ソノラマ新戦史シリーズの解説



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ソノラマ新戦史52


兵器とベトナム戦争

岩堂憲人
\880
1992.6初版発行

第二次世界大戦集結より、長きにわたって続いたベトナム独立の戦いをコンパクトにまとめた 一冊です。特にフランスよりの独立戦争の章に多くのページを割いており、これが他のベトナム 戦争の本と一線を画すような仕上がりになっています。

フランス軍の撤退と、その後の政治の混乱と、米中を始めとする大国の介入の中、ベトナム解放軍 がどのように戦ったかを、しっかりと記述しています。
ベトナム戦争はゲリラ戦の代名詞のような戦場でしたが、そこでの戦術や利用された各種兵器についての 解説もしっかりされています。もっとも、兵器については、同じく新戦史シリーズで出ている「ベトナム 戦争兵器ハンドブック」のほうを参照するのもいいかもしれません。

主に政治的な流れを簡単に追いながら、主要戦闘についての解説がまとまられています。普通にベトナム 戦争の本を買うと、どうしても政治色の強い書き口から書かれているものも多い状態ですが、本書は比較的 そういう色は少な目です。
圧倒的なアメリカ軍の火力の前に、ベトナム軍はゲリラ戦で対抗せざるを得ませんでしたが、もちろん 正規師団や重装部隊も保有しています。そういった情報も多数のっているのも、本書面白いところの一つです。




ソノラマ新戦史54


地中海の戦い

三野正洋
\880
1993.6初版発行

日本において、第二次世界大戦時の地中海戦線はそれほど注目されないようです。理由 としては、枢軸側のドイツ・イタリア海軍の戦歴がぱっとしない事、大規模な艦隊戦が発 生していない事、主要戦闘が輸送船団の護衛任務から生起したものばかりで、目立たない 事等でしょうか。最も戦闘がなかった訳ではなく、第二次世界大戦勃発から欧州での戦争 が終了するまで、小粒ながら激しい戦闘が連続して発生しています。

日本ではイタリア海軍やフランス海軍は弱かった、との印象が強くあります。実際問題 として、それはある意味真実なのですが、伊仏海軍の全てがそうではなく、かなりの善戦 をしている戦場も多くあります。地中海の戦場は勢力や政治的に錯綜が激しく、個々の戦 闘が戦局にどう影響しているのか見え難い点があるますが、各国海軍の活躍をポイントと して捉えながら、その分かり難い地中海戦線の解説をしているのが本書です。

本書のメインはイタリア海軍です。イタリア海軍の戦備や、参加した各海戦、時系列的 な戦場の経過等でまとめられています。本書を読むと確かにイタリア海軍は活発な活動を していないことがわかります。しかしながら小艦艇を中心として、かなりの戦果を挙げて いる点、マルタ島を中心とした戦場での死闘は、決して何もしなかった訳ではないことが 理解できます。

イタリア海軍は日本海軍に劣らない損害を出しており、燃料や後方支援問題を抱えてい た点も同様です。海軍の戦略として消極的であった点や、明確な戦略方針がなかった点等 が艦隊活動を充分できなかった理由として考えられますが、個々の艦長や兵員達は全力を 挙げて戦っていたのもまた事実です。あまり、知識のない戦場ですが、読んでいくとなか なか勉強になる一冊です。




ソノラマ新戦史56


最後のドイツ空軍

A・プライズ
\980
1993.12初版発行

1944年より終戦までのドイツ空軍の最後の死闘を項目ごとに並べて、何故ドイツ空軍 が崩壊したのかを、わかりやすく解説しています。
1944年に入った頃、ドイツ空軍は280万の兵員と戦闘用機4500機、相当数の練 習機に、20を超える高射師団と空軍師団を保有していました。装備機もロケット機やジ ェット機の実戦配備の手前まで来ており、機材や燃料生産も戦争が始まって以来、最高の 値を示していました。では、何故、その後に雪崩をうつように敗北していったのでしょう。

本書では、各戦線やセクションごとに敗北の原因をまとめています。ここで、主なものを 幾つか挙げますと、
1.レシプロ戦闘機の性能差・・・西部戦線での、Bf109G、Fw190とP−47、 P−51との比較性能で、それまで圧倒的だったドイツ戦闘機の性能が逆転することに なりました。
2.前線航空機の数的格差・・・それまでも劣勢だったドイツ空軍ですが、搭乗員の技量と 機材によって何とか互角の戦闘を繰り広げていました。連合軍の航空生産が本格的に軌道 に乗り、少々の技量や航空機性能では太刀打ちできなくなったのが、44年です。この時期、 東部戦線での空戦では、ソ連側は常に5倍から10倍の戦闘機を投入していました。
3.生産・開発の混乱・・・有名なものとしてMe262の爆撃機型の量産が挙げられますが、 親子爆撃機としてのミステルや、ろくにテストもしていない各種の航空機が次々と生産ライン にのせられ、乏しい生産力を圧迫しました。連合軍の戦略爆撃による輸送路の崩壊も、生産力 の低下の要因となっています。

こうした解説を各戦線での死闘と織り交ぜながら、本書では読み取ることができます。しかし、 1944年は連合軍空軍が最大の損害を出した年でもあり、戦略爆撃兵団などは損害で血みどろ になりながら、ドイツを爆撃していたのです。崩壊前のドイツ空軍の最後の光芒もしっかり分かる 一冊です。

あと、資料的なものとしては、この時期の空軍各方面の部隊解説と保有機数が挙げられています。 これもなかなか調べるとたいへんな項目なので、結構重宝する一冊となります。




ソノラマ新戦史58


激闘艦爆隊

小瀬本国雄
\850
1994.2初版発行

開戦から終戦まで、太平洋を艦爆乗りとして戦い続けた著者の自伝記です。ハワイ海戦 インド洋・アリューシャン・ソロモン・マリアナ・レイテと戦い続け、最後は攻撃第五飛 行隊の特攻待機として本土で終戦を迎えました。その間、九九艦爆、彗星、流星と常に艦 爆で戦いました。

攻撃機・爆撃機要員で開戦から終戦まで生き残った搭乗員はほとんどいません。機動部 隊への対艦攻撃は、圧倒的な防空火力によって次々と落とされていったからです。特に米 艦隊が近接信管を防空火力に使用しはじめてからは、急速に消耗率が上昇しました。常に 空母艦爆隊として戦い続け、終戦まで生き残った方は筆者を含めてほんの僅かでしょう。

当然、空母に乗り続けていたため、筆者は数々の海戦に参加しています。乗った空母も 加賀、蒼龍、隼鷹、瑞鶴と日本海軍の主力空母ばかりです。250Kg爆弾を抱えて、敵 艦に急降下を仕掛けた回数も数え切れません。そんな修羅場を潜り抜けた筆者の自伝だか らこそ、ひじょうに読み応えがあります。

全編航空戦の連続である本書は読んでいて飽きがきません。僕も何度も読み返しました。 空戦シーンも迫力満点で、たいへん面白いものです。本書は再版のかかった一冊ですから まだ手に入りやすく、見かけたら読んでよんでみることをお勧めします。



ソノラマ新戦史60


エムデンの戦い

R・K・ロックネル
\820
1994.4初版発行

第一次世界大戦でインド洋、太平洋をトコロせましと暴れまわった、最も有名な通 商破壊艦、ドイツ軽巡「エムデン」の戦記です。わずか3600トンの艦で、しかも 全く援護のない単艦でのその活動は、第一次、第二次世界大戦双方を見ても、最も活 躍した艦として挙げたとしてもそん色ない活躍をしました。

第一次世界大戦が始まった時に、「エムデン」は青島の東洋艦隊に所属していまし た。東洋艦隊所属艦は開戦後3つのグループに分かれます。一つは装甲巡「シャルン ホルスト」「グナイゼナウ」を中心とした主力艦隊で、これはフォークランド沖海戦 で死闘を繰り広げた部隊です。二つ目は青島に残留した軽艦艇で、日本の青島攻略時 に沈んだり、中国に抑留されたりしています。そして、最後は東洋方面に残留して、 通商破壊戦に投入されたグループで、この中に「エムデン」も入っています。

「エムデン」は、そのバランスのとれた戦闘力と高速を持って、連合軍の追撃部隊 を振り切りながら、着々と戦果を重ねていきます。最後はココス島の通信所を破壊し ようとしていた時に、戦闘態勢の整わないまま、英連邦の巡洋艦「シドニー」に撃沈 されますが、沈む瞬間までインド洋の航路帯に大きな影響を与えていたのです。本書 はその「エムデン」の活躍と、「エムデン」沈没後の乗員の苦闘までを描くかなりの 大作となっています。「エムデン」は日本でも名前は良く知られていますが、なかな かその活動を全て述べた本は少ないので、一次大戦に興味のあるかたには価値ある一 冊と言えます。



ソノラマ新戦史61


死闘の水偵隊

安永弘
\1000
1994.5初版発行

この本もかなり貴重な一冊でしょう。艦隊水偵隊についての自伝は、この書の他にほと んど見たことがありません。ショートランドに基地を置いた「R方面航空隊」や「938 空」といった基地水偵隊の回想録は結構目に付くだけに、この本は興味深く読ませて頂き ました。

もともと水偵は、主力艦や巡洋艦に搭載して、弾着観測や航空偵察を実施するために発達 した機種です。大戦中の日本海軍は、この機種を最も活用した海軍といってもよいでしょう。 何せ、夜間偵察専用の水偵や、さらに発達した水上戦闘機、水上爆撃機まで開発して、潜水 艦にまで搭載して利用したのですから。

著者は昭和15年に水偵専攻を出た後、終戦直前まで艦隊水偵一筋に生き、連合艦隊壊滅 後は艦偵「彩雲」のパイロットとして、激戦の中を最後まで生き残ったベテランパイロット です。その間、スラバヤ沖海戦、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦、マリアナ沖海戦、レ イテ海戦等に索敵参加し、さらにソロモンの基地水偵隊に応援として駆けつけたりして、日 本艦隊の戦い振りを空から眺め続けました。終戦直前には偵察第11飛行隊に所属して、「 彩雲」を駆って、米機動部隊の索敵作戦に参加しています。

海戦に多く参加しえいるため、本書は海戦描写が多くあらわされ、さらに海戦前の艦隊勤 務の楽しさや、終戦直前の死闘など、とても中身の濃い内容です。1000円と少々高めで さらには結構分厚いのですが、読み応えと言う点では抜群の一冊です。特に、水偵魂とでも いうのでしょうか。下駄履きパイロットの生き方や生活が良く分かり、空戦記としては、第 一級の仕上がりになっています。

本書は発行時期が遅かったのと、再版がかかったようなので、大きな書店に行けばまだ入手 可能です。下駄履き機という一風変わった視点から空戦を見てみたい人には是非お勧めの一 冊です。



ソノラマ新戦史63


駆逐艦戦隊

遠藤昭/原進
\600
1994.7初版発行

日本駆逐艦史を、その黎明期より太平洋戦まで描いた作品です。各国が駆逐艦を進化させて いったのと平行して日本駆逐艦がどのように発展したのかを、時代背景や主要各タイプの特徴 を紹介しつつ、説明しています。
特に各艦の兵装や、予定艦名等の紹介は充実しており、駆逐艦の建艦計画等をまとめるのには 最適の一冊となっています。

建艦計画的な観点から駆逐艦史を捉えている為、血沸き肉踊る夜間水雷戦といった海戦解説は 前半パートにはありません。駆逐艦の各タイプの計画の細かなチェック等が中心です。日本の 駆逐艦がどのように建造されていったかという点で本書前半は捉えて下さい。

後半は「沖風」「春雨」に乗艦して激しい海空戦を経験した原進氏の海戦記です。工作兵として 乗り組み、南東方面での輸送作戦に死闘を繰り広げます。「春雨」はビアク島支援の「渾作戦」 で沈みますが、それまでもウエワク輸送時に大破したり、危うくトラック大空襲の難を逃れたりと、 苦労している艦です。
「春雨」乗艦記は読みやすい文体で、駆逐艦での生活や戦闘がどんなものかが良く分かります。 前半の駆逐艦史紹介と合間って、なかなか面白い一冊に仕上がっていると思います。



ソノラマ新戦史67


海軍落下傘部隊

山辺雅男
\602
1994.11初版発行

ヨーロッパでの戦争が開始された当初、ドイツの降下兵部隊は要塞陣地の攻略に大きな威力 を発揮しました。それに触発され、日本陸海軍でも空挺部隊が創設され、太平洋戦争初期に 「空の神兵」として、大々的にクローズアップされたのは、知っておられる方も多いと思い ます。
筆者は海軍の落下傘部隊の創設時より幹部として練成に加わっており、激しい訓練の後、有 名なメナド・ランドアン飛行場降下作戦に中隊長として参加しています。その後、チモール 島クーパン飛行場降下作戦に参加し、その後、地上部隊として、周辺島嶼の制圧を実施しま す。

しかし、戦況は徐々に不利になり、多数の輸送機と絶対制空権を必要とする空挺作戦は実施 できなくなり、落下傘部隊はサイパン島び集結したまま、待機部隊として切歯扼腕する時期 を過ごします。そんな中、筆者はもはや実施されることはないであろう落下傘降下作戦に見 切りをつけ、特殊上陸戦用の陸戦隊に自分の中隊を改編、ソロモン海域での奇襲作戦に望み を繋ぎます。特四式内火艇を利用した「S特部隊」ですが、ラバウル。トラックで立ち往生 の形となり、その間にサイパンの降下部隊主力は玉砕してしまうのです。

筆者は終戦直前、内地への帰投を命じられました。それは新編された特別陸戦隊を用いて、 マリアナ諸島のB−29基地への決死空挺作戦「剣作戦」に参加せよとのことだったのです。 落下傘部隊の経験のある兵や、日本中の一式陸攻を掻き集め、なんとか出撃準備をしましたが、 空襲で輸送機が焼かれ、時間がかかっているうちに終戦を迎えてしまったのです。

海軍落下傘部隊の書物は結構数が出ていますが、部隊の中級指揮官の実戦記はこれが唯一の ものではないでしょうか。落下傘部隊の創設から終焉まで参加されていたので、その歴史や 訓練・装備品についても記述が豊富で、是非お勧めの一冊です。



ソノラマ新戦史68


空母零戦隊

岩井勉
¥780
1994.12初版発行

零戦隊といえば、ラバウル零戦隊がまず来るのですが、当然空母にも多数の零戦隊が ありました。艦上戦闘機なので当然といえば当然ですが。「紫電」等地上で使う戦闘機と 異なり、艦戦は色々な制約があるため、性能がどうしても押えられます。ですが、艦戦と してみた零戦は一流の戦闘機でした。
当然、基地戦闘機隊のほうが、空母戦闘機隊よりも数が多くなります。開戦時に空母がたくさん あっと時は別としても、空母はたまの戦闘に出撃するのみで、連日連夜の激戦を繰り広げる 基地戦闘機隊に華があるのは仕方ないかもしれません。
筆者は戦闘機乗りになってから、中国戦線をくぐりぬけ、太平洋戦争中は「瑞鳳」「瑞鶴」と 歴戦の母艦に乗り続け、最後の空母零戦隊として戦いました。空母艦載機隊の名門である、 「601空」に所属して分隊士として、その中心になっていた方です。

レイテ戦前に「瑞鶴」に転勤しましたが、筆者はずっとそれまで「瑞鳳」にのっていました。 「瑞鳳」は「翔鶴」級の2隻とともに、ソロモン・マリアナ・レイテと開戦より、機動部隊壊滅 まで数々の海戦に出撃した殊勲艦です。
軽空母のため、中隊編成の零戦隊しか詰めませんでしたが、ニューギニア・ソロモン方面では、 数少ない空母として、縦横無尽の活躍をしました。
当然空母部隊は発着艦という特殊技能を持つ為、精鋭が揃っています。これらの空母部隊は、敵機動部隊 攻撃や、ラバウルの臨時戦闘機隊として陸揚げされての戦闘、さらにはレイテ後にフィリピンで 酷使されるという過酷な戦闘を続けました。
戦記もので零戦ものはけっこうありますが、空母機動部隊という視点で捉えたものは結構すくないです。 そういう意味では、貴重な一冊ですので、読んで欲しい本でもあります。



ソノラマ新戦史69


ドイツ夜間戦闘機

木俣滋郎
\800
1995.1初版発行

この本は表紙を見た瞬間、レジに飛んでいってしまいました。「He219だ!」っ て。ちなみに、He219は政治的な問題でたいして活躍できなかったのですが、文句 なくドイツ最強のレシプロ夜間戦闘機です。僕の好きな戦闘機の一つでもあります。

タイトルからもわかるようにドイツ夜間戦闘機史です。その誕生から敗戦までの戦い をまとめてあります。日本本土防空戦はB29という、日本戦闘機にはどうすることも できない高性能機との戦いで、一方的な空襲となってしまった観がありますが、ヨーロ ッパの方では、レーダーを始めとする電波兵器の開発合戦、イギリスの空襲とドイツの 防空戦術が、生き馬の目を抜くような激しさで展開されました。4発重爆の連日の千機 空襲と、毎回数十機を撃墜する防空部隊の奮戦は太平洋方面とは少し規模が違います。

太平洋ではB29の300機が高々度からの精密爆撃(のちに低高度無差別爆撃に転 じましたが)であったのに対し、ヨーロッパではアブロ・ランカスターを中心とする千 機もの4発機の集中攻撃でした。それに加えて昼間はB17が数百機まとめて空襲をか けています。一方のドイツ空軍では攻撃一辺倒のその性質から、防御専門の夜間戦闘機 隊はなかなか増強されず、乏しい戦力を必死にやりくりして重爆陣に立ち向かいます。 レーダーによる防空管制と機載レーダーとサーチライトによる防空戦は、両軍の電波戦 がどんどん熾烈になりつつも、終戦まで続いていきます。

あまり、注目はされませんが、夜間戦闘機陣はドイツ空軍の一翼を担ったのは間違い ありません。日本同様にドイツも焦土になったといえますが、破局をさけるために持て る力の全てを出して戦いました。ソノラマシリーズの中でもお気に入りの一冊です。



ソノラマ新戦史74


戦闘機対戦闘機

三野正洋
¥650
1995.6初版発行

戦闘機についての総合的な分析を行なった一冊です。第二次世界大戦に参加した主要国の 主要戦闘機について、そのカタログデータや戦歴より、総合戦闘力を数値化して比較しています。

第二次世界大戦では各国がその国の特性を出して、様々なタイプの戦闘機を開発しました。 上昇力に優れ、急降下ダイブが得意だが、航続性能は低いドイツ戦闘機、低高度での速度性能に 優れ、対地攻撃にも考慮したソ連戦闘機、航続力と旋回性には優れているが、防御力と高々度性能は 低い日本機等です。
戦闘機の性能は、その戦闘機が使用される戦場環境や戦略等で変化するので、一概に比較は出来ませんが、 出来るだけ客観的に捉えようとしたのが、本書です。主要戦闘機については写真やカタログデータも掲載 されており、戦闘機の初歩教科書としては充分な内容になっています。
実際に戦闘機はかなりの数が紹介されており、有名な戦闘(バトルオブブリテンやアフリカ戦線、ソロモン 戦線等)も記述があるので、なかなか読み応えがあると思います。



ソノラマ新戦史75


東部戦線の独空軍

R・ムラー
\950
1995.7初版発行

ソノラマシリーズには似た名前の「西部戦線の独空軍」という本があります。そちら がJG26という精鋭戦闘機隊の興亡を描いたものだったに対して、この「東部戦線の 独空軍」は東部方面を中心としたドイツ空軍の戦略面を中心にして描いています。

ドイツ空軍が戦術空軍だったというのは、よく言われることですし、実際ほぼ事実と 言えるでしょう。地上軍の上空の制空権を確保し、機甲部隊の突進を援護するための 近接対地支援がその任務でした。爆撃機部隊の主任務も、前線近くの物資集積所・操車 場・航空基地の無力化が中心でした。その結果、地上部隊の電撃戦を成功の主要原因と なる代わりに、連合軍の戦争遂行能力を奪うという「戦略空軍」の力を持つことが出来 なかったのです。

本書ではドイツ軍の主戦場と言える東部戦線の空軍の活動を描きつつ、ドイツの爆撃 機部隊が遂に持つことの出来なかった「戦略爆撃機兵団」への挫折の道と、戦略面での 敗北によるドイツ空軍の無力化への道程が描かれています。

東部戦線を僕は3つの時期に分けて考えています。最初はバルバロッサ作戦で始まっ たドイツ軍の進撃、これはモスクワ前面でのドイツ軍の停滞とソ連軍の反撃、善く42 年の「青」作戦とスターリングラードの崩壊までの時期です。
次の時期が43年から44年にかけてのソ連側の大反撃とドイツ軍の機動防御の時期 です。この時期はハリコフ防御戦、クルスク会戦、クリミア半島戦等が含まれます。 最後の時期がドイツ軍中央軍集団の崩壊に始まるソ連軍の大進撃です。この終焉がソ 連軍のベルリン攻略で終了します。

当初、第一期ではドイツ軍の近接空軍はその快進撃に大活躍しました。圧倒的に少な い戦力を有効に集中してソ連空軍を崩壊させ、モスクワ前面まで進撃したのです。しか し、この空軍の栄光もスターリングラードで輸送機部隊が訓練部隊ごと壊滅することで 陰りが見えはじめます。
その後、ドイツ本土への空襲やイタリア方面の戦局の悪化に伴い、東部戦線のドイツ 空軍は戦力をすり減らしながら戦うこととなります。この時期にソ連側の継戦能力の主 要因となる戦車工場と航空機工場、さらには工業の基幹となるダムを破壊するために、 爆撃機を結集して戦略攻撃能力を持つ重空軍を建設しようという動きが高まりました。 この動きとその結果は本書に載っていますが、最後まで戦術空軍として戦ったドイツ空 軍は史上最高の戦果を上げつつ、崩壊していきました。

本書は日本ではなかなかお目にかかることのない東部戦線でのドイツ空軍の活躍を伝 えている上、その戦略方針等も丹念に研究されている一冊です。取っ付きにくい点も多 少ありますが、ドイツ空軍ファンとしては是非一度読んでおきたい一冊です。



ソノラマ新戦史76


首都防衛302空(上)

渡辺洋二
\980
1995.8初版発行

 302空といえば、斜銃狂いの小園司令の率いる防空戦闘機隊ですが、もともと日本では 防御という概念が希薄なため、この部隊の編成にはたいへんな苦労がありました。上巻はその 苦労をまとめて、日本の主力防空部隊として確立するまでをまとめています。

 斜銃はB−17の夜間爆撃に苦しんでいたラバウルの零戦隊のために準備されていたものですが 発案者の小園司令は零戦全部に斜銃をつけろ等とのたまわったため、閑職の厚木空任務にまわ されてしまいました。
厚木空は戦闘機部隊ですが、夜戦の研究等も進められていました。ここで斜銃と合体して、関東 防空部隊の基礎ができたのです。

 さて、本書は日本最大の防空戦闘機隊「302空」(最強と書くと色々異論のある方もおられるでしょう から)の誕生と、B−29の本土来寇の直前まで、つまり昭和19年末までの歴史を描いています。雷電・ 彗星・銀河等、他の戦闘機隊ではろくに与えられなかった新鋭機(他は零戦ばかりですし)を運用・研究 しつつ、関東圏の防空任務にあたっていたわけです。
 本土防空戦闘については下巻のほうに詳細に記されています。この次期は偵察機型のF−13の迎撃 (一度も成功しませんでしたが)や、翌年に比べると小数機の航空爆撃の迎撃等に終始していますし。
この部隊は日本海軍の戦闘機隊でも、204空(ラバウル航空隊)や343空(紫電改部隊)等と並んで、 最も著名な部隊ですから、簡単な話は読んだ事がある方も多いと思いますが、ここまでみっちりと書き込んだ 書物はなかなかないと思います。



ソノラマ新戦史77


首都防衛302空(下)

渡辺洋二
\980
1995.8初版発行

編成後、たった一年半で終戦により解体されてしまった首都防空の切り札「302空」の話、上巻は結成から昭和19年中 の動きについてまとめられていましたが、下巻は死闘の年、昭和20年の戦闘と終戦後の決起騒動についてがまとめられています。

司令官小園大佐以下、個性的なメンバーで構成された302空ですが、その真価が発揮されたのは、昭和20年の本土空襲が 本格化してからのこととなります。B−29の低空無差別攻撃が始まったことにより、日本中の都市は焼け野原にされてしまいますが、 高空性能の貧弱な日本戦闘機にとっては、自分のもっとも得意な空域での防空戦が展開できることにより、戦果が一気に拡大 します。もっとも、硫黄島からP−51が護衛につき始めると損害も一気に拡大することになりますが。

昭和20年の海軍戦闘機隊といえば、この302空と紫電改の343空が著名な2部隊ですが、本書はその複雑な302空の編成と、 戦闘のあらましを詳しく解説してあり、日本でもっとも充実した航空戦記を著す渡辺洋二さんの真骨頂が発揮されていると思います。 その圧倒的な資料とインタビューの量が、本書の読み応えをますます高めています。

あと、本書でもう一つの目玉としては、終戦後の継戦派により決起騒ぎです。これは終戦時の話をする際に、近衛第一師団のクーデター 騒ぎと並んで有名な話ですが、あまり世間では知られていません。本書はその一部始終は様々な資料から検討してまとめてあります。



ソノラマ新戦史79


陸攻と銀河

伊澤保穂
\1200
1995.10初版発行

読後、感想は「惨い戦だなあ」の一言です。陸攻隊の誕生から終戦までの苦闘が一冊 にまとまった価値ある本です。陸攻関係の本では、ソノラマ戦史85・86の「海軍陸 上攻撃機(上・下)」(巌谷二三男作、旧題「中攻」)があり、そちらが陸攻指揮官の 激しい戦闘を荒々しく表しているとすれば、本書は陸攻隊全般を数値的に分析した書と 言えるでしょう。

日本の陸攻(銀河は陸爆ですが)は、「ワンショットライター」の異名を敵から与え られるほどの脆さが常に付きまといました。味方からも「一式ライター」と呼ばれてい たそうですし、そんな機体で機動部隊の輪形陣に突っ込んでいった搭乗員の闘魂には、 ただ頭の下がる感じです。開戦劈頭の「プリンス・オブ・ウェールズ」と「レパルス」 の撃沈、日本中を注目させた「渡洋攻撃」、陸攻作戦史最も悲惨な部隊となった「神雷 部隊」等、これまでに陸攻関係の記事は多数が書き記されてきました。しかし、戦史で はほとんど取り上げられない部隊や作戦も数多くあり、多くの搭乗員達が帰ってきませ んでした。

本書では、陸攻関係のほぼ全部隊と未帰還機一覧という、ものすごい資料が巻末に付 加されています。1200円と比較的高く、幅2センチもの厚い本ですが、うち3分の 一はそれらの資料です。陸攻関係の資料としては、まず絶対に押さえておきたい一冊と 言えます。そして、陸攻部隊の作戦が紹介されていきますが、陸攻の作戦は常に未帰還 機が付きまといます。17機中15機未帰還や26機中20機未帰還といった記述が随 所に見られ、どう考えても、作戦と機種整備行政上のミスを搭乗員が命で払っていると しか思えません。巻末にずらりと並ぶ未帰還機表を見ても、その思いは強まります。

陸攻隊の役割はマリアナ海戦で大損害を受けた時点で、ほぼ終了したとみて良いでし ょう。このあとも、フィリピン、沖縄と苦闘を続けますが、特攻機を出してもたいした 戦果を上げる事が出来ませんでした。実際に対潜哨戒や機雷敷設といった任務も増加し ています。陸攻隊の貧弱な防御力では、近接信管まで使用し始めた米艦隊に肉薄するこ とは不可能となっていたのです。日本機全般の弱点となった防御力の弱さという点を、 最も良く現し、最も血を流した部隊史と言えるかもしれません。



ソノラマ新戦史82


ソロモン海戦

遠藤昭
\650
1996.1初版発行

本書はソロモン海戦と銘打っていますが、ガダルカナルの巡る戦闘に限定した 海戦分析書です。重点を置いているのが、第一次・第二次ソロモン海戦と南太平洋海戦、 それに第三次ソロモン海戦の4海戦です。そして、後半は戦艦比叡の海戦状況 と戦力分析、喪失要因について詳しく述べられています。

ガダルカナルを巡る争いは太平洋戦争でも分水嶺であったのは、誰もが認める ところです。その後も数次の大海戦があったとはいえ、両軍がその時点で持てる 総力をあげて戦い、結果として連合軍が競り勝ち、戦争の主導権が後退したわけです。

とは言え、連合軍も決してらくな戦いをしていたわけではありません。本書に述べら れている諸海戦は両軍がほぼ互角の戦いをしていたのです。第一次ソロモン海戦は日本 の完勝、二次は連合軍側有利、第二次ソロモン海戦は戦果を見れば日本側の勝利(搭乗員 の問題等いろいろありますが)、第三次ソロモン海戦は日本側が戦艦2隻を失っていますが、 連合軍側も「サウスダコダ」の大破を始め、多数の艦艇に損害を出しています。

この後の海戦はレーダーや連合軍側の航空優勢が絶対的になり、日本が一方的に押し捲ら れます。ガダルカナルを取れたとしても、維持出来たかどうかに疑問なところもあり、 昭和17年一杯が日本側が戦力的互角に戦えた限界でしょう。そういった意味ではガダルカナル の戦いにおける両軍の作戦分析は戦力が互角だったという点で面白くなります。

本書はある程度の太平洋海戦の知識がある人向けに書かれているようです。そこそこ知識が なければ?と言う点もあるように見受けられます。とは言え、簡易な文章で書かれており、 読みやすい良い本だと思います。後半の戦艦の配置や構造の解説もなかなか勉強になるので、 読んで見ても充分満足出来ると思います。



ソノラマ新戦史83


西部戦線の独空軍

D・L・コールドウェル
\1200
1996.2初版発行

戦争中、一貫して西部戦線で戦い続けた戦闘機部隊「JG26」、イギリス側からは 「アブヴィル・キッズ」と呼ばれて恐れられた「シュレゲーター戦闘航空団」の隊史で す。西部戦線には他に、JG1、とJG2も展開していましたが、それらの部隊の話も 少し出てきます。

戦争当初は西部戦線にはドイツ軍航空部隊が多数展開していたのですが、地中海や東 部戦線が忙しくなるにしたがって、少しづつ移転していき、「JG2」と「JG26」 の総数200機が西部戦闘機隊の主力となりました。もちろん、この両隊からは多数の エースが輩出し、イギリス戦闘機部隊の大陸への進出をはばみ続けていたのです。

1個の戦闘機隊に対する戦史としては、かなり秀逸な部類に入るものだと思います。 日本でいうなれば、ラバウル戦闘機隊のようなものなので、ドイツ国民からの注目も常 に集め、連合国側からも目の敵とされていました。フランス侵攻、英本土航空戦、戦争 中盤の戦闘哨戒任務、ノルマンディ、後退しながらの激しい邀撃戦、ボーデンプラッテ 作戦、そして終戦と5年もの戦闘には様々な逸話を生み出しています。それらを1冊に 凝縮して、個性的なパイロット達とともにまとめた本書は空戦記の良書の一つでしょう。 西部戦線の航空戦がどのように推移したのかを学ぶ上でも、たいへん役に立つ一冊とい えます。ひじょうに分厚い本ですが、前3分の一が英本土防空戦、真ん中が両軍の戦闘 哨戒戦と連合軍の空襲の邀撃戦、残りがノルマンディ以後の苦闘となります。

まだまだ書店で入手可能な本ですので、興味があるなら是非!



ソノラマ新戦史84


続戦闘機対戦闘機

三野正洋
¥650
1996.3初版発行

新戦記74の「戦闘機対戦闘機」の続編です。前回が第二次世界大戦の戦闘機の紹介だった ので、今回はそれ以後のジェット戦闘機の話となっています。
ジェットの戦いというと、朝鮮戦争のF−86対MIG15、ベトナム戦争のF−4対MIG21、 フォークランド紛争のハリアー対スカイホーク等があり、ジェット同士の戦闘もこの50年で 随分と発生しています。
ジェット時代の空戦は第二次大戦以上にパイロットの腕が重要になりました。戦闘機が高度化し、 専門の教育を受けた人間にしか操縦できなくなった為、教育レベルと経験が如実に戦闘結果に反映 されるようになったのです。朝鮮戦争やベトナム戦争でアメリカ製機とソ連製機のキルレシオが随分 差があるのは、機体性能よりパイロットに主な要因があるようです。実際80年代に入って完成した ソ連機は、電子装備以外は西側の同レベル機に対して優位に立っています。

今回も前作と同様にカタログデータや実戦での結果より、戦闘機の性能を数値化し、多種多様な 戦闘機を比較しています。また、主要な空戦についてもページを割いて紹介しています。
ソノラマシリーズでは朝鮮戦争やベトナム戦争の空戦についても、何冊か刊行されており、それらと 比較しながら、読み進めるのも面白いと思います。



ソノラマ新戦史88


陸軍重爆隊

伊澤保穂
\750
1996.7初版発行

海軍の陸攻隊に比べて、とかく影の薄い日本陸軍重爆隊ですが、太平洋戦争中 は陸攻隊の負けない死闘を繰り広げていました。本書はその陸軍重爆隊の誕生 から終焉までを一冊にまとめたのもです。

もともと陸軍航空隊は重爆に関しては、それほど重視していませんでした。戦略 爆撃という思想もほとんどなく(これは手本にしたフランス空軍の考え方の影響 も受けているようですが)、爆撃機の目標は前線の敵地上部隊と、戦線後方の敵 航空基地というものでした。そのため、初期の何種かを除いては4発爆撃機は装備 されず、爆弾搭載量も1トン強という寂しい状況になっていました。

陸軍重爆隊は日中戦争の時期に、本書にも詳しく記述されているように、大編隊に よる制圧爆撃という戦術を確立します。しかし、太平洋戦争では、連合軍に制空権 を取られ、夜間少数機による奇襲攻撃。特攻という戦術へと退化してしまいました。

この原因は重爆隊の装備機種の性能の低さ(百式重爆など、登場時期からして時代 おくれの機種と言えますから)、搭乗員の練度低下等が挙げられますが、苦しい中 、戦線を何とか維持しえたのも、また重爆隊の犠牲が元となっているのです。

本書は日中戦争・ノモンハン・太平洋戦争と続きますが、ビルマ・ニューギニア・ フィリピンでは読んでるのが辛くなるほどの損害が出ています。しかし、ここまで 統計的に重爆隊をまとめた本はあまり知りませんし、日本陸軍航空隊を知るためには 外せない一冊といえます。




ソノラマ新戦史91


帆船時代のアメリカ(上)

堀元美
\750
1996.10初版発行

ソノラマ戦史シリーズではちょっと異色の一冊でしょう。タイトル通り、帆船時代の アメリカ海事史です。この分野の話は日本ではかなり薄い話なので、結構興味深く読 めると思います。

アメリカ大陸の発見から、英仏の植民地争奪戦、アメリカ独立に至る時代の海戦史を 中心にまとめています。僕もこの時代はまったく知識がなかったといってよいので、 この本でずいぶん勉強させてもらいました。
1600年代より1700年代にかけて、英仏両国は植民地の拡大に力を注ぎます。 そして、その主戦場の一つとなったのが、アメリカ大陸でした。この時期、植民都市が 点在するアメリカでは、各拠点とそれを防護する要塞の奪い合いが戦いの焦点となって いたのです。
イギリスがアメリカでの優位を獲得すると、今度はアメリカ大陸での独立運動が活発と なります。数度の戦いのあと、アメリカは独立するのですが、本書(上巻)ではアメリカ が如何にして独立を達成したのかを独立戦争の海戦を中心にしてまとめてあります。 WW2を中心とするソノラマ戦史では、時代的にかなり異色ですが、かなり興味深く読める 一冊です。




ソノラマ新戦史92


帆船時代のアメリカ(下)

堀元美
\750
1996.10初版発行

上下巻のうちの下巻となります。この巻の主な題材は、ペリーの日本来航、南北戦争、米西戦争 のあたりとなります。
上巻がアメリカにイギリス人やフランス人が移民してきた後、独立に至るまでの、主に商船活動や 海軍活動に重点を置いていたのにたいして、この下巻は帆船時代から蒸気船時代に移り行く中、 アメリカ最大の戦争ともいえる南北戦争と、その後の帝国主義政策で、アメリカ艦隊と商船隊が どのような活動を実施したかをわかりやすく説明しています。

ヨーロッパで、ナポレオンの大戦争が起こっている頃、アメリカ大陸でもイギリスとアメリカの戦争が起こっていました。この戦争の結果、アメリカ経済はヨーロッパ依存型から独自経済圏を構築します。
またその結果、これまでの沿岸海軍から外洋海軍へとアメリカ海軍がシフトしていくこととになります。 もっとも、南北戦争で大量建艦されたモニターのようにアメリカ海軍は第一次世界大戦まで、沿岸 海軍的要素も多分に有していましたが。
本書で一番大きく割かれているのは、やはり南北戦争です。日本では南北戦争の文献は少なく、 また、そのほとんどが陸上戦闘の解説に割かれています。僕自身も簡単かつ通史的な南北戦争時 の海軍を紹介した本は本書が初めてだったので非常に印象に残っています。

この本は最後にホワイトフリートの日本来航で終了します。この時期に海洋活動からほぼ帆船は姿を消し、大艦巨砲の主力艦時代となります。人の力が船を動かした最後の時代の物語です。




ソノラマ新戦史96


スペイン戦争

三野正洋
\950
1997.3初版発行

日本では、まるで馴染みのないテーマといえます。実際に僕もこの書を読むまで 正直なところよく知りませんでした。本書は通史的にスペイン戦争を捉えて、かつ 基礎的用語の解説もあり、非常に役立つ一冊です。また、戦争に介入した各国の状 況も簡単ながら解説されており、総体的なスペイン戦争解説書といえます。

スペイン戦争は終結してすぐに第二次世界大戦が始まった為、またスペイン自体 が内戦の後遺症から第二次大戦に参加せず中立を守った為から世界史上では印象の 薄い戦争であったといえます。しかし、一般市民を含めて非常に多くの犠牲が出て いること、社会主義と資本主義・民主主義が手を携えた唯一戦い、ファシズムの最 初の大規模なヨーロッパ侵攻と歴史的意義はひじょうに高いです。どうしてかはよ く分かりませんが、イスラム侵入、ナポレオン戦争と大きな戦争が何度もスペイン を舞台にしているのに、日本ではどうも印象が薄いようです。スペインと戦争を結 び付けるとどうしても「無敵艦隊」の話になりますし。

で、中身は陸海空の主要な戦闘、スペインを取り巻く国際環境、著名人の戦闘等 です。スペイン戦争は外国勢力の介入が激しく、一種の代理戦争とも言えるもので した。特にドイツ・イタリアの枢軸側とソ連が大規模に義勇兵(実際にはほとんど 正規軍)を送って、欧州最初の近代戦争としてしまいました。また、「ゲルニカ」 やウェルズ、ヘミングウェイの国際旅団への参加等が当時、国際的に注目された原 因となります(日本ではほとんど注目されていませんでしたが)。

戦争勃発から終結まで、幾つかの時期に分けて状況を分析されていますが、確か に世界史の教科書には「スペイン戦争」と一言書いてあって、イラストに「ゲルニ カ(ピカソ作)」が付いているくらいですから、日本人はほとんど知らない訳です。 最初の機甲戦、最初の大規模航空輸送等、二次大戦に繋がる戦術がここで確立して いることも注目です(戦略爆撃は日本が重慶爆撃でちょっと前にやってます)。

「北戦争」と「継続戦争」の分析書も出るといいのになあと思いつつ、忘れそうに なるとちょこちょこ読んでるお気に入りの一冊です。



ソノラマ新戦史97


Uボート・エース

J・ヴァウス
\648
1997.4初版発行

ドイツUボート乗りで『ダイアモンド剣付柏葉騎士十字章』を受賞したのは、一人が 「法螺吹きブレンディ」、もう一人が本書の主人公、ヴォルフガング・リュートです。 ブレンディの戦果報告はかなり眉唾な点が多いですが、寡黙でまじめな性格のリュート は、WW2最高の潜水艦長に挙げられています。

Uボート艦長で有名と言えば、「スカパフローの雄牛」と言われたグンター・プリーン、 「生命保険」のペーター・クレーマー、「赤い悪魔」エーリッヒ・トップ等・・・。 こんなそうそうたる面々の中で、リュートはそれほど目立ちませんでしたが、最高の戦果 と伝説を作った一人なのは、間違い有りません。

WW2が始まった時、リュートは「U9」航海長をしており、それほ目立つ存在ではありません でした。しかし、Uボート艦隊の拡張に伴い、艦長が圧倒的に不足してきたため、まだ未熟 な若手がどんどんUボートの艦長になっていった時期に、リュートも艦長として戦塵を浴びる こととなったのです。
リュートの戦果は主に南大西洋とインド洋で、死闘の続いていた北大西洋に比べると比較的、 船団の護衛が緩かったようですが、それでも次々とボートが沈んだ戦域には違いありません。 そんな中でリュートは48隻もの艦船を撃沈し、撃沈スコアでも堂々上位に食い込んでいます。

リュートの死も悲劇的でした。戦争終了後に海軍司令部の警備隊長をしていた時に、歩哨の誤射 によって事故死したのです。ドイツ海軍最後の軍葬によって葬られました。戦争とともに生き、 戦争と終りを共にするように死んでいったのです。
Uボートエースの生涯を追うのに、とても読み応えのある戦記の一つとなっています。潜水艦ファン なら読んで欲しい一冊です。



ソノラマ新戦史98


「彗星」夜襲隊

渡辺洋二
\667
1997.5初版発行

日本海軍の最後の艦上爆撃機「彗星」(「流星」もありますが、一応艦攻なので)は、戦闘機に匹敵する速度性能と 機動性を求めて生まれた、日本海軍の主力機の一つです。登場時にはアメリカの戦闘機性能も向上していたため、 構想時の目論見のような優速を利用した攻撃もできず、また海軍の主要機唯一といえる水冷エンジンのために、稼働率 も低く、戦力としては期待ほどではありませんでした。
しかし、レイテ海戦で軽空母「プリンストン」の撃沈戦果を始めとして、昭和19年頃よりマリアナ海戦、レイテ海戦、天号 作戦等、戦争中末期の各戦線で活躍しています。本書の「131空、芙蓉隊」もその一つです。

「芙蓉隊」は、131空の飛行隊長美濃部少佐の発案した水上機乗りによる夜間襲撃隊です。何度かの挫折の後、 フィリピンから撤退してきた「月光」の夜戦飛行隊を中心として、九州南部に展開する一大夜戦隊を完成させました。
装備機は「零戦52型」と「彗星12型」の2種類、特に「彗星」は他隊の使用していた空冷型ではなく、水冷機でした。 この他の部隊の敬遠していた機体を利用したことにより、潤沢な補給が受けられ、また、静岡の藤枝基地を練成基地と して、他隊では考えられないような錬度を維持できました。

戦術は単機・または少数機による沖縄戦域の夜間奇襲戦法、装備はロケット弾や光電管爆弾等の特殊装備をし、 夜間の連続攻撃や、敵夜戦狩り、レーダーピケット艦攻撃等の多種多様の戦術で、終戦まで戦いつづけました。
沖縄の戦線はすでに連合側に圧倒的で、一夜戦隊の戦果程度では影響を与えられませんでしたが、終戦まで特攻 を拒否し、正攻法で最後まで戦いつづけたこと、そして正攻法での戦果を上げるための戦術の研究と装備の準備、 夜襲をかけるための錬度の維持等、日本海軍航空隊の終焉を飾った、名飛行隊の一つだと思います。
「芙蓉隊」については他に何冊かの著作を筆者は出されているので、それと比べてみるのも面白いでしょう。



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