『鳥インフルエンザ問題の今後(]]Y)』



私の見聞きして居る範囲では養鶏現場の考え方はどんどん実際的になって居る。サイエンスとして捉えても、実際は未解明且つ実行不可能のことが多すぎると分かって来たのだ。そう考えれば矢張りメキシコのようにワクチンを使ってでも発症させないことが一番で、そうすれば取り敢えずは人間に感染することも無さそうである。どうせ全体とすればこの世から無くなることのないインフルエンザウイルスのひとつがエンデミック化して住み着いても、どれが出てくるかも分からず、出たり消えたりされるより返って始末がいい。発症さえしていなければ不活化ワクチンだってそれなりの効果は期待出来るということになる。南アジアの国々も実際に人的被害が続けばワクチンをやらざるを得ず、その際特にLPAIを含めたモニタリングがかかせないと云っても、そんなことが実際可能な国など無いことも分かって来た。第一それらの国に比べたら日本発のパンデミックなど条件的にあり得ないことだ。それに若し今後わが国で一件でも発症すれば、トレサビリティが定着した今、商圏の喪失など、一養鶏場に止まらず地方行政単位の問題となり、また自殺者を出しかねない有様になることは火を見るより明らかである。

どうもインフルエンザウイルスは喜田先生の云われる可愛いウイルスどころか変幻自在で始末が悪い。毎冬流行を繰り返す人型だって夏場は何処に行ったのか見当もついて居ないし、ワクチンの抗体を迂回する形で小変異を繰り返すというがメカニズムも分からないという。第一ワクチンのせいとは限らない。大槻先生は弱毒のH5N3を25経代で強毒に変化せしめたというが、ヘマグルチニン開裂部位の塩基性アミノ酸配列変化は核蛋白質遺伝子組み替えによるものなどと分かりにくい説明を受けても結局のところどういう場合に強毒化するかとのメカニズムが分からなければ話にならない。カナダの場合など同じ型の弱毒と強毒が同居していたとの報道さえあったくらいだ。

もともとウイルス用の不活化ワクチンが野外での緊急接種の場合、ろくに効かないことぐらい鶏飼いなら誰でも分かって居る。しかしこれをきちんと平常時に組み込んだ場合は、それなりの効果があることも論を待たない。ニューカッスルが流行って居たとき生ワクを初生ビナの箱の中にスプレーし以後2週令、4週令と重ねると40日令ではNDで全滅した育雛器内の死骸を片付けただけでほうり込んでも耐過した。ワクチンはそれほど有効な場合がある。我々が全体とすればワクチンあっての養鶏と認識しているのは決して大袈裟ではあるまい。

鳥インフルエンザワクチンを要求する際、我々はそれが研究者の一部で云われるように、公衆衛生上の障害となってはならないということで若干の躊躇をした。しかし今やそれは杞憂であってワクチンをやらない国ほど人的被害を引き起こしている事実がはっきりして来た。今回のH5N1の猖獗がアジアン デッドリイ バード フルー と捉えられて居るとき、わが国が周辺国の実情を無視して、独自に頑張り続けるのは如何なものかと思われる。むしろ率先してワクチンを使っての実際的なアジア全体の清浄化基準を作る努力をOIEの中などでもすべきである。

また家禽にワクチンを打つことで消費者の理解が得られるかどうかとの、いつもの行政の逃げ口上は卑怯であるとの一言につきる。もともとワクチンそれ自体が人体に有害である事実はない。むしろ消費者の認識の中に、ワクチンを抗菌剤と同じに捉える誤解を、ワクチンに反対する行政、研究者があえて放置していることが問題なのである。

I ,SHINOHARA