『鳥インフルエンザ問題の今後(31)』



今回のサーベイランスの個々の結果がどうあれ、清浄国論に固執する国の方針が変わらぬかぎり、全体とすればオランダの後追いになるであろうとの一部の予測には全く同感であり、それが今度の水海道の件ではっきりして来たと思う。

養鶏業界にとっては最早マスコミによる風評のみを気にしている状況ではなく、今こそワクチンによるコントロールか、さもなくば地域に対する徹底した補償を担保させるか、生産者の声を大にすべき時だと思う(実際はその気配すらないのも気になる)。それなくして清浄国論のままでのいたずらなサーベイランスの強化など、混乱と鶏の犠牲を増やすだけで、もともと抗体発見の困難な環境中のウイルスの根絶など期待出来るはずもない。そして事実上の決定機関である家禽疾病小委員会には、鶏の虐殺を避ける方針などこれっぽちもないこともはっきりしている。(バックのウイルス学界など鶏を殺せ殺せの大合唱だ。) 私自身はもう今冬にHPAIの発生は覚悟していたし、わが家のような直売の庭先養鶏では、隔離消毒などの手段をとれぬ以上、非特異的な免疫、抗体に頼るほかは無く、今回のようにスクリーニングも不確かなまま疑似患畜の処分を行うようだと全くやりようはないが、これも国の方針とあればやむを得ないのだろう。ただ鶏飼いの意地としてバタバタ斃死させることだけは避けたい。まあ殺処分も病気ではない通常の処理場送りも鶏にとっては似たようなもので、こうなると好きな筈だったこの仕事自体がどうも動物愛護とは程遠く結局は消費者にどう受け取られるかが総てでは嫌になる。

全国的なサーベイランスは1996年、岩手、鹿児島でのH3N2発生の翌年おこなわれているが、家衛試によればエライザをスクリーニングに用いて検査血清をRDE処理しHI抗体価8倍以上を陽性として判定した結果 5020例で陽性例は20都道府県の28農家(5.6%)に分布していた、とある。この時はH1,H3だったが、今回はそれに加えて本命のH5,更に近隣諸国の例、また実際98年以降の国内分離例でH9も怪しいといわれる。HPAIとしての対象はH5,H7だが他の型も出れば不顕性感染の原因として、なおざりには出来ないだろう。対象外であってもコントロール手段がなければ殺す以外の選択肢はないことになり、ワクチンが必要になる所以である。

それ以前に、今回のEDによるだけのH5の発見は、最早わが国が清浄国では在り得ないことの証明であり、それらに対してもなお殺処分を強行したことは、先日のマレーシア会議の意向や世界各国の貴重な体験を全く無視した蛮行であって、冒頭に述べたように著名な学者が先導し、最も悲惨な結果を残したオランダと同じ道を辿ることになりそうな予感が、相次ぐ虐殺と実際のHPAIの続発となって現れはしないかと危惧するものである。

去る7月4日のステートメントでFAOは、少なくとも流行地では、鶏に対する全面的予防接種が鶏だけでなく公衆衛生面でも唯一の方法かも知れないとまで云っている。その中には過去1億4000万羽を越える鶏を虐殺しながら世界的に見て一向に効果があがらなかった反省が見て取れる。一方、わが国では最近は逆に消費者を慰撫するためか、すべての処置は家畜衛生の為にであって、公衆衛生とは関係ないと云っている。喜田委員長がテレビでは続発はない、新聞では全国どこにでもと、その場その場で全く逆の云い方をするのも、農水省は家禽衛生を、ウイルス学界は公衆衛生面を強調して夫れ夫れが強要するからで、slaughtererとしての彼は実は文字通り全くの hen peckedの立場にあると意味違いの冗談をいう人もいるが…。

H 17 7 10  I,SHINOHARA