『鳥インフルエンザ問題の今後(94)』



ある議論をあえて取り上げたい。「農水省が、偽ワクチンのせいで嘘をつく必要性がない」と云う擁護論についてである。

農水省にとってトリフル問題に於ける最大の使命はそれを如何に防御するかにあることは論ずるまでもないが、その方法論として事実上のLPAIまでも摘発淘汰の対象にするこれまでの《清浄国論》で行くのか、実態をわきまえてコントロールする方向に転換せざるを得ないのか、今回その岐路に立たされた。
ヨーロッパの基準である92/40/ECによってオランダもイタリーもHPAIは総て淘汰したが、それでも今回の日本のようなLPAIは対象外とした。日本はその対象外とされたLPAIの中でH5,H7に関してはHPAI並に扱うこととした。それに加えて無断でのワクチン使用を規制して、一罰百戒を込めて、この疑いが有る場合は疑似患畜としてこれも淘汰の対象に加えた。具体的には陽性のみでウイルスの居ないケースである。

この世界一厳しい基準は、言葉を変えればジャカルタ会議以降の世界の趨勢を考慮した場合世界一遅れた基準とも云える。92/40自体が10年も前の基準であるから、それにLPAIまで加えた日本のそれは世界の趨勢におおざっぱに云って20年も遅れて居るではないか、とするのが、このホームページの主張であった。
それが現実に茨城で発生した。これは一応H5N2と同定されたが、ED症状が以前あったとはいえ現在は健康であり、典型的LPAIである。これに世界で最も遅れた我が国の基準を当てはめて淘汰を始めたらきりがなくなる。折しも未曾有の危機として、シベリア、カザフスタンのガンカモの異常が伝えられた時点で、世界中が問題にもしない、否、そのゆとりとてない此の時期に、事実上ウイルスの殆ど出ない、ということは変異の恐れとてない鶏群をむやみに急いで殺さぬよう緊急提言に及んだのであった。
にも拘わらず小委員会は殺処分を決定し、殺し切れない事態になると、《ウインドレス安全論》をでっちあげてすりかえた。そして根拠の薄い殺処分理由を補完するために、これも根拠が希薄と云うより同じでっちあげに近い偽ワクチン疑惑を打ち出したのである。

当初、水海道付近での数件の陽性例は疫学的にみて、同一の発生とみられた。しかし現在の状況では水平感染ととらざるを得ない。浅田農産の事例では1件だったものが数件になっても、そして現在のように茨城全域におよんでも、そして実際は周辺県への拡がりも懸念されても相変わらず一地点での問題だと頑張る官側の態度はすべて《清浄国論》を守りそれに沿った自分達の主張を擁護するだけの、本来の使命を顧みない国賊的態度だと極め付けてきたのもこのホームページの一貫した主張である。

極論すれば、もう世界の情勢からすれば、農水の考え方は古すぎ、これでは養鶏産業はおろか、あらゆる意味で国民の安全もまもることが出来ないと考える。

現にこの秋からの、予想される現実の危機への備えは何一つ出来てはおらず、日本の養鶏産業の命は風前の灯火であることは間違いない。

H 17 6 9. I,SHINOHARA.