『鳥インフルエンザ問題の今後(43)』



話題が話題だけに番号を一つ飛ばした。昨夜のテレビニュース、中国南西部四川省での原因不明の疾患による大勢の農夫の死亡というショッキングな報道があった。H5N1を同地方の豚で発見したとのニュースに接して以来、鶏段階とは別の、もっと身近な恐怖を感じていたが、少なくとも沢山の豚の屠殺と関連していること、しかもその豚がAI陽性ということで今後の中国の発表がどうであれ、もしやとの疑念も拭いきれない。まだ公式発表は何もない中、一番疑わしいのはCrimean hemorrhagic fever であるという。

しかし当場指導医の話では消去法でいくと文献面だけの検討だがどうも怪しいと云う。ブニヤウイルス科のウイルスで媒介動物はイボマダニ、保有動物は野兎だといい確かに唐突な感じがする。尤もまだ豚が人と鳥のインフルエンザの混合容器として確認された訳ではなく、魅力的な仮説のままだとする考えが主流であるから、いたずらに不安がることではなく、確認された診断を待つとするのが正しい対応なのだろう。しかし実際にはもうその垣根を飛び越えてしまっていると考えている人も大勢いる。それに外電がつたえるように、すべての伝染病はインフルエンザ風の徴候から始まり、すべてに鳥インフルエンザウイルス感染症を思わせる徴候を示すところから、繰り返すようにどうしても身近な恐怖を感じてしまいがちではある。今回の死亡例にみられるという多量の皮下出血も、多臓器不全による出血と止血凝固機能の障害によることだってあるんだぜと指導医もおどかす。

ただこの地域ではヤギなどの出血熱に対する血清反応陽性も確認されているらしく、今のところ臨床診断の段階ではクリミヤコンゴ出血熱に傾いているらしい。豚連鎖球菌説は頂けない。あんなに周辺に飛び散って一斉に出るはずがない。この頃の家畜の感染症は幾つものウイルスや細菌が絡んでいるのが普通なので、たまたま見つかった奴が原因とされ易いがごまかされないように注意すべきだ。

しかし気になることは、同じ報道の中に先日のマレーシアでの3人のH5N1による死亡例の、直ぐ近くで予め100頭の豚の屠殺が行われていたとの話で、これは何か嫌な感じがしたが、今日はそのことでインドネシア当局が犠牲者の居住した町の周辺の村で鳥インフルエンザに感染した約200頭の豚を屠殺するだろうとするProMED情報を見てびっくりした。ここまで来ると前述の「魅力的な仮説」などと直訳して、すましていられそうもない。鶏から豚へと種の壁を飛び越えたウイルスがリアソートして人間と鍵穴を合致させはじめと見るのが自然だ。貴重な豚を疑いくらいで簡単に殺すはずはない。

その後の韓国のH9N2の情報も混迷の度を深めている。H9N2はもともとはHPAIとして突発し、最近はマイルド化しているものの中国などでウズラを混合容器としてH5N1に絡んでリアソータントをつくるなど隅に置けない奴で、早くから人間に移る能力を持つとされる危険な亜型であると紹介されている。日本でも積極的な対策が必要である。

その我が国も情報だけはあふれている。我々生産現場もそれらを吟味し、咀嚼し、理解して実際に役に立てて行かねばならない。それには議論も必要だ。議論になれば言い過ぎも言い間違いも出て来る。我々だと多少どころか頭でっかちにもなる。しかし大切なことは自分のしっかりしたスタンスを持つことだと思う。情報を提供する側も中立をうたうなら、ちょうちん記事と見られぬ配慮が必要で、別の視点からの記事を同時に提供することもその一助になると思われる。書き込みサイトでの真剣な議論は我々現場を大いに勇気づけてくれる存在だ。場外からも声援したい。がんばってください。

H 17 7 26 . I,SHINOHARA