『鳥インフルエンザ問題の今後(59)』



トリフルに関する情報も日々目まぐるしく変化する。これまでも我々飼育現場としては学術的な判断を待つまでもなく情況証拠だけで危険を察知せざるを得ない場面に度々出くわしてきた。いわゆる情報の先取りである。

目下の最大の関心事である、渡り水禽が直接強毒ウイルスを運んで来る恐怖も、例えば4月のOIE/FAO会議では、HPAI H5N1ウイルスの拡がりに於ける野鳥の役割は未解決のままで、情況証拠は野鳥の局部的感染を示唆するけれども、渡り鳥によるウイルスの転送はまだ証明されて居ないと言って居るし、WHOの最近の更新情報でもそれを受けた論調になってはいる。しかし同時に4月の中国、青海湖での大量の渡り鳥の死亡は、東南アジアで流行しているものに近縁のH5N1ウイルスであることが7月に発表された研究で示されたとも報じて居る。

そして8月にかけて野鳥大量死の報道はシベリア、カザフスタンに飛び、再び南下してモンゴルでのガンカモ、ハクチョウの大量死の情報につながった。
過去の経験から現場では常に、火のないところに煙りが立った段階で用心するに越したことはなかったことからも、情況証拠の段階で危機的に捕らえて準備するよう主張しているのである。

その現地の報道も例によって最初のロイター電などのシベリア、カザフ或いはモンゴルでのガンカモ、ハクチョウの大量死というセンセーショナルなものから今日あたりは、タス通信のはるかにトーンダウンした論調に変わって来た。あたかも四川省での新華社の最終報道の論調である。だからむしろ国営放送などが出て来ると情報は全く当てにならなくなるのはどこの国でも同じだろう。

その意味で渡り鳥が高病原性鳥インフルエンザを運んで来る危険性は、学術的には解明されていなくても、現場とすれば情況証拠から十分有り得ると覚悟する必要がある。それが現場でのものの見方でもあり、最近の事例は、状況の危機的変化であるとの認識を変えるつもりはない。

一方で、イセさんのLPAI陽性騒ぎを見るにつけ不謹慎ではあるが、我が国のAI対策が如何に遅れて居るか、心底馬鹿馬鹿しさに腹が立つ。さきのOIE/FAO会議での見解を見ても、私の読みちがいでなければ、明らかにオランダでの過去の処理方法を批判している。そこには、オランダはH7N7AIで無慮3000万羽を殺し、一人の獣医師を死亡させ数十人の感染を引き起こしてようやく鎮圧に成功した、とある。このまま黙って居れば日本の方針では明らかにその後追いである。身の毛がよだつのは私だけではあるまい。ことさら公衆衛生と家畜防疫手段を対立させて清浄国論を守るため家禽へのワクチン接種を拒むがごとき卑劣な手段をこうじて、家禽のみならず人命までも危うくし、自分達だけに都合の良い政策の加担をする御用学者達は本当に許せない。イセさん、断固戦うべきではないのか。

H 17 8 20 . I, SHINOHARA