ソノラマ航空戦史52 |
日本が最後の決戦場として出撃し、惨敗したマリアナ沖海戦について、その 海戦の全容と、当時の連合艦隊の動きについての一冊です。マリアナ沖海戦は 日本が最後の勝機を見出すために全力を上げた一戦です。アウトレンジという 新戦法、新鋭重装空母「大鳳」以下の堂々たる機動部隊、そして、それらの空母 に搭載された新鋭艦載機を持って、一打逆転の決戦を仕掛けたのです。 本書は機動部隊の護衛艦の一角を担った、駆逐艦「野分」の視点から、この大 海戦について見ています。当時の日本海軍の特徴、欠点が、一駆逐艦の戦いを 通じてはっきりしてきます。音もなく襲い掛かって来る米潜水艦と、恐るべき 破壊力を持ち出した米艦載機群との死闘は、日本艦隊を徐々に衰弱させていき ます。一方、勇躍出撃した日本艦載機群は、待ち構えた米直援戦闘機群と、近 接信管の恐るべき破壊力によって、次々と散っていきます。 決戦は日本の惨敗に終り、日本は敗戦への階段を一気に転がり落ちることに なりますが、その端緒となった戦いです。本書は小説調で気軽に読め、それで いてマリアナ海戦の主要情報はほぼ収めているという、欲張りな一冊です。吉 田さんの作品は口語調のため手軽に読め、複雑な経過をたどる本海戦を一気に 頭に収めることができます。値段も手ごろなため、見つけたらお求めになって はいかがでしょうか。 |
ソノラマ航空戦史53 |
北氷洋でのレンドリース船団最大の悲劇である「PQ17船団」の話を中心と する援ソ護送船団の話です。「PQ17船団」についてはある程度しっておられ る方もおおいようですが、お手軽にPQ船団全部について知ることができるのは 本書が最適であると思います。 北氷洋を通るソ連への船団は、到着すればそれだけソ連軍が強化されることに なり、ドイツ側としても神経を尖らせていました。潜水戦隊、雷撃機、水上艦隊 を配置してこの船団を撃破して東部戦線を有利にしようと試みたのです。合計3 6船団が出撃した北ロシア向け船団に対する攻撃は1942年がピークとなりま すが、特に水上艦隊の出撃はほとんどこの船団攻撃しか行われておらず、ドイツ 水上艦隊について知ろうとすると、どうしてもこの話がクローズアップされてく るのです。 PQ17は色々な面で船団護衛について考えさせられますが、失敗した理由の 大きな点に軍令部が些細な作戦指揮にまで口出ししたという点があります。日本 でもそうでしたが、現場の制約になるまで軍令部が干渉したため効果的な護衛が できず、船団の解散という最悪の事態となったのです。PQ船団が非常に政治的 な意義があったことも要因ですが、護衛艦隊が満足に動けないような作戦は英海 軍の歴史に泥を塗ったといわれています。マルタ島護衛船団やジャービス・ベイ のようなはなしばかりではないのだなと感じさせられました。 本書で残念なのはPQ17で話が終ってしまうことです。この後も北氷洋では 死闘が続き、「ヒッパー」をわずかな駆逐艦で撃退して、シャーブルックが勇名 を轟かせたJW51船団や、ノースケープ沖海戦が発生し「シャルンホルスト」 を「デューク・オブ・ヨーク」を中心とする英艦隊が撃沈したJW55船団等、 まだまだドラマが待っているのですが、それは別の書で調べる事になります。 もっともPQ17まではしっかりとした記事が構築されているので、かないの勉 強になります。 |
ソノラマ航空戦史54 |
第一次世界大戦で活躍し、最も有名な撃墜王である「レッドバロン」リヒトホ ーフェンに関する書です。最初の原書が出たのは1918年であり、リヒトホー フェンに関する各種の記述、関係者の回想等でまとめられています。 第一次大戦の空戦記というのは日本が参戦していないこともあり、日本ではあ まり興味を持たれないようです。そのせいかあまり邦訳の文献もありません。で すが、空戦がロマンだった頃でもあり、優雅さも感じさせられる時代でもありま す。本書も敵味方のエース達の戦場での共演について重厚に描かれており、たい へん面白く読む事ができます。 |
ソノラマ航空戦史55 |
本書のタイトルを見ると「神風特攻隊」の話かとおもわれるかもしれません。 しかし、本書は特攻のはなしではなく、レイテ海戦後に米第3艦隊を襲った台風 に関する書です。 レイテ海戦後に米艦隊を襲った大台風は海戦史でも有名ですが、この台風のお かげで駆逐艦が3隻沈み、約150機の航空機と800名近い乗組員を米艦隊は 失いました。艦隊を指揮していたハルゼー提督も査問会に召還されたほどです。 本書は血沸き肉踊るような海戦とは無縁の内容ですが、軍艦のトップヘビーや 復元性の問題、暴風下での艦隊運動の困難さ等、興味深いテーマが幾つも内包さ れています。また、この台風については他に詳しく書かれた書をあまり見た事な いため、貴重な資料といえるかもしれません。 地味ではありますが、戦史を調べるうえでの良作といえると思います。 |
ソノラマ航空戦史57 |
著者は海兵59期で終戦時は海軍中佐だったかたです。戦中は幾つもの艦に乗 り幾多の海戦をくぐりぬけました。本書はその自伝とも言えるものです。 この書には「天津風」でのルンガ沖夜戦、「比叡」での第三次ソロモン海戦、 「瑞鳳」でのレイテ海戦の3つが描かれています。それぞれ太平洋海戦史では有 名な海戦ばかりですし、実際に戦闘に参加しただけあり、臨場感に溢れた海戦描 写は読むものを引き込みます。特に中級士官の戦闘感というものがあちこちにあ り、将兵がなにを考えて戦っていたのかが感じ取る事ができます。 著者は他にも各種の著作があり、ソノラマ戦史シリーズでも数冊求めることが できます。 |
ソノラマ航空戦史58 |
太平洋戦争最後の決戦、沖縄戦についての通史です。沖縄戦は日本本土で行わ れた戦闘でもあり、多くの著作が出版されていますが、この書はほぼ純粋に戦略 戦術、戦闘経過のみを追求しています。もちろん沖縄住民が受けた戦禍について も言及されており、沖縄戦を研究する際の一歩目として活用できそうです。 沖縄戦は大きく分けて3つの戦いに分かれます。一つは沖縄全土で展開された 壮絶な地上戦、二つ目は陸海軍が持てる全力の航空戦力を投入した航空作戦、3 つ目が大和を中心とする水上艦隊による「菊水作戦」です。3つの戦闘はそれぞ れ日本軍の最後の大規模な作戦であり、絶対的な連合軍との差が明らかになった 戦闘でもありました。 本書ではその3つの戦闘全てに言及しています。三・五航艦の作戦がどうして も中心にみえるのは航空戦史という名前からかもしれませんが、限られたページ で色々な要素を詰め込むとやはり薄くなる点も出てきます。沖縄戦を読む場合は 参考文献には事欠かないので、必要な情報は自分で組み合わせていくのがよいで しょう。 もちろん、本書の中身がたいしたことないかというと全然そんなことはなく、 充分読み応えのある内容となっています。僕自身はこの書は沖縄戦の総合史とし て捉え、必要な情報は三軍のそれぞれの専門の書から取っています。ただ沖縄戦 は史上最大の立体戦の一つで、立体戦として沖縄戦を捉えるには本書は結構使え ます。人物の登場量も多いので、そういった情報が欲しい方にもおすすめです。 |
ソノラマ航空戦史60 |
1943年7月から、連合軍のイタリア攻略が始まります。その最初の目標と なったのが、イタリア半島の西に位置するシシリー島です。シシリーはイタリア 攻略のためにの策源地として、連合軍は是非手に入れたいポイントでした。しか し枢軸側も当然それは予想しており、相当な防御を敷いていました。そのため、 上陸作戦と共に、大規模な降下作戦によって、要衝の攻略と枢軸防衛網の混乱を 計ることとなったのです。 シシリー島攻略作戦である「ハスキー作戦」に降下部隊として参加することと なったのは米第82空挺師団と英第1空挺師団の精鋭です。いずれも選抜された 優秀な兵士達で、この作戦の尖兵となるには格好の部隊でした。問題はこれらの 師団に相対することとなったのが、「ヘルマン・ゲーリング」装甲師団という、 これまた精鋭の重装部隊だったことです。 上陸軍を支援するために一足先に降下した空挺師団は、ろくな対戦車兵器も持 たずに、配備されたばかりのティーゲル戦車とやりあうはめになりました。苦戦 しながらも、これらの空挺隊が橋頭堡を確保したために、後続部隊の進撃が楽に なったのです。 本書では、この連合軍最初の大規模空挺作戦について、様々な視点から捉えて います。書き口も小説調で、ひじょうに読みやすく、満足できる一冊となってい ます。小部隊単位に散って降下してしまった空挺隊の各グループについて、追い かけれるだけ記述している点も、資料価値を高めることとなっています。失敗し た「マーケットガーデン作戦」と対になるような作戦ですので、空挺作戦に興味 があるなら、お勧めです。 |
ソノラマ航空戦史61 |
ソノラマ戦史シリーズでは、意外なことにベトナム戦争での空戦ものが思った ほど、見つかりません。特にファントム2やトムキャットの空戦ものというのは 本当に数が少ないようです。そんな中で本書は米海兵隊のF−4部隊に所属して いたパイロットが、日々の海兵戦闘機隊の行動について、分かり易くまとめなが ら、自分のベトナムでの戦歴について、語ってくれます。 F−4は基本的に能力が高く、様々な任務に使われました。特に戦争序盤では MIGがまだ姿を現していなかったこともあり、対地支援やその直援で連日出撃 しています。また、基地は原始的で着陸の際に危険な状態のものも多く、戦闘以 外で失われていく機体が続出しました。そんな中、ベトナムの戦闘機部隊は支援 任務に没頭したのです。 本書は様々な用語や色々な機種について、簡単なれど説明を付けてくれていま す。空中給油や航空燃料、発進シークェンスについても実際の経験に基づいて再 現しています。ベトナムものは結構な数がでていますが、そんな中でも読みやす く感情移入しやすい一冊でしょう。 |
ソノラマ航空戦史65 |
日本陸軍航空隊でもっとも著名な部隊といえば、10人中8人が「加藤戦闘隊」 と答えるでしょう。軍神にまでなった加藤中佐を指揮官とする精強を誇る新鋭戦 闘機隊、それが第64戦隊であり、本書のテーマとなっています。 筆者はこの光栄ある戦闘機隊のパイロットとして、開戦より各作戦に参加し、 マレー、パレンバン、ジャワ、ビルマと転戦しました。その間、当時の最新鋭機 である一式戦「隼」を駆り、敵機を駆逐して開戦初頭の制空権確保の主役となっ たのです。その後、連合軍の航空反撃が激しくなり、ビルマでの苦戦、加藤部隊 長の戦死、そして、空戦で負傷びて内地送還となるまで、本書は続きます。 本書はこの第64戦隊の開戦から戦争中盤までを動きと戦いを、パイロットの 視点から細かく追っています。また空戦記としてもなかなかのもので、先へ先へ と読み進めさせてくれます。過酷な戦場で、不利な体勢の中、この精鋭部隊がど のように戦ったのかについて、興味のある方には必須の本でしょう。 |
ソノラマ航空戦史67 |
購入したとき、タイトルからてっきりレイテ海戦の話かな?と思いました。しかし、表紙を よくよく見ると、妙高級が闇夜で砲撃戦を行なっている絵です。「??」と思って、裏の解説 (ソノラマ戦史は裏表紙にその巻の紹介文が載っています)を読んで納得しました。ミンドロ 島へのなぐり込み、「礼号作戦」の話だった訳です。それならば表紙の艦は先頭の駆逐艦が「 朝霜」、その後ろの重巡が「足柄」となるので、ふむふむと納得できます。
レイテ決戦で主力艦隊が粉砕され、連合艦隊は壊滅状態となりました。小艦艇群はその後のレイテ
輸送作戦「多号作戦」で、ぼろぼろに消耗しています。昭和19年も暮れようとしている頃、南西
方面にあった艦隊は「第二遊撃部隊」の戦艦「伊勢」「日向」と妙高級の重巡が3隻、軽巡「大淀」、
他は第二水雷戦隊を始めとする僅かな駆逐艦と、護衛艦隊に所属する海防艦等の小艦艇くらいです。
昭和19年12月、レイテ島のオルモックを失い、レイテの趨勢は決まっていました。連合軍が次に狙う
のは、日本海軍航空隊(の残存勢力)が主力基地としていたネグロス島か、ルソン島のすぐ南にあり、
昭和20年すぐに始まることとなるルソン本島侵攻の前進拠点となるミンドロ島のどちらかでした。
「礼号作戦」と呼称されたこのミンドロ島に対する泊地なぐり込みは、日本艦隊の最後の組織的夜戦
となり、最後の勝利となった作戦です。ろくな守備艦隊が居なかったとはいえ、敵制空権下に突入し、
泊地で水雷戦と上陸地の艦砲射撃を実施して、無事に帰還したこの作戦は、戦史の影に隠れがちですが、
日本艦隊の終焉を描いていく上で、外せないと思います。 |
ソノラマ航空戦史68 |
航空戦史の65番に「栄光加藤隼戦闘隊」というのがあり、そちらは緒戦期を中心に記述されて
いますが、こちらは加藤戦隊長が戦死し、ビルマ方面に連合軍の反抗の色が見え始めた時期から
終戦までの苦闘が描かれています。
書き始めは1943年の連合軍のアキャブ反攻のあたりから始まり、少しづつ戦力を失う戦隊に対して、
ビルマの連合軍は新型機を次々と投入し、戦力差はどんどん開きました。
最初から最後まで戦隊に所属しており、また、戦後も64戦隊の戦友会等をまとめておられるため、本書はひじょうに詳しく64戦隊の活動をまとめています。各中隊の活動や大きな空戦の話等を、当時の戦隊空中員の手記を交えてしっかり表しています。 |
ソノラマ航空戦史71 |
大西洋での対Uボート戦についての書です。主題はボーグ級やサンガモン級 護衛空母の対潜作戦についてで、護衛空母「ボーグ」「カード」「サンティー」 「フェンサー」「コア」「ブロック・アイランド」 「ガダルカナル」等が登場し ます。時期的には1942〜43頃で、Uボートが大西洋での優位を失いかけ た頃に、護衛空母を中心とする対潜機動部隊がどれだけ猛威を振るったかが記 述されています。 それまで我物顔で大西洋を暴れまわっていたUボートに対して、連合軍は大 量の護衛艦艇と対潜哨戒機、それらに積む数々の新装備、そして護衛空母を中 核とする対潜部隊によって対抗しました。結果、Uボートは次第に活動が困難 になり、大西洋のシーレーンは次第に連合軍が安全化していくのです。 艦隊空母の機動部隊決戦については日本では数多くの書がありますが、それ に比べて護衛空母の対潜作戦は扱いが小さいです。特に護衛空母の航空隊や、 編成等は日本ではあまり興味が持たれないのか、数が少ないです。本書は数 字情報はあまりありませんが、大西洋で護衛空母がどのような戦いを繰り広げ たかは十分に堪能できます。 また、本書の後半には「ガダルカナル」を中心とした任務部隊の「U−50 5」捕物劇がページを割いて語られています。「U−505」は現在シカゴで 展示されていますが、どのように捕まったかはあまり知られていません。興味 のわく物語でもあります。 日本ではあまりなじみのないテーマですが、なかなか面白く読めました。 |
ソノラマ航空戦史72 |
木俣滋郎さんの海戦小話集です。太平洋、欧州の両方の話が合わせて33編も 載っていてお特な一冊です。中身は誰でも知ってる超有名な海戦から恐ろしくマ イナーなものまで千差万別、バラエティに富んでいます。 僕が興味を持った話を幾つか拾い上げてみますと、仮装巡洋艦「愛国丸」「報国 丸」の通商破壊戦、「渾作戦」での駆逐艦の鬼ごっこ、東京初空襲での日本の迎 撃体勢や、「ヒ86船団」の壊滅なんかが太平洋ものであります。ヨーロッパだ とフランスのジェノヴァ攻撃、ダカール、ディエップの両上陸作戦、「オースト ラリア」と「コルモラン(独仮装巡洋艦)」の一騎打ち、ビスケー湾海戦等が短 編にまとめられています。 元々、一冊の本にまとまるような大海戦は多くの記事になりますが、そこまで ページを稼げないような小海戦もWW2では頻発しています。そういったものは このような短編形式にしてなにかの形にまとめてもらえるととても助かります。 木俣さんは新戦記シリーズでも「撃沈戦記」を計4冊だしており、小物の海戦を おさえるのには絶好の作者と言えるでしょう。 本書も重版がかかっているはずなので、比較的求め易い一冊だと思います。ち なみに僕はこの書に収録されている「スパダ岬の海戦」が読みたくて買いました。 なかなか載っていない海戦でしたから。欧州のマイナー海戦は日本では興味がも たれませんからねぇ(笑) |
ソノラマ航空戦史76 |
この書は幾つかのパートに分かれており、最初に昭和11〜13年頃の連合艦 隊の連合艦隊を中心とした各種写真が収められています。かなり興味を惹かれる 写真も多いのですが、「蒼龍」「熊野」の偽装中のスナップを始めとして、戦艦、 巡洋艦の構造物のアップ写真が多く、3面図ではなかなか掴みきれない艤装をし っかりと把握する助けになります。またかなり鮮明な写真ばかり選んで編集され ており、日本艦艇の写真集としてはかなり秀逸なものの一つに挙げられると思い ます。 二つ目は作者の一人である堀元美氏の昭和12年頃の艦隊実習中の記録であり、 写真の情景や状況を説明するための資料として掲載されています。戦前の比較的 のんびりとした艦隊演習の様子が描かれており、新戦史シリーズの一つである「 造船士官の回想」の簡易版とも言えるかもしれません。 三つ目に付録一として、「日本海軍についての常識的事項」が数ページに渡っ て記述されており、日本海軍の兵科、名称等の簡単な説明となっています。 四つ目は付録二「日本海軍主要艦艇一欄表」で、近年ではこの手の資料がだい ぶ増えてきたので価値自体は下がった感がありますが、主要日本艦艇の名称、竣 工日、沈没(解体、引き渡し)日がずらっと並んでいます。掃海艇や運送艦、特 務艦クラスまで載っていますので「あれ、この艦が沈んだのって何時だっけ?」 と言う時なんかに結構重宝します。 どちらかというとシリーズの中ではかげの薄い1冊でしょう。内容もそれほど専 門的ではないので、手が伸び難い本かもしれません。 |
ソノラマ航空戦史78 |
1942年の8月といえば、太平洋ではガダルカナル島に米軍が上陸して、島を めぐって日米が激しい艦隊戦を繰り広げていました。8日には第一次ソロモン海戦 が、24日には第二次ソロモン海戦が生起して、鉄底海峡を敵味方の船で埋めてい った時期でした。 一方、地球の裏側である地中海でも1つの島をめぐって連合軍と枢軸軍が激しい 死闘を繰り広げていました。そう、マルタ島です。 マルタ島は1942年の戦争の焦点の一つでした。当時アフリカではロンメル率 いるDAK(ドイツアフリカ軍団)がナイルを目指して突進しエル・アライメン前 面でアレグザンダーの英中東軍と睨み合っていました。ドイツ軍は補給が続かず停 止を余儀なくされていたのですが、この補給を寸断していたのが、シチリア島の南 東にあったマルタ島なのです。もちろんドイツ軍もこの島が邪魔なので、激しい空 襲をかけ降伏寸前にまで追い込んでいました。連合側としてもマルタ島はなんとし ても維持しなければならない要地で、なんども補給船団を強行突入させてました。 もっとも半分以上沈められてましたが。で、限界まで来たマルタ島に一気に補給を 届けるべく決行された作戦が「ペデスタル作戦」、本書のメインテーマです。 本書の主役はアメリカ製イギリスタンカー「オハイオ」です。「オハイオ」はマ ルタ救援にもっとも必要なオイルを積んでマルタ島に突入、辛うじて物資を届ける ことに成功しました。枢軸側も一隻も輸送船団を通すまいと潜水艦、スツーカ、魚 雷艇、イタリア水上艦隊と次々と戦力を繰り出して輸送艦隊の攻撃を仕掛けてきま した。日本にガダルカナル補給や「多号作戦」に匹敵する困難を乗り越えてマルタ 島を蘇生させたのち、連合軍はアフリカで大反撃に転じることになります。 本書は地中海でもっとも激しい戦闘の一つといわれる作戦を扱っており、過酷な 戦闘が次々と展開されていきます。ダイドー級の対空戦闘や駆逐艦の対魚雷艇戦等 日本の艦隊とはまた違った戦闘が描かれており、面白く読めます。どこの国でも維 持不可能と思われたら艦隊を犠牲にして無理矢理補給をするんだなと感じてしまい ました(日本と違って成功させてますが。艦隊空母まで護衛に使ってしまう当たり が日本と違うとこですね)。僕自身はおすすめの一冊です。 |
ソノラマ航空戦史81 |
本書はドイツ軍の著名な機甲部隊参謀、メレンティンの自伝記です。前編は開戦 から、DAK(ドイツアフリカ軍団)に配属になってロンメルの元でアフリカでの 激しい機甲戦を演じていた時期についてです。一方、後編は1943年に東部戦線 に配属になってから、スターリングラード、クルスク、ドニエプル・ウクライナか らの撤退、さらに西部戦線に転属となり、G軍集団でアルザス=ロレーヌ戦での絶 望的な戦い、ルールポケット地帯での降伏までです。 1943年にクルスク・ハリコフで死闘を演じたあとは、東部戦線でドイツ軍は後 退を続けることとなります。戦闘の主導権は既にソ連軍の手に移り、圧倒的な戦力さ にドイツ軍は抗することができず、次々と戦線を突破されました。個々の戦場ではド イツ軍は善戦しますが、広大な戦線を全て守り切ることは不可能でした。 作者は第48装甲軍団の参謀として配属となり、乏しい軍団揮下の部隊を用いて、 ソ連軍の攻勢に消防士のように対処していきます。第48装甲軍団は東部戦線の最も 有力な機動戦力として用いられていた為、主要作戦にはほぼ参加しており、作者の記 述も東部戦線での戦闘の多岐に渡っています。 本書は48軍団の揮下の各師団の作戦をかなり詳しく記述しており、東部戦線の戦 記としては第一級です。また、44年の暮れから西部戦線にも参戦しているため、圧 倒的な米軍の攻勢についても、しっかりした記述があり、ドイツ軍の作戦方針や状況 が手に取るように分かります。激しい機甲戦についての戦記を探している方にはおす すめです。 |
ソノラマ航空戦史82 |
日本の航空機で最も有名なのは、皆が認めるように「零戦」なのですが、じゃあ、一番有名な零戦
部隊はどこ?となると「ラバウル零戦隊」という回答が帰ってくると思います。
「ラバウル零戦隊」という部隊はありません。ラバウルの零戦隊はその地区に進出していた幾つかの
航空隊によって構成されていました。その中で最も精強を誇ったのが本書の204航空隊(旧名称
6空)です。ほかに201空や253空の零戦隊が進出しており、これらの零戦が連合して戦闘していま
した。
基本的に時系列を追って、緒戦の優勢期・ガダルカナル島を巡る戦い・ガ島放棄後の守勢・圧倒的
な連合軍航空隊に対する防御戦とラバウルの放棄とまとめています。 |
ソノラマ航空戦史84 |
前巻で日本海海戦までの海軍の興隆が論じられていましたが、下巻はそれ以後の昭和 20年までの日本海軍史です。ページをめくると、いきなりアメリカのホワイトフリー ト来航から話が始まります。 書の構成は「第5部・太平洋時代」、「第6部・建艦休暇期」、「第7部・海と空」 「第8部・太平洋戦争」となっており、海軍の政治的な動きや兵器、編成の変遷が、流 れに沿って述べられているのは、上巻同様です。 この書は巻末に艦名・航空機・人名索引がついており、じっくり読み込む楽しさもさる ことながら、ちょっとしたことを調べたい時等にひじょうに重宝します。海軍の各分野 ごとに小パートに分かれており、まんべんなく学べるのも良点の一つです。 この書は僕自身は日本海軍辞典のような使い方をしているのですが、読者の読み方一つ で、どんどん奥深くなっていく良書でしょう。なお、この書は新装版でも出版されており、 タイトルは「下巻」ではなく「躍進編」と改題されています。表紙は航空戦史のほうが、 「沈没寸前の大和」、新装版のほうが「真珠湾を襲う九七艦攻」です。 |
ソノラマ航空戦史85 |
RAF(イギリス空軍)には連邦諸国から多数の志願者が参加しています。本書の作 者もニュージーランド出身のスピットファイアパイロットです。なかなか歴戦の勇士 でマルタ島作戦にも参加していますし、タングメーア基地群からヨーロッパ大陸へ恒 常的に出撃しています。本書はノルマンディ作戦のあと、フランスへ前進するところ で終っていますが、スピットファイアが最も激しい戦いを繰り広げた1941〜19 44頃の戦闘機部隊の姿を描いています。 バトル・オブ・ブリテンのあとも航空作戦が終了した訳ではなく、ドイツ側はJG2 やJG26の戦闘機部隊が、イギリス側はタングメーアを中心とした各戦闘機中隊が 海峡を挟んで、対地攻撃やファイタースイープの応酬を続けていました。本書はその 通常化した戦闘機の戦いについてを、1パイロットの視点から捉えています。 スピットファイアはイギリスの救国戦闘機といわれているぐらい、人気のある戦闘 機です。開戦時からバージョンアップしながら終戦まで戦い続けました。その作戦は 戦闘機だけの要撃戦闘から、戦略爆撃機や戦闘爆撃機の直援任務も行っており、連日 激しい戦闘を続けていました。もちろんヨーロッパ大陸での戦闘が多い為、撃墜され ると戦死にしろ捕虜にしろ、未帰還となってしまいます。消耗を続けながら、制空権 の確保のため、イギリス戦闘機隊は延々と戦い続けたのです。 空戦記として、本書はなかなか面白く完成しています。特にフォッケウルフとの虚 虚実々の駆け引きは興味をひきます。日本におけるラバウルのような空戦の主戦場で あるため、一度読めれては? |
ソノラマ航空戦史88 |
ソノラマ戦史シリーズでは数多く出ている『Uボート』ものですが、実話ではない 海洋冒険小説的なものは、本書一冊ではないでしょうか。開戦時に新米潜水艦長とな った主人公の、開戦初期を舞台としたUボート戦を描くものです。 といっても、戦史を読みたい人にとっては、かなり物足りない内容かもしれません。 冒険小説としては良く出来た一冊なのですが、僕が読んでも少々アラが目立ちます。 架空艦が多いこと、少々ドイツ軍に対して批判的な視点を持った作者であろうことか ら、全体として(戦史的視点から見ると)まとまりにかけているかもしれません。 とはいえ、Uボート小説としては、かなり細かな描写が面白く、作中にも次々とUボ ートエース達が登場する点等、手軽に読める面白い小説であることは確かです。 本書は絶版となっているらしく、入手はなかなか難しかったのを覚えています。U ボートに興味がある人にはコレクションの一冊としてどうでしょうか? |
ソノラマ航空戦史89 |
航空戦史88「Uボート西へ」の続編です。前編で、味方装甲艦を命令により撃沈した
「UB44」の艦長、ベルグマン大尉の苦闘と葛藤を描いた小説です。
前編で味方艦を撃沈し、多くの友軍を死なせることになったベルグマンは、その従った
命令によってゲシュタポや戦友に厳しい目で見られることとなります。部下も艦長に対
して不信感をあらわし、追いつめられた状況の中でベルグマンは出撃し、戦果を上げ続
けます。 |
ソノラマ航空戦史90 |
手垢が着くまで読んだ戦史といえば幾つか思い付くのですが、そのうち1冊が この書です。木俣滋郎さんは文章もさくさく気にせず読めるのですが、この書も 分かり易いし、読みやすい良い書です。 中身は初心者向け陸軍航空史です。もっとも中級者以上でも充分読み応えがあ ります。陸軍航空隊の発足から太平洋戦争終結までを時系列的に追っかけていき ます。陸軍航空隊のハイライトを中心に各種の逸話、編成等も語られており、主 要作戦も余さず描かれています。陸軍航空隊の作戦といえば、ニューギニア、ビ ルマ、フィリピンが中心になりがちですが、本書は北満州の防衛から大陸作戦、 スマトラ防空まで、細かな点にもフォローがあってボリューム充分です。 海軍に比べて充実度でどうしても陸軍航空史は劣ってしまいますが、なかなか 良い本もたくさんあります。太平洋で米機動部隊と真っ向から戦った海軍航空隊 のほうに注目が集まるのはある意味しょうがないですが、陸軍もそれに負けずに 死闘を繰り広げていたのです。フィリピン戦なんかは陸軍の方に焦点があたるこ とも多いようです。 また本書は空挺部隊についても簡単な記述があります。それほど詳しくはない のですが、空挺部隊は空挺部隊で一冊の本になるところを航空隊全体の中で捉え ることができるので、違った見方ができるかもしれません。 陸軍航空隊に関しては、海軍と違い、バラバラに読み解いている人が多いよう です(僕もそうでした)。この書はバラバラば知識を繋ぎ合せるような読み方も できるので読むと堪能できると思います。もちろん情報量も多いので初心者の人 も楽しめます。 |
ソノラマ航空戦史92 |
この書は戦史ではなく今風にいうなら「架空戦記」です(冒険小説的な内容です が)。さっくりと内容を説明しますと、ドイツの仮装巡洋艦「グロニンゲン」がノ ルウェーのフィヨルドに隠れているのが発見され、B−24爆撃隊が死力を尽くし て攻撃をかける冒険小説的な内容です。イギリスちっくな中身にはなかなかぐっと 来るものがあります。 戦史としての本ではないため、シリーズの中でも非常にマイナーな一冊です。シ リーズ内でもフィクションの作品は幾つかありますが、その何れもヒット作とは言 えない書ばかりなので、どうもシリーズの読者にはフィクション系は求められてい ないのかもしれません。 とはいえ、本書は冒険小説として見た時、とても面白く読めます。「グロニンゲ ン」との死闘で次々と仲間が戦死していく中、残ったパイロット達は「グロニンゲン」 に対して知恵と勇気を振り絞って挑んでいきます。イギリス本国の攻撃機部隊はネ タ的にもかなり珍しいのでそういった点や、作者本人もリベレイターに乗って戦っ ていたためにこそ書くことのできは迫力ある戦闘シーンなんかは興味深いです。 もっとも最近ではあまり本屋に並んでいるのを見ない一冊でもあります。 |
ソノラマ航空戦史93 |
大戦中に日本が建造した最大にして、最も悲劇的な結末を迎えた空母、それがこ の「信濃」です。超弩級戦艦「大和級」の三番艦として、横須賀海軍工廠最大の艦 として建造されましたが、太平洋戦争の勃発と戦局の進展に伴い、その扱いは二転 三転し、超大型の装甲空母として急速建造されることになりました。戦中の資材や 熟練工不足、建造時のトラブル等に見舞われつつも突貫工事を進めて、起工より4 年半後の昭和19年11月に竣工しました。しかし、艤装工事はまだ終了しておら ず、公試もそこそこにB−29の空襲から身を避けるために呉に回航中の11月2 8日、アメリカ潜水艦「アーチャーフィッシュ」の雷撃を受け、完成後わずか10 日で潮岬沖に消えていきました。 本書では、その建艦計画から、紆余曲折を極めた建造過程、竣工から撃沈までの 最初で最後の航海に至るまで詳しく述べられています。幻のように一瞬で消えてい った空母ですが、そこには建造に関わった膨大な造船官、ドック技術者、勤労奉仕 の学生を含む工員達の血の滲むような努力と、信濃とともに沈んでいった乗組員達 がいるのです。資料も関係者も僅かな中、ここまで緻密に信濃についてまとめ上げ た作者の努力は、すごいものがあると思います。 竣工時点で既に、レイテ海戦も終了しており、無事に呉に回航したとしても、信 濃がどれほど戦局に寄与できたかは疑わしいところがあります。艦を動かす燃料は 日本国内からほぼなくなろうとしており、搭載すべき艦載機(零戦、紫電改、彩雲、 天山、流星が計画されており、発着艦公試も実施されています)も残っておらず、 戦隊を組むべき瑞鶴や大鳳、雲竜といった空母も既に南海に沈んでいました。こう した絶望的な戦局の中、竣工した信濃ですが、日本が建造した最大にして最強の空 母という点には変わりありません。信濃についての、その全貌を知ることができる 貴重な本であり、よくまとめられた一冊です。 |
ソノラマ航空戦史94 |
ドイツ海軍の戦いやエピソードを年代順に抜き出していった、ドイツ海軍入門書 です。ビスマルク・シュペー・シャルンホルスト・ティルピッツといった有名に戦 艦の最後から、水雷艇、掃海艇、魚雷艇といった小艦艇の戦いまで、ドイツの水上 艦隊の戦いについてまとめてあります。 日本ではドイツ海軍の水上艦艇はUボートほど人気がないのでしょうか。ビスマ ルクなんかの有名な艦や戦いの本はそこそこ出ていますが、目立たない小艦艇の本 はほとんど見かけることがありません。もともとじみな戦いをしている艦艇ですの で、迫力ある海戦シーンとか描けないのかもしれません。日本海軍に負けないよう な死闘と損害を出しているのですが。 内容の中には日本の特殊潜航艇のような、マメ潜水艇の話や、戦争末期の東部戦 線への海軍艦艇の支援といった日本ではほとんど知られていないようなエピソード も掲載されています。比較的様々なはなしが載っていて、読み応えという面では充 分ある書ではないでしょうか。 |
ソノラマ航空戦史95 |
作者は駆逐艦「萩風」「凉月」の砲術長だった方です。作品の中身も「萩風」 のソロモン戦、「凉月」の比島海戦、菊水作戦での激闘譜です。また開戦時の 進撃やミッドウェーでの活動も述べられています。 特にこの書で印象に残ったのは「凉月」の菊水作戦です。出撃した艦の内、駆 逐艦4隻しか帰還出来なかったこの作戦で、「凉月」は後進のみで最後に帰還し た艦でした。「大和」の沈没や「霞」の処分、死闘の対空戦等、日本艦隊最後の 死闘が余すところなく描かれています。駆逐艦から見た菊水作戦はそれまで「雪 風」の視点でしか見たことがなかったので、かなり新鮮に感じた記憶があります。 「萩風」もソロモンで死闘を繰り広げ、遂にベラ湾海戦で沈んだ艦ですが、ど ちらかというとこの書では記述が控えめなようです。緒戦からミッドウェーにつ いてはかなり詳しい記述がありますが。両艦とも日本駆逐艦の主力であり、主要 な作戦に参加している功労艦です。どちらも機動部隊の直援艦としても使用され ており(ただし比島の小沢艦隊に「凉月」参加していません。「雲竜」や「隼 鷹」の直援艦はしています)、日本海軍の屋台骨を背負った艦ともいえます。 この書は日本海軍が敗勢に追い込まれた時期の記述が中心ですが、駆逐艦がど のような戦いをしたのかについての理解にはひじょうにありがたい書です。 |
ソノラマ航空戦史97 |
特型駆逐艦の一艦として、太平洋を縦横に駆け巡った駆逐艦「五月雨」の太平洋戦争 開戦より喪失までの戦記です。この書の面白いところは1水兵の日記を元に紙面を構成 しているというところでしょう。こういった書き方は艦長や艦の幹部の立場からなら、 ままありますが、水兵の立場から継続的に書かれたものは少ないのです。
「五月雨」は開戦時はフィリピン攻略支援、その後インドネシア方面に向って、スラバヤ
沖海戦を戦い、ミッドウェー海戦には直衛艦として参加します。 本書は何月何日に何が起ったという形式で、日記調に進んでいきます。当然こき使われた 艦なので、ページをめくるたびに戦闘の描写となります。水雷戦隊の一艦として突撃も 何度も経験しており、日本駆逐艦の典型的な一艦と言えるでしょう 。描写もなかなか緻密 で読み応えも充分です。 |
ソノラマ航空戦史99 |
第二次世界大戦中、大西洋とインド洋、さらには太平洋にまで進出して通商破 壊戦で活躍した、ドイツの仮装巡洋艦「アトランティス」の生涯を描いた書です。 作者は「アトランティス」の艦長をしていた方で、その竣工から大西洋でその生 涯を遂げるまで、艦を指揮していました。 ベルサイユ条約によってドイツ海軍はその戦力を著しく制限されていました。 その結果、ドイツ海軍はイギリスの艦隊と正面切っての作戦を諦め、Uボートを 中心とする通商破壊戦にシフトします。Uボートはその隠密性から、通商破壊戦 のは最適でしたが、艦の性質上、根拠地から遠く離れた場所での長期の破壊戦に は向いていません。そこで、ドイツは高速商船に武装を施して仮装巡洋艦とし、 南大西洋やインド洋に放ったのです。 有名な仮装巡洋艦は「ペンギン」「オリオン」「トール」等がありますが、その中 でも「アトランティス」は最も活躍した艦の一つです。およそ2年に及ぶ作戦航海 は地球を一周し、戦果は22隻、14万5千トンにも上ります。また、船舶への攻 撃のみではなく、他の通商破壊船やUボートに対する補給といった任務も果たし、 通商破壊戦全般の支援任務も行っていたのです。 仮装巡洋艦はその性質上、正規の巡洋艦とは相手にもなりません。また、過度 の武装を搭載している上に、ほぼ非装甲なので、日本の「愛国丸」のように一発の 被弾が致命傷となることも多いのです。「アトランティス」は細心の注意と、様々 な作戦や欺瞞によって、大きな戦果を上げることができました。しかし、仮装巡洋 艦という限られた性質の艦であるため、結局最後はイギリス巡洋艦に撃沈されてし まうことになります。 本書は仮装巡洋艦の作戦や、その乗組員の活動、当時のインド洋の連合側の海上 護衛状況等が克明に描かれています。大海戦のような記述は一切ありませんが、こ れもまた一つの海戦の姿に違いありません。ひじょうに興味深く読めて、僕のお気 に入りの一冊です。 |
ソノラマ航空戦史100 |
西海岸、北方、ソロモン海と転戦して活躍した「伊17」の行動を、当時電信員だっ た乗組員が自伝記的に起こしたものです。潜水艦内での苦しい生活、襲撃行動の緊張 感や、爆雷攻撃の恐怖等が、生々しく書かれています。筆調は日記のように日付順に 書かれていて、潜水艦の日々の行動が意識できるようです。 潜水艦戦記というのは、だいたい艦長が書いた物のみがよく本になり、単なる一乗 組員の視点からのい書は少ないものです(丸の長篇戦記等には結構ありますが)。潜 水艦の歯車として、全力を尽くした水兵達の活躍がしっかりと描かれていて、親近感 もてる作風に仕上がっていますし、目玉となる活躍も、米本土攻撃、ソロモン水域で の活動もしっかり記述されています。 本書をもって航空戦史は終了し、新たに新戦史シリーズへと切り替わります。もっ とも中身はあまり変わらず、そらなるバリエーションの拡大ということです。このソ ノラマシリーズには潜水艦戦記が相当数含まれていますが、一水兵の立場から見た書 はほとんどありません。そうした意味でも本書は珍しく、興味深いといえます。 |