『鳥インフルエンザ問題の今後(38)』



この問題を考える時、生産者の立場に特定して、受信と発信を試みながらも、どうしても公衆衛生を中心に考えざるを得ず、その情報と現場の家畜衛生面とのバランスをとるのが難しい。

今回のProMED情報の中身そのものは、去年のウイルス学会の座談会にも取り上げられて居て輸入冷凍肉の中のウイルスのことなど、周知徹底されてはいないものの、肉については加熱すれば問題は無く、卵は民間ラボなどの数多くの検査でも全く陰性であるとか、それらの点では改めて消費者の不安材料はない。その限りでは生産物の廃棄等は家畜衛生面だけの問題だと行政側も説明しているし生産者側も納得しているらしい。

問題なのは強硬な鶏の殺処分との間の行政のマッチポンプ振りである。彼らの云う家畜衛生面だけなら陽性鶏を殺す必要は全く無い。清浄国論に立ち、コントロール手段としてのワクチンを持たぬが故の自己矛盾であるといえる。。

矢張り国の基本認識と姿勢が奈辺にあるかが問題の総てである。

去年からの一年間で、わが国周辺での鳥インフルエンザ問題はより深刻化して来た。大槻教授が太鼓判を押して居た隣国、韓国の事情も一変したらしい。LPAI対策の重要性をカプアさん達から指摘されていながらなおざりにして来たつけが、予想外の発覚で表面化した。今回この事態に慌てての全国的調査であるが、その結果を待って小委員会に丸投げするのでななく、ある程度の予測を立てて、せめて養鶏現場に、こうしてこうなりゃこうなる位の説明はして欲しいものである。前回家衛試の97年調査ではHI,8倍以上が陽性扱いされたというがAGPでは80倍程度までは引っ掛からないといわれる。その辺もどうなのか。H5N2なら今回と同じ処置としても前回28農家で見つかったH1,H3それにH9が見つかった場合はどうするのか。具体的な話を小委員会にかけて例え黒塗りだらけでも現場にとっては死活問題の重大事、事前に公表するくらいの配慮があってしかるべきだと思う。

去年発生したH5N1はHPAIだったから水平感染は一カ所でくい止められた。それが今回の危険なLPAIは痕跡を残して飛び去った後で、養鶏場の鶏だけしらべても埒が明かないのははっきりしている。こうして環境中のウイルス量は増えて行きエンデミック化して行くのだろう。

一方の公衆衛生面だが、識者はパンデミックの恐ればかりを強調するが、ワクチンもあり先祖に比べればマイルド化して居るとはいえ現実に毎年何万人かの死者を出して居るインフルエンザもなおざりにはできないが今年はタミフルで本当に助かった。我々からすれば取り付いた器官を破壊して死に至らしめることのあるインフルエンザも多臓器不全を起こすH5N1も、特に子を持つ親にとっては怖いことに変わりは無い。実際、飼っている鶏よりお客さんや従業員の安全、孫の命のほうが大事だから現場としても公衆衛生を持ち出されると弱い。しかしウイルスの環境汚染が深刻になれば、如何にして鶏の命を守り、環境中のウイルス量を減らすかが公衆安全面にも寄与することになる。その手段として鶏のワクチン接種の有効なことは分かっている訳だし、喜田教授が135のウイルス亜型を揃えて先回りしようとしても、そうやっているうちにもH16が出て来たりまだまだ未知のウイルスは限りなくいる訳だから実際はワクチン株の一つや二つがサイレントエピデミックの原因になろうはずもなく、養鶏現場でも本来のフィードバックの在り方も工夫してかかれば、いずれはクールハウス化できることは論を待たない。