僕の四国遍路入門
『まえがき』
四国八十八ヶ所をお遍路でまわることは二十年来の夢だった。もちろんバスやマイカーではなく歩
きである。ただ、歩きだとひと通りまわるのに四、五十日はかかる。会社勤めをしているかぎり、
それだけまとめて休むことはまずできない。
しかしその問題は、昨年(平成十六年)会社をやめて解決したのだが、あらたに別の問題
がでてきた。
二ヶ月ちかく遍路をするとなると、その間ずっとビオラの練習を休むことになる。リュックに入れて
持ち歩けるほど小さな楽器ならいいのだが、ビオラはそうはいかない。重くて荷物
になるばかりでなく、雨が降ったとき濡らさずに持ち歩くことは困難である。そして長期間練習を休
むことに対して、アンサンブルの仲間から苦情がでたのである。
「二ヶ月ちかくも練習をさぼったら、二度と人前で弾けなくなりまっせ。今年の九月には又箕島の
演奏会が決まっているんやし、それはお客さんを裏切ることになりまへんか」
というものだった。尤もな話である。それで考えたのが、一国参りである。四国八十八ヶ所は四つの
道場に分かれていて、阿波の国・徳島県は『発心の道場』、土佐の国・高知県は『修行の道場』、伊予
の国・愛媛県は『菩提の道場』、讃岐の国・香川県は『涅槃の道場』と呼ばれている。これらを四回に
分けてまわることを一国参りというのである。
順序はべつに決まりがあるわけではないが、とりあえず一番の霊山寺(りょうぜんじ)から順
にまわることにして、まずは徳島県である。時期は、すこし暖かくなり始めた頃ということで、三月の
終りと決めた。ふつう十日もあれば徳島県はまわれるようだが、次回のことを考えると高知県の県境
までは歩いておきたいという気持ちもあり、余裕をみて二週間の予定をたてた。そして遍路
のもようは、毎日、ホームページに日記を発表するつもりで、ノートパソコンも用意した。そのため
荷物の重さは十キロを超えたけれども、それは仕方がない。出発の二日前になって急に時ならぬ寒波
がやってきたりして気をもんだが、出発までにはなんとか治まった。