潜水艦書の解説



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潜水艦戦記NO.1


10年と20日

カール・デーニッツ著/山中静三訳
\2900
1986年11月初版発行
光和堂

ドイツ潜水艦隊司令官であり、終戦時にはヒトラーをついでドイツ総統であった カール・デーニッツの回想録です。各国で翻訳されており、Uボート戦について 研究する時は、文句無しに第一級資料といえます。
司令官としてUボート艦隊を指揮していた本人の著作であるため、戦略的見地か ら、Uボートの戦いの全てを捉えており、まず最初に読みたい本の一冊です。
(ただ、極めて入手し難くなってはいるのですが)
ドイツの海軍戦略とUボート戦の関係、総統大本営と海軍司令部、潜水艦隊司令 部の確執、Uボートの生産体制についてや、各通商破壊戦についての司令部とし ての見解が、しっかりとまとめられています。
第二世界大戦全般を通じての潜水艦戦が手に取るようにわかり、活躍した各級U ボートや、潜水艦長についても記録が書き留められていて、珠玉の一冊といえる でしょう。ただ、具体的な潜水艦戦というよりは、潜水艦隊を中心にすえた政治 的な話になりがちな点もありますが。
日本でここまでしっかりとUボート戦をまとめた著作は少ないので、是非再版を 希望する一冊です。




潜水艦戦記NO.2


イギリス潜水艦隊の死闘

ジョン・ウィンゲート著/秋山信雄訳
\2427
1994年6月初版発行
早川書房

イギリス潜水艦戦の著作は、なかなか見つけられません。日本では、もともと文 献が少ない上に、ほとんど絶版しているからです。そんな中、この書は現在でも 充分入手可能なうえに、中身もひじょうに読み応えがあります。
本の主役となっているのは、マルタ島を拠点として活躍したイギリス第10潜水 戦隊と、所属して戦った艦長達の活躍です。北アフリカ戦が佳境を迎える頃、イ タリアとアフリカを結ぶ枢軸側シーレーンを断ち切って、目立たないながらも戦 線に大きな影響を及ぼしました。

第10潜水艦隊はイタリア船団攻撃や、輸送船団護衛に大活躍しました。もっと も、その代償は大きく、戦闘哨戒に出たU級潜水艦の三分の一が帰投しませんで した。合計100万トンのイタリア船舶に損害を与えた彼らは、決して楽な戦い をしていたわけではないのです。
激しい空襲を受けるマルタ島で満足な整備や補給も受けず(しかし、基地員達は能 力の限界まで出し尽くして、可能な限り良好な状態で潜水艦達を送り出していま した)、機雷や対潜艦艇が待ち構える戦場に乗り出していく潜水艦は、歴戦の艦 長に指揮されていてさえ、一隻、また一隻と未帰還を出していきます。
1944年の秋に第10潜水戦隊は解隊されます。イタリアは既に降伏し、戦線 はライン川に移っていました。既に地中海では、ほぼ戦闘が終結していたのです。 しかし、第10潜水艦隊は戦後、戦略原潜部隊に再びこの名称を冠しています。 イギリスで最も栄光に輝く部隊の名称を再び受け継いだ訳です。
本書は第10潜水艦隊の誕生から解隊までを、各潜水艦の活躍、艦長達の決断を クローズアップしながら、時系列的に追っていきます。作者自信も第10潜水戦 隊所属の潜水艦の乗っており、所属して生き残った各艦長達からも資料を集めて いて、とても詳しい内容です。あまり興味を持たれないイギリス潜水艦ですが、 一度読まれてみては?




潜水艦戦記NO.3


Uボート・コマンダー

ペーター・クレーマー著/井坂清訳
\1700
1988年7月初版発行
早川書房

著者は開戦時には駆逐艦「テオドール・リーデル」に乗艦して、空母「グローリア ス」撃沈に参加しており、ドイツ駆逐艦の虐殺場になった、ナルヴィク海戦には幸 運にも参加しませんでした。その後、潜水艦に転属して大西洋に何度も出撃、その 決断力と注意力、そして経験によって、どんな過酷な作戦からも必ず生還し、「生 命保険」の渾名を付けられた名艦長です。
1940年の夏より、作者はUボートの艦長として、「U152」「U333」「 U2519」を指揮し、最後は海軍警備大隊の指揮官としてデーニッツ元帥の護衛 任務に就いています。Uボート戦ではアメリカ沿岸に出撃して大戦果を挙げ、19 43年からは強化された護衛艦隊によって、Uボートが満足に活動出来なくなる中 を、何度も死線を潜り抜けて、戦果を重ねていきます。
作者はUボートの代表的な艦長の一人であり、終戦まで生き残った数少ない一人で す。作者の体験記はそのまま、激しいUボート戦を再現しており、血沸き肉踊る海 戦記という表現がピッタリです。Uボートがどのように船団に襲い掛かり、護衛艦 の攻撃をかいくぐって来たのか、臨場感あふれる表現で現されています。
現在、早川の単行本では売っているのを見かけなくなりましたが、光人社のNF文 庫でお手軽価格で再版されています。




潜水艦戦記NO.4


あゝ伊号潜水艦

板倉光馬著
\660
1993年3月初版発行
光人社

作者は開戦時、イ169の水雷長であり、18年からはイ176、イ2、イ41の 艦長を歴任し、アリューシャン、ソロモン、中部太平洋を転戦して生き残った歴戦 の方です。終戦時には特攻戦隊の参謀職でした。
著者は他にも潜水艦戦記を何冊も書いていて、潜水艦長としては著名な方の一人だ と思います。読んでいてもすぐわかる通り、ひじょうに豪快な艦長で、それでいて 繊細な注意力を持っています。果敢な決断と必要以上の慎重さは、潜水艦長として 必須の能力ですが、そのかいあって、過酷なソロモン・アリューシャン戦線から生 還しています。特に出撃する艦が次々と消息を絶った過酷なブイン輸送作戦に3度 も成功させ、輸送の神様とまで呼ばれています。
昭和17年の終り頃から主戦場の制空権、制海権は連合側に移っており、日本潜水 艦は連合軍の対潜哨戒機や魚雷艇による攻撃に日常的に晒されることになります。 もともと日本潜水艦は大型で艦隊攻撃任務を重視しており、静謐性や電測、聴音兵 器の装備には劣っていました。結果、日本潜水艦は不得手な輸送任務や無茶な艦隊 攻撃に多用されて連合軍の対潜部隊に補足され、次々と消耗していきました。
日本潜水艦はそうした不利な状態でも全力をつくし、戦局の悪化の中、輸送に敵艦 襲撃に活躍します。本書でも、激しい連合軍の哨戒活動に悩まされながら、作戦を 成功させていく艦長の姿が描かれており、日本潜水艦の活動がどういったものであ ったか堪能できると思います。
本書は文庫版で、単行本は同名で1969年に発行されています。また、本書の巻 末には福井静夫氏の「日本海軍の潜水艦小史」が収録され、日本の潜水艦史と潜水 艦の概要、潜水艦部隊の組織や活動がコンパクトにまとめられています。その部分 もなかなか読み応えがあり、本書の中身をさらに濃いものとしています。




潜水艦戦記NO.5


潜水艦入門

木俣滋郎著
\743
1998年6月初版発行
光人社

光人社NF文庫の「入門シリーズ」の一冊です。駆逐艦入門と、この潜水艦入門は木俣さんが書かれています。 入門シリーズの特徴として、豊富な写真と横面図があります。本書でも日本海軍の主要な潜水艦の横面図が 乗っており、文書と共に図面からも違いがわかるようになっています。

本書は日本海軍の潜水艦の誕生から、その発展と様々な種類の潜水艦の解説に至ります。
主要な海大型から始まり、航空機搭載潜水艦、機雷搭載潜水艦、輸送潜水艦、高速潜水艦まで、様々な潜水艦が紹介されています。木俣さんの軽いタッチでさらさらと読み進めながら、日本の潜水艦についての一通りの流れを見ることが 出来ます。
もともと、日本の潜水艦は太平洋戦争中は、ほとんど表舞台に出るような活躍が出来ませんでしたが、水上艦隊と同じく死闘を繰り広げていました。それらの各シーンをチョイスしながら、潜水艦のタイプについて紹介されていて、日本潜水艦史についても勉強することができます。
光人社の文庫のため、手に入りやすい状態ですので興味のある方は是非どうぞ。