ソノラマ航空戦史シリーズの解説



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ソノラマ航空戦史2


ミッドウェー

淵田美津夫/奥宮正武
¥650
1982.2初版発行

ソノラマ戦史で、著名な代表作というと、「零戦」「ラバウル海軍航空隊」「海上護衛戦」「本土防空戦」あたりでしょうが、 この「ミッドウェー」もその一冊に入ると思います。
ミッドウェー作戦に航空隊指揮官として、参謀として参加した、戦史の著書で著名な二人が共作で仕上げた作品です。各国で 翻訳もされていました、ブルーバックの英語版も私は持っています。

ミッドウェー海戦の戦記は、ひじょうに沢山出ていますが、古典的名著として本書は大変資料価値の高いものです。何せ、作戦に 直接関わった人が書いているのですから。
ミッドウェー海戦の元となった「MI作戦」が計画された理由、作戦の準備と経過、日本側の敗因と海軍の体質まで、ひじょうに詳細に 分析されています。海の向こうのアメリカでも「信じられない勝利」というミッドウェーについて、ひじょうに詳しくまとめた一冊がありますが、それと並べて読むと、ミッドウェー海戦の概略はだいたい掴むことができます。
(細かな動きまでいい始めるとさすがに厳しいですけどね)

いまさら、ミッドウェー海戦については語りませんが、太平洋戦争最大の転機となったこの海戦、どんな本を読んでも興味が尽きないものですが、そんななか、ソノラマシリーズ2冊目として、ひじょうに良い本を刊行したなと思います。



ソノラマ航空戦史7


テストパイロット

F・K・エベレスト
¥480
1982.4初版発行

戦後のジェット機の成熟期にテストパイロットとして、各種のジェット戦闘機を操った筆者の 自伝です。
プロローグとして、第二世代のジェット戦闘機として後世に名前を残す、F−100スーパーセイバー の水平音速突破のシーンからスタートしている本書は、1940年代後半から1950年代のジェット 機について、相当深い体験記を綴っています。

太平洋戦争中は筆者は中国方面の戦闘機隊の一員として、P−40やP−51に乗って日本軍と 戦闘を繰り広げていましたが、戦後は次々と誕生する高速戦闘機をテストするテストパイロットの拡充 の波に乗って、テストパイロットとして第二のパイロット人生を歩んでいくことになります。
本書は様々なテスト機が出てきます。F−86やF−100から始まって、Xシリーズなんかも次々と登場し ます。テストパイロットという職業はひじょうに著名な割に本や資料が少ないものなのですが、本書は 特に戦後すぐの航空機の進化の時期と合い間って、ひじょうに読み応えのある1冊になっていると 思います。



ソノラマ航空戦史11


空戦

P・クロステルマン
¥540
1982.6初版発行

次の航空戦史シリーズ12「撃墜王」と一緒の作者、P・クロステルマンによるものです。「撃墜王」が、自由フランス空軍に参加して、ヨーロッパ上空で 戦った自身の自伝であるのに対して、本書は第二次世界大戦での航空戦を俯瞰的(かなり感情は入っていますが)に描いています。
日本版の翻訳初版が昭和27年、フランスで刊行された原書はその1年前ですから、いまから50年以上も前に書かれた本となります。戦争が終わって たったの6年、この時期なので資料等もまだまだ出揃わず、資料的価値はあまり高くない本ですが、その分空戦の迫力は充分以上です。何せ、作者本人がエースパイロットなのですから。

本書の構成として、フィリピン上空、マルタ島、ブイン上空長官機撃墜、北アフリカ航空戦、ワルシャワ空襲、レヒフェフト基地、ノルウェー沿岸、特攻作戦等が描かれています。数字的な信憑性は大して高くないですが、フランス人パイロットが太平洋の航空戦をここまで書いている(しかも戦後6年目に)ということにひじょうに驚きました。
空戦記が好きな人はひじょうに面白く読める本だと思います。私自身も空戦記は数字よりも如何に迫真性と迫力があるか、という点に価値があると思っていますので(数字情報はそういった本を読めば良い訳ですから)。
「撃墜王」と並べて読めば、一層面白いと思います。フランス人戦闘機パイロットの著書というのも珍しいですし(私は他にはほとんど知らないので)



ソノラマ航空戦史19


ミサイル戦争

土井寛
¥520
1982.10初版発行

本書は、戦後のミサイルの発達と、現状での各国ミサイル開発・配備・運用について、詳細に説明した1冊です。 ただし、それは元となった単行本の発行年月日、昭和53年時点の話ですが。
さらには、ソノラマになったのも昭和57年・・・今から20年以上前の最新情報ということになります。

時代は冷戦真っ只中、米ソの宇宙開発が激しさを増し、第四次中東戦争で対戦車ミサイルの有用性が証明され、 フォークランド紛争で対艦ミサイルの威力に世界の軍事関係者が震撼していた頃のお話です。
それから、東西冷戦が崩壊し、総力戦の時代から局地戦へと戦争の形態がシフトし、戦線のない戦争の形態が当たり前と なりました。当時の軍事知識と今の軍事知識では、意味するものも内容もまったく変わってきています。20年という年月は、 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の期間と同じなのですから、それも当然でしょう。

が、そういう最新の知識という点を外して考えれば、本書はひじょうによくまとまっています。冷戦時代のミサイル体制の本というのは、 大雑把なものは色々な軍事雑誌や書籍が出版されていますが、1冊に体系立ててまとめた本というのは、意外に少ないのです。
特に本書は、ICBMから携帯対戦車ミサイルまで、およそミサイルと名の付くものについては、一通りまとめてありますから、昭和40年代 のミサイル関係の何かについて知りたいとき、本書はひじょうに役に立つと思います。
私も意外と知らなかった、欧州各国のミサイル開発の歴史を本書で読み取れたので、なかなかタメになったかな?と思います。
まあ、癖のある内容ですし、ミサイルに興味ある人以外にはあまりお薦めできませんが。



ソノラマ航空戦史23


空の先駆者

ハンス・ベルトラム
¥560
1983.1初版発行

この本は戦記というよりは、空の黎明時代に新たな空に挑戦したパイロット達の冒険録といったほうが いいかもしれません。空中戦とかそういった世界ではなく、まだ、翼にエンジンがついただけ(なかには推進力のない気球の話もありますが)の機体に乗って、未知の空に飛び立ち、消えていった挑戦者たちの 物語です。

この話は著者が飛行機旅行の最中の暇な時間を使って、それらの空の先駆者たちの話を紹介すると いうストーリー立てで描かれています。ドーバーや大西洋、オーストラリアや太平洋といった未知の空路への挑戦や、気球による冒険記が何章かにまとめられています。
その中にはイヤハートやツェッペリンといった空の有名人もいれば、私がこの本で初めて名前を知った隠れた挑戦者も多数が収められています。当時の飛行機は何もしなくても空を飛んでいるだけで壊れるような代物で、パイロット達は勇気とかそういった次元では語れない感性の持ち主でした。読んでいるだけではらはらするような冒険記(なにせ、次のページで飛行機が落ちるんじゃないかという話ばかりですから)ばかりなので、こういった話が好きな方にはお勧めかと思います。



ソノラマ航空戦史25


潜水艦隊

井浦洋二郎
¥620
1983.3初版発行

筆者は大戦中、潜水戦隊や潜水艦隊の参謀として、潜水艦作戦の立案をされた方です。開戦時は 伊八潜に乗り込んでハワイ作戦の現地指導を実施、緒戦時は大本営の潜水艦担当として潜水艦の 機動戦闘を指導し、昭和18年には第八潜水戦隊参謀としてインド洋でドイツのUボートとともに通商破壊戦 を立案し、終戦時は第六艦隊(潜水艦隊)の参謀として、落日期の潜水艦戦を指揮しています。

大局から潜水艦作戦を見てきた作者なので、日本の潜水艦作戦がひじょうに広範囲かつ詳細にまとめられています。
本書にまとめられている項目を簡単に列挙しますと、「開戦時の潜水艦作戦方針と戦備」「ハワイ作戦」 「西海岸哨戒」「特殊潜航低作戦」「ガ島補給作戦」「インド洋通商破壊戦」「あ号作戦」「回天作戦」 等々です。しかもこれは主だったもののみの列挙なので、細かな作戦も多種多彩に掲載されています。

大戦中の潜水艦戦は艦隊決戦の影に影響され、本来の主任務である通商破壊戦はほとんど実施されなかった といってよいでしょう。敵機動部隊の哨戒に投入され、優秀な対潜装備を持った護衛艦艇に片っ端から撃沈 されていきました。
筆者をはじめとして潜水艦士官は通商破壊戦を連合艦隊に訴えつづけたのですが、ろくに潜水艦を知らない 連合艦隊首脳部は艦隊決戦の支援兵力としてしか潜水艦を見れず、無駄な作戦に投入されたと言えます。

日本で手に入る潜水艦戦史としては第一に数えられる一冊です。「海上護衛戦」や「連合艦隊の最後」と 同じくらい読む必要のある本でしょう。
単に史実を羅列したものではなく、筆者や各潜水艦長たちの体験をもとに史実の資料でフォローするという 構成は、物語としても充分に読ませる良い構成です。
終戦後、筆者は通商破壊戦が非人道的作戦だとして巣鴨に収監されて数年を過ごしますが、その後、 日本潜水艦の記録を残すべきという考えから書かれたものです。初版が出てから50年程度経過していますが、 現在でも充分読むことができる一冊です。



ソノラマ航空戦史26


戦略空軍

トーマス・M・コフィ
¥600
1983.4初版発行

第二次世界大戦の航空戦で、もっとも激烈な戦いと言われたものの一つに、ドイツ本土空襲があります。圧倒的な英米軍のB−17やB−24、ランカスター等の戦略爆撃機と、その護衛についていたP−47やP−51等の長距離戦闘機と、迎え撃つ、ドイツ防空戦闘機と、防空システムの激しい死闘は、今でも語り草になっています。
本書は、米軍でドイツ空襲の任についた『第8空軍』の激しい空襲作戦についた既述されています。
1942年に第8空軍が創設されてから、ドイツ本土空襲をどのように実施するか(英軍の主張する夜間無差別空襲と、米軍の昼間精密爆撃で、意見の相違がありました)、そして、戦力が充実してきた後、ドイツ本土空襲戦で最大の戦闘となった、『第一次・第二次シュバインフルト空襲』の戦闘について、詳細に表されています。

ドイツ本土空襲戦は、「メンフィズ・ビル」で急速に知られるようになりましたが、日本の本土防空戦とは異なり、レベルが遥かに高い激しい空襲となりました。1000機爆撃や誘導派の電波戦、ジェット機による迎撃や、組織的防空陣による効率的な迎撃等、日本防空陣では見られなかった戦闘がドイツ上空では展開されていた訳です。
本書は、そのドイツ空襲戦で最も著名な書籍の一つとされています。少なくとも日本で入手できる書籍の中では、かなりの高レベルな資料です。なかなか入手が難しい一冊ですが、手に入るなら是非入手されることをお勧めします。
文体としては、時系列に並んだ既述と、読みやすい訳で、なかなかさくさくと読み進めることができます。



ソノラマ航空戦史34


双胴の悪魔:P−38

マーチン・ケイディン
¥700
1983.11初版発行

大戦中の米陸軍機と言えば、まずP−51が、続いてP−47が、その後にP−38が出てくる方が多いかと思います。 実際の順位付けもこれでいいかなという感じですし(あとはP−39、P−40といったところも有名ですね)。
そのうち、太平洋戦線にはあまりP−47が来ていないので、有名なのはやはりP−51とP−38ということになります。 うち、P−38は南東戦線で零戦隊と激しい空戦を繰り広げ、山本長官の乗った、一式陸攻を撃墜したことから、 ひじょうにドラマチックな戦闘機として印象が強いかたも多いかと思います。

だいたいの戦闘機の例に漏れず、P−38も誕生にはひじょうに苦労した戦闘機です。なかなか実戦配備できる状態に ならず、初期型の性能もパッとしたものではありませんでした。
P−38が一躍知られるのは、北アフリカと地中海戦域での活躍です。当時、この方面には航続距離のある戦闘機が連合軍 にはなく、地中海地区での制空権確保に遠戦戦闘機が求められていました。その結果、イギリスに送られたP−38が 続々と北アフリカやイタリア戦線に投入され、この地区の制空権確保、ドイツ空輸線の破壊に大活躍しました。
当然のことながら、航続距離を生かしてヨーロッパ本土攻撃にも出撃しています。

太平洋戦線では、零戦・隼・飛燕等を相手に獅子奮迅の活躍をしています。P−38はあまり格闘戦が得意ではなかった こともあり、隼を相手にするよりは飛燕のほうが楽だったようです。太平洋戦線ではマクガイア少佐をはじめとして、P−38 のエースが何人も生まれており、P−38の速度性能と重武装が日本機にとって脅威であったことを物語っています。
(もっとも、日本でも鈍重なP−38をペロリと落とせるので「ペロハチ」と呼んで、楽な相手であったという空戦記が沢山でて いるので、評価は敵味方で分かれる良い例ということでしょうか。実際、かなりのP−38が太平洋戦線で喪失されています)。

本書ではこのP−38の誕生から、各戦線での活躍、さらにはP−38の各タイプについて詳細に纏められています。恐らく、 日本で手に入るP−38の書籍の中では最高の一冊の一つでしょう。また、米軍側の空戦記もなかなか読めないので、 そういう意味でも本書は興味深い一冊です。
文体も翻訳がかなりうまいので、楽に読み進めることができます。少々分厚いですが、一気に読めるのではないでしょうか?



ソノラマ航空戦史37


死闘の大空

村上益夫
¥380
1989.1初版発行

ソノラマ戦史シリーズの中で、3つある陸攻戦記の一つです。あとは、「海軍陸上攻撃隊(上下)」(元タイトル:中攻)、「陸攻と銀河」がありますが、 本書が一番最初に出たシリーズ作品となります。
著者は開戦時、元山空に所属して、「プリンス・オブ・ウェールズ」攻撃作戦に参加し、その後、インドネシアやインド洋作戦に参加、ラバウルに移って、ポートモレスビー攻撃に参加したあと、戦病のため後送されました。
館山空(755空に改称)に配属替えになったあと、マーシャル諸島ナウルに展開し、哨戒作戦に従事します。その後、ウェーク島に来襲した米機動部隊攻撃に参加した筆者は、撃墜不時着し、太平洋を漂流することになりました。さらにギルバート航空戦に参加したあと、戦力を消耗した755空は内地へ帰還となり、筆者も大井航空隊、大和航空隊に配属となって、終戦まで教員配置について、練習生の教育にあたっています。

陸攻の戦記は色々と出ていますが、主にラバウル方面の記述が中心で、マーシャル・ギルバート作戦の陸攻戦記は、搭乗員生存者が少ないこともあり、あまり数がありません。そんな中、幾つかの著名な航空戦に参加し、敵艦隊への雷撃戦を潜り抜けた筆者の戦記は、ひじょうに生々しい緊迫感に包まれています。

空母艦攻隊や陸攻隊では、雷撃3回実施したら一人前という話がありました。これはあまりに肉薄雷撃の損害率があまりに高いため、技量と運を持っていないと、三度の出撃までに未帰還になってしまうためです。それほどの消耗部隊から生還した筆者ですので、当然、なかなか知ることの出来ないような陸攻隊の内情等も記述されていて、ひじょうに読み応えがあります。

なかなか入手困難な本ですが、海軍航空隊に興味のある人は、一度目を通して良いかと思います。



ソノラマ航空戦史38


Uボート977

H・シェッファー
¥620
1989.2初版発行

Uボート戦記はソノラマシリーズの中でも多数あります。本書もそんな中の一冊ですが、日本でも多数刊行されているUボート艦長の 自伝の中でも、かなり著名なほうに入ります。
戦争が激しくなる1940年に著者は海軍兵学校に入校し、その後、Uボートを乗り継ぎながら、終戦前にとうとう第一線Uボートの艦長 となります。著者がUボートを指揮して、大西洋に踊り出たのは、終戦間際のこと。この時期のドイツは大混乱に陥っており、満足に補給や 整備も出来ないままの出撃となりました。これは陸軍でも空軍でも似たような状態でしたが。
最後の出撃の後、著者の艦「U−977」はアルゼンチンに入港して武装解除し、ここで著者の戦争は終わります。しかし、ヒトラーを乗せて 密かに脱出したのではないか?という嫌疑がかけられ、ドタバタがしばらく続くという数奇な運命をたどることとなりました。

本書の面白いところは、ドイツ海軍の若手士官がどのように任官し、戦場で配置についたかという点が、体験に基づいて描かれているところや、 Uボートの作戦(特に訓練部隊の記述はなかなか読めないと思います)、あとは日本方面に出撃していったUボートたちについて記述されて いるところです。
本書が書かれたのが1950年ということもあり、数値的信頼性はあまり高くありませんが、その分臨場感は抜群で、Uボート戦記としてひじょう に面白く読むことが出来ました。
何度か再販がかかっている本なので、ソノラマ以外でもお求めになれる本です。



ソノラマ航空戦史42


レイテ沖海戦(上)

吉田俊雄・半藤一利
¥520
1984.6初版発行

レイテ海戦は史上最大の海戦の一つとして、これまで様々な本が出版されてきました。本書も 原本がありまして、オリオン書房から45年に出版された「全軍突撃・レイテ沖海戦」という本を 改題して文庫化したものです。
随分古い本になっていますので、この後の新資料をもとにまとめたれたレイテ物と比べると、資料的 な価値は落ちてしまいますが、読みやすさ・文章の展開等は戦史作家でも著名な二人の競作と あって、ひじょうにレベルの高いものなっています。

上下巻の分冊となっていまして、当然それだけのボリュームのある仕上がりとなっています。上巻は マリアナ海戦からレイテ海戦に至る日米両軍の作戦指導、レイテに突撃した日本軍が次々と重巡 を失い、空襲にさらされるあたりまでを描いています。
レイテ海戦は資料がそれこそ山のように出ていますので、知らない人はまずいないと思いますが、本書 はレイテ海戦を最初から最後まで読みとおすのに読みやすさでは、多分ベスト3に入る本かな?と思える ので、私も結構忘れ始めたら読み返すことも多い本です。
単にレイテに突入した艦隊だけでなく、レイテには様々な部隊が関わっているため、この海戦を読み解く にはひじょうに難しいものがあります。本書はひじょうにその辺の関係を分かりやすく書いてあるため、 初めて読む人にも最適かな?と思います。ただ、既に手に入りにくくなっているのが難点ですが。



ソノラマ航空戦史43


レイテ沖海戦(下)

吉田俊雄・半藤一利
¥520
1984.6初版発行

上巻と同時に発売されたレイテ海戦の下巻となります。突撃を開始した日本艦隊の 各艦隊の戦闘と、アメリカ海軍の圧倒的な攻撃力が詳細に描かれます。
上巻が比較的分析に終始していたのに対し、下巻は戦闘また戦闘の連続です。 当時この海戦に参加した将兵のインタビューも織り交ぜて、ひじょうに内容の濃いものに 完成しています。

複数の海戦が同時に展開しているため、レイテ海戦は見逃してしまう戦闘や、分かりにくい 戦闘があちこちにあるのですが、本書はそれらを解きほぐして表現しているため、かなりすらすら と読むことが出来ます。
日本海軍の墓標となった海戦ですが、連合艦隊のまったく手も足も出なかったわけではなく、 両軍の錯誤の連続で海戦は進んでいきます。結局はよりミスを多く犯した日本軍が大敗を喫して しまうことになるのですが。

個々の戦闘も出来るだけ紙面を割くように構成されているため、なかなか読み応えがある 海戦史です。ソノラマシリーズでは太平洋戦争の大海戦はほとんど全て網羅していますが、 本書はその中でも名著のひとつかな?と思います。



ソノラマ航空戦史47


決戦特殊潜航艇

佐々木半九・今和泉喜次郎
¥480
1984.9初版発行

潜航艇・・・2〜5人乗りの小型潜水艦で、日本・イギリス・ドイツ・イタリアの4カ国が好んで 運用していました。
利用方法としては、主に警戒された泊地に潜入して、大型艦を奇襲攻撃します。第二次世界大戦での 主な戦果としては、イギリスのドイツ戦艦「ティルピッツ」と日本重巡「妙高」の大破、イタリアのイギリス戦艦「 クイーンエリザベス」の大破、日本のイギリス戦艦「ラミリーズ」の大破等があります。

こうして、色々な活躍をしているように見える潜航艇ですが、実際には運用についてはひじょうに難しいものが ありました。
小型で泊地に潜入できるというメリットは、逆に言えば航続距離や速力、潜航時間等に大きな制限 があることになります。実際、赫々たる戦果の裏には、その数倍の潜航艇が、人知れず海に消えています。
特に好んで使用していた日本海軍は、ソロモン海域とレイテ海域、沖縄海域に潜航艇を出撃させていますが、 そのほとんどは帰還しませんでした。

さて、この潜航艇の中で、日本は戦前より「甲標的」と呼ばれる特殊潜航艇を整備していました。これは「格納筒」や 「対潜爆撃標的」「A標的」等と呼ばれたりもしています。
こんな不思議な名前がついたのは、機密兵器であるため、名前から潜航艇とばれないようにするためです。実際、 イギリスが第一次世界大戦で、初めて戦車を戦線に投入した際には、戦車という秘密兵器とばれないように、 水を運ぶための「タンク」と称して、戦場まで輸送しました。これと同じようなことです。
この甲標的が実践にはじめて投入されたのは、1941年12月8日、真珠湾攻撃の時です。上空を第一航空艦隊 の空襲部隊が圧しているときに、5隻の甲標的が真珠湾湾内に侵入、在泊米艦隊に対して雷撃を仕掛けようとしました。

その後、緒戦で日本に勢いがあるときには、あちこちで泊地攻撃を仕掛けます。シドニー湾進入や、ディエゴスワレス攻撃等です。
しかし、その後、連合軍の護衛艦艇が強化され、泊地自体の潜入が困難化するに従って、甲標的は活動場所を奪われていきます。 ガダルカナルの連合軍泊地攻撃には、相当数の甲標的が投入されましたが、ほとんど失敗しました(数隻は沈めたようですが)。
日本の特殊潜航艇もその後、改良され、「蛟竜」と名付けられた5人乗りの甲標的丁型が出来たり、水中高速型の「海竜」が登場 したりしましたが、あまり活躍できませんでした。そして、潜航艇の最悪の発展の形として、人間魚雷「回天」が実戦に投入されます。

本書は、その開戦当時の潜航艇の作戦行動を中心にまとめられたものです。
著者は、佐々木氏は、真珠湾・シドニー攻撃隊指揮官で、その後は第六艦隊の参謀長をされた方、特殊潜航艇作戦の 第一人者です。今和泉氏もやはり潜水艦畑を歩まれた方で、様々な潜水戦隊に関わっておられました。
現場におられ、作戦内容から出撃した潜航艇乗員の顔まで知っておられる方々が書かれていますので、そのリアリティは抜群の 一冊です。特殊潜航艇作戦については、この本で知ったことも多々あり、ひじょうに資料的価値も高い一冊だと思います。
その上、無機質な文章ではなく、潜航艇作戦について思っていたことも赤裸々に書かれており、戦記としても第一級だと思います。



ソノラマ航空戦史50


ロケット・ファイター

M・ツィーグラー
¥470
1984.12初版発行

世界で唯一の実戦参加したロケット戦闘機、「Me−163」(コメート)についての戦記です。著者はロケット戦闘機 のテストパイロット、後には実戦航空隊でMe−163を駆って空中戦に挑んだベテランパイロットです。
本書は著者の体験に同僚たちの逸話をもとに構成された物語仕立ての著作ですが、Me−163のパイロットの戦記 としては恐らく一級品だと思います。他の著書でこれだけまとまったものは読んだことがありませんし。

また、本書の最後にはおまけとして、日本の「秋水」についての記事もあります。これは多賀一史氏の著作となります。 秋水は結局実戦参加に間に合わず、ドイツのコメートの活動状況をみていると、何処まで活躍できたかは疑問に 思えますが、日本の戦闘機開発の悼尾を飾る機体として、幾つものストーリーが描かれています。ファンも多いみたいですし。

戦闘機としてはあまり幸福な歴史を辿れなかったコメートですが、1944年のドイツ上空防空戦の目玉戦闘機として、 ひじょうに興味深い内容かと思われます。記述も読みやすく、面白く描かれています。



ソノラマ航空戦史51


戦艦比叡

吉田俊雄
¥480
1985.1初版発行

日本海軍で最も活躍した艦の一隻で、ソロモンの激闘の中、もっとも戦艦らしく沈んでいった 金剛級戦艦の二番艦「比叡」の生涯をまとめた1冊です。機動部隊の直接援護に、ソロモンでの 夜戦に投入され、太平洋戦争の比較的早期に沈んだ戦艦ですが、戦艦ファンのなかでも人気の ある艦だと思います。

比叡の艦としての特徴は、他の金剛級3艦とは異なり、練習艦として改装が遅れたため、当時計画 が進んでいた大和級のテストベットとしての改装が色々と取り入れられたことです。
簡単な相違点を挙げていくと、艦橋の測距儀と射撃指揮所の位置が他の3艦と上下入れ替わっていたり、 艦橋内のラッタルがこれまで一つづつしかなかったものを複数配置にした点などが見かけでわかる点です。
装備的な相違点は、砲塔動作用のポンプをこれまでのレシプロ式からターボポンプに変えたこと、大和でも採用 された応急注排水装置の採用などが挙げられます。艦橋の形が変ったり、バルジが他の3艦に比べて少し 大きくなったりしているのは、写真なんかを見ていただければわかるかな?と思います。

「比叡」は開戦時は第一航空艦隊に所属して、空母6隻の護衛にあたっていました。ミッドウェー海戦では 近藤艦隊に所属、その後は第三艦隊に編入されてソロモン海で死闘を繰り広げることになります。
西田艦長以下、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦に艦隊輪形陣の一隻として参加、その後にガダルカナル 島への艦砲射撃を画策して、有名な第三次ソロモン海戦に巻き込まれることになります。
この夜戦では比叡は有効な射撃を実施して、米巡洋艦を次々と沈黙されていきます。しかし、避け切れなかった 魚雷が機関室を全滅させ、漂流することになり、とうとう自沈処分されてしまいました。
この自沈処分はいろいろと不可思議な点があり、本書でもこのことに一章を割いてまとめています。事情はどうあれ、 日本海軍が太平洋戦争で失った11隻の戦艦の最初の1隻となってしまいました。

本書はその「比叡」の終焉となった第三次ソロモン海戦の第一合戦を中心に、「比叡」の生涯をまとめています。 「比叡」の色々なエピソードを織り交ぜながら、参加海戦や各艦長の話なんかもちゃんと載っていて、なかなか 艦艇戦記としては出来の良い本かな?と思います。
再版希望の1冊ですね。



ソノラマ航空戦史56


危うし空挺部隊

A・ロイド
¥580
1985.5初版発行

第二次世界大戦で、一番効果的に空挺部隊を使用したのは、ドイツ軍です。空挺作戦として代表的なものは、1940年の 西方侵攻の際の、ベルギー・オランダ要塞地帯への奇襲降下と、その翌年のクレタ島侵攻作戦です。
ただし、ドイツ空軍降下猟兵部隊は、クレタ島での大損害とスターリングラードでの輸送機部隊の崩壊のため、以後、降下作戦 は実施しません。
残った降下猟兵達は空軍の精鋭地上部隊として利用され、本書でも出てくる「マーケットガーデン作戦」の際に、連合軍空挺部隊 をオランダ運河地帯で迎え撃つことになります。

さて、では二番目に活躍した空挺部隊はどこの国かと考えてみると、イギリスと日本が同率二位だと、私は考えています。
日本の空挺部隊(世界で陸海軍ともに空挺部隊を組織的に編成していたのは、日本だけです)は、開戦時の南方侵攻作戦での 油田地帯や航空基地への奇襲占領があります。それ以後も、幾度か空挺作戦が決行されていますが、その作戦はほとんど全て特攻作戦 でした。
一方、本書の主役となるイギリス空挺部隊は、シチリア島降下作戦や、ビルマのウィンゲート空挺部隊、マーケットガーデン作戦等、大規模な 空挺降下を実施しています。
ドイツの空挺作戦に触発されて編成されたような急増部隊ですが、特殊作戦の得意なイギリス軍らしく、効果的に空挺部隊を運用しました。
ちなみに、アメリカ軍は第二次世界大戦に空挺部隊を編成し、その後も維持拡大していましたが、朝鮮戦争の平壌空挺作戦のように、 成功とは言いがたい作戦ばかりだったので、その次に順位付けしています。
フィリピンでの捕虜収容所の解放作戦のように、大成功なものも中にはあるんですが。

さて、本書では、そんなイギリス空挺部隊の第二次世界大戦での活躍が通史的に描かれています。
もちろん、クライマックスはノルマンディ後の「マーケットガーデン作戦」で、本書でもその戦いの描写に全体の2/3を割いています。ですが、 空挺部隊の創設から、その苦難の歴史、小作戦にいたるまで、細かく解説しており、イギリス空挺部隊の本としては、かなりの評価が できる邦訳だと思います。

特に、空挺部隊が運用していたグライダーの解説は詳細で、ほとんど紹介されたことのないグライダー運用やその戦史が、 充分説明されているのは、読み応えがありました。
本書も入手苦労度の高い一冊です(本書を譲っていただいた某氏に感謝♪)。見つけたら、即座に入手をお勧めします。



ソノラマ航空戦史59


特攻戦艦大和

吉田敏雄
¥440
1985.8初版発行

戦艦大和の著書は、戦後直後から多数が刊行されています。日本海軍と太平洋戦争の象徴として、零戦とともに最も戦記に登場した回数の 多い兵器でしょう。本書も1971年に単行本として出版されたものを、再び文庫として再販したものです。
大和の戦記は太平洋戦争の象徴として、戦争の残酷さを強調したものや、逆に日本海軍の優秀さを強調したものが目に付くこともあります。 大和の本を出版する際の著者の思想や視点によるものですが、大和という存在は、戦後もそうやって翻弄されていたわけです。
本書は主に下士官兵という視点から、戦艦大和の誕生から最後までを追ったものです。大和の主要な著書は、下級士官が書いたものが多いため (「下士官兵達の戦艦大和」という著作等、水兵の視点から見たものも多数でています。あくまで、比較的という意味で)、大和本としては新鮮さを 持って読むことが出来ました。

今更、大和についてあれこれ解説しても仕方ないですし、皆さん知っていると思いますので割愛しますが、日本海軍最後最大の戦艦として、太平洋戦争 開戦とともに竣工し、連合艦隊最後の艦隊作戦である「菊水作戦」にて沈没しました。
先ほども述べましたが、本書の特徴は下士官兵からの視点より、大和について描いているということです。作戦や艦の行動経過を追っかけているだけでは、決して表に出てくることのない、本当に大和を動かしていた人々の声を読み取ることができます。
薄手の本ですが、大和の戦争中の行動を一通り追っていますし、読み応えは充分あると思います。特に「菊水作戦」と「捷号作戦」の部分は、しっかりとインタビュー等を重ねて、充分な厚みを持たせてあります。
単行本もたまに見かけるのですが、比較的入手困難な本となっていますので、見かけたらお手に取ることをお薦めします。



ソノラマ航空戦史63


ドイツ夜間防空戦

W・ヨーネン
¥520
1985.11初版発行

夜間戦闘機を駆り、34機の撃墜を果たしたヴィルヘルム・ヨーネン大尉の自伝です。ドイツ夜間戦闘機乗りの 自伝はひじょうに少なく、訳書はさらに少なくなるため、貴重な一冊といえます。
表紙はB−17を撃墜するHe−219「ウーフー」で、少数しか量産されませんでしたが、高性能とその独特の フォルムで、人気の高い戦闘機です。もっとも著者はBf−110を愛機としていたため、本書には少ししか出てきませんが。

夜間戦闘機のエースパイロット(34機撃墜では上位という訳ではありませんが、それでも立派な数字です。このほとんどは 4発重爆だということを考えると尚更です)で、夜間防空戦の初期から生き残った著者は、様々な夜間戦闘機隊で作戦 し、またドイツ本土上空だけでなく東部戦線で夜間防空等も行なう等、多彩な戦歴を誇っています。
とりあえず、著者略歴だけ頭に入れて読み始めましたが、ひじょうに読み応えのある空戦記です。死闘と表現するしかない 夜間戦闘を、緻密に、かつ激しく描ききっています。「リッタークロイットラーガー」(騎士十字章受賞者の尊称)でもある著者 の夜空の戦いは、久しぶりに読み応えのある空戦記でした。

また、技術の戦い(レーダーを始めとする電波戦が、弾が飛ぶのと同じくらい激しく展開しました)でもあった、ドイツ防空戦です が、著者はパイロットの立場から、様々な装備や戦法について注釈を入れています。生の声で描かれたこれらの 話を読み解くだけでも、ドイツ夜間戦闘機隊の知識がぐっと広がると思います。



ソノラマ航空戦史64


ノルマンディのロンメル

F・ルーゲ
¥680
1985.12初版発行

ロンメルといえば、第二次世界大戦のドイツで最も知られた将軍です。北アフリカでの劣勢な機甲部隊 を率いての機動戦は、様々な戦記に紹介されています。
ノルマンディ上陸作戦は、第二次世界大戦で最も知られた作戦です。映画でも「史上最大の作戦」や 最近ではスティーブン・スピルバーグが映画化したりしています。
しかし、ロンメルがノルマンディ防衛の司令官で、連合軍の上陸に対抗するために何をしたかというのは、 なかなか知っている人が少ないようです。どうしても連合軍側の題材となることが多いため、ドイツ軍が どのような防御体勢を取り、上陸前後にどのように活動したかは、まとまった文献が見つかり難いようです。

そこで本書が出てくる訳ですが、ロンメルが大西洋防壁を守備する「B軍集団」の司令官に就任してから、 ヒトラー暗殺未遂事件の余波を受けて、ロンメルが自殺するまでの西部方面のドイツ軍の状況 (特に司令部の動き)を、時系列的にまとめています。
西部方面のドイツ軍は雑多な集団であり、ひじょうに多数の部隊がノルマンディ防衛線に関わっています。 もちろん細かな点までを文庫一冊で追いきるのは無理なのですが、司令部の動きや主要な部隊の活動、 戦線の細かな動き等、ノルマンディの連合軍側の資料では分からない点がよくまとめられています。

本書の形態は日記的な書き方になっており、筆者はロンメル司令部の海軍側補佐官として活躍した 提督です。陸軍的な視点からも海軍的な視点からもドイツ軍の防御状況をよくまとめており、 簡潔な文章と精緻な調査はひじょうに資料的価値が高いと思います。



ソノラマ航空戦史66


ああ山本重爆隊

粕谷俊夫
¥520
1986.1初版発行

筆者もビルマの上空で戦った元飛行64戦隊(通称:加藤隼戦闘隊)の少尉です。本書はその 64戦隊や50戦隊が護衛した、ビルマで戦った重爆隊、飛行第12戦隊の戦隊史です。

12戦隊は、日本で初めて編成された重爆部隊(といっても双発以上の水平爆撃を主任務とした 爆撃機のことで、B29みたいなのをイメージしないでください。ちなみに軽爆というのは緩降下爆撃 を主任務とした爆撃機のことです)が改編されて編成された戦隊で、日本重爆隊の最精鋭でした。

開戦からマレー半島の地上支援にあたり、その後スマトラ等の支援作戦に従事したあと、陸軍航空隊 が最も活躍した戦域と言えるビルマ戦線に投入されます。この戦線には、色々と重爆隊が投入されて いますが、その中でも最精鋭として重爆隊の中心に位置付けられていました。
ビルマでの主な任務はアキャブ方面の航空撃滅戦や、カルカッタ強襲作戦等、少しづつ航空優勢を 奪われていく中、高度に維持された搭乗員の錬度と、整備員の努力、そして編み出した様々な戦術 で、部隊の名を轟かせていきます。
その後、フィリピン戦線でレイテ決戦に参加した戦隊は、部隊の有終の美を飾る、モロタイ島奇襲作戦 を実施し、南西方面で終戦を迎えました。

重爆隊の戦記というのは、思ったより結構出ているのですが、12戦隊をまともに読んだのは、本書が初めて でした。戦闘機なら1、11、50、64、244戦隊あたりが有名で、重爆隊もT部隊に編入された四式重爆 部隊が、よく戦記に登場します。
ビルマ戦線も戦闘機隊が中心で、あまり重爆隊というのは読んでいませんでした。海軍でいうところの ラバウル中攻隊のような存在で、もっとも激しい戦いを潜り抜けてきた部隊です。
当然、本書も様々な著名な作戦が次々と登場します。重爆堅気ともいうべき部隊の雰囲気もよく表していて、 激しい戦闘で悲惨な未帰還機の話が連続するのに、さっぱりと読めました。
陸軍航空隊に興味のある人は、一度読んでおいたほうがよい本かと思います。爆撃行のシーンは大変臨場感 に溢れていますし。



ソノラマ航空戦史69


重巡摩耶

池田清
¥524
1986.4初版発行

日本海軍の重巡というのは、盛り上がっている割に、あまり戦果を挙げていません。思いつくのは、スラバヤ海戦と 第一次ソロモン海戦くらいです。それでは、日本の重巡は例えばどんな戦いをしていたのだろう?という疑問に答えて くれるのが、例えば本書です。

本書の主役は重巡洋艦「摩耶」。高雄級の3番艦で、条約型巡洋艦と呼ばれた、軍縮時代の産物とも言える 1万トン級巡洋艦です。高雄級は前のクラスの妙高級を改良したタイプで、条約型としては強力な戦闘力を持っていました。 のちのボルチモア級とかと比べるのは、さすがにかわいそうですが、8インチ砲10門と、高速力、重雷装は素晴らしいものでした。

では、それだけの装備をした「摩耶」は、太平洋で如何に戦ったのか?というと、参加各海戦を挙げていけば判るかと思います。チラチャップ沖海戦、アリューシャン作戦、第二次ソロモン海戦、ガダルカナル島砲撃、南太平洋海戦、アッツ島沖海戦、 マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦で沈没、となります。
予想外に色んな海戦に参加しています。並べてびっくりしました。この中で、主砲がまともに火を吹いたのは、チラチャップとガ島砲撃、アッツ島沖海戦くらいでしょうか。主砲での撃沈戦果は、本書によると1隻だけのようです。

重巡部隊は、主に機動部隊の直援と、小規模な艦隊の旗艦任務に使用されていました。そのため、旗艦としてあちこちの戦闘に参加しているようですが、自慢のアウトレンジ作戦がほとんどうまく行かず、重巡はその真価を発揮できたとは言えませんでした。

といっても本書は、その「摩耶」が最後を遂げるまでの活動を詳細に追いかけています。軍艦戦記というのは活動記録に関しては、色々な資料が出版されていますし、あまり目新しいものではないのですが、戦記の魅力はその情景描写や、乗組員がどのように艦に乗り組んで戦ったかが表されている点です。その点から言えば、本書はひじょうによく出来た一冊で、客観的に「摩耶」の活動を捉えながら、乗組員の活動についてもちゃんと既述しています。
艦艇戦記の少ないソノラマ戦史シリーズのなかでも、面白い一冊ではないかな?と思います。重巡戦記はこれ1冊ですし。



ソノラマ航空戦史70


大空のエース

S・ダンモア
¥800
1986.5初版発行

第二次世界大戦時のドイツ戦闘機乗りを描いた空戦小説です。事実の戦記ではありませんが、リアリティ溢れるなかなか 面白い小説に仕上がっています.
バトル・オブ・ブリテンや東部戦線、ドイツ本土防空戦をくぐりぬけたエースパイロットの視点で、激しい空戦と恋、そして絶望がテーマといえるでしょう。本書はソノラマにしては珍しく、解説や訳者あとがきのない、淡々と進む小説となっています。
大戦中のヨーロッパの大規模な空戦について、よく既述してあります。なかなか臨場感溢れて面白いと思いますが、ちょっと主観的な観点からかかれている点が多く、くどいかな?という印象も受けました。この辺は読み手の感覚かとは思いますが。



ソノラマ航空戦史74


空母ガンビアベイ

E・F・ホイト
¥680
1986.9初版発行

太平洋戦争時のアメリカ空母の戦記は、ありそうで以外にないのが実情です。幾つか読んだことはありますが、正規空母はともかく、護衛空母という艦種での 戦記は、本書がほとんど唯一のものではないでしょうか。

ガンビアベイはレイテ海戦の一戦場、「サマール沖海戦」で、栗田艦隊の砲撃を受けて沈んだ艦として有名です。日本海軍が水上戦闘で沈めた唯一の空母でしょう(味方艦は魚雷で何隻か処分していますが)。
カサブランカ級は、第二次世界大戦中にアメリカ海軍が大量生産した護衛空母で、戦時標準船リバティ級の船体の上に、強引に飛行甲板を置いたものです。空母としての能力は必要最低限のものしかありませんでしたが、少数ながらも戦闘機と攻撃機をバランスのとれた編成で搭載し、対潜・対空護衛のみならず、対地支援や艦隊戦の時の予備戦力として狩り出していたりもしていました。

日本の護衛空母がカタパルト等を装備できず、最前線への航空運搬艦として使われていたのとは雲泥の差があります。当然最前線に投入されていただけあり、ガンビアベイのほかにも、リスカムベイやビスマルクシー等、何隻もの護衛空母が日本軍の攻撃により沈んでいます。

本書はガンビアベイの竣工から沈没までの作戦行動を、乗組員の活動を中心にまとめたものです。たんに搭載機のパイロットのみならず、艦首脳陣や整備・機関等の乗員にも言及しています。
本書を読むと、太平洋戦争中の米護衛空母がどのような作戦活動をしていたのかが、よく分かります。私もこれまでほとんど知らなかったことが多く、ひじょうに勉強になりました。かなりお薦めの一冊です。入手に苦労しましたが。



ソノラマ航空戦史75


不屈の鉄十字エース

R・F・トリヴァー/T・J・コンスタブル
¥740
1986.10初版発行

第二次世界大戦中に352機を撃墜し、人類史上最高数の撃墜王であるエーリッヒ・ハルトマンの戦いの日々を描いた一冊です。
エーリッヒ・ハルトマンは、1942年に東部戦線に展開していたエースパイロットを続出させた精鋭戦闘機隊「JG52」に配属となり、以後終戦までの間、ソ連機を342機、対戦末期にアメリカ軍のP−52を数機落して、史上最強の戦闘機乗りの一人として、空戦史に不滅の名を残します。
天性の射撃のカン(長距離射撃や見越し射撃でハルトマンを超えるのは、「アフリカの星」ことマルセイユ大尉くらいだと、本書にも書いてあります)や、冷静沈着な空戦展開、そしてなにより、800を越える出撃で編隊のパイロットを一度も戦死させなかったという、戦闘機乗りとして最も名誉な履歴まで残しました。

ハルトマンは著名エースの多いJG52の中でも、もっとも有名となり終戦を迎えましたが、さらに彼の名を高めたのが、その後の戦いです。
終戦時、ドイツ空軍では、史上最高数の撃墜数を上げた、つまり最もソ連機を落したハルトマンがソ連に復讐されることを考え、連合軍の占領地に脱出するように指令しました。
しかし、ハルトマンは部下を放置することができず、最後まで部隊とともに行動し、捕虜としてソ連軍の手に落ちたのです。
その後、ハルトマンの苦難という言葉では語り尽くせない収容所での10年が始まります。ソ連側ではドイツ最高のエースを共産主義のシンパにしようと、あの手この手で迫りますが、ハルトマンは最後まで屈しませんでした。それどころか、弱気になるドイツ捕虜たちを励ましつづけ、「収容所でのエース」としても最高の名前を馳せたのです。
収容所を出ることができたハルトマンは、その後は新生西ドイツ空軍に参加、最初のF−104戦闘航空団の司令として、今度は無知な西ドイツ空軍高官と戦いつづけます。
その半生は、まさに史上最高のエースとして語り継がれるものでした。

本書は、ハルトマンの大戦中の空戦記に半分を、収容所での戦いに半分を、エピローグ的扱いとして西ドイツ空軍での苦闘を挙げています。
ひじょうに読み易く、またよく調べてあるエースの記録で、ドイツ戦闘機乗りの気質等も本書で充分に味わうことができます。
入手困難な一冊ですが、見かけたら絶対の入手をお勧めします。



ソノラマ航空戦史77


潜入、高度ゼロ

R・コックス
¥780
1986.12初版発行

空戦ものの冒険小説。早川とかが得意なジャンルですが、ソノラマでもこういうのが出ています。
ストーリーはリビアのカダフィ大佐(懐かしいですね)が原爆を手に入れたので、失業中のイギリス人 パイロットが戦闘機を駆って、搭載したボーイングを落とすというストーリーです。

あまりこういう小説は読まないのでなんともいえないのですが(冒険小説自体はよく読むんですけど)、 普通の冒険小説に比べて、ミリタリー的な面では詳細に書かれているのではないでしょうか。主人公の乗る戦闘機はF86セイバーです。この本の中にも書かれていますが、この小説の時代では既に博物館ものの旧式機と化しています。きっと作者がすきなんでしょうね。ジェットの空戦を描こうとしたら、確かに最良の機体ですし。
地中海を舞台にしての奇襲作戦は確かに盛り上がるものがあります。主人公も撃墜されたり危機の連続でクライマックスは面白いのですが、作戦準備までがちょっとだらだらしているかな?というのが目につきました。空戦ものが好きなかたは読んでみてもいいかな?という作品です。



ソノラマ航空戦史79


伊58潜帰投せり

橋本以行
¥620
1987.1初版発行

日本潜水艦戦記と言えば、必ず出てくる1冊です。著者は「伊号第五八潜水艦」を指揮して、アメリカ重巡洋艦「インディアナポリス」を撃沈した艦長で、日本の潜水艦長の中で一番著名な艦長でしょう。
開戦時は「伊二四」の水雷長として、特殊潜航艇の搭載艦としてハワイ作戦に参加し、ソロモン作戦や中部太平洋作戦を転戦し、終戦時は「伊五八」の艦長として「回天」作戦の指揮をしていました。太平洋戦争での日本潜水艦作戦の縮図のようで、その自伝も日本潜水艦作戦そのままのバラエティさに富んでいます。

名著と昔から呼ばれているだけあり、日本潜水艦戦記(消耗が激しく、艦長の戦記というのは日本艦ではあまり数がありません)の中でも、特に迫力があると思います。特に回天戦の記述はひじょうに詳細に書かれており、その部分だけでも読む価値は充分にあります。

本書は色々な出版社から再版されており、絶版となったソノラマ以外でも充分に入手可能です。まだ読まれたことがない人は一度読んで見てはどうでしょうか?



ソノラマ航空戦史80


ドイツ戦車軍団(上)

フォン・メレンティン
\490
1987.2初版発行

本書はドイツ軍の著名な機甲部隊参謀、メレンティンの自伝記です。下巻が悪夢のような 東部戦線を既述していたのに対し、上巻はドイツ機甲戦の中で最も著名な戦い、北アフリカ 戦線について既述しています。
メレンティン自身は、騎兵科出身の情報系参謀将校、ドイツの参謀本部の正当系少壮士官 として、第二次世界大戦を戦っています。
ポーランドとフランス戦線はどちらかというと2戦級師団に配属されていたため、それほど目立った 既述はありませんが、ユーゴスラヴィア・ギリシア戦線と北アフリカ戦線については、実際に現場で 戦闘指揮を取っていた参謀として、ひじょうに詳細な記録を残しています。

本書の目玉は、やはりドイツアフリカ軍団(DAK)の戦闘の詳細についての既述でしょう。邦訳 されているアフリカ軍団ものの中では、トップクラスに入ります。それはそうで、実際に砲弾の中を かいくぐって作戦を立てていた時の思い出を書き記しているのですから。

本書のアフリカ戦線はロンメルが現地に着任して、最初の危機を乗り越えた頃、1941年6月 頃より始まります。当時、アフリカ戦線は両軍の機甲部隊が押したり引いたりする、戦線の移動が ひじょうに激しい戦線でした。
本書の特徴は、ドイツ軍の小規模な部隊や、各師団級の指揮官についても、しっかり記録されて いる点と、臨場感溢れるアフリカ戦線の推移でしょう。実際、当時のアフリカ軍団は、現在考えられている ほど、強力な部隊ではありませんでした。小規模な機甲部隊と、臨時編成された機甲部隊、現地編成 された機甲部隊(第90軽師団のこと。もともとは外人部隊を中心に編成された部隊で、現地で機甲 編成に切り替えられています)の3個師団しかありませんでした。

そんな乏しい軍団を率いてロンメルが如何に栄光を掴んだのか、という点がしっかりかかれています。 お勧めの一冊です。




ソノラマ航空戦史87


エンジン・トラブル

E・K・ギャン
¥540
1987.6初版発行

これが戦記かといいますと、戦記じゃないです。航空戦史と名前がついているシリーズなので、こういうのも1冊混ぜておこう という発想で加えられたのではないでしょうか?ジェット機の事故の話です。

まあ、私自身が戦記ファンで純粋な航空ファンではないため、あまり書くことのない1冊なのですが、大型旅客機でエンジン 事故が起こった際のパニックと、パイロットや管制、沿岸警備隊等が如何に活動するのかというフィクションです。
逆に読んだことのないタイプの小説だったので、面白く読めました。ちょっとこの手のアクシデント小説にしては臨場感に欠ける きらいもありますが、じわじわとパニックが広がっていく感は、なかなか楽しめます。
ちょっと評価の難しい作品ですが、たまには戦記ばかりではなく、こういうのもいいかな?と思います。




ソノラマ航空戦史96


ノルマンディの激闘

K・マクセイ
¥650
1988.1初版発行

これまで、「ノルマンディもの」と呼べるような、ノルマンディ上陸作戦とそれに続く戦闘の小説は、アメリカやイギリスを中心として多数が出版されていますが、本書もその1冊です。
しかし、著者は英陸軍の退役少佐で、ヨーロッパ戦線やアジア戦域で機甲部隊で戦闘に参加していました。機甲作戦の造詣は深く、この方面では様々な著書が知られています。
フィクションとはいえ、その深い造詣で書かれた本書は、他書にはない臨場感が感じられ、なかなか読み応えがあります。

ノルマンディ上陸作戦は、ドイツの防御準備が整っておらず、容易に上陸に成功し、アルデンヌの森まで楽々と連合軍が突破したようなイメージがありますが、実際はなかなか連合軍も苦戦をしています。
英軍はカーン周辺でSSの機甲部隊に食い止められ、米軍もオランダ・ベルギー方面への突進が思うようにスピードに乗れず、もたもたとしていた時期がありました。
ドイツ軍はフランスやドイツ本土で編成した部隊を、西部戦線にどんどん投入し(装備や錬度はあまりよいものではありませんでしたが)、連合軍を食い止めようと必死の抵抗を続けました。
本書はそんな時期のある英機甲連隊の戦闘を描いています。本書にもこのストーリーのモデルとなった戦闘について、簡単に既述していますが、「ブルーコート作戦」と呼ばれた米軍の作戦によく似た展開をしています。

そんな西部戦線の連合軍機甲部隊の戦闘を表した本書ですが、著者がその道に深いため、戦車部隊のみならず、車載歩兵や機動砲兵等、諸兵科連合各部隊の戦闘の模様をよく描いています。
こういった内容は、どうしても日本人の作家では描ききれない臨場感があり、その雰囲気を味わうにはよい一冊だと思います。




ソノラマ航空戦史98


フライング・タイガー

R・L・スコット
¥580
1988.2初版発行

中国戦線で侵略を続ける日本軍の航空部隊に対抗するために、アメリカ人パイロットで編成された義勇航空隊「フライングタイガー」。太平洋航空戦史を読み解くと、この部隊は 必ず名前が出てきます。
まあ、1機撃墜すると報奨金が出るというシステムのために、随分と撃墜機は水増しされていたようですが、それでもI−15やI−16、ショートP−36といった旧式機と、錬度の低いパイロットばかりだった中国軍の中で、低空での機動性と防御力に優れたカーチスP−40を駆って、日本陸軍機(フライングタイガースが誕生した頃には、日本海軍機は太平洋に焦点を移しており、中国内陸への進撃作戦は実施していませんでした)に立ち向かった傭兵パイロット達は、随分と勇気があったのでしょう。

ちなみに表紙は、シャークマスクを描いたP−40が、一式戦闘機を撃墜している図です。筆者もこの作中のストーリーの中では、愛機のP−40に12個の日の丸撃墜マークを描いています。
フライングタイガースは日本でも知られた航空隊ですが、実際にどのような活動をしていたかは、なかなか知られていません。本書はそんなフライングタイガースのメンバー、航空戦、そして日常生活について、克明に書かれています。ただし、自伝的な書き方ですので、資料としてはちょっと使いづらい点がありますが。

実は、ソノラマ戦史には、太平洋戦争のアメリカ戦闘機の本というのが結構少なく(「太平洋のエース達」と「双胴の悪魔P−38」くらいですね)、本書はそういう意味でも、アメリカ戦闘機乗り気質というものを感じることが出来るかと思います。
ちょっと癖がありますが、なかなかお薦めの一冊ではあります。