分 解
今年の二月のはじめ頃、それまで飼っていた犬が急死したので、その一週間後くらいに代わりの小犬を見つけてきて、飼うこ
とにした。
今度の犬はすこし癖が悪くて、朝起きてみると、必ず小屋のそばに糞をしていた。しかし寒い頃ではあるし、あまり臭いも気
にならないので、庭の片隅の遊んでいる小さな畑に、毎日ほうり込んでいたら、ひと月もすると畑じゅう糞だらけになってしま
った。と言っても、良く乾燥してころころになっているし、分解も終わって何の臭いもなくなっているので、耕したついでに土
の中に鋤き込んだ。そのあとそこへ大根の種を蒔いてみたら、すぐに芽が出てすくすく成長したので、子供達に、ユリのうんち
が良いこやしになったと説明してやった。
その二、三日のちに畑を見ていたら、二十センチ以上に伸びた大根の葉に、上からおおいかぶさるように、生々しい糞がふた
山、無造作に投げ込まれてあった。すぐ家に入って、「こんな無神経なことをしたのは誰だ」と怒ると、娘が泣きべそをかきな
がら、
「かえちやん、知らんかったもん」と言った。
娘だけの単独犯行でもなさそうに思うが、娘なら無理もないと思ったので、糞というものは微生物による分解がすんで、はじ
めてこやしになるということを、良く説明してやったら、子供たち全員よく納得したようであった。
その翌日、今度は長男が突然、そとから大声で、
「お父さん、ユリが裏の階段の所にうんこしてるで」と言ったので、近くの山にでも捨てさせるつもりで、
「始末しなさい」と言ったら、やはり長男の頭の中には、畑にほうり込むことしかなかったらしく、
「まだ分解してないで」と答えて、澄ましていた。