第36回学習会1999年9月4日
「まちづくりの視点を再点検ー『まちづくりの実践』読書会」

 読書会となると参加者が少なくなる傾向がありますが、今回も例外ではありませんでした。ちょっと残念でした。
 それは兎も角、読書会ではまちづくりについての文化論、土地柄、人柄、まちづくりにおけるキーマンの必要性等々幅広い話題について大いに盛り上がりました。

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第37回学習会1999年10月16日
「駅前の駐輪禁止を考える」

 講師 駅前商店街芦田一氏

 この間「駅前の駐輪禁止条例の見直し」について市議会への請願署名活動などの取り組みを進めてきた駅前商店街の芦田さんと「まちの和研究所」も佐藤和子さんに報告をしていただきました。 
 駅前商店街の見直しを求める運動に対して行政側が試行という形で一部規制の見直しを始めることについては、評価するという意見がある一方で、自転車規制の問題はトータルなまちづくりプランに基づく公共交通も含めた都市内交通体系の確立が急務だとの意見も出されました。

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第38回学習会1999年11月20日
「わかりやすい自治体の政策評価」

 講師 今井照先生(福島大学行政社会学部教授)

1 「自治体行政に対する評価」に関する整理
  (1)2種類の「評価」が交錯している 
     ア 市民が期待している「評価」/「都市ランキング型政策評価」
     イ 行政は必要としている「評価」/「点検型政策評価」
  (2)「評価」の種類
     ア 対象別
     イ 主体別
     ウ 段階別

2 自治体評価の実際
   「事務事業(個別政策)評価」かつ「行政評価(内部評価)」かつ「事後評価」の例
  (1)あらかじめ準備すること
     ア 政治的な意思決定/首長、議会、条例等
     イ 事業別予算
     ウ 財務会計システム
  (2)評価の体制
     ア 評価組織と見直し組織の一致
     イ 見直し組織と財政組織との連携
     ウ 評価時期
  (3)評価項目の意義 
     ア 事業効果/数値化の割愛
     イ 継続要因/やめられない事情

3 「見直し」のための「評価」
  (1)チェック項目
     ア 事業主体の多様化/公共サービスの提供主体は行政だけではない
     イ 社会環境の変化/市民は成熟している
     ウ 類似重複事業の整理
  (2)評価の意義
     ア 政策形成過程を透明化する
     イ 外部評価に道を拓く

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第39回学習会1999年12月18日
「市民と行政とのパートナーシップについてー横浜方式を中心にー」

 報告者 庄子まゆみさん(シンクタンクふくしま)
       藤井一彦さん(横浜市衛生局)

1 横浜市市民活動推進検討委員会設置の背景と経過
  ・背景 
  ・経過   専門家による検討委員会と市民による小委員会 
  ・情報公開 市民活動推進検討委員会ニュースの発行

2 委員会委員の人選

3 横浜市内市民活動実態調査の概要
  ・目的     市民活動に関する基礎的データの収集
  ・実施期間   平成10年7月〜8月実施
  ・調査結果

4 パートナーシップ事業の概要
  ・目的   区役所のまちづくり機能を高める
       市民が自主的に地域を運営していく力を高める
  ・実施期間  平成8年度〜10年度(事業期間2ヶ年)
  ・対象事業  区役所主体事業
  ・成果    研修、検証、分析

5 横浜市市民活動推進検討委員会報告書概要

6 横浜市市民活動推進状況
  ・市民活動支援条例への展開
  ・庁内各セクションにおいての推進体制
  ・11年度市民活動支援事業

7 他の自治体の市民活動推進に関する動き
  ・神奈川県平塚市
  ・神奈川県鎌倉市
  ・宮城県仙台市
  ・大阪府箕面市 

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第40回学習会2000年2月19日
「米国の社会福祉制度を学ぶーシアトル市を中心にー」

 報告者 古川仁さん(福島市社会福祉課)

 J アメリカの地方自治制度のおさらい

  連邦政府

  州政府

  カウンティ
   独立の法人格ではない。
   その地位、権限は州によって異なる。  

  地方自治体
   一定の人口集中を前提に地域住民の自発的意志に基づいて設立。
   州の承認が必要。法人格あり。一般行政を行う権能を持つ。
   憲章を持ち、その地域、組織、権能、事務を自主的に決定。

  準地方自治体
   地域住民の意思とは関係なく、州が特定目的のために創設するもの。
   特別区などがその例。
   最近上下水道、都市再開発、住宅、公団、道路、消防などを
   目的とする特別区の数が増えている。学校区もその一つ。

 K 視察都市:米国シアトル市
   視察先:1.シアトル市役所住宅福祉局
        2.フリーモントパブリックアソシエーション(社会福祉団体)
        3.シアトル 敬老ホーム(特別養護老人ホーム)
        4.日系マナー(軽費老人ホーム)
        5.ワシントン大学(老化問題)研究室
1.シアトル都市概況
 ◇気候風土と人口

 北米ワシントン州のシアトル市は樺太南端と同じくらいの緯度ですが、暖流のおけがで1年中過ごしやすい気候で、雪はまれに何年かに一度降るぐらいです。雨が多い街としても知られています。シアトルの人達は雨が多いことだけが玉に瑕と、自分たちの街の快適さを誇りにしています。街は入り組んだ海岸線のため、海や湖が都市近郊に広がり美しい景色を織りなしています。マイクロソフト社のビル・ゲイツの邸宅をワシントン湖畔に見てきました。海の幸や山の幸にも恵まれ、別名エバーグリーン州と呼ばれるほど緑(針葉樹)が多く、水のおいしい住みやすい土地です。そのため、住んでみたい都市の中で常に全米の上位にランクされます。1990年には、世界で最も住んでみたい都市の第1位にあげられたほどです。
 シアトル市の人口は約52万人ですが、地方自治は周辺の市を合わせた人口約320万人のグレーターシアトルと呼ばれるはキング郡単位で行われる行政領域が多いようです。
 ◇ボーイング・マイクロソフト・マリナーズ
 昨年シアトルで開催されたWTO(世界貿易機構)の国際会議では、一部の環境団体のデモンストレーションで世界を驚かせましたが、私が訪問した際にはその影響はありませんでした。
 シアトル市近郊にはボーイング社があり、巨大なボーイング社の航空機製造工場により、航空機産業がシアトルを代表する産業となっています。最近では、世界に冠たるマイクロソフト本社を始め、多くのコンピューターソフトウェア関連産業が、カリフォルニアのシリコンバレーを追い上げています。ボーイング社とマイクロソフト社を見学してきましたが、両社の巨大さには度肝を抜かれました。
 シアトル市は日本にもなじみが深くなった大リーグ・シアトルマリナーズの本拠地です。キングスドーム屋内球場はまもなく取り壊されるそうですが、シアトル市民はドームが取り壊されるのを惜しんでいるのと同時に、あの巨大なドーム球場をどのようにして取り壊すのか興味をもってみています。
 ◇退職後過ごしたい街
 現在クリントン政権のもとで景気は好況で、人々は雇用の問題で不安を感じてはいません。しかし全体的に経済が好況であっても、いつ解雇になるのかわからないのが米国の企業です。同時に、経済が好況であれば再雇用が容易なのも事実です。
 北米では住居の転売が容易で転職もしやすいので、仕事があれば自分の住みたい都市に比較的容易に転居します。退職時期も自らの選択において行い、退職後は自分の住みたい都市を見つけて転居することも珍しくありません。「仕事をいつやめ、次の人生をどう生きるか」というような積極的な姿勢が見られます。
 シアトルの恵まれた自然・社会環境は、快適な老後を過ごすには最適の条件を備えています。退職後シアトルかフロリダで暮らすのがアメリカ人の理想といわれています。そのため、シアトルでは退職者住宅、高齢者専用住宅、介護付き高齢者住宅、特別養護老人ホームなど、数多くの高齢者施設整備が早くから進んでいます。
 ◇太平洋に開かれた街
 シアトルは太平洋に面した港湾都市で、かつて横浜から出向した船の最初の寄港地でした。日本を含めた環太平洋諸国とのつながりが強く、サンフランシスコに次いで日系人の多い街です。シアトル美術館には日本の茶室、書、絵画、仏像が展示してありました。白人以外の人種に対してもフレンドリーな街という評判はあたっているようです。神戸市の姉妹都市になっています。
 今回の研修で訪問した「シアトル敬老ホーム」(特別養護老人ホーム)、「日系マナー」(軽費老人ホーム)は、日系人が経営し、日系人が多く入所するホームです。
2.アメリカの社会福祉制度について
 ◇はじめに

 (1)アメリカはその広大な土地、人口密度の低さ、貧富の差などにより、例えば高齢者施設整備や、制度整備について一概に論ずるのは無理があります。さらには、法律が日本のように全国同一ではなく、州によって異なります。ですから、ワシントン州シアトル市の施設・制度を見て、アメリカ中が同様であると考えることはできません。ただし、ワシントン州の社会福祉制度は全米でもよく整備されているといわれています。
 (2)アメリカでは、経済的に負担能力のある者は努めて私費の支払いをさせようとし、民間の医療保険や療養保険などで対応させるようにしているようです。特に公的な在宅介護のサービスは制限があり、公的な制度だけをみると、決して多くのひとが容易に利用できる制度にはなっていないような気がしました。ただし、低所得者に対しては手厚い保護ができるようになっていると感じました。
 (3)高齢者福祉予算では、コスト削減というのが政策の前面に打ち出されているの感じ ました。一つの例としては、高齢者の自立を妨げるアルツハイマー病や痴呆の予防策の徹底と研究の充実です。そして、最もコストの高い入院患者と特別養護老人ホームへ入居者の数を減らすために、在宅医療と在宅介護の徹底です。福祉予算削減提唱がタブーであるというようなアナクロニズム(時代錯誤)は当然ありません。
 (4)社会福祉団体は政府予算に加え、企業や個人からの多額の寄付金により運営されています。そのため、特に在宅介護サービスなどはNPO団体やキリスト教団体の地域に根ざした多種多様な地域福祉活動により支えられています。
 ◇高齢者医療保険(メディケア)と福祉医療制度(メディケイド)
 国の制度として高齢者医療保険(メディケア)と福祉医療制度(メディケイド)があります。福祉医療制度では、資産が州の規定より低い人に限って、病気や家庭状況により在宅ケアの支払いを補助しています。
 また、患者の子がどんなに裕福であっても、子に対する負担は公的に求めません。患者本人の資産で福祉医療制度の適用の要否を判断されます。また両制度は施設入所にも適用されます。
 しかし、それ以外の多くの人々の場合の医療と介護については全て私費によります。従ってアメリカには民間の多種多様な医療保険と介護保険があります。
 ◇高齢者施設
 特別養護老人ホームへの入居費用は月に約60万円から70万円です。軽費老人ホーム(介護付き高齢者住宅)への入所は20万円から25万円です。10万円代から入れるところもあります。
 特別養護老人ホームへの入居費用が高いのは、施設運営に問題のある施設がかつてあり、そのために州では施設運営にかかる規定を増やしてきました。その結果、その規定を満たすため、人員、設備等を充実させる必要が徐々に多くなり、コストが高くなりました。
 経費老人ホームやアダルトファミリーハウス(4〜5名入居できる介護付き住宅で、月10万円代から入居できます)などは、まだ規定が少ないため費用が安いのです。
 アメリカで収入の少ない人たちの老後の問題が各国に比べ比較的強く叫ばれない理由のひとつに、日本とは比較にならないほど有料老人ホームの費用が安いことがあげらます。1LDKで頭金1000万円以下のものが多く、月々の支払いも4万円位から入居できます。また、州政府では高齢者専用の住宅を建築し、家賃を収入の一定限度以下に押さえています。
 ◇NPOとボランティア   NPO:非営利団体の総称
 アメリカの社会は地域的に、経済的に、人種的に複雑なため、日本のような単一な制度が機能しにくい社会です。そのため、公的な制度も多種多様で、かつ福祉の領域においても民間企業やNPO団体により補完されています。キリスト教会やキリスト教系団体、それ以外のNPO団体が多くあり、日本の社会福祉協議会レベルの高度な地域福祉活動を行っているところも数多くあります。
 また、私が訪問したフリーモントパブリックアソシエーションでは、総予算約13億円のうち約30%が企業からの献金や寄付により支えられています。ユナイテッドウエイなどの企業からの献金を集約する全国組織が発達していることと、企業における寄付金所得控除があるからです。
 さらに、このようなNPO組織では全国的なボランティア組織であるビスタなどと協力し、専門職員に加えボランティアスタッフによる運営を行っています。
 ◇アメリカの医療制度のこと
 高齢者、障害者、低所得者以外は民間の医療保険で受診します。(国の健康保険はありません。)ホームドクター制が専門医療機関受診へのハードルになっていて、例えば目が悪くてホームドクターに行っても専門医療機関を紹介してもらえないことがあります。また、骨折のため入院しても数日で退院させられてしまったなどということはよくあるそうです。アメリカの人達はお金持ちと低所得者だけが医療機関にかかれるとよくぼやきます。医療機関やホームドクターが民間保険会社と契約しているために、保険を使用せず、医療費の削減をした場合の見返りが保険会社から医療機関やホームドクターに対しあるということですが、詳しくは分かりませんでした。アメリカの医療制度に対する国民の不満は強いようです。
3.在宅ケアについて
   注:1.本文中「在宅ケア」は「在宅医療」と「在宅介護」の両方を含みます。
 ◇米国での近年の在宅ケアの動向
 米国では近年の医療費の高騰に伴い、連邦政府が運営するメディケア(高齢者医療保険)も、これまでの通院医療サービス中心から在宅医療サービス重視の方向へ、一段と進んでいく傾向にあります。経費節減ということが第一目的ですが、専門医療を家庭でも受けたいという患者側の要望もあります。その傾向に対応し、派遣医療の人材の訓練や器具の開発も進み、退院後これまで病院でしか受けられなかった医療が在宅でも可能になってきました。
 ◇「在宅医療」と「在宅介護」
 在宅ケアには多種多様なサービスがあります。大きくは「在宅医療」と「在宅介護」の二つに分けられます。
 「在宅医療」は患者の病気に直接かかるプロフェッショナルサービスで、医療費とみなすことができます。
 「在宅介護」は医療費以外で患者が毎日の生活を維持していくために必要とする介護と家事サービスで、医療外費とみなされます。「在宅医療」「在宅介護」ともに、メディケアとメディケイドで支払われるものもあります。支払われないものは民間の長期療養保険などを利用することになります。
 ◇病院から「在宅医療」と「在宅介護」へ
 最近では、たいていの病院が在宅医療部門を併設して、患者の退院後の「在宅医療」を行う病院が増えています。この医療費はメディケアから病院に支払われます。早期退院や入院なしの手術が増えているなかで、患者のニーズに応じるためにはプロの医療チームを家庭に派遣して、質の良い医療サービスと知識を提供することが病院の経営上から要求されています。メディケアの「在宅医療」は、必ずしも入院しなくとも保険からの支払われます。一般的な使われ方としては、退院後一時的に病院内の付属施設として併設してあるリハビリか療養型ベッド に移され療養し、その後「在宅医療」に切り替えるようにしていきます。入院中に退院後どのような在宅ケアを受けるか、病院専属のソーシャルワーカーが医療チームと地域の医療・福祉機関などと連絡を取り合い、在宅ケアが継続的に行われるようケアプランを作成します。
 ◇「在宅介護」
 医療以外の在宅ケアは家庭で在宅医療を受けている時のみ、限られた在宅介護のサービスがメディケアで支払いできます。
 高齢者、障害者、低所得者のためのメディケイド(福祉医療制度)では、資産が州の規定より低い人に限って病気や家庭状況に応じ、在宅ケアの支払いがメディケイドから補助されます。
 しかし、それ以外の多くのひとびとの場合は私費に頼らなければなりません。
 最近では民間の長期療養保険という保険があります。保障の内容は千差万別で、特別養護老人ホーム保険のほかに在宅介護の保障をしてくれる保険もあります。
 ◇「在宅介護」の内容
 直接医療にかかわらないケアは医療対象外サービスになります。日本と違うのは、サービスの内容、費用、質は千差万別です。サービスを供給する団体も公共団体の他に、企業、非営利民間団体、宗教団体、各種法人等様々です。こうしたサービスを在宅ケアーの一環として受けるには、どこでどうやって見つければよいのか、家族が試行錯誤を繰り返すことも度々あります。逆に言えば、そのぐらい非公共の実施機関やサービスは、多種多様であり、数も多く、重層的に官のサービスを補完しています。
4.シアトル紀行
 ◇高齢者施設のこと

 日系人のための特別養護老人ホーム、シアトル敬老ホームでは、日本庭園風の大きな木組みの門をくぐり、太鼓橋を渡り、竹林を抜けて玄関に入ります。受付のある小さなホールもシティホテルの雰囲気です。建築物としてのグレードが高く、日本でいう老人ホームを感じさせない設計でした。
 アメリカの老人ホームでは、「入所者」ではなく「入居者」と呼びます。スタッフが毎日通勤して高齢者用住宅に住む「住人」のお世話をすると考えています。
 ですから、施設としてグレードが高いと考えるのではなく、「居住空間」としてグレードが高い必要があるのです。
 入居者は実際にそこに寝泊まりしているのですから。
 ◇アルツハイマーと痴呆のこと
 シアトル敬老ホームに入居している長尾さんというおばあちゃんは103才です。「アメリカのおばあちゃんは日本のおばあちゃんと違うでしょう」と話す。「アメリカでは付き合うときに若い人も老人も区別がないから、「ねえ、ばあちゃん、どう思う」と若い人がペチャクチャと老人とでもよく話してくれるので、ぼけることが日本より少ないのよ」と話していました。
 施設でデイサービスを利用していた黒須さんは93才です。85才まで現役で働いていました。「こんな施設に入ったら最後よね、ぼけちゃうわよね」と話していました。
 アメリカの人々はアルツハイマーと痴呆を極端に恐れているように感じました。施設ではアルツハイマーや痴呆にならないために、頭や指を使った作業やゲームをしましょうというふうに、アルツハイマーや痴呆の予防を考えた指導が多くあります。アメリカ社会では、高齢者であるかどうかは年齢だけで判断しないようです。生活の方法や考え方が若ければ人間は何歳になっても若いんだと考えているようです。
 論理的な思考や会話を好む国民性は、アルツハイマーや痴呆患者になると社会的人間でなくなってしまうと考え、逆に言えば、理性的な思考や会話ができれば何歳になっても老人ではないと考えているのか、などと考えてしまいました。
 ◇ボランティア仲間のひとびとのこと
 シアトル敬老ホームで4日間、日系マナーで4日間、フリーモントパブリックアソシエーションで1日間、他の仲間とともにボランティア活動に参加しました。
 アメリカ社会では70才代、80才代の方々が、退職後それが当たり前のように自分と同年齢代の老人ホーム入居者のお世話をしています。一番忘れられない人々は、「ハーイ、ジン」といつも元気で人なつっこく私に声をかけてくれたボランティアの高齢者の人達です。日本人の顔をしているので日本のことを話すと何十年前の日本しか知らなくて、そのくせ日本のことを愛している日系人ボランティアのひとびとのことを忘れることができません。その中でも、年齢の話になった時に、自分はおばあちゃんだからと言うので、「If your way of thinking is young, you are young.」と言ったら、「Yes, it is.」と言って、うれしそうにしていたチキの笑顔も忘れられません。日系2世の入居者の人々は日本からやって来た人達と久々に日本語で話すことを楽しみにしています。
 フリーモントパブリックアソシエーションの職員の方々は博愛の精神とプライドもって従事していました。「福祉の仕事って給料が安いけど、本当はそういうことって大切なことではないですよね」と、独り言のように語ったファミリーワークスディレクターの言葉が印象的でした。また、私が訪問するということで「わざわざネクタイをしてどうしたんだ」と冷やかされながらも、私の訪問に気配りをしてくれた、はげ頭でシャイなマイクのことも忘れられません。
 ここも数え切れないほどのボランティアスタッフにより運営されています。また、若いボランティアが正職員と同様な仕事をこなしています。ワシントン大学を卒業し日本留学の経験のあるケンは、大学を卒業し大学院に入る前に、自分のやりたいことを確認するために、1年間ボランティア活動をしていました。若い人々にそのような考えを持たせてくれる、ゆとりのある社会がうらやましくなりました。夜遅くなったので遠回りをしてホテルまで送ってくれた、高齢者食事サービスの配送係のラジャーにも感謝しています。
 ◇アキレスU.S.A.の大内さんのこと
 ボーイング航空機製造工場のそばにあるアキレスU.S.A.を訪問し、福島市出身でアキレスU.S.A.の副社長の大内栄さんと錦貝社長に会いました。休日には大内夫妻のご好意により、市内見学と郊外の案内をしてもらい、楽しい思い出となっています。二人との対話の中からアメリカの社会や学校教育や近隣社会の様子なども知ることもでき、有意義な時間を過ごしました。大内さんは渡米25年を迎えました。大内さんの二人の子供さんはアメリカ国籍です。一人は米国企業に就職し、もう一人はワシントン大学在籍中ですが、一年間北京の清華大学で中国語を学んでいます。大内さん夫妻は将来日本に帰るのか、アメリカに永住するのかは決められていないようです。大内さんの奥さんは自由な雰囲気のアメリカの地域社会をエンジョイしているように感じました。大内さんは福島市に住む弟さんとハワイで合流してゴルフで汗を流すのを楽しみにしていました。
 ◇アキレスU.S.A.の錦貝さんのこと
 アキレスU.S.A.の錦貝社長は在米1〜2年のようです。錦貝さんは自ら「僕も在米経験が長いわけではないから、もののわかったことも言えないんだけど」と前置きしつつ、アメリカの社会のことを語ってくれました。アメリカでは大学生の頃から自ら働いて学び、奨学金などを獲得し学びます。そして親の力などを借りずに自らの能力、学位などを頼りに就職していくことが多いといいます。親も子の自発的な意思を尊重し過度に干渉することもないといいます。錦貝さんはどうも日本人はお互いが甘えてしまい、自らの責任で自らの道を切り開いていこうという態度がアメリカの人達に比して少ないのではないかと話していました。終始穏やかな表情で話をする錦貝社長は、「日本の若者は社会で一本立ちできる人は少ないのではないか」と話していました。
 ◇シアトルの日系人のこと
 多くの日系人2世・3世の人達に会って話をし、矛盾に満ちた感情を抱えながら生きる彼らの生活の様子も見てきました。日本とアメリカの生活環境の違い、移民として暮らす拠り所のない立場、祖国への思いや歴史認識の違い、こうした要素が複雑に絡み合い、彼らの生活があります。日本人のアイデンティティについて深く感じ入りざるをえないものがありました。
 (1)日系米人だけに限らず、在日韓国人などにも当てはまるのだそうですが、老年期を迎えると、第二言語を忘れてしまう現象があるそうです。多くの日系人2世の第一言語は日本語で、第二言語が英語です。
 (2)老年期を迎えると、生理的な欲求だけが強まり、例えば食習慣についても幼い頃から馴染んだ食習慣でないと馴染まなくなってしまうこともあるそうです。アメリカの顔をした英語しか話せない日系人のおばあちゃんが、施設には満足しているが、食事が日本食ではないので不満足である話していました。
 (3)ユダヤ人で実際に収容所経験のあるものは、収容所体験を無意識のうちに話すことをしないといわれています。日系人2世の多くは第二次世界大戦時の「日系人排斥」を受け、「収容所」を体験しています。しかし誰一人それを自ら話そうとする人はいません。「日系人排斥」「収容所」は日系人にとって過去のものではなく、将来のものでもあります。ただし、アメリカでは「収容所」で虐待を受けたという例はありません。
 (4)シアトルには多くの少数人種の社会がありますが、シアトル敬老ホームや日系マナーのように、自分たちの人種のために自らの施設整備を自らの人種の寄付金だけで行っている人種は、日本人以外にはないそうです。日系マナーのソーシャルワーカーのキヨコは、日系人は政府がやってくれるというのにもかかわらず、他人に迷惑をかけたくないからと断ってしまうことがあると話していました。キヨコはキリスト教の民族とそうでない民族の違いだろうかなどとも話していました。
 (5)日本での生活経験のない痴呆やアルツハイマーの入居者が寅さんの映画を見たり、美空ひばりの歌謡曲を聞いたりしています。日本語しか理解できないから、というのでもありません。
 ◇シアトルの日系人社会のこと
 日系人でワシントン大学研究室の青山卓さんは、政府は何もやってくれないので、マイノリティー民族は自らを自らで守っていかなければならないと話していました。日系人と言ってもアジア系アメリカ人として一緒に取り扱われ、特に日系人として配慮されることはないと話していました。
 シアトル敬老ホームは政府からの補助金で設立すると、日系人だけを居住させることができなくなるで、実際に日系人のみの寄付金で設立し、また運営しています。シアトル敬老ホームは日系人のための施設として運営しているわけですが、実際には、ベッドを満床にしておくために中国、韓国、フィリピンなどの入居者もいます。施設関係者は明らかに、経営上やむを得ないことであるが愉快には思っていないとはっきりと明言しています。
 しかし、それも一概に排他的であるとも言えないことも徐々に分かってきました。にこやかにしていてもマイノリティー民族としての恐れを彼らの心の内に感じざるを得ませんでした。
 シアトル敬老ホーム内に保育所がありますが、日系人の子供を入所させ、日系人のホーム入居者の高齢者と接することによって、日本文化を子供たちに継承していきたいからとの発想からです。なぜかと言えば、日系人コミュニティーの団結力を高めていくためです。
 日系人の子供たちのために作った保育所ですが、実際にはここも日系人の子供たちの入所率が予想よりも低く、施設関係者は嘆いていました。関係者は日系人コミュニティーの将来を憂えています。 グローバルであらんとすることの限界を現実的に感じ、またその限界をつくる要因も否定できないことを感じました。
 ◇アメリカの学校教育のこと
 フリーモントパブリックアソシエーション(F.P.A.)のケンの車で、市内の小学校を見学しました。小学校では、F.P.A.のボランティアディレクターのもとで、小学校の課外授業が行われていました。ワシントン州の高校では、高校生の地域社会活動が義務づけられています。その活動の一つとして、女子高校生が小学生に課外授業を1対1で指導していました。学校のプログラムでななく、父兄とF.P.A.の独自のプログラムのようです。そのとき指導にあたっていた女子高生達は、高校で優秀な生徒であるということでした。高校生にとっては義務づけられた地域社会活動とはいえ、高校生と小学生が一緒に座って進められる、その微笑ましい光景についシャッターを切らざるを得ませんでした。余裕のない日本の高校生の姿が目の当たりに浮かんだからです。
 学校から戻る車内で、ケンと話をしました。
 アメリカでは学校は校長の教育に対する考え方で、学校の方向性が決まっていくといいます。学校によって学力や校風が違うのは当たり前のことです。ケンの小学校の学力は最低だったといいます。しかし、それは学校で校長一人による独断的な決定が行われるということではありません。親も学校に対して自分の考えを直接話しますが、同時に無関心であることも許されません。親と子と教師がお互いの考え方を出し合って、学校のあり方を決定しています。学校それ自体に自由に決定できる多くの余地が確保されています。人々は学校教育制度はもっとも非中央集権的でリベラル(自由)なものであるべきと考えています。
 ◇アメリカの地域社会のこと
 日系マナーのソーシャルワーカーのキヨコは、「アメリカでは嫌ならすぐに仕事も止めれるし、学位、資格、経験があればさらに条件の良い再就職も可能だけど、日本では住むところも、職業も自由に選択することができない。だからストレスのはけ口もなく、イジメや不可解な事件が最近日本で発生するのも理解できる。」と話していました。彼女自身、7年間勤めたところをやめて日系マナーのソーシャルワーカーになったようです。
 本当に意外なことだったのですが、自分が予想したよりもアメリカの地域社会はずっと穏やかであり、暖かさもありました。何よりも仕事や住居(地)に選択の幅があり、生活に自由さがあります。人々の生活は質素穏健で、生きていく上での前向きさと思考の健康性を感じました。地域コミュニティーの住人同志はお互いに干渉し合うことはなく、人それぞれが自由な選択で自分の生き方をしています。
 ただし、そうでないはみ出した人々の人口の割合は日本よりもずっと大きいはずです。ホームレスや精神疾患と感じられる者は町中で多く見かけます。
 また、アメリカは「孤独なアメリカ人」という言葉で象徴される個人主義の社会であり、貧富の差の激しい社会なのでしょうが。
 ◇アメリカ社会の合理性のこと
 日系マナー職員のフミの夫は英語教師として九州に7年間滞在し、そこで日本人のフミと 結婚して、現在はシアトルのヤマト運輸に勤めています。しかし、日本語は忘れてしまっ たようでほんの片言日本語しか話せません。彼は日本を愛し日本の社会に馴染んだようで 、よく日本の社会を理解しています。彼は、日本の会社は給料が高くて首にならなくてい いが、再就職が難しいので住み難いと話していました。日本の会社は意思決定が遅く、み んな分かり切っていることでもすぐには決定されないので、仕事をしていて歯がゆく感じ ているようです。「アメリカは間違っていたらクイック(速い)ね」と話していました。 でも日本が好きなので、日本にも住みたいと話していましたが、最終的にどちらで住むか は決めていないようです。
 いろいろな人達に会って話をする度に、制度を整備したり、制度を運営する理論が明確 なのはやはりアメリカだなと感じました。論理的思考を好むことと、情報の共有化が進ん でいるためだと感じました。制度が良かろうが悪かろうが、制度や制度を整備した経過が 合理的で解り易いのです。そのため批判しやすく、間違っていれば修正し易いのです。か つての決定がよくないと分かったときの、修正することの早さも異例です。
 また法制度を整備するのは政府、官公庁ですが、実施はほとんどがNPOであり、その運用 については前面にビジネスのコスト感覚をより強く感じました。現業サービスを政府が行 えばお金がかかるし、また硬直的な行政組織は多種多様な需要に対応しきれないというの は、行政、民間を通した共通認識になっているようです。

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