福島における自治体政策研究会の役割

(この稿は自治体学会News Letter No.120号(2006.7)に投稿したものです。)
 
 「最近おたくの市長おかしいんじゃない?」「う〜ん。合併で狂っちゃったかな!」「某市の部長全員が政治資金規正法違反で書類送検なんて考えられないね!」「・・・・」
 これは自治体政策研究会の例会終了後、酒を酌み交わしながら行う情報交換会でのやりとりである。自治体政策研究会は、今から11年前に福島市及びその周辺に在住する自治体職員10数名で始めた会である。月1回の勉強会程度の学習中心の活動だったが、 2002年の第16回自治体学会ふくしま郡山大会を契機として、福島県内はもとより宮城県の自治体学会員等を中心に現在のような活動スタイルに変わった。会員は約50名であるが、月1回の例会への出席は平日の夜ということもあっておおむね20名前後である。福島大学の今井照先生をチューターにして、会員が提供する合併問題などその時々の話題を中心に皆で議論しあっている。  (詳細は本会ホームページ(http://www2u.biglobe.ne.jp/~t-satoh/)参照。)
 2000年の第1次分権改革以来、本県においてもいくつかの自治体で自治基本条例が制定されるなど21世紀型の自治の有り様について模索が続いている。矢祭町や飯舘村などの分権自立を目指し、小さくても輝く自治体が存在する一方で、冒頭のような話題にも事欠かない本県自治の現状でもある。ロバート・パットナム流に言えば本県の社会構造も「旧来の保守的な情実社会構造」から「民主的な水平的平等主義的構造」への過渡期にあると言えるのかもしれない。
 とは言え、将来自治体の姿がどのようなものになるのかは大変見えにくい状況にある。三位一体の改革も補助金削減と税源移譲では一定の答を出したが、交付税については未処理となっている。一応の決着を見た税源移譲では住民税の増税で住民の不満が増している。福島県泉崎村の財政破綻、北海道夕張市の財政再建団体申請の問題でも現制度が機能していないことを痛感する。今自治体破綻法制において、第3者機関による監視や債権者責任などが検討されているようだが、いくら制度をいじくり回しても、住民の自治に対する無関心を放置していては同じ事の繰り返しになる。
 結局住民意識とかけ離れたところで我々は分権改革や三位一体改革を議論しているのではないだろうか。第2次の分権改革を前に、もう一度民主主義とは何かという原点に返った視点が求められている。
 アマルティア・センは「民主主義は選挙によるだけでも、選挙のためだけのものでもない」と投票箱民主主義を批判する。民主主義を議論による政治と理解し、公の場での議論の奨励、反対意見の許容と寛容性を説く。「アメリカではここ数年間に公の場における議論の領域が広がるどころか、逆に著しい後退が見られた」と警告している。「市民的行動と社会参加の意義は、人間をありきたりの受益者とだけ見るのではなく、自由を重視する行為者として捉える見方なのである。」とも強調する。(アマルティア・セン「民主化が西洋化と同じではない理由」から)
 自治体にとって先行き不透明で、厳しい状況が予想される中にあって、自治体職員は政治と住民を繋ぐパイプ役としてますます重要な役割を担わなくてはならない。本会のような地域における政策研究グループも、職場が違うという水平的関係を生かしつつ、住民を統治の主体として捉えていくという考え方に基づき、地域の実態を踏まえた将来の自治体構想を模索していく必要がある。
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