う   わ   手

 

 半月ほど前に、下関にいるお袋と一緒に旅にでた。出発のとき、下関駅で買った駅弁の割り箸袋に、どういうわけか割れた片

方の箸しか入っていなかったけれども、あまり大袈裟にはしたくないという気があったので、そのことには触れないようにし

て、その後の旅を終えた。

 ところが大阪に帰ってきて数日後に、お袋から小包が届いた。その中には何故か、下関みやげの菓子折と小郡駅の駅長の名刺

が一緒に入っていた。手紙によれば、私が去ったあとお袋は、下関の駅弁会社にひとこと抗議の電話を入れたそうである。する

とすぐに、小郡駅の駅長を退任して下関駅弁会社の専務に就任したばがりの某氏が、菓子折を提げて挨拶にみえて、

「箸の製造にはそのようなミスの起こらないよう万全を期しておりますが、なにぶん機械によるオートメーションなので、何万

本に一本はどうしてもそのような不良品が出て、お客様にご迷惑をおかけすることがあり、たいへん申し訳ないことでございま

す」

 と丁寧にお詫びをして帰られたそうである。

 それを読んで、たかが箸一本でたいへんな騒ぎになってしまったものだとびっくりした。 後日そのことを会社でT先輩にし

ゃべったところ、T氏は即座に、

「あんたのお袋さんはえらい。うちもそんなことで2度ばかり菓子折を貰うたことがあるわ。一度はチョコレートに蛆がわいて

いた時で、もう一度はカステラに卵の殻が混じっていた時やった」と言ったので、もっとえらい人がおったと恐れ入った。