『鳥インフルエンザ問題の今後(]]T)』



昭和40年代のニューカッスル病流行時、不活化ワクチンだけでは濃厚感染を受けた鶏は発症したがバタリー、ケージの場合は罹患鶏に直接接触する形でゆっくりと感染が拡がって行った。そこで急遽生ワクをスプレーすると2、3間ぐらいのところで発症は止まる。そんな体験をよくしたものだった。その話を当時の研究者にしたが仲々信用して呉れない。仕方なくこれを「お山の大将方式」と名付けたが、何のことはない今でいう競合排除である。そんな体験から日本獣医公衆衛生学会の雑誌で南中国のH9N2流行地でのH5N1の不顕性感染例と実験記事を目にして、以来ずっとそれにとらわれてきた。実験でH9ウイルスを接種した鶏は以後100日以内であればH5ウイルスに感染しても多くは無症状でウイルス排泄量も少ないが、それ以降は発病率、ウイルス排泄量とも増加する。という記述がお山の大将の経過と合致するのである。

これまで我が国の学会は特に交差免疫や細胞免疫の効果を認めて来なかった。いわゆるカギとカギ穴に固執している観がある。ところがこの南中国の例ではHもNも違うのに細胞性免疫が確認されているのである。(テレビ、キーパーソンでの喜田教授は、これをキッパリ否定している)

ニューカッスルの時はアジア型(強毒内蔵型)に対してアメリカ型(弱毒神経型)の宮寺株(昭和26年の埼玉県入間市宮寺でのアメリカ型発症時には死毒ワクチンの静注で対応したと先輩から聞いて居る)などのB1株を使って来たが、より複雑な鳥インフルエンザウイルスに対して全く型の違う弱毒ウイルスで競合排除させることが可能ならば、いっそのことオルソミクソに対してパラミクソのワクチンも、お山の大将たり得るのではないかという疑問がでてくるのは当然である。

尤も雑誌での取り上げ方は、あくまでそのことをH5N1摘発漏れの原因としてなので、趣旨とすれば正反対の話であることは言うまでもない。鳥インフルエンザの場合は常に公衆衛生に直結する問題として捉えねばならないのでニューカッスルと違い、國の決めた方針に沿わなければならないのは当然だが、さりとて個々の養鶏場とすればロシアンルーレットの標的になるのは御免だし、自らの生存に係わる問題は國が当てにならぬ分、裁量の許される範囲で自衛も心掛けて行かねばならない。
それやこれやで、繰り返すように既存のニューカッスル生ワクチンが、間隙を縫って流行するNDを押さえ、且つ細胞免疫を活性化させることがほんのわずかでも期待できればと思って来た。そんなことから最近ではENDに対して従来のB1型ワクチンが効かないと言われ出したところから既存のワクチネーションに1カ月遅れでアビワクチンを加えているところである。

この場合、隔離中心のバイオセキュリティプログラムのなかで行われる厳重な消毒は、頼みの綱のワクチン株をも殺してしまう危険性があり、自然の免疫交差をも妨げかねない。従ってワクチンを含めた馴致、脱感作、あるいはフィードバックを考えるときは、自然の状態を遮断せぬよう消毒はむしろ慎重にすべきであると考えて居る。

経験からこんなことがある。バスケットブルーダーの10段中、2段目までNDにやられ始めた2週齢のヒナに浅田農産であったように後追い消毒をした場合は全滅したが、即座の生ワクスプレーでは大半が助かった。かえって誘発する例など実験室レベルでは色々いわれるが、ことフィールドでの生ワクによる競合排除はNDの場合手遅れになることはなかった。このことは養鶏場段階でAIを防御する一つの示唆ともなる。