『鳥インフルエンザ問題の今後(53)』



昨夜NHKスペシャル「そして日本は焦土となった」を見た。敵の焦土作戦に対してバケツリレーで対抗しようとしたことの空しさから、自ずと来るべき鳥インフルエンザとの戦いに思いを馳せることになる。それがとんでもない誇大妄想であることを願いつつも、まかり間違えばそうなる危惧も捨てきれない。

鶏など家禽界にとってこの数年来のアジアでの鳥インフルエンザの突発は、かつて経験したことのない出来事であるらしく、世界中の研究者達が「我々はこの事態に対して何の青写真も持って居ない」と嘆いて居た。そしてその頃は我が国の学者達も同じようだったのに、最近は我が国だけは大丈夫とするような論調に変わって来た。何か大本営発表に似て来たのが気掛かりである。

焦土作戦に対してバケツリレーが無力だったように、大挙して来襲するウイルスや環境中に拡散した相手に対しては個々のバイオセキュリティは無力に近い。昨冬のH5N1発生以前の大槻教授の講演録をみても、日本国内で1983年、既にH5N3ウイルスが分離され、当時アメリカのペンシルバニア州で発生し、地域の養鶏場に大きな被害をもたらしたH5N2と遺伝子的に近縁で親戚関係が深いことが確認でき、まさに知らぬが仏であったと述懐されている。また喜田教授のほうも昨年初めのNHKテレビでのオランダの衝撃的なトリフル報道で、内容とは全く逆の、ウイルスと仲良くする論で締めくくられたのを見て、両教授とも研究予算欲しさに、本音と違うことを云い分けていてけしからん。これは吉田首相が東大学長に対して云った、曲学阿世の徒だと非難した訳である。

一方、民間ラボのK先生の報告にもあったような、1996年以来の鶏のおかしな症例に出くわす毎に、いつもそのことを念頭にいれながら対処してきたが、そのような事例は決して減ってきてはいない。そして仮に病性鑑定に出しても、より発見の容易い細菌やありふれたウイルスのせいで終っていたものが、今回俄にクローズアップされた茨城の事例で、LPAIの浸潤がはっきりした形になった。

例えは悪いが、これが今後HPAIを含めた敵の焦土作戦の前哨だと捉えれば、その間にバケツリレーや松代大本営でない、根本的な和解方法を考えるべきで、空母一隻からのドウリットルB−25か、近隣諸国からの本格的来襲かの見極めをつけて対処すべきである。

今回のH5N2がグヮテマラ株に近いということで、近隣の危険な状態から目ををそらす効果と相俟って、国のサーベイランスも清浄国を裏付ける結果になれば、公的見解はそれで固まり、差し当たっての自場の陰性か陽性かの懸念と裏腹に、一層の困難さを感じてしまう。先の大槻教授の話しにもあるように、気候気温条件さえ合えば世界中の何処から来て、何処へ飛んでも不思議でないのが、究極の病とされるインフルエンザであり鳥インフルエンザなのだから、我々現場では特に、事実上の第一線に位置する責任を忘れず、常に環境に対するサーベイランスを心掛けねばならないが、それは同時にモニター鶏として陽性ならば全群淘汰の憂き目をみることも覚悟しなくてはならないことになる。ただその場合でも、繰り返すように小なりと云えどプロの鳥飼としては、むざむざ斃死させることだけは避けるべく、現在の国の施策に対しては全くの無駄な馴致の方法を、あくまで合法の範囲で探り続けているのである。

H 17 8 12. I, SHINOHARA