硫黄島戦関係書籍の解説






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硫黄島書籍NO.1


硫黄島〜ああ!栗林兵団〜

船坂弘
講談社
\380
1968.8初版発行

筆者は玉砕戦となったアンガウル島で戦って生き残った方です。戦後は大盛堂書店を切り盛りしつつ、 太平洋の孤島の玉砕戦の書物を何冊か手がけておられます。
本書が出版されたのは1968年の8月ですが、その直前の1968年の6月に硫黄島が日本に返還 されました。ひじょうにタイムリーな時期に出版された本で、最終ページには日の丸を擂鉢山に掲揚 する自衛隊員の写真が喜びと共に掲載されています。

本書の頭に掲載された図は「南部落工兵隊地下壕」の見取り図でひじょうに貴重な資料です。硫黄島 の地下壕陣地は、未だに詳細のわからない部分が多く、硫黄島自体が火山島で毎年地形の隆起等で大 きく変動しているため、もはや調べるのは不可能な状態になっています。実際の硫黄島地下施設の資 料は戦史叢書等にも載っていますが、本書に資料も硫黄島戦を研究するためには、ひじょうに有用な ものとなっています。

本編は硫黄島に師団長である栗林中将が赴任した時点から始まります。それまでの水際決戦を放棄して 地下陣地を利用した持久戦に持ち込み、少しでも米軍の出血を強要しようとした作戦変更と、その陣地 建設の苦闘を前半では描いています。
また、同時期のアメリカ軍の硫黄島戦略も詳しく述べられており、幻の硫黄島毒ガス作戦の中止に至る 経緯もしっかり記述されています。僕自身もこの作戦についてはほとんど知らなかったので、この書物 で初めて全貌が明らかになったのではないでしょうか?

硫黄島に対する25万もの米軍が着々と作戦準備を進める中、日本守備隊も地下陣地を掘り進んでいき ました。守備陣地はほぼ概成し、連絡壕の建設にかかった時点で、米軍の上陸が始まったのです。
本書の後半は硫黄島での激戦を時系列経過によって客観的に述べています。小説形式で書かれている為、 詳細の点では少々疑問に残る記述も多くありますが、基本的に戦闘経過を手繰っていくには良い資料と なる一冊です。
また、硫黄島の各戦闘のハイライト等の記述も詳細で 、西戦車隊長や栗林司令官の戦死の記載(これは 現在でも謎とされている部分なので小説的な色付けがされていますが)もしっかり書きこまれており、 硫黄島戦史を調べていく上で是非読んでおきたい一冊となっています。

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硫黄島書籍NO.2


将軍突撃せり =硫黄島戦記=

児島襄
文藝春秋社
\820
1970.2初版発行

言わずとしれた戦記作家の第一人者である児島襄氏の書いた硫黄島戦記です。当然 文体慣れしたその文はたいへん読みやすく、あっという間に最後まで読切ってしまい ました。
硫黄島での激戦を各下級指揮官や兵達の視点から捉えて、感情移入しやすい作品となって ます。こうした形式を取っている為、資料としての価値は若干下がっていますが、戦記 としては第一級の著作でしょう。特に米軍指揮官の作戦が進まないための焦燥を描いた 部分は読み応えがあります。

本書の流れは守備隊司令部や海岸線を守備していた部隊の視点を中心に推移します。善戦 したと言われる硫黄島守備隊ですが、作戦を読み取っていくと日本側も錯誤の連続でした。 しかし、基本作戦とその準備宜しきを得て、守備作戦の継続が可能となり、最後まで米軍 に出血を強要したのです。

守備隊の死闘化の状況や生活、絶望下の状況の中を如何に最後まで戦い抜いたのかが、詳 しく記述されています。硫黄島の死闘を読み解く中で、将兵がどのような気持ちで戦ったの かを読み解くには最良の一冊ではないでしょうか。

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硫黄島書籍NO.3


硫黄島 〜勝者なき死闘〜

ビル・D・ロス/湊和夫 訳
読売新聞社
\2000
1986.6初版発行

日本で最も手に入り易い、米軍側から見た場合の硫黄島戦記です。硫黄島に対する米軍の 戦略と作戦指揮について余すところなく書かれています。
米軍海兵隊が最も苦しんだ作戦と言われる硫黄島攻略戦、戦死者6800人を含む約28000人 もの大損害を出したこの戦いは、海兵隊の象徴の一つと言われるまでになりました。今でも擂鉢山 の山頂に合衆国国旗を立てる海兵隊員の姿は、最も有名な海兵隊の姿として知られています。

米海兵隊は、第3・4・5の3個海兵師団を硫黄島に投入しました。しかし上陸後の損害が続出し、 予備として第二派上陸部隊に指定されていた、第3海兵師団を急遽、前線に投入しなければならない ほどでした。日本側戦記の記述にも書かれていることですが、硫黄島は戦闘がなくても非常に生活が 困難な島で、数万人が狭い空間に上陸した米海兵隊は、日本軍との戦闘に匹敵するような衛生・ 休養を確保する戦いに苦しんだのです。

上陸後の1ヶ月間、日本軍の組織的戦闘が終了するまで、米軍は地下にこもった日本兵の奇襲に苦しむ ことになります。前線が錯綜し、狭い戦場では砲弾が何処にでも到達するため、安全な後方も確保できず、 太平洋戦争でもっとも病院船が活躍した戦場になったのです。
本書は、ひじょうに詳細に米軍の戦闘が記録されています。日本側の記述はどうしても米軍の戦闘に 関しては簡潔にまとめられがちですが、本書をひも解けば、米軍の苦戦とそれを乗り越えた精強さを 理解することができます。

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硫黄島書籍NO.4


死闘! 硫黄島・沖縄

堀江芳孝
学研
\500
1973.7第3版発行

著者は小笠原集団で栗林中将の側近参謀として、作戦準備にあたった方で、硫黄島戦中は 父島せ切歯扼腕していました。栗林中将の人となりと硫黄島戦備について最も詳しく知っていた方 なので、硫黄島戦を紐解く上で欠かせない1冊だと思います。

本書の構成は前半が硫黄島戦、後半が沖縄戦で構成されています。沖縄戦はあまりにも広範に 広がる内容なので、薄く感じてしまい、やはり本書のメインは硫黄島戦の記述になってくると思います。
硫黄島戦はほとんどが地上戦に終始(一部は特攻機もありますが)します。地下にこもった日本軍が集中 させる火器のために、アメリカ海兵隊が被害を受けていく様、日本軍が消耗によって衰弱していく様がよく 表現されています。本書は他の日本人の書く硫黄島戦とは異なり、アメリカ側から見た記述も多く、 双方から硫黄島戦を見るという意味でもよく出来た1冊です。

文章的には平易で読みやすく構成されており、かつ各種資料を自分なりに取り込んでいるため、内容も 充実しているかと思います。
本書は昭和40年代に学研の出した「EIN BOOKS」というシリーズの1冊ですが、このシリーズはよくまとまっている 名著が多く、隠れた良シリーズです。あまり古本屋でも見かけないため、手に入れるのはなかなか困難かと思いますが。

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