『鳥インフルエンザ問題の今後(97)』



小委員会も農水省も、一連の流れからはでっちあげに近い偽ワク問題を、消去済みの他のファクターを復元させて、可能性の一つに過ぎない(茨城新聞9/10)とするところまで後退させた上で、その嫌疑を遠くメキシコ政府に送り飛ばすことで一応ジ・エンドの形にした。我々業界はこんな荒唐無稽なことを長追いすることなく、その為に撹乱されて一時的にせよマヒさせられた正常な思考回路を取り戻さなくてはなるまい。
訴訟だなどと息巻いた農水も農水だが、何と云っても元凶は喜田さんである。今日(10日)の読売新聞11面にも喜田宏教授を称える記事がでているが、そのなかの「一つながりのいのち、これへの敬意とあこがれが私の研究の動機です」という言葉と日頃のslaughterer(虐殺者)との乖離はひどすぎると思わないか。二重人格そのものである。学者は気楽でいいなあ。

それはさておいて、偽ワクは論外でも、このLPAI騒ぎは、当局側の説明では分からないところが多すぎる。整合性のない都合の悪いところは伏せたままだから現場とすれば推理するよりない。其の際、切って捨てるところは切って捨てないと一向に前に進まない。

まず第一人者喜田教授のいわれる発症、抗体、ウイルスの3点セットを揃えることの重要性を考えるとき、難しそうなのは一つの個体ではそれらがそろいそうもないことである。
もともと育種の段階から鶏の場合は個体ではなく集団遺伝学である。一群として捉えれば発症とその時期を確認することで最初にウイルスが、耐過すれば抗体が必ず見つかる筈である。それが今回は最初のAK農場以外は症状をつかんで居らず、AK農場もEDのみでIBなどとの類症鑑別が必ずしもできていないとされるが、EDのあった4月から数えて二カ月程度なら、感度が悪いとされるAGPでも100%陽性となったことが分かる。
それがI養鶏の場合は1/10がたまたま陽性になったくらいでも動衛検のHI再検査で100%の陽性とされてしまった。更に最も信頼のおけるA場の事例での報道でも、同じ家保の検査で陰性の群全体が数週間後の再検査で陽性と判定されたことでウイルスも居らず、検査の整合性が全くなくなった。尤もすべて伝聞で確かなことは何一つ無い。
やはり発症を捉えた上でないともともと抗体検査そのものが地方の場合は無理なのだと思えて来る。しきい値をどうこうする問題ではなさそうだ。そしてその一群にウイルスが全く見つからないことをそのまま受け取ればかなり古い時期の感染だということにもなる。研究機関ではIgなどで掴んで居ると思うが、われわれには知らされて居ない。

そう考えるとウインドレスを含め、格別EDとしなくても産卵ピークが出ない問題はここ数年来聞かれた悩みであった。IBの特徴の奇形卵排出はない。これをあえて今回のLPAI騒ぎに結び付けると見つからないだけでLPAIそのものは以前からあったかもしれないと思えて来る。更に97年の家衛試の全国調査の結果から我々は人間や豚と同じH1,H3亜型の存在を疑って来たが、いつの間にかH5に置換していたことも考えられる。更にもっと想像をたくましくすれば、浅田農産の事例以後、我が国だけさしたる理由も無く奇跡的にH5N1の続発を免れたのも、ひょっとして既に今回のH5N2のサイレントエピデミックが起きていたのではないかとの仮説さえ成り立ちそうな気さえする。なぜなら大槻教授を慄然とさせたという野鳥からのH5N3の発見は1983年のことと聞いて居るからである。

このように発症を伴わない平時の抗体調査の困難さ、ウイルス発見の難しさをうかがい知ると、整合性で考えればこんなところにたどり着くような気もする。無論現場の勝手な想像の域を出ないただの話だが、実際自分がやられて見ないとEDの予後、熱型、他の疾病との絡み具合などよく分からない。
EDについてはガルシャさんの報告では回復不能としているが、韓国の話などを総合するとIBのような輸卵管機能の異常ではなく、熱射病型とも聞く。高熱にさらされると産卵は大抵回復しない。
その熱型も、敗血症や腎炎のように朝晩変化する話もあるが、AIと分かると淘汰されてしまい実験室のように絡みのない状態と野外では症状は全く違うので、自分がやられたら許される範囲で密かにデータをファイルするよりない。 
昔からの悪いくせで、口では早期淘汰と云いながら、いざとなると開いたりして調べたくなる。浅田農産の二の舞いになりかねない。

H 17 9 11. I,SHINOHARA