霞ヶ浦の鯉に学ぶ

歴史的に見てもモンゴル軍の進撃を阻んだのはペストであり、第一次大戦を終結させたのはスペイン風邪だったという。それで人類は滅んだかといえばそうではない。これが自然の摂理だと思う。

霞ケ浦の鯉も養殖業者の話も聞くに忍びない。養鶏業者も明日は我が身、が現実のものとなって来た。行政当局は一方では鯉は食べても安全、肉も卵も安全と宣伝しながら他方養殖の鯉は全部殺せ。肉や卵の輸入は禁止。疑いのある鶏は生き埋めだと云う。霞ケ浦の養殖鯉は全部殺しても野生の鯉は手が付かない、それならば養殖鯉を殺してもコイヘルペスウイルスの絶滅なんて出来ないはずだ。ならばなんのために全部殺させるのか。

肉や卵の輸入禁止も指摘される自己矛盾に困って、加熱処理をしたものについては認める方針という。それなら生でも同じではないか。ところが生だと二次加工業者の所から日本の養鶏場へ入り込む恐れから、消費者は安全だが生産者保護の為を匂わせている。

ところが実際は生産者保護の立場なんて日本政府にもWHOにも全く無いと云って良い。そんなことも分からずに、事実上生産者潰しの国の方針に唯々諾々と従っている業界なら決別せざるを得ない。ただトリインフルエンザはコイヘルペスと違って人獣共通感染症からヒトのインフルエンザに変異することが恐れられているだけ、あらゆる学者、学説、研究者、現場の知恵を総動員して慎重にそして迅速に対策をたてることが必要だ。

昨日のニュースで英科学誌が1997年中国南部の養鶏場の鶏に不完全なワクチンが投与され不顕性感染の形でトリインフルエンザが広がった、と指摘したことに中国政府は猛反発、一方ではワクチンに反対する学者のそれ見たことかとする恣意的な言葉も伝わって来た。

そのことについての日本獣医公衆衛生学会のホームページをみると「その影響が検討された結果H9ウイルスに免疫となった鶏はH5ウイルスに感染しても不顕性になることが確認され、これが摘発漏れの原因となった反面、これまでHA亜型が異なると交差免疫は成立しないとされてきたものが中和抗体でなく細胞性免疫に由来する形で確認されることになった。これについては詳細しらべる必要がある。」(文責 篠原)とある。

このことは確かに初期の病鶏の摘発を困難にした反面、それが広くアジアを汚染している現実から見ると、最早これら交差免疫の存在を認めそれを利用する方向こそがアジアの鶏、ひいては人間を救うことになると考えるとき、WHOも我が国も相変わらず交差免疫そのものを否定していることが大問題だと考える。またすこしでも過去に経験のあるものなら緊急の不活化ワクチンがなかなか効かないことは百も承知している。またそれの申請が受理されても使用できるまでには一年以上かかるであろうことも伺っている。だから廃業はもう覚悟している。

しかし50年も鶏と生活してきた私にとって、この期に及んで先ず鶏の生き埋めありきの方針だけは是認することが出来ない。国としてワクチンを許可する方向こそが、生き埋めを防ぐ唯一の手立てだからだ。鳥小屋を覗くなに始まり、養鶏場に近付くなとつい二、三日前まで云っていた国立の研究所も今日のasahi.comニュースでは、動物園や学校の問いにこたえて、一般の人がただちに心配するなとトーンダウンしている。

すべてが自己矛盾だらけでなにも信用出来ない国ほど恐ろしいものはない。恐らく養鯉業者の方も同じ気持ちではないのか…。