『鳥インフルエンザ問題の今後(56)』



物語風にいえば、北京郊外かどこかのガチョウに住み着いていたH5N1がそこを抜け出し未知のウイルスと合体しながら進化を続け、遂には、その宿主に対してさえ毒性を現わし、それが今度はもともとの自然宿主であるガンカモにまで危害を及ぼすようになって、スタートラインのシベリアに戻り、これから1〜2カ月のうちに南下を始めようとするところに来た、とでも云うことなのだろうか。

地図で見る限り、その取り敢えずの伝播はウラル山脈を越えて西に向かおうとし、次はモスクワ、カスピ海、黒海を結ぶボルガ三角地帯が心配されているようで、さながらアストラハン汗国を攻略するイワン雷帝のようだが、問題はそのボルガ流域から飛び立つ渡り鳥の広いルートで、その恐怖はヨーロッパまで広がりそうである。そしてH5N1のガンカモへの逆感染は渡り水禽など自然の生態系を大きく崩すことに繋がるだろう。

こんな重大時期に考えようによっては、どの国も問題にするどころでないLPAIとしてのH5N2の陽性事例くらいに大騒ぎしている日本は、自分達だけ進んでいる積もりでも、処理能力の点で、やっぱり実態は20年は遅れているとしか言いようがないではないか。要するに頭でっかちなだけであり、そのくせ現場はその頭に弱いときている。

終戦時秘話ともいえる昨夜のテレビ放送でポツダム宣言受諾を通知し、アメリカの返事を貰っても、それを飲むか飲まぬかで、ソ連の南下を気にして一刻も早いその返答を待つトルーマンをそっちのけに、大事な2日間を会議に費やしたとされる当時の日本の情報の扱いはそのまま今日のトリフルの扱いにも通じる。場合によっては重箱の隅をつつくようなことで貴重な時間を費やし肝心なことを忘れる。もともと優先順位を付けたり、物事をきちんとファイルすることが大和魂の日本人は下手だったらしいが、そんなものを持ち合わせなくなった今の日本人だって本質的には変わっていなそうである。

繰り返すが、今時LPAI陽性ひとつ殺処分しなければどうにもならない日本は世界一トリフル対策の遅れた国だと思う我々現場と、頭でっかちでまるで処理能力のない学者主導の官側の言い分とどちらが正しいか良識で判断して貰いたいものだ。

H 17 8 16 . I, SHINOHARA