『鳥インフルエンザ問題の今後(61)』



緊急時の不活化ワクチンの無力さはニューカッスル猖獗時を体験した者は皆知って居る。幸いブースターをかける余裕があれば、斃死だけは免れるが症状は出てしまい産卵は停止するので、やむなく淘汰してしまう。実験室内の結果とは大違いだった。肝心な局所の粘膜免疫が出来ないで、そこにウイルスが取り付いて症状が出てしまう傾向は、アルミゲル、オイルアジュバントになっても変わらないから我々としたらあまり信用はしていない。ただ生ワクに比べると抗体価の数字だけは上がるから、メキシコなどでもリコンビナントがなかなか普及しないとガルシアさんの話にも有った。それを聞いて、実際の彼地の突発発症は押さえられているんだなと、逆に思ったりしたものだ。

土台、外から飛んで来るトリフルに対して突発地点を取り囲むなどという根本的に間違った発想をもとに、その周囲を取り囲んで緊急に死毒ワクチンを打つなどという愚にもつかないやりかただけを示して置いて、ワクチンの効果を否定する宣伝は子供だまし以外の何物でもない。況んや防波堤用に限らず、接種鶏は《おとり鶏》の陽転で全群淘汰されるのが前提だから、いくら備蓄されても実際鶏を守ることには結び付かない。

シベリア方面でのトリフルの噂は実際はかなり前からあったらしいから、この冬は本当に危ないという危機感は鶏界の底流に有った。いつも云うように育成中にきちんと組み込んで置けば、バイオセキュリティと相俟って不活化ワクチンも十分効果があるが、今ではもう間に合わない。従ってこの冬の惨状が避けられないと判断すれば、不認可ワクチンの線もあるかなと考えたが、どんな悪法にせよ法は法である。万が一にもそんなことはないとこの不埒な推測は否定した。確かに法を抜きにして考えれば認可があろうが無かろうが、死毒ならばそれ自体の危険性は全く無く、我が国でも1971年の馬の場合など、認可自体は全面接種の翌年だったくらいだから、昔ならそんな選択肢も当然あったろう。しかし今は法律もさることながら、事の是非にかかわらず消費者の了解を得ることが第一で、法に触れれば忽ち消費者の総スカンを食うことは明白だから現代では法を犯す行為は絶対考えられないだろう。

それにしてもである。 国や研究者のごまかし振りはひどすぎると思わないか。
昨日の埼玉新聞のネット記事では、大槻教授の話として、今度のI農場の処理を「弱毒タイプの拡散を防ぐことが重要だ」と説明しているが何のことは無い,その実体は「セミの抜け殻処理」に過ぎないではないか。こんなごまかしが新聞の読者に対し権威者の言葉として通るとすれば大問題である。茨城での最初のボタンの掛け違いがこれからも尾を引くことだろうが、こんなことは最初から分かって居ることである。その無能振りに呆れる。

H17 8 22. I, SHINOHARA