菩 提 の 道 場(愛媛県)

第四十番 観自在寺〜第六十五番 三角寺  平成17年11月11日〜26日

 

  11月11日(金) 宿毛から第40番観自在寺まで雨の行軍

 前日のうちにドクター I と示し合わせて宿毛の宿で落ち合う。今回は愛媛県の全行程をドクターつきの贅沢な遍路をする

ことになった。しかし運の悪いことに初日から雨の行軍となる。今日は、朝7時に宿毛の宿を出て、途中、標高300メート

ルの松尾峠を越え愛媛県に入り、愛媛第一の霊場・観自在寺(写真)を参拝し、近くのビジネスホテルで泊まる予定だが、

朝の8時40分には雨が降り始める。その後は、午後の4時すぎにホテルにチェックインするまで、雨は降りつづいた。幸い

なことに、山越えの間はしとしと雨で、のんびり景色を楽しむことができ、高知遍路の最後に出会った大ミミズにも再開でき

たし、清流には見事な鯉がたくさん遊泳していた。本日の全行程は21キロほどだが、初日の雨の行軍としてはまずまず

の時間に宿にたどり着いた。

 

  11月12日(土) 愛南町から津島町まで移動

 昨日の雨もきれいに上がって、今日は急速に天気は回復した。風は冷たいが歩くにはちょうど快適な天気となる。41番

龍光寺に向けて今日も、明日も移動日となる。今日の移動は距離にして23キロほどだが、途中に100メートル以下の低い

峠が2つと、そのあと470メートルの柏坂峠がある。高さは昨日の松尾峠より高いが、傾斜がすこしゆるやかなのと、途

中、要所々々に休憩所が整備されているので、昨日より楽だった。ただ、朝のうちに弁当を調達する店がなかったので、

山を降りる3時すぎまで昼ごはんはおあずけとなる。しかし運のいいことに、下山途中であるミカン園(写真)のそばを通過

した時、そこの持ち主が取れたてのミカンをたくさんお接待してくれた。空腹と渇きの中でこのミカンを口にした感激は忘れ

られない。ちょうどいい気候にめぐまれ、山越えの遍路道も最高に快適だった。4時すぎに津島町の宿に着いた。

 

  11月13日(日) 津島町から宇和島市まで移動

 朝はすこし冷え込んだが、昼間は絶好の遍路日和となる。今日も移動日である。宇和島までの移動で、距離としてはわ

ずか18キロほどしかないので、休養を兼ねて宇和島観光をした。昼前に宇和島市街にはいり、まず宇和島城(写真)を訪

れる。天守閣の前で写っている人がドクター I 。その後、下山し駅前の商店街に出たら、ちょうど今日はお祭りに当たって

いて、いろいろなイベントがあり、たくさんの人出でにぎわっていた。したがって食堂はどこも満員で入れず、仕方なく入っ

た喫茶店が大当たりで、サンドイッチもコーヒーも最高だった。そして食後は駅の近くの番外札所・龍光院にお参りする。

番外とはいえ札所なので、納経をしてもらうこともできる。しかし納経帳の空きスペースがもうないので納経はやめたが、ド

クターは納経してもらい、納経料300円を払ったらそっくりそのままお接待で返ってきた由。早めに近くの宿に入りゆっくり

休養する。

 

  11月14日(月) 41番龍光寺→42番佛木寺→43番明石寺

 朝7:40に宿をでてJR予讃線に沿って県道57号線を務田(むでん)まで行き、左折してまず41番龍光寺にお参りし、つ

づいて2.6キロ先の42番佛木寺(ぶつもくじ)にお参りし、その後標高500メートルを超える歯長峠(はながとうげ)を越

え、43番明石寺(めいせきじ)まで行く予定である。総行程で23キロのはずだったが、41番を出るときに標識を見間違い

42番までかなり遠回りをしたので、結果的には26キロほど歩いた。それだけならスケジュールに大した影響はないのだ

が、番狂わせがあった。最初の41番で納経をしてもらう時に、一足ちがいでバスの団体さんの後になったため、30分ほ

ど待たされた。その間住職の説教(ぼやき)をずっと聞かされるはめになった。「納経でちょっと待たされると、寺が悪いよ

うに怒る者がおるが、ゆっくりさせてもらってと感謝せないかん」。そう言われるとおとなしく待つしかない。その上、歯長峠

への登山道が難所で、鎖をつたって登ったりした(写真)ので、宿にたどり着いたのは日がとっぷりと暮れた17:30だっ

た。

 

  11月15日(火) 宇和町から大洲市まで移動

 昨日の43番明石寺から次の44番大宝寺(だいほうじ)までは60キロ以上離れているので、今日と明日は移動日とな

る。7:30に宿を出る。宿の高度はすでに220メートルある。国道56号線沿いに7キロ歩いて高度270メートルまで上が

り、そこから山道に入り、1.5キロの間に高度470メートルの鳥坂峠(とさかとうげ)まで登る。下りは山道1.5キロ、国道を

4キロ下って午後2時過ぎには大洲の市内に入った。宿からは19キロほどしかない。しかし今日はここまでで、今夜は大

洲市内に泊まることにしているので、ちょっと観光をした。大洲市は町中を肱川が流れる城下町で、古い町並みも保存さ

れている落ち着いた町である。川のそばにたつ大洲城(写真)は高台から町全体を見下ろしている。川で獲れる鮎はもち

ろん、歴史と伝統に磨かれた美味しいものがたくさんありそうだ。

 

  11月16日(水) 大洲市から小田町まで移動

 今日も移動日である。朝は冷え込んで、歩いていてもいつまでも手が冷たかった。今日は大洲から小田町まで、高度差

はそんなにないが、距離が31キロほどあり、ひたすらがんばった。夏なら日が長いから、朝早くでれば何ということはない

距離だが、今は日が短いうえに夕方ちかくなると風が急に冷たくなる。そうなると宿が恋しくて気があせってくる。しかし今

日はがんばった甲斐があって、4:17分には宿に入ることができた。今日の歩きの中でのハイライトは、”十夜ケ橋”(とや

がはし)と内子の町見物である。十夜ケ橋は大師がこの橋の下で野宿をされた橋で、以来、お遍路は橋を渡るときは杖を

つかないことになるきっかけとなった橋である。又、内子は昔ながらの古い町並みが保存されている趣のある町である。

中でも大正時代にできた歌舞伎劇場・内子座(写真)が保存・復元されて中を見物することができるようになっているのは

興味深かった。

 

  11月17日(木) 小田町→44番大宝寺→45番岩屋寺

 今日は標高500メートルから800メートルの高地を1日中登ったり下りたりする予定なので、宿を6:30に出発した。そ

の時の気温は2度だった。宿の標高が200メートルで、宿をでると同時に山を登りはじめ、2時間弱で570メートルまで登

り、6キロほど下った所から再度登り始め、標高651メートルの農祖峠(のうそのとう)を越えて、先に45番の岩屋寺に行

き、その後44番の大宝寺に廻る方が距離や宿の具合がいいのでそうするつもりでいたが、宿の情報によれば農祖峠は

現在不通だそうなので、国道まわりで遠回りをすることに予定変更していた。しかし国道を通っているつもりが、いつの間

にか県道42号線に変わっていて、気がついた時はもう引き返すことのできない所まで来ていた。仕方なく全く考えていな

かった鶸田(ひわた)峠越えで順番通り先に44番に入ることにした。この峠は標高800メートルあり、あとのルートも遠くな

るが観念するしかない。結局、1日で34キロ歩き、夕方の5時に岩屋寺近くの国民宿舎に着いた。

 

  11月18日(金) 久万高原→46番浄瑠璃寺

 今日は久万町から三坂峠を越えて松山市に入る。今夜は松山市に下りて最初の浄瑠璃寺にお参りした後、門前の民宿

で泊まる予定だが、歩く距離は28キロほどある。又、峠の高さは710メートルある。昨日ほどではないが強行軍である。

朝、7:35に宿をでて、昨日の道を大宝寺まで引き返し、国道33号線にぶつかった所で、交差点手前にある於久万(おく

ま)大師にお参りしてから、国道を三坂峠に向けて北上する。峠までの距離は11キロほどで、道はひたすら登り続ける。

峠近くで昼食の弁当を食べ、午後は遍路道をひたすら松山市に向けて下る。朝は霜がおりて寒く、日中も冷たい風が吹き

あまり暖かくならなかった。峠から見た松山市の眺め(写真)が素晴らしかった。

 

  11月19日(土) 47番八坂寺、48番西林寺、49番浄土寺、50番繁多寺、51番石手寺

 今日は今までとうって変わって、平地ばかりでしかもお寺が密集しているため、お参りと納経で時間がかかるため、歩く

距離はわずか14キロとしている。朝はすこしゆっくりして7時前に宿をでる。午前中に47番から50番までの4ケ寺をまわ

り、午後に51番石手寺(写真)にお参りして、2時すぎに門前近くの民宿にはいる。石手寺は道後温泉に隣接している所

である。ということで宿に荷物を置くとすぐに道後温泉の散策にでて、ついでに義安禅寺と伊佐爾波(いさにわ)神社、宝厳

寺(ほうごんじ)をお参りして帰る。久しぶりの休日気分を味わった。

 

  11月20日(日) 52番太山寺、53番円明寺

 今日も平地ばかりの移動となる。上りがあるといえば、52番太山寺(たいさんじ)が75メートルの山の上にある程度であ

る。まわるお寺も53番円明寺(えんみょうじ)までの2つだけなので、ちょっとがんばって1日に30キロほど歩く。そのため

朝は6:45に出発する。まず9:35に最初の太山寺に着く。この寺は本堂(写真)の屋根が美しく、国宝に指定されてい

る。次の円明寺には10:50に到着する。ということでお寺参りは午前中に終わり、午後は松山市から旧北条市(今年の1

月に松山市と合併)まで歩き続けた。休憩はコーヒー休憩が午前と午後に1回ずつ、昼食休憩1回、伊予北条の海辺での

休憩が1回と、合計4回の休みを取り、夕方4:02に旧北条市浅海(あさなみ)の民宿に着いた。我ながらかなりいいペー

スである。

 

  11月21日(月) 54番延命寺 55番南光坊

 今日は浅海の宿を7:40に出る。今まで宿のことにはあまり触れなかったが、この宿だけはちょっと触れておきたい。と

いうのは、この宿は料理がよく、親切で、しかも料金が破格に安いということで特にお勧めできる宿である。ところでそれは

さておき、宿出発後は国道196号線を海岸線に沿って、今治市に向かって北上する。のどかな秋の瀬戸内の海を見なが

ら昼過ぎまでかかって20キロほど歩き、今治市内の54番延命寺、と55番南光坊(写真)にお参りし、午後4時前に今治駅

前のビジネスホテルについた。歩いた総距離は24キロである。今日は朝からすべて順調だったが、夕食の段になって困っ

たことになる。ホテルのレストランは休み、外は駅前というのに食べ物屋がまったくない。向かいのホテルの支配人も、タク

シーの運転手もすべてやる気がなく不親切。やっと見つけて入った炉辺焼き屋も従業員がなっていない、味も特別にいい

訳ではないのに、料金だけは目玉が飛び出るほどだった。

 

  11月22日(火) 56番泰山寺、57番栄福寺、58番仙遊寺

 今日も晴れである。初日が雨だった以外は、ずっと十日以上晴れ(又は曇り)の遍路日和が続いている。今日は7時半

に宿をでて、56番泰山寺、57番栄福寺、58番仙遊寺の3つのお寺をまわる予定にしている。距離は13キロほどで少し少な

いが、明後日に横峰寺(標高800メートル)を越えて西条市に入るためには今日と明日の宿泊地は自然と限られてくる。こ

こ2,3日は平地ばかり歩いていたが、今日の仙遊寺だけは高さが281メートルあった。今日1日の間、沿線に店はまっ

たくなく、弁当の調達ができなかった。仙遊寺への登り道で、毎日地元のおばあちゃんが歩き遍路に弁当のお接待をして

いるそうだが、タイミングが悪かったかそのお接待にもあずかれなかった。しかし仙遊寺の後で寄った番外霊場・竹林寺で

珍しい四季桜(写真)を見ることができたし、宿には午後2時に入れたので今日は休養日のようなものである。

 

  11月23日(水) 59番国分寺

 今日は今治の宿を朝7:10にでて、24キロほど歩いて西条市(旧東予市)にある明日の横峰越えの基地となる宿に4時

前に着く。途中、札所としては59番国分寺ひとつしかないが、番外の霊場として世田薬師、臼井御来迎、実報寺、日切(ひ

ぎり)大師、久妙寺(くみょうじ)、生木(いきき)地蔵と6ケ所もまわったので結構時間がかかった。番外といえども世田薬

師や実報寺、久妙寺などはそれぞれ立派な風格をそなえたお寺で、特に実報寺の本堂(写真)は屋根の曲線といい、とて

も美しいものだった。ここで持っていった弁当を食べさせて頂いた。明日はいよいよ愛媛遍路最後の山場である横峰越え

である。今日は早く寝よう。

 

  11月24日(木) 60番横峰寺、61番香園寺、62番宝寿寺、63番吉祥寺、64番前神寺

 今日は標高800メートルの峠越えを含めて、1日で28キロほど歩き5つのお寺をまわる予定なので、早朝まだ暗いうち

に宿をでた。昼食も途中では調達できないので、昨日のうちにパンやバナナを買っておいた。果物は宿のおかみさんが出

発のときにミカンをお接待してくれ、朝歩いている時に自転車を押した女性から柿をお接待された。出発してまもなく県道

147号線は徐々に登りはじめ、9時の時点で300メートル地点まで登り、ここからは遍路登山道にはいる。険しい山道を

1時間25分ほど登って、標高745メートルの横峰寺に着く。その後は香園寺(こうおんじ)に向けて山を下るのだが、素直

な下りではなく、途中何度も登ったり下りたりし、最高点は790メートルという所もあった。香園寺着は2時すぎになる。こ

の寺は聖徳太子の創建という古い歴史のある寺だが、現在はコンサートホールを思わせるモダンな寺(写真)に変身して

いる。夕方5時前に今夜の宿に着き、温泉で手足をのばした。

 

  11月25日(金) 湯之谷温泉から伊予土居まで移動

 64番前神寺から愛媛最後の霊場65番三角寺(さんかくじ)までは44キロほど離れているので、今日は1日移動日とな

る。国道11号線に着かず離れずわき道を25キロほど歩いて、4時前に伊予土居の旅館に入る。途中はほとんど舗装さ

れた平地で、上り下りはせいぜい160メートル程度だった。時々国道そのものを歩く所もあり、そういう所では喫茶店もあ

り、午前と午後に1回コーヒー休憩をした。ただ食堂だけはちょうどいい場所になく、仕方なくコンビニ弁当を買ったが、そ

の直後に犬の散歩中の男性と会い、立ち話をしているうちに「お接待するからうちにお昼を食べに来ないか」という話にな

った。しかし弁当を買ったところだし、ご馳走になってゆっくりしていると、今夜の宿到着が遅くなってもいけないので、残念

ながらお断りした。今日のコース中、宿の直前に1箇所だけ番外の霊場「延命寺」(写真)があり、ゆっくり参拝した。

 

  11月26日(土) 65番三角寺

 愛媛遍路もいよいよ今日が最後である。今日は愛媛最後の札所である65番三角寺(さんかくじ)をお参りし、午後のJR

で帰宅する。朝7時半に伊予土居の宿をでて、まず近くの番外霊場・三福寺に寄る。我々が着くなり住職がでてきて、お茶

とお菓子とみかんをお接待してくれた。お茶とみかんだけその場で頂き、最中とおかきはおやつ用に持ち帰る。宿から三

角寺までは15キロ以上あり、しかもお寺の標高は500メートルある。急な山道を息をきらして山門まで登ると、さらに長い

石段(写真)が待っていた。お寺到着は12:05。ここで持参の弁当を食べ、1時に下山を開始し、3時ちょうどにJR伊予

三島駅に着いた。次回はこの駅から出発である。