『鳥インフルエンザ問題の今後(54)』



シベリア地方の野生の白鳥やガンカモ類のH5N1感染死の報道は、そこが日本への渡り鳥のソースであると教えられているだけに、せめてもの我が国の安全神話が根底から覆される危険を嫌でも感じさせる。
日本には生鳥取引市場がなく(これも今回、処理場を介しての中古鶏取引の一部が明らかにされたが)鶏舎の周辺に不顕性感染で危険な量のウイルスを排泄するとされるアヒル類の飼育実態がないうえ、渡り鳥が持って来るウイルスはすべて弱毒タイプであって10の4乗程度のウイルス量を直接接触(鼻の穴に詰め込むように)させなければ感染せず、その意味では周辺諸国のようなことはあるまいと云われていた。

確かにこれまで、鶏舎周辺での逆感染とみられるガンカモ類の斃死が問題視されては来たが、これはあくまで中国など危険な地域に限定されたこととして我が国としては従来の認識を変えるに至らなかった。それが今回、鶏舎周辺はおろか、遠くシベリアの源泉地まで戻り、野鳥で100%の致死性は有り得ぬから、残りは鶏に強毒タイプのままのウイルスを持って南下して来るとなると、これまでの考え方を一変させざるを得なくなり、鶏舎周辺からの飛来だろうが、シベリア、チベットだろうが危険なことに変わりはなく、まさに豚コレラではない鳥インフルエンザのトリフルたる所以である。

大体、これまで新しいウイルスが出現して家禽から豚、豚から人、そして人から人へと感染するようになってパンデミックに至る前向きの構図だけでその危険性を指摘されてきた鳥インフルエンザだったが、ここへ来て家禽から本来は無毒で親和性の高い自然宿主の渡りの水禽類へ、毒性をもってのUターンが事実となれば、もはや鶏を殺してもどうにもならぬところまで来たのと同時に、その鶏にとっての防御も、従来よりはるかに難しい局面を迎えたと理解すべきであると思う。

去年の浅田農産の事例でも鶏舎の破れ目から、既に強毒と化したウイルスをくっつけた小鳥が入り込んで感染させたと推測されたが、これは従来の説に則ったものであって実際は小鳥に付着した程度のわずかな《弱毒タイプの高病原性ウイルス》が鶏舎内で変異したのかも知れない。寧ろ、これに続くブロイラー農場まではさもありなんだったが、それ以後はすべて公式発表であって、地方のカラスと動衛研のカラスの差で、例によって見当がつかなくなったに過ぎない。
実際に先般のジャカルタでの人の感染例のように関係者、研究者を当惑させるような不可解な事柄が多く、過去の事例からの推論、仮説の類いでは、これからの変化推移に対応出来ないことは明白であろう。

ここでまた新たにチベットでの発生が確認された。中国におけるワクチン接種がチベットまで及ばなかったからだろうとする論評はあるが、バイオセキュリティの不備を云う説はない。繰り返すように、その自然宿主にまで反乱を企てるに至った究極の病、鳥インフルエンザに対しては、最早人畜ともに有効なワクチン接種以外方策は考えられないところまで来ているというのが本当ではあるまいか。

ところで茨城の今回の問題で片や100%の陽性率でも、一向に広がりを見せぬ所からか、さすがにワクチン説もかまびすしい。しかし仮に産卵低下はIBによるもの、他の症状は一切なく100%の防御が出来るとすれば、ウイルスが残るのは困るが、未承認の生ワクとやらの威力は大したものだと感心してしまう。これは少し不謹慎すぎるかな。

H 17 8 14. I, SHINOHARA