「地方分権速報」(1998年11月分)

朝日新聞に掲載された地方分権に関する記事を、月単位でまとめて掲載してあります。

目次

○11/30スリム化を最優先に 省庁改革(社説)
○11/30秋田県三セク問題 監視怠った議会の責任 青柳正悟(ミニ時評)
○11/24百兆円への疑問(窓・論説委員室から)
○11/22合理主義」の突風と壁(地域再考・知事の時代)
○11/22勧告を「負」の記念碑に 地方分権(社説)
○11/19不況前に勢い鈍る 政官の抵抗激しく 地方分権委第5次勧告<解説>
○11/19国直轄事業、縮減求める 統合補助金も 地方分権委第5次勧告
○11/14恒久減税の地方配分「最小限に」と要望 中核市市長、自治相に
○11/13地方むしばむ財政危機 全体で3兆円不足(税金なんのために:1)
○11/12国直轄「縮減を」 当初案より後退 公共事業改革で分権委が原案
○11/8仙台市監査委員・黒沢繁さんに聞いてみました
○11/5市町村道補助、一般財源化を 妥協案で地方分権委要求
○11/3スリムより太めがいいみたい 「骨抜き」工作本格化 中央省庁再編
○11/2公益法人改革 進まぬ地方の基準達成 藤田直央(ミニ時評)

スリム化を最優先に 省庁改革(社説)
年月日   98年11月30日

 2001年に新しい中央省庁体制を発足させるため、省庁改革の基本的な進め方を定めた政府の大綱原案が先ごろまとまった。
 22省庁を1府12省庁に、というけれど、それで21世紀を迎える国の行政がどれほど改善されるだろうか。霞が関の官僚たちの権限が、どこまで削られるのか、がはっきりしない。
 大綱原案には、その通りに実施されれば政府の仕事ぶりが少しは変わるに違いない、と期待できそうなものもある。
 首相が指導力を発揮できるように「内閣機能を強化」することや、第三者が行政を点検する「政策評価制度」を導入することなどがそうだ。
 けれども、この改革で何より肝心なのは、中央省庁の仕事を減らして行政の質を高め、活力ある日本社会を築く道筋をしっかり描けるかどうか、という点である。
 それなのに、大綱原案では組織や定員をどう減らしていくのか、具体的な姿がなお明確でない。前提となる「権限減らし」に、疑問がぬぐえない。
 小渕恵三首相は今夏の政権発足時に、10年間で国家公務員を20%、行政コストを30%減らすことを公約した。それを達成するための両輪とされるのが、国の仕事を地方に移す分権と、中央省庁から事業・サービス部門を切り離す「独立行政法人」の導入である。
 一方の地方分権は、地方分権推進委員会が国の直轄事業の削減を第5次勧告に盛ろうとしながら、自民党の族議員と、権限縮小を嫌がる官僚との一体となった抵抗で、見るべき成果を上げられなかった。
 もう一方の独立行政法人への移管についても、似たような構図が浮かんでいる。
 国が担当すべき仕事であっても、中央官庁が直接担う必要がない分野は、独立の法人組織として切り離し、効率的な運営を図ろう、というのが移管の狙いだ。原案は、試験研究機関や国立病院、美術館など73機関を候補に挙げた。
 運営費は国から交付金の形で受け取るが、その使い道や事業の中身は自由に決められる。民間から寄付を受けたり、特許料収入などが入った場合には職員の給与に反映できるような仕組みもつくる。その代わり、第三者による業績評価や経営内容の公開などによる「事後チェック」制度も取り入れ、事業努力を促すのだという。
 現行の特殊法人のような不透明な運営に陥らないよう、国会による監視や、国民に対する情報開示を義務付けるなど、詰めるべき点はなお多い。しかし、行政のスリム化を進めるうえで、独立行政法人化は一つの考え方だと思う。
 ところが、候補に挙げられた半数近くの機関について、所管省庁が「独立行政法人化は困難」と巻き返しにかかっている。
 権限や縄張りの縮小には、政治家も巻き込んで徹底抗戦する官僚たちの姿が、ここでも見られる。官僚はもちろん、その代弁者のような言動をする閣僚に対して、首相は厳しい態度をとる責任がある。
 運営が硬直化しているとの批判が強い国立大学や官庁の営繕部門、統計部門なども対象に含めることを検討すべきだ。
 省庁の局の数は、現行の128を96に減らすことになった。省庁再編のなかで、重複する業務を整理し、組織を減らすことは行革の基本である。もっと削れないか、さらに点検を求めたい。

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秋田県三セク問題 監視怠った議会の責任 青柳正悟(ミニ時評)
年月日   98年11月30日

 県庁改革を旗印に昨春、初当選した秋田県の寺田典城知事が就任から1年半以上たったいまも、独自色を打ち出せないでいる。
 約44億円の公費不正支出問題に取り組んでいた昨秋、第三セクター秋田県木造住宅の破たんが浮上。県が引導を渡す形で2月に破産、負債180億円のうち、150億円を地元銀行がかぶって収拾した。が、欠陥住宅を購入した千葉県住民から、県は約7億円の損害賠償の提訴を受けて、争っている。
 そして、いま。三セク秋田県畜産開発公社の破たん問題が明るみに出て、県は約35億円の公費投入で解決を図ろうとしている。牛のカラ導入などによる国の補助金の不正受給問題に加え、公社職員による帳簿改ざん、職員同士の私的な飲み食いの疑惑が浮かび上がるなど、すったもんだの状況だ。
 寺田氏にとっては、昨年3月、辞職した佐々木喜久治前知事時代の「いい加減な県政」のツケをずっと払い続けさせられている感じだろう。17日には公社問題で、自らの減給処分を発表した。
 県議会の追及に配慮したものだが、この県議会、いったい何をしていたのかと首をかしげる。佐々木県政時代から、県政の監視役をしていたはずではないかと。
 公社問題でいえば、過去二度の機構改革など、経営の軌道修正を徹底要求する機会はあった。県側が最も気を使う最大会派の自民党は佐々木県政時代、長く与党を務めた。
 県費投入を許すなら、議会がまずチェック機能の甘さを県民にわびるべきだろう。三セクは全国で約9千3百、秋田県だけでも約180。経営悪化に苦しむ団体は少なくない。一方で、地方分権の流れは強まる勢いだが、秋田のような状態では、権力や公金の地方分散に、いささか危ぐの念を抱くのである。(秋田支局)

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百兆円への疑問(窓・論説委員室から)
年月日   98年11月24日

 戦後最悪の不況を抜け出す切り札として、政府が打ち出した緊急経済対策の評判が、芳しくない。
 総額24兆円の事業規模はこれまでで最大。初めて経済再生への道筋も示した。そう政府は力説するが、国民も市場も、ないよりはまし、くらいの冷めた反応だ。
 理由を一言でいえば、7年間に合計82兆円もつぎ込んだ過去の対策の繰り返しでは、持続的な景気拡大はありえないと、みんな知ってしまった、ということだろう。
 その規模を100兆円以上に膨らませたところで、冷え切った消費者と経営者の心理が上向くはずがない。
 いま必要なのは、国全体の血の出るようなリストラを、景気対策と同時に打ち出すことではないか。
 行政、財政、税制、社会保障など、実態に合わなくなった制度を抜本的につくりなおす。地方分権と規制改革も思い切って進める。
 それらが強力な指導力のもとで実行され、経済の構造改革に展望が開けてはじめて、消費や設備投資といった民間需要に火がつくのだ。
 そもそも、1年間の国内総生産(GDP)を3%程度押し上げると政府が宣伝する対策の景気刺激効果も、疑わしい。
 たとえば、来年実施される所得減税は、今年の4兆円の特別減税が期限切れになるのを埋めるにすぎず、新たな需要を追加するわけではない。同じことは公共事業にもいえる。
 企業による人件費や設備投資の削減はこれからますます激しくなる。それによるGDPの落ち込みを景気対策で埋めることはとてもできまい。
 来年度は、小渕内閣の事実上の公約となった「はっきりとしたプラス成長」どころか、今年度よりもっと厳しい状況になるだろう。

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「合理主義」の突風と壁(地域再考・知事の時代)
年月日 98年11月22日

 閉庁時間は過ぎていた。
 10月9日夜、三重県庁の会議室で、知事の北川正恭と12人の幹部職員が集まった。
 「費用と効果を考えてほしい」
 「イベントなどの効果は、どう算出したらよいのか」
 議題は、県振興計画の達成について。事業の実効性をどう数値に置き換えるのか。北川は、そう問い続けた。
 北川の指示を受け、すでに副知事の原田正司は8回にわけて、課長たちと同じ会議をこなしていた。
 北川は「数値」にこだわる。言い訳やあいまいさを許さない単純明快さ。北川が進める行政改革の原点だ。
 *「事務事業評価システム」
 知事としての北川の名を高めたのは、県が2年前に取り入れた試みだった。むだをなくす画期的な手法として他県にも広まりつつある。
 こだわりは徹底している。福祉や教育など効果を測るのが難しい仕事にも目標数値を決めさせ、達成度の自己評価を課した。財政担当課が「費用に対して効果が乏しい」とみると廃止していった。
 広報紙の担当職員は「読んで役にたった」という県民の割合を数値にとり「70%」の目標をたてた。毎月、発行のたびに500人に電話をかけ、追跡調査を行っている。
 7月までの平均実績は46%。職員は「文字を大きくして読みやすくしようと思っている」。
 この2年間、評価システムで、県外マスコミ向けの広報冊子(1,200万円)など「639件約116億円分」の仕事がなくなった。県の広報紙は、そう成果を強調している。
 「自己評価は甘くならないか」という県民の声を気にかけ、2月からは職員の目標と評価を公表した。
 「右肩上がりの経済が終わり、超高齢化社会を迎える。行政のスリム化と効率化は欠かせない。前例で仕事を続ける時代ではない」と北川は言う。
 *「団体への助成の打ち切りは選挙に響く。落ちますよ」
 対談で会った政府の地方分権推進委員会の大森彌東大教授にそう言われても北川は動じなかった。
 「そのことで県民が見放すならそれでもいい」
 この春、北川は医師会などへの助成を大胆に廃止した。県議会で、廃止を主張する総務部と存続を求める担当部の議論を公開し、「裏取引」の余地を封じた結果だった。
 しかし、北川の一種、冷徹な合理主義による県庁内のざわつきは消えていない。
 システムをつくった地域振興部長、梅田次郎は「針のむしろだった」と言う。北川が知事になった直後から、民間会社と研究をはじめた。
 同僚たちの視線はたちまち冷ややかになった。抵抗の強さに、どたん場で知事が導入を渋ることはないか。そんな不安すら抱いた。
 職員組合が10月にまとめたアンケートでは、「行革に自分たちの意見が反映されているか」との問いに対し、否定的な答えが7割に上った。
 評価システムそのものも肯定派は4分の1。手間のかかる評価書類づくりに疑問が相次いだ。
 民間会社とは違う行政の仕事を、むだという理由で切り捨ててよいのか。職員の多くが割り切れない気持ちを引きずっている。
 *「庁内だけではない」
 節約のために北川は予算の使い残しを奨励している。予算は残さないという行政の常識を覆した手法だが、国からの補助金がからむ事業には手がつけられない。ひとたび余ったと言おうものなら、翌年度から必要以上に削られるのではないか。そんな懸念が断ち切れなかった。
 国が県庁に張り巡らした許認可や補助金の網。北川の合理主義をもってしても、まだ突き破られないでいる。(敬称略)(文・荒海謙一) 

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勧告を「負」の記念碑に 地方分権(社説)
年月日   98年11月22日

「応援団がだれもいなかった」
 そんな悔しさをにじませて、地方分権推進委員会は、国の公共事業をどれだけ地方に移すことができるか、の検討を終えた。第5次勧告である。
 族議員や省庁の抵抗の前に、国の直轄事業については「一層の縮減を図る」と抽象的に述べるにとどまり、具体的な基準は省庁ごとの審議会まかせとなった。
 無残な結果といわざるをえない。こんなことなら、あえて勧告は見送り、分権を阻むものの実体を浮き彫りにした方がよかったのではないか、と思うほどだ。
 4次までの勧告は、国が関与する度合いの縮小が中心で、権限や財源の地方への移譲にはほとんど踏み込まなかった。
 分権を通じて中央省庁のスリム化を図ろうとした橋本首相の強い指示で、分権委員会が公共事業の見直しに取り組んだこと自体は正しかった。
 問題は、橋本氏を引き継いだ小渕首相が分権に熱意をみせず、そのことが族議員や官僚を勢いづかせたことだ。
 中央省庁はこぞって反対し、分権委員会のヒアリングを足踏みさせた。対案もぎりぎりまで出そうとしなかった。
 分権委員会を支えなければならない地方団体の対応も情けない。事業をもらっても財源が伴わないのではないかとの懸念に加え、自らの執行能力への不安や中央省庁への気兼ねが迷いを生んだらしい。自治体の応援がなくては、前に進みようがない。
 分権委員会がとんでもない提案をしたのだろうか。そうではあるまい。
 この夏、分権委員会は自らの改革案を「論点整理」という形で省庁に示した。道路、河川、土地改良、砂防、海岸、治山、港湾の7分野について、国直轄事業の範囲を思い切って制限しようとしたものだ。
 たとえば、一級河川は「複数の都道府県にわたり、全国的な視点からとくに都道府県間の利害調整がいるもの」に限った。一つの県内だけを流れる川は県に移管するとの構想である。百を超える一級河川の半数近くは国直轄でなくなる。
 道路についても、国道は旧一級国道に限定し、旧二級国道は地方道に戻す。国の直轄区間は、高速道路と1号から58号までの国道など、いまの6割に減る。
 地方分権で何がどう変わるか、を具体的に示したという点で評価できる内容だった。改革のメッセージを国民に伝える力もあった。実現すれば、公共事業はもっと住民に身近な存在になったはずだ。
 そもそも、これを分権委員会だけの理想論と考えるのは正しくない。
 6月に成立した中央省庁等改革基本法は、国が直接担う分野を「全国的な政策及び計画の企画、全国的な見地から必要な基礎的、広域的事業」に限定し、それ以外は自治体にゆだねると定めている。その具体化が第5次勧告であるはずだった。
 改革どころか、現状を固定化しかねない勧告となったことで、権限ばかりが肥大化した巨大な事業官庁が誕生する恐れは、ますます強まったといわざるをえない。
 勧告には省庁と合意したことしか盛らない、という分権委員会の姿勢が、肝心な場面で巻き返しを許した。省庁と密室協議を繰り返す手法も、もうやめにすべきだ。
 地方分権が実現するまでの長い道のりの中で、第5次勧告が「負」の記念碑としての役割を果たすなら、せめてもの意味があるというものだ。

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分権阻む「土建国家」 公共事業見直し不徹底な第5次勧告
年月日   98年11月21日

 国直轄の公共事業を少なくするよう求めた地方分権推進委員会(諸井虔委員長)による第5次勧告が、分権策としては不徹底な内容となったのは、「土建国家」といわれる公共事業の構造が壁となったからだ。地方分権は、再編される中央省庁のスリム化につなげる意味があったが、「勧告を実行すれば、巨大官庁の誕生は許されるというお墨付きを与えることになりはしないか」(五十嵐敬喜法大教授)と危ぶむ声も出ている。(田嶋義介)
 ●平行線
 分権委 「国直轄の事業と管理の範囲を国道1号から58号までと高速道路に限れないか。無理なら対案を聞かせてほしい」
 建設省 「直轄区間は高速道路を含めても全道路延長のわずか二%。ここが全交通量の30%を担っている。基礎的、広域的事業に限定しており、特段の見直しは必要ない」
 分権委と建設省との道路をめぐるやりとりは平行線の繰り返しだった。
 国道は全国で四百五十九路線、507号まである。このうち旧一級国道以外は三けた国道と呼ばれる。国の直轄管理区間は旧一級国道が多くを占める。三けた国道では二割しか直轄区間はなく、残りの八割を都道府県が管理している。
 分権委が8月に出した試案で、三けた国道の地方移管を打ち出したのは、名実ともに地方にゆだね、地域に合った事業を実施する狙いからだった。試案通りなら国の直轄管理区間は4割減るはずだった。
 しかし、建設省と自民党の建設族議員らは「交通網を守る国の責任が果たせない」と猛反発し、試案を撤回に追い込んだ。それも「これでは、直轄の事業費と人員が2割程度減る」というのが本音だった。
 ●冷ややかさ
 本来、地方移管を自治体側は歓迎するはずだが、実際は冷淡だった。「財源問題を先送りすれば、分権は画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く」(高橋和雄山形県知事)
 地方への大きな権限移譲に伴う自治体の負担増には、それを手当てする財源の確保が必要だが、それを政府は簡単に手放さないからだ。
 分権委も財源確保については第2次勧告で注文し、政府もそれを今年5月に地方分権推進計画で閣議決定して約束した。分権委は今回も同様の勧告をしているのだが、政府・自民党が実施しようとする動きはない。自治体側も実現するとは思っていないようだ。
 いまの制度では、地方は公共事業の財源を国に頼っている。道路でみると、グラフのように都道府県道と市町村道が道路延長の95%を占めるのに、事業費は国の直轄事業と補助事業が6割に達する。「直轄か国庫補助の対象にならないと、道路整備が早く進まない」(自民党建設部会幹部)といわれるのもこの財政構造に原因がある。
 自治体の冷ややかさを、榛村純一掛川市長は「首長は財源と省庁との人のつながり、現実問題の処理でがんじがらめ。分権委が守ってくれるわけではないし、官僚の顔色をまずはうかがっておこう、という心理が働いている」とみる。
 ●個所づけ
 今回の勧告の目玉となったのが、統合補助金の創設だ。これは配分枠だけが内示され、使い先は自治体の裁量が広がり、分権の前進とはいえる。
 この使い先は、役所用語では「個所づけ」と呼ばれる。中央省庁が事業個所、事業額を各自治体に内示することだ。分権委は統合補助金について、個所づけを実質的にしないことなどを最低条件とした。
 だが、建設省に反論され、国は基本的に個所づけをしないと勧告するにとどまった。しかも、補助事業を行う自治体の中期計画に国が同意することが条件なので、長い目で見れば、個所づけが実施されることは変わりない。分権の道のりはなお遠い。
 ◆財源移さぬなら「国道が得」
 国道の地方移管に対して、地方側が「国道のまま残してほしい」と訴えている地域を訪ねた。磨がい仏で知られる大分県臼杵市と、「荒城の月」ゆかりの内陸部の竹田市の間約50キロを結ぶ国道502号の沿線である。
 「地方分権推進委員会が号数二けたの国道と三けたの国道とで線引きする議論をしているのは、おかしいと思っていた。地方への移管が当面見送られて、ホッとしています」
 大分県の児玉かん史^道路課長はそう語った。502号は1992年に県道から昇格した一番新しい国道のひとつで、県が管理している。市街地でも道幅が狭くて、大型車がすれ違えない部分も残り、県が拡幅工事を進めている。
 国道であるため、改良工事に対する国の補助率は55%と、県道の場合の50%より5ポイント高い。今年度の拡幅工事予算は1億5千万円。工事はあと10年はかかる。児玉課長は「どこがサービスの責任を持つかが重要」。国の関与への期待を強調した。
 沿線の緒方町は、502号昇格で初めて「国道沿いの町」となった。この40年間で人口が半減した町が頼みとするのは観光客だ。山中博町長は「国道はカーナビゲーションの地図でも赤い線が引かれて目立つ」と、国道という名前の「御利益」を強調した。
 町長は財源も移譲されるなら、国道の地方移管の受け入れを考えないでもないという。「でも、これまでの政府のやり方を見ていると、財源移譲はすんなりいかない。だから国道の地方移管に反対している」。裏付けとなる財源があってこそ分権は本物になる。(大野博)
 <道路の国と地方の延長と事業費の比較(建設省調べ)>
 道路延長(96年4月現在、km)    事業費(95年度決算、億円)
  高速道路    6,000    国直轄  41,240
  国道        53,000    国庫補助 41,720
   国直轄管理   (21,000)   地方単独 55,680
   都道府県管理  (32,000)
  地方道    1,088,000

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不況前に勢い鈍る 政官の抵抗激しく 地方分権委第5次勧告<解説>
年月日   98年11月19日

 切れ味の悪いヤリを持って挑むドン・キホーテ。それが19日、地方分権の第5次勧告を出した地方分権推進委員会の役回りだった、といってもいい。立ち向かう相手は、「不況対策」の追い風を受け、くるくると勢いよく回る公共事業という「風車」だった。その後ろで政官業の鉄のトライアングルが「地方分権よりも不況対策優先」と大合唱した。
 「直轄事業や補助金は国家的な事業などに限り、その他は地方へ」というのが分権委の基本的な考え方だ。その実現のため頼りとしたのが、公共事業などの見直しによって再編省庁のスリム化を定めた中央省庁等改革基本法と、世論だった。
 しかし、基本法は公共事業で国の役割を「基礎的、広域的事業に限る」とはしているものの、「限定を基本とする」と逃げが打ってあり、省庁に地方移管を迫るには鈍刀だった。
 一方、公共事業そのものは景気対策の柱になっている。旧来型事業について景気浮揚効果への疑問が指摘され、「無駄な公共事業はやめるべきだ」との批判は残っているが、世論の風当たりは少し弱くなった。
 公共事業を地方に移しても景気対策になるはずだが、中央省庁などは自ら事業を握ろうとしている。移管を受ける側の地方自治体も財源を国に依存しているため冷ややかで、反対の声すら出た。サンチョ・パンサは及び腰だった。
 第5次勧告の依頼主だった橋本龍太郎前首相は去り、小渕恵三首相は「前内閣の方針を継承する」と表明した。が、建設省や自民党族議員の激しい抵抗を抑えようとはしなかった。
 分権委は四面楚歌(そか)だった。第4次勧告まで省庁との合意を非公開折衝で得てきたため、省庁の抵抗姿勢に公式に反論するわけにもいかなかった。今回の分権策の後退は密室交渉があだになった。
 最終局面で、野中広務官房長官らが「勧告ができないと、行革後退と批判されかねない」と懸念し、調整に乗り出し、やっと勧告にこぎつけた。「大胆な勧告でないと省庁のスリム化にはつながらない。現状では、公共事業改革の限界を示した」(新藤宗幸・立教大学教授)との見方が強い。
 (政治部・田嶋義介)
 ◆第5次勧告の主なポイント
地方分権推進委員会の第5次勧告による公共事業の見直しの主なポイントをまとめ、説明した。
 《国直轄の事業と管理》
 「直轄事業、直轄公共物の一層の縮減を図ることが必要である。その範囲の見直しの具体的な内容は勧告を踏まえ、関係審議会で早急に検討し、結論を得る。分権委は検討状況について必要な意見を述べる」
 省庁再編で生まれる巨大な国土交通省などのスリム化を定めた中央省庁等改革基本法は公共事業で国の直轄事業を「全国的に必要とされる基礎的、広域的事業に限る」とした。勧告は縮減を図るように求め、分権委が監視する。
 「国道の直轄管理区間の基準は原則として次の区間とする。
 (1)国土の骨格を成し、国土を縦断・横断・循環する都道府県庁所在地等の拠点を連絡する枢要な区間。
 (2)重要な空港、港湾と高規格幹線道路あるいは前記の路線を連絡する区間。
 この判断をするためできる限り客観的な基準を具体化し、定期的に見直す」
 道路と河川では国道や一級河川の指定基準はあるが、直轄管理の区間についての基準は明確ではない。直轄事業はほぼ、この区間で実施されるので、これを減らすには直轄管理区間の基準を作成させ、いまより限定的にする必要がある。勧告は基準の作成は省庁にゆだねたが、各直轄事業の範囲の見直しの最低限の条件を示している。
 「直轄事業などの見直しに伴い、自治体が担う事務事業が増大する場合、所要財源を明確にし、必要な地方税・地方交付税などの一般財源を確保する」
 《補助事業》
 「次の補助金は廃止。
 (1)河川、道路、砂防、海岸、港湾、治山、漁港漁村整備の小規模な補修・修繕・局部改良。
 (2)市町村道への補助金(橋、トンネル、立体交差などを除く)。
 (3)二級河川への補助金(ダム、放水路などを除く)」
 「統合補助金を創設する。国が自治体の使い先を決めないことを基本とし、次のような仕組みとする。
 (1)国の公共事業長期計画に対応して自治体が作る中期の事業計画を基に、国がその年度の自治体ごとの配分枠を定める(金額のみ。事業個所などは示さない)。
 (2)配分枠の範囲内で、自治体は当該年度に実施すべき事業の実施個所などを定め、補助金を申請、国は交付する。
 (3)交付後の事業個所などの変更は計画に適合している限り、国は申請通り認め、申請が不要な軽微な変更の範囲を広げる」

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国直轄事業、縮減求める 統合補助金も 地方分権委第5次勧告
年月日   98年11月19日

 地方分権推進委員会の諸井虔委員長は19日午前、公共事業の国から地方への分権を柱にした第5次勧告を小渕恵三首相に手渡した。国の行政改革により再編される巨大な中央省庁をスリム化するため、道路や河川、港湾など7つの公共事業について、国直轄の事業と管理範囲の一層の縮減を図るように求めた。国庫補助事業では、使い先に自治体の裁量が高まる統合補助金の新設を勧告したが、補助金の廃止は道路などの小規模な修繕にとどまった。直轄事業の具体的な削減策を勧告する方針だったが、建設省や自民党建設部会などの抵抗で断念し、分権策は大幅に後退した。政府は勧告を尊重して推進計画をつくり、実施していく。
 国の直轄事業については分権委は当初、例えば道路の直轄事業を国道1号から58号までと高速道に限り、ほかは地方移管する試案を出した。しかし、景気を優先する自民党や権限の縮小に抵抗する建設省などの反発が強く、試案の内容を盛り込むことはあきらめた。
 それに代わって分権委は、直轄の事業と管理の範囲を指定する基準の明確化を求めた。これにより、直轄事業について抽象的な表現ながら「一層の縮減を図る」との方向を明記した。建設、運輸、農水の三省に、関係審議会で早急に結論を得るように求め、分権委は検討状況に必要な意見を述べ、監視する。
 補助事業では、「整理合理化は、中央省庁のスリム化にもつながる」との考えから、道路、河川、港湾、漁港漁村整備などの小規模な補修、局部改良の補助金の廃止を求めた。事業費で年五百億円という。廃止後は地方交付税で一般財源化される。市町村道と都道府県が管理する二級河川のトンネルなどの大規模な工事への補助金は存続する。
 統合補助金は二種類を提示した。まず、二級河川、公営住宅など7事業について、国の長期計画に沿って、都道府県が作成した整備計画に国が同意すれば、国は単年度の補助金を総額で配分し、使い先を指定しないで申請通りに交付する。もうひとつは自治体のまちづくり計画に沿って、関連補助金を一括採択する。
 統合補助金になると、長期的な使い先は国に縛られるが、毎年どこで事業をするかの優先度は自治体が判断できるようになる。分権委は「この対象は事業費で1兆1千億円になる」と試算しているが、建設省は「来年度予算全体との関係でどれだけの額になるかは分からない」としている。
 ●地方分権推進委 第5次勧告骨子
 地方分権推進委員会の第5次勧告の骨子は次の通り。
 一、道路など七公共事業の国直轄の事業と管理範囲の一層の縮減を図る。
 一、分権委は関係審議会の検討状況に意見を述べる。
 一、河川などの小規模な補修などの補助金廃止。
 一、自治体の裁量が高まる統合補助金を新設。

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恒久減税の地方配分「最小限に」と要望 中核市市長、自治相に
年月日   98年11月14日

 西田司自治相と中核市の市長との懇談会が13日、自治省で開かれ、市長側は地方分権の一層の推進や恒久減税の地方配分を最小限にとどめることなどを要望した。
 中核市は人口30万人以上など3要件を満たす都市で、1996年度からこれまでに21市が移行し、府県から医療、福祉などの分野で権限委譲されている。懇談会には秋田市の石川錬治郎、郡山市の藤森英二、宇都宮市の増山道保、新潟市の長谷川義明、富山市の正橋正一、静岡市の小嶋善吉の各市長ら中核市連絡会の14市長が出席した。各市長は「職員に自信がついた」など、中核市になった利点も挙げたが、都市計画の最終決定権限がなく、独自の街づくりができないといった不満のほか、税財源確保や市町村合併の推進についての要望が相次いだ。
 国と地方にどう割り振るか決まっていない来年度の恒久減税について、西田自治相は「蔵相と詰めている段階だが、税制改正は国の当面の景気回復を図るためだから、基本的には国が対処してもらいたいというのが私の考えだ」と述べた。

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地方むしばむ財政危機 全体で3兆円不足(税金なんのために:1)
年月日   98年11月13日

 ●新税探し
 「放射性廃棄物に課税する新たな税が可能だ、との結論を得た」
 茨城県自主税財源充実研究会(座長・林健久東大名誉教授)は10月中旬、中間報告をまとめた。
 県は来年2月の県議会にも新税創設の条例案を提出する構えだ。試算では、東海村を中心に県内に14ある原子力関係事業所から年間30億円内外の新税収が得られる。
 札幌市は、朝夕の交通渋滞を和らげるため、周辺部に大駐車場を造り、公共交通網で中心部に入ってもらう構想を実現しようと、繁華街の駐車料金に課税する「駐車税」を検討。神奈川県も「大都市特有の税源を勉強中。大阪、愛知など似た台所事情の自治体と共同研究したい」という。
 このところ、それぞれの事情に合わせ、地方自治体が条例を作って独自の新税を課そうとする動きが目立つ。「地方自治」が勢いづいているようにも見える。地方税法は、こうした法定外普通税を認めており、政府は「地方の課税自主権を広げ、地方分権を推進する」と後押ししている。
 だが、実情は全く違う。
 時ならぬ新税構想ラッシュの最大の理由は、地方の深刻な税収不足だ。バブル経済の崩壊で、地方自治体全体の税収不足額は、今年度3兆円にのぼる。新税構想は、「財政再建団体」への転落を避けるための窮余の策の色合いが濃い。
 ●東京都も
 約3千3百の都道府県・市町村のうち、税収が多く国から地方交付税を受けない「不交付団体」は120団体(今年度)にとどまる。1994年度には158あったが、減り続けている。93年に大阪府、愛知県、神奈川県が不交付団体から転落し、都道府県で唯一残った東京都も今年、財政危機を宣言した。
 自立できる自治体が減れば、税収の乏しい地域へ回す国の地方交付税財源も減り、財源の地域間格差を解消させる交付税の機能は落ちる。交付税依存体質に陥ると、抜け出すのは難しい。むしろ、国の補助に頼ろうとし、「地方分権」に逆行する恐れが強い。
 税収不足は歳出カットに向かう。地方独自の施策は縮小に向かっている。
 大阪府は7月、老人・障害者医療の助成削減、府立高入学金の大幅値上げなど福祉・教育予算を大胆に切り込む財政再建プログラムを打ち出した。横山ノック知事は10月の府議会で、「痛みを分かち合ってもらわないと、財政危機から脱出できない」と訴えた。
 他の自治体にも、医療、私学助成、教員・警察官の定数、保育料など広い分野で、自治体独自の上乗せに、削減・廃止の動きが広がりそうだ。
 地方の特色がなくなり、低い水準での全国画一化が進んでいる。
 地方税は「マンションの管理費」に例えられる。安全で高品質の空間の確保には、住民が応分の負担をする、という理屈だ。「行政サービスの水準は、受益と負担のバランスで決めるべきだ」(自治省)
 しかし、いきいきとした地方自治には、それ相応の収入の基盤が不可欠だ。
 東大経済学部の神野直彦教授は、地方税収の安定には、現在、所得階層に応じて5、10、15%という三段階の住民税(地方税)の税率を一律10%に統一すべきだと提唱する。税収額で圧倒的割合を占める税率5%層を増税するので、地方は3兆円の税収増となる。国税、地方税を含めた全体の負担総額は変えない前提なので、その3兆円分は国から地方に税源を譲り渡すことを意味する。
 「地方が受益と負担を考えながら独自の施策を講じる余地が高まる」と神野氏は話す。
 ●進まぬ分権
 だが、政府内で地方への税源移譲が主な政策課題になる空気はない。大蔵省、自治省が、力の源となる財源を手放さないからだ。
 また、一時、論議が盛り上がった赤字法人への課税(法人事業税の外形標準課税)は、行政サービス(受益)への一定の対価(負担)を求めるものだった。しかし、「この景気の時期に論外」との声が高まり、吹き飛んだ。
 現在の減税論議は、国と地方の減収分の押しつけ合いに終始している。21世紀に向け、地方分権を進めようとする視点は、すっぽり抜け落ちている。

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国直轄「縮減を」 当初案より後退 公共事業改革で分権委が原案
年月日   98年11月12日

 地方分権推進委員会(諸井虔委員長)は11日、公共事業の見直しを柱にした第5次勧告の原案をまとめた。国の直轄事業の具体的な削減策は見送ったものの、一層の縮減を図る方向を明記。補助金では、自治体の裁量が増える統合補助金制度を新設したが、廃止は小規模な道路補修などにとどまるなど当初案より後退している。分権委は19日に政府に勧告する予定だが、曲折も予想される。
 分権委は直轄事業について、道路では国道1号から58号までと、高速道路に限定することは断念し、直轄の範囲を指定する基準の明確化を求めた。その方向について、原案は、再編される中央省庁のスリム化につながるように「一層の縮減を図ることが必要である」との表現で、各省に関係審議会で検討し、分権委が必要な意見がいえるように求めている。

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仙台市監査委員・黒沢繁さんに聞いてみました /宮城
年月日   98年11月 8日

 来年4月から地方自治体に外部監査が導入される。1993年から仙台市監査委員を務める公認会計士の黒沢さんは、この外部監査の実現を目指して長年努力してきた。「制度は出来たばかり。これから充実させていかなければ」と黒沢さんは熱っぽい口調で語った。(服部夕紀)
 ――地方自治体に外部監査が導入されることになったのはなぜでしょうか
 「1995年に仙台市民オンブズマンの動きをきっかけにして、全国で食糧費問題が大きく取り上げられ、現在の監査制度が有効に機能していないのではという声が高まりました。他方で地方分権が進められ、従来会計検査院が行っていた監査範囲の多くが地方に移されることになりました。地方自治体に対する監査機能をより細かくし、強化するのが、外部監査なのです」
 ――93年から仙台市の監査委員をされています。95年の食糧費問題をどう受け止めましたか。
 「非常にショックでした。今の監査制度には限界があることを思い知らされ、外部監査制度の必要性を強く訴えてきたのです」
 「今の監査制度の大きな問題点は、地方自治体の予算の作成に関して、監査委員が口を挟むことは出来ないという点です。議会が唯一のチェック機関なのですが、議会に提出される予算案の項目は、議会、総務、民生など14に分かれた大まかなもので、個々の科目が複数の局にまたがっているため非常にわかりにくいのです。例えば食糧費の予算の妥当性を調べるには、各項目に含まれた食糧費を拾い出して合計してみないとわかりません」
――外部監査によってこのような問題点は解決されるのですか
 「まず仕組みを説明させて下さい。今の監査制度では、予算の作成は調べられないのに対して、外部監査制度では、予算を点検することができます」
 「大きく分けて二種類の方法があります。第一は包括外部監査契約によるもので、外部監査人は年間で一つ以上のテーマを選んで重点的に監査します。食糧費などの科目を選んで複数の局を見るのか、または一つの局の複数の科目を調べるかを監査人が決めます。監査人が問題点を取り上げ指摘し、是正を勧告をするという企業診断に近い形になるでしょう」
 「外部監査の導入で初めて、一つのテーマを掘り下げ問題点を横断的に調べられるようになるのです。予算のあり方にも勧告出来るので、効果があると思います」
 「もう一つは個別外部監査契約によるもので、条例を制定すれば、住民や首長、議会などから監査請求された事項を、外部監査人に監査するよう依頼出来ます」
 ――外部監査人を引き受けるのですか
 「引き受けるつもりはありません。外部監査人は、決算の審査が出来ません。また予算の作成・執行を調べて不適切だと判断しても勧告できるだけで、予算の執行そのものを停止させるなどの権限はありません。ですから、決算を点検できる現在の監査制度と、予算面を幅広く点検できる外部監査人は、互いに補う形になるのです。私は監査委員の立場から、外部監査の効果が上がるよう協力していくつもりです」
 ――外部監査制度の課題は何でしょう
 「自治体勤務経験者が監査人の中心になると、外部監査の実効性がどのぐらい保てるのか疑問ですね。それにテーマの選び方次第でいくらでも外部監査の内容が骨抜きになりえます。何をテーマに据えるか、それをどう監査するかが非常に重要になると考えます」
 《地方自治体の外部監査》 地方自治法の改正で、99年4月から、都道府県、政令都市、中核都市(人口25万人以上で、指定を受けた都市)は、外部監査を受けることが義務づけられる。
 外部監査人になれるのは、弁護士、公認会計士、会計検査院や地方自治体の監査事務局などでの勤務経験者ら。議会が認めれば税理士も外部監査契約を結べる。任期は3年で補助者を使うことが認められている。
 事務所には「地方自治体の外部監査」の分厚い資料ファイルやノートなどが何冊も並ぶ。「監査の質を高めるのはこれから」と語る黒沢さんは積極的に研修を受ける一方で、講演会などで外部監査制度を広める活動を行ってきた。
 税金ははたして有効に使われているのだろうか。そのことについての説明の少なさに不満が高まるなか、外部監査人にどんなことが出来るか、注目していきたい。
◇くろさわ・しげる 1927年、秋田県鹿角市生まれ。48年、当時の国家地方警察宮城県本部(現宮城県警本部)事務官となり、勤務の傍ら東北学院大学夜間部を卒業、公認会計士事務所に就職。63年、公認会計士資格を取得、仙台市に公認会計士・税理士事務所を開き、現在に至る。76年、監査法人太田哲三事務所のパートナーとなり、90年、太田昭和監査法人東北事務所長に就任。98年に太田昭和監査法人を退職。

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市町村道補助、一般財源化を 妥協案で地方分権委要求
年月日 98年11月 5日

 公共事業の分権を柱に第5次勧告案を検討している地方分権推進委員会(諸井虔委員長)が関係省庁に出した妥協案が4日、明らかになった。建設省などの抵抗で国の直轄事業の大幅削減は断念したものの、市町村道や二級河川への補助金を廃止して一般財源化することや、国が使い先を決めない統合補助金の制度化などを求めている。
 統合補助金は道路延長などに沿って配分する。それが困難な場合は、補助金は客観的な補助基準だけで自治体の申請をチェックし、申請総額が補助金総額を超えれば、過去の実績などで機械的に配分する仕組みを提案している。

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スリムより太めがいいみたい 「骨抜き」工作本格化 中央省庁再編
年月日 98年11月 3日

 2001年の中央省庁再編を目指し、政府は行革の柱である役所のスリム化に向け大詰めの作業に入っている。小渕恵三首相が本部長の中央省庁等改革推進本部は、省庁から約百の機関・事務を切り離す「独立行政法人化」や、官僚の政策立案の隠れみのとの批判もある各種審議会の廃止を打ち出すなど積極姿勢をアピールしている。しかし、省庁側の抵抗はこうしたスリム化問題やスリム化につながる地方分権について根強く、骨抜きを狙った動きは本格化しそうだ。「10年間で国家公務員20%削減」を公約した首相にとってスリム化後退は痛手。首相官邸は抵抗する省庁には制裁措置をちらつかせ、押さえ込みに躍起だ。
 ●官邸の危機感
 「役所が反対しても実行すべきだ」。30日夕の首相官邸。省庁再編作業を監視する「顧問会議」(座長・今井敬経団連会長)が、スリム化に対する各省庁の回答について事務方から報告を受けると、こんな意見が飛び出した。
 顧問らを憤慨させたのは、想像以上の省庁の消極姿勢だった。廃止・民営化の検討対象とされた二十以上の機関のうち、前向きな回答が寄せられたのは4機関だけ。公務員削減のカギを握る独立行政法人化にも半分以上は「困難」と回答したためだ。
 「スリム化しなければ国民の理解は得られない」。今井座長は首相にこう進言し、首相も全閣僚にスリム化に必死に取り組むよう督促することを約束した。
 こうした省庁の姿勢は、4日前には野中広務官房長官や太田誠一総務庁長官らに報告されていた。野中長官は「抵抗する省庁については(対象機関に繰り入れる)予算を一律3割カットしてしまえ」と怒り、太田長官も「省庁が従わないなら、従ってもらうようなことを考える」と制裁措置の可能性に言及した。
 ●党内にも慎重論
 首相の足元、自民党内からも「景気優先」を理由にした慎重論が出始めた。
 非主流派議員が中心の「葉月会・日本再興会議」(代表世話人・武藤嘉文元総務庁長官)が28日開いた会合。出席者から「景気対策の妙案が出てこないのは、役人が行革にかかりっきりになっているからだ。法案提出を延ばした方がいい」という意見が出ると、武藤氏は「(党行政改革推進)本部長として検討させてもらう」。
 推進本部の法案とりまとめが進むにつれ、省庁の意向を背に受けた族議員の動きは活発化しそうだ。
 ●権限移譲も難航
 スリム化に抵抗する役所の理由は様々だ。
 厚生省の山口剛彦事務次官は、役所の政策誘導に利用されているとの批判がある年金審議会の廃止について「国民の合意形成の一環として審議をしている。十分機能している」。有馬朗人文相は国立大の独立行政法人化について「国立大の基礎研究は商売にならない。国が手厚く面倒見なければならない」と主張する。
 行政のスリム化には公共事業に関しての地方への権限移譲も欠かせないが、思うように進んでいない。
 地方分権推進委員会(諸井虔委員長)は、自治体がかなり自由に補助金を使えるように、国が「個所付け」をせず、道路延長などに従って補助金を交付する「統合補助金」の新設などの改革を進めたい考えだ。国の直轄事業は削減を求めつつ、省庁の意向も考慮した妥協案も出したが、建設省など関係省庁の反発は収まっていない。分権委は10月中に予定していた勧告時期を11月中旬にずらすほど、調整は難航している。
 <スリム化> 民営化や廃止の検討対象となっているのは、農業者大学校や逓信病院など20数機関。独立行政法人化は百前後の機関や事務が検討対象で、国立病院や国立大、農業試験場など試験研究機関が含まれている。審議会の廃止は、税制調査会や中央教育審議会、年金審議会など149機関が廃止の検討対象となっている。
 <独立行政法人> 英国のサッチャー政権が導入した制度を手本にした。中央省庁の機関のうち、民営化が難しい行政サービス部門を独立させる。予算や計画の自由裁量を認める代わりに、業績評価や情報公開の徹底によって自発的な経営努力を促すのが目的。職員の身分は「国家公務員型」と「非公務員型」の二類型になるが、ほとんどは「国家公務員型」を希望している。

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公益法人改革 進まぬ地方の基準達成 藤田直央(ミニ時評)
年月日 98年11月 2日

 政府が進める公益法人改革の歩みが、地方で鈍い。もうけ主義の法人や官庁OBの天下りなどへの批判を受けて、1996年に閣議決定された新指導基準は達成期限まで1年を切ったが、都道府県には「国が勝手に決めた基準」と冷めた声すら出ている。
 総理府によると、民法に基づく公益法人は全国に約2万6千(96年)。うち74%を国に委任されて都道府県が指導している。新指導基準は、運営にあたる理事について、特定企業や所管の官庁出身者の割合を各3分の1以下とし、社員総会がない財団法人の場合にはチェック機能を働かせるため評議員会で選ぶよう求めた。
 だが、地方での徹底は難しい。山形県の場合、県が5割以上を出資する22の財団法人のうち10法人が評議員会を設置しておらず、うち6法人で県庁出身者が理事の3分の1を超える。民間の給与水準に比べ高すぎないように新基準は求めているが、県庁出身の常勤理事12人の平均年間報酬は710万円で、県内勤労者平均の2倍近い。
 5月に閣議決定された地方分権推進計画は、都道府県の公益法人設立許可に原則的に国が関与しない方針を示したが、都道府県の指導体制は不十分で、「専従職員がほとんどいない状態」(総理府)という。
 都道府県には、新基準の徹底で天下りが減り、「部外者」の民間人が運営に加わることへの不安もある。山形県の高橋和雄知事は県と関係が深い法人の運営について、「行政を代行する場合が多く、公務員経験者が望ましいが、対応を考えたい」と話す。
 一方、財政難から出資法人のリストラや改革を迫られている都道府県も多い。新基準が実態に合わないと主張するなら、地方分権に備え独自の指導方針を打ち出すべきだろう。 (山形支局)

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