『鳥インフルエンザ問題の今後(39)』



鶏飼いを始めて50年を越えたが、その間現場で知り得たことは総てひけらかして来た。秘伝とか門外不出とか云ったって、もともと自然相手の観察から知り得たことが大部分で自分独自のものなんて無いに等しい。特に直売方式では徹底した情報開示が必要で、仕入れ原料から財務内容まで聞かれれば総て資料を提供出来るようにさせている。仲間や仕入れ先に対しても同様で、それなくしては正確な知識は得られない。

このところ情報が錯綜して皆少し疑心暗鬼になっているらしい。こんな時こそ浮足立たぬよう思考行動を大道に就かせる必要がある。

わが国に、今回のH5N2それも中米グヮテマラと似た型が出たと云って、さては中国ルートのヤミワクチンのせいではないかと訝る向きがあることもいつものことである。我々現場にとって薬事法に違反することは法律違反のみならず、生産物の安全性を訴える面で決定的なマイナスとなって以後まともな主張が出来なくなる。くれぐれも注意すべきである。H5N2は2002年のNBIシンポジュームでメキシコのガルシャさんの講演以来、おなじみのもので、たった2年で消えてしまったアジアカゼのH2N2などに比べると1994年以来、グヮテマラなど周辺国ともどもいまだに消えることがない。メキシコがホモのワクチンを使い続けていることとは実際はあまり関係ないらしい。やはりアンチゲニックシフトし難い安定した組み合わせらしいと聞く(そんな型があるらしい。ナンセンスかな)。尤も、それよりずっと以前1983年に北米で発生、時々HPAIのアウトブレークを繰り返しているし、1997年にはイタリア北部でHPAIで発生してH7N1と入れ替わっている。この狭い地球上でどこに飛ぼうと一向に不思議ではなく、それが究極の病としてのインフルエンザウイルスの本来の姿と捕らえて、用心するにしくはない。

AIと同じく、全米に広がって今年こそは入って来るものと覚悟していた西ナイル熱は今のところ情報を聞かない。カラスが大量に死んでいたら、農薬か鳥インフルエンザかウエストナイルウイルスか、はたまたダイオキシンか、平成11年2月に埼玉県内でカワウが大量死していた際も、結果は知らされていない。ガセネタに振り回されるのも困るが公式情報に頼っているのも危険だ。

全国的なサーベイランスが始まり、案内が来た。結局H5,H7が対象でそれ以外の亜型は対象外だという。それ以外の亜型が危険でないということはないのだから(例えH1,H3でも人間の場合、厚生省が除外していても、鶏の場合は関係なく、1996年の例のようにHPAI突発が有り得る。)どっちみちスクリーニングするのだから、他の亜型についても結果を知らせて欲しいものだ。これは強く要求したい。

処理場からの情報で特殊用途向けの廃鶏肉が不足だという。茨城県産の出荷が一部止まっているからだ。サーベイランス前で廃鶏処分はうっかり出来ない。うちの場員でも採血出来るのが何人かいるから、廃鶏処分するときは採血して家保に送って置けと云ったら、普段体温測定と産卵調査は抜き取りでやっているので、それで証明出来るのではという。あと野外の鶏は基礎免疫としてのワクチン類(断って置くが未承認の類いは無い(笑い))の外に脱感作、フィードバックを心掛けているので、総てに疑陽性(非特異反応)が出やすい。雛白痢の際は菌が出ぬまま総て淘汰されてしまった。繰り返しは御免であるが、その危険性は有り得る。「とき様」のいわれる本来家禽同士では一番安全な存在が、非特異抗体であっても、サイレントエピデミックへの懸念で淘汰される恐れもある。