『鳥インフルエンザ問題の今後(73)』



本当にやれやれである。A鶏園に対するウイルス分離検査は陰性だったとか、RT−PCR法による遺伝子検出検査を併用した発育鶏卵、CK細胞への接種によるウイルス分離方法が取られての結果らしいとあるが、我が国の感染研、動衛研などの技術水準をもってしても、実際野鳥などからの分離例も少なく、発症を伴わない事例での検出は相変わらず困難な作業なのだろう。

何しろ、たった数週間前の家保による検査の総て陰性の判断が起点となって、今回同じ家保による100%近い陽性率との間の整合性そのものは、世界の例でも、特にウインドレスの場合は、一旦ウイルスに侵入され、しかもそのウイルスがごく低濃度で感染出来る性質を持つ場合は(多くはHPAIだがLPAIでも同じ性質のものがみられ、むしろLPAIはこうだと決めつけた日本の教科書がおかしかった)爆発的な拡がり方をしているので同じ家保の2回の検査の結果の間に整合性が全く見られないということは無さそうだ。ただウイルス自体の退散は鮮やか過ぎるので、やはり発症がないと検出分離は無理なのかも。

そうだとすれば、むしろウインドレスのほうが感染が速く、より危険だということになり、国の言い分は180度崩れてしまうし、さもなくば家保の誤認になってしまう。一見同じようでも、これまでの家保の陽性判断を非特異反応などとして動衛研が次ぎの段階で陰性に修正していたのとは訳が違い、明らかに同じ家保の検査結果なので、そのような事実を事実として認めればウインドレスの優位性は一気に崩れるし、誤認とすればサーベイランスそのものの信頼性がまるで無くなることになる。だから今回のケースは地方もAGP検査をやめてHI試験にすべきだと云うような単純な問題ではなく国の姿勢が問われることになりかねない。

一方で次の解放鶏舎での陽性鶏の殺処分は早速決まった。少なくとも、教科書にない今度のウイルスの性質からはウインドレス鶏舎のほうが、より侵入されやすいこと、拡がり易いことが分かり、百歩退いてもこと感染について開放型鶏舎との比較で優位性は全く認められなかった。それに一旦侵入を許せば、《教科書の10の5乗型でない限り(此の点が重要である)》爆発的拡散による感染は容易となる。つまり本来飛沫核感染は隣の個体への接触感染であり開放型であれば此の形だが、かなり猛烈な空気の対流があるウインドレス内では空気感染的に拡散するからにほかならない。それに重要なのは野外の鶏にくらべて馴致されておらず、集団が大きいので消毒に頼る面が多く、細胞免疫を作る有効な生ワクチンが使えず、せまいそれぞれの感染症に対するそれも育成中のワクチネーションによるわずかな抗体しか持ち合わせていない鶏そのものの資質の問題である。
カプアさんの云われる、危険な過密集団養鶏とは言い換えればウインドレス鶏舎集中地帯、更にウインドレス鶏舎内部そのものに外ならない。したがって防疫上ウインドレス鶏舎が有効だとした委員会の判断は素人のたわごとに過ぎない。

もうわれわれもくたびれてしまった。かつてはマスコミ報道に怒りをぶつけたりしていたものが、それさえなく、そっぽを向かれたまま鶏だけが粛々と殺され続けて居るのを想像するだけで重苦しい気持ちになる。どうせどうにもならぬなら皆で蓆旗でも振り回して居た方が気が紛れるかもしれない。鯉の人達もそんな気分だったろう。茨城県の知事選挙では候補者の現職は産業の発展に力を注ぐと訴えて居るが鯉や鶏などの生き物はお荷物なだけで所詮、産業にはなり得ないのかも知れない。

 それでも、我々飼育現場は常に、敵を知るための情報を集め、それに抗するため、あらゆる自然の力と人為的努力を結集して迎え撃つ努力をして来たし、一方の施設に頼る組もバイオセキュリティを強化してそれに備えては来た。しかしいかんせん決め手を欠く。

その決め手こそが特異的なワクチンであることは論を待たない。過去の永い鶏の伝染病との戦いで、我々はあらゆる自然の抗体を、細胞に持たせることで大方の敵から鶏を守ることができると過信さえして来た。それを無残にも打ち砕いたのがニューカッスル病やそれに続くマレック氏病の猖獗だった。抵抗力のあると思われた庭先の放し飼いの鶏まで軒並みやられた。ニューカッスルの場合は死毒ワクチンさえも効果がなかった。それが生ワクチンによってようやく救われた。その後、雛の育成業が独立し質の良い死毒ワクチンが続々現れるようになると、それらを組み込んだワクチネーションが威力を発揮し、そのプログラムが成鶏舎収容後の成績を左右するまでになった。そしてそのような雛が多数を占めるようになり、その結果鶏病は極端に少なくなって、収容後は手付けずのウインドウレス鶏舎も普及し、環境的にもウイルスや細菌が押さえ込まれるようになった結果、野外でも、自然の免疫だけで小羽数なら鶏が飼えるようになった。

こうなるとワクチン何にするものぞという奢りが、ウインドウレス、自然養鶏の双方に拡がり、政府の清浄国論にむしろ呼応する形で生産者の中からさえワクチン反対論が広まったのだが、われわれとすれば、本当に根拠のあるものとは思えず、実際やられて見れば分かるだろうと冷ややかに見て居る業界人間も少しは居た。ただ今となっては過去のニューカッスル病体験者はわずかしか残って居ないから、年寄りの云うことは聞くものだと云っても若い人達が耳を貸すことはないが、それでもそんな中でうちの連中は時代遅れの養鶏にしがみつきながらNBIなどの指導で細胞の局所免疫、粘膜免疫の、せめてもの現場での勉強だけは続けて居るらしい。

きっとT細胞の数なんか有る程度多いに違いなくても、その代わり一番先に疑陽性(非特異反応)で摘発されるだろう。それに摘発されたら再起なんかおいそれと出来っこないから、再起が条件の互助基金なんか入れる訳がないと若い連中は云って居る。尤もこれだけ潰れますよ、潰れますよを云い続けて居る鳥飼いも少ないそうで皆「うちは大丈夫です」としている養鶏場ばかりだよと息子達が笑う。でもこれで無事だとするほうがおかしいよ。

   農水が ワクチンひとつ決めかねて 今日も鳥殺し 明日も鳥殺し

H 17 8 28. I, SHINOHARA