『鳥インフルエンザ問題の今後(58)』



8月最初の報道でシベリアでガンカモがH5N1で大量死したと聞かされて、戦慄を覚えたが、それが近隣のカザフスタン、モンゴルへと拡がり、17日にはウラル山脈を越えて初発地から2000キロも離れたCaspian地域にまで及んだと伝えている。
この事態がこれまでと決定的に違うのは、家禽は云うに及ばず場合によっては人にも致命的なH5N1ウイルスを渡り鳥が直接運んで来る点である。

本来、渡り水禽にはいないH5N1は家禽を中心に変異を続け、中国で見られるように鶏舎周辺の野鳥を殺したりするようになったらしいが、逆に鳥類としては陸生種から遠い筈の渡り水禽にいきなり毒性を持つようになるとは考えなかったらしい。常識的に考えれば、古来共存共栄関係のAIウイルスを持つガンカモ類が新参のH5N1の侵入を簡単に許す筈がなく、取り付く島はないと思われていた。
従って、これまでの認識では、せいぜい鶏舎周辺のアヒルが不顕性感染を起こし、鶏に対して致死量のウイルスを排泄する危険とか、アヒルの混合容器説くらいが関の山だったが、そんな話がチャチに聞こえるくらい深刻な事態に思われてきた。何しろ家禽には致死的でも本来ガンカモなどにはないウイルスが、その体内で何千年も共存しているウイルスに和らげられることもなく、自然宿主に対して、しかもはるばるその本拠地までもどって、牙を剥くとは少なくとも常識的には考えられないことであろう。

取り敢えずH5N1はとても仲良くできそうな奴では無さそうだというショックと、これまでは鶏に感染するウイルス量は10の4乗乃至10の5乗で、しかも弱毒タイプだということだったが、これまで動物愛護法を重視して運動場付きの鶏舎を奨励して来たオランダ政府までが鶏の舎内隔離の方針を決めたとか、青写真を画けぬまま右往左往する状態になってきている面もある。

尤もよく考えて見ると野生のガンカモや白鳥のすべての個体が常時生ワクチンとしての自然のウイルスを抱えている訳ではなく、実際侵入者を排除出来るほどのウイルスなり抗体を持たないものだけがやられると考えれば、鶏も100%抗体を持たせる状態にしておけば何とかなりそうだということになる。
そこで危ぶまれるのが、現在進行中の全国サーベイランスの途中経過で、すべてが陰性だということは、この事態に対して全く防御力を有していない最も危険な状態であるということに外ならない。

すくなくともこれまでは弱毒タイプに感染している鶏が冬場に向かって変異したウイルスにやられるというイタリアなどの事例を中心に学んできたが、この秋からは場合によってはウイルス一個でマウスを殺せるようなタイプも含めた鶏に親和性の高いH5N1を渡り水禽から直接受ける危険を、最初に考えなくてはならなくなったようだ。

これらは素人考えの単なる杞憂なのかどうか、ロイターなどが発信した時点で,もはや隠せなくなったこの危機を、我が国の専門家達はどう説明し政府に対してもどんな提案をするのか注目しているが、想像できるのはまたバイオセキュリティの強化一辺倒だろう。 現に西側の報道も今回の事例を新事態とは捉えず、混乱するアジアと違い、すでに豊富な経験を積んでいるヨーロッパの諸国の対策は万全である(ワシントンポスト)と至って冷静で我が国の当局も当然それに準じた考えに終始することは間違いない。実際われわれ養鶏現場はどうすればいいんだろう。

H 17 8 18 . I, SHINOHARA