『鳥インフルエンザ問題の今後(36)』



飼養現場は研究者の立場とは違うから数字的なものより感覚的なものに頼っている訳だが、それにしても豚、猪の陽性率と比べて、鶏の場合の低さに疑問を持って来た。それが今回大槻教授が発表された韓国の高い陽性率、それと水海道での最初の鶏群の、これは異常ともいえる高さに寧ろ納得させられる部分があった。環境中のウイルスがどんどん増えて来る感じは周辺諸国の状況から十分見て取れそうだ。その状況の中で、ひとり日本だけオランダやイタリアでの家禽虐殺の経緯をなぞろうとするのは耐えられないが、今の農水省や家禽疾病小委員会はウイルス学会などの意向と相俟って、さまざまなLPAIによる陽性鶏群はH5N1などの取り敢えずは最も危険とされる亜型のサイレントエピデミックを促す危険な存在と考えているから、最後の最後までワクチンということは考えないで殺し続けるに違いない。

そんな中での全国的サーベイランスの実施だ。本音で云えば豚の場合のように殺し切れないほど(豚は殺さないが)陽性群が出て、今や考え方のひとつに過ぎない潜在的流行の危険性のみへの偏向を改めざるを得ないような、周辺各国とおなじ状況を証明させることが出来れば、わが家が最初の槍玉に上がったとしても、喜んでとまではいかないが、まあ仕方なかろうと思って来た。しかし、逆にあまり摘発出来ないようなやりかたで、たまたまぶつかって淘汰され清浄化の証しにされたんでは死んでも死にきれないだろう。この辺の微妙なニュアンスはちょっと書いた位では一般に理解されそうもない。問題はそれを陳情までして要求した業界団体がどんな考えでいるかである。私自身は繰り返すように次の改革につながる犠牲なら甘んじて受けもするが、都合よく利用されるだけなら訴訟くらいは起こして争うつもりだ。

実はここが一番重要な岐路である。

家畜衛生面だけで考えれば、水海道の初発例のような100%の陽性鶏群は、最早ウイルスは存在せず、向後最も安全な存在である。にもかかわらず淘汰されたのは繰り返すようにサイレントエピデミックに対する懸念からであり、政府がワクチンを許そうとしない最大の拠り所でもある。ただ、ここ数年間アジアで1億4000万羽以上の鶏を虐殺してきた経緯に対する反省という事では、もう改めなければならない時期だと思う。それには「わが国は未だ清浄である。ろくな犠牲も出さないうちにワクチンなどとんでもない」と豚コレラ並に考えて居る農水省の考えを改めて貰う必要がある。予算を貰ってそれに躍らされて居る御用学者達が、それを妨げて居るというのが、このホームページの一貫した主張だから多少辛口になるのはやむを得ない。最初に述べて置いたように訴訟も辞さずとして来た訳だし、廃業覚悟で来て居る訳だから。

ただこの二年間を振り返って見ると、実は何にもなってはいない。回天の事業、空拳を如何んせん、かくなる上は行くところまで行ってしまえという気分である。

H17 7 16 . I,SHINOHARA