鶏のレセプターが塞がっていたんだろ」と一発で答えが出ます。レセプターって言葉、便利ですねえ。 H 17 9 27. I,SHINOHARA. |