今月のトピックス

 

October ’02 <山陽地方で北欧体験> 

 10/12〜14は、生まれて始めて、倉敷、そして広島と、山陽地方を旅してきました(今までは、西は神戸まででした)。テーマは北欧探し。楽しく美味しい体験、大変満足。天気にも恵まれ、随所にて北欧を堪能してきた次第です。

 10/12(土)倉敷チボリ公園

 新幹線にて岡山乗換え、倉敷駅下車。いきなり駅前が、チボリ公園。駅の前に遊園地、というのは本家も同じ。本家デンマークは、コペンハーゲンの街のど真ん中にチボリ公園。2年前の北欧旅行でも訪れたなぁ。
 大人・入場料2000円で入場(アトラクションは別料金で)。いきなり地元の子供たちと思われる鼓笛隊のパレードが聞こえてきた。随分粗っぽかったけれど。・・・実はやや不安なイメージではあったのだ。偶然以前TVにて、倉敷チボリ公園の経営努力について見たことがある。バブル崩壊後の、テーマパーク危機をどう乗り越えるか。とにかく地元志向。いかに地元のリピーターを発掘するか。というなかで、当初のデンマーク色は薄めて、より親しめる形へと方針転換したとかで・・・・デンマークじゃやっぱりマニアック、地味なのでしょうか?ハードとしては、もう、いったん、出来上がったものを利用するしかないので、本家チボリ風な建物、デンマーク的な雰囲気は残しつつ、ソフト面では、かなり、地元指向優先、脱デンマークというイメージがあり、「微笑ましい」子供のパレードは、それを裏付けてくれていたわけだ。
 さて、既に昼前。食事である。デンマークっぽい、海産物のたっぷり入ったオープンサンドなど、せめてないかとパンフの案内図で探す。でも、どうもそれらしい記載がない。ファーストフード、サンドイッチ・・・・サンドイッチじゃなく、オープンサンドが欲しい・・・と思いつつ、まずはそれらしい場所を探索。
 店名「スカンジナビアドッグ」、行ったところ、売っているのは、ホットドックかい!
 店名「デンマークハウス」、バンキング料理・・・・・ただの食べ放題かい!
 続いて、カレーショップか。そりゃないよ。まぁしょうがない、これ以上食事場所を探すのも面倒だ、「アンデルセンカフェ」にて手を打とう。オープンサンドではなくて、イタリアの「パニーニ」なるサンドもの。まぁ、デンマーク・ビール「カールスベア」(カールスバーグと発音したくないところだ)もあるし、良しとしよう。また、地元志向の現われだろうか、食事のBGMは、地元のオバさまたちと思われる方たちによるオカリナ演奏でした。
 あとで気がついたのだが、別の場所に「ダンスクベイヤー」という店があり、そこでオープンサンド、見つけたのだが、時、既に遅しだ。ちゃんとパンフレットに書いておいて欲しい。「パンとサンドイッチ」なんて説明するな!「本家デンマークのオープンサンド」と書いておいてよ。食べ損ねて残念無念。いきなり、北欧探しに失敗してしまったわけだ。皆さん、倉敷チボリ公園のダンスクベイヤー、覚えておきましょう。

 食後、ぼちぼち園内を散策。「アンデルセンカフェ」は園内の一番奥、「アンデルセン交流館」の中にある。人形劇やったり、絵本を売ってたり。さらには結婚披露宴が出来る「アンデルセンホール」もあり。当日も新たなカップルの誕生もあったようだ。その交流館の目の前には大きな池があって、それに沿って歩くと、花が美しく咲き誇る「切り絵の庭」。その真ん中にデンマーク市内にあるアンデルセン像のレプリカあり。みんなこぞってその像の辺りで記念撮影。確かにホントに綺麗な庭だ。ただ、思い出したのが、そのアンデルセン像、デンマークにて当初は子供に本を読み聞かせる銅像が計画されたのだが、彼自身は、自分だけの像にしてくれと。ややエラそうぶった人間像が浮かび上がるなどと言ったら興ざめか。
 「切り絵の庭」を前に、レストラン「ラ・テラス」にては、帝国ホテルの料理長を経験したシェフによる料理が頂けるのだとか。当日はイタリア風なメニューであったようだが、やはり、食においては脱デンマーク的な雰囲気が感じられてしまう。この辺りは経営強化の一環の措置のようです。
 さて、「切り絵の庭」から池の中の「人魚の島」へ。こちらも、コペンハーゲンの海にたたずむ人魚の像のレプリカが。本家は何度も首を切断されているのだが、こちらは大丈夫のようだ。実は本家は、背景に港の工業地帯、そして今やデンマーク名物の、現代的な風力発電の鉄塔が並び、やや雰囲気のない場所にあるのだが、こちらは、綺麗な花に囲まれて美しく鎮座していますね。ただ、隣に水桶があって、人魚に水をかけると幸福になる、とかで(ちなみに本家には、そんなものはない)、みんなぶっ掛けていて、なんだか人魚も辛そうだ。しかし、日本的解釈、日本的発想のような気がしてならない・・・・。あと、記念撮影スポットとしては、比較的人も少なくいいのですが、アングルを間違えると公園の隣のマンションが入るのでご注意。

 そう言えば、このトピックス、音楽ネタ中心に厳選した話題を提供するつもりなのだが、いきなり脱線で申し訳ない・・・・実は、チボリにては全く音楽ネタなど存在しないだろうと思い、まさかここで紹介するつもりもなかったのだが、ある一点において是非紹介したくて、全編をこの「トピックス」で紹介しようと思ったのだ。それは、倉敷チボリ公園のど真ん中、公園の象徴とも言うべき「チボリタワー」。デンマークの古城を真似たもの。
 タワーといいつつ、登る事はできない。なかに、コペンハーゲンの街のジオラマがある。北欧旅行を思い出しつつ、眺めた。タワーの前では広場のステージで、ものマネ芸人の「コロッケ」が何やらイベントしていたが、それを横目にトイレ休憩。手を洗おうとしたら、いきなり、どこぞで聞いたメロディーが・・・・・。派手な合唱曲・・・・
おおぅ!ニールセンじゃないか・・・・それも、叙情的ユーモレスク「フューン島の春」!!コーダの踊りの部分だ。「バイオリンとクラリネット」、という歌詞が何度も連呼され、ニールセン自身の貧しくも楽しい幼年時代を思い起こさせる、楽しい歌だ。まさかまさか、冗談交じりにニールセン流れてるかな、などと言ってはいたが、本当に音楽が鳴り始めるとは、感激だ。手をよく拭かないままにトイレを飛び出してしまう。
 どうも30分おきに、コペンハーゲンの街のジオラマの上部で、デンマークを紹介するビデオが流れるようだ。とりあえず、もう始まってしまったので、時間をつぶして次の上映時間に来る事とする。

 デンマークのなだらかな田園風景。そして、コペンハーゲンの活気を呈した様子。平地をビュンビュン自転車で駆け巡る人々(自転車の台数とその速さに驚くのがコペンハーゲンでの常だ)。旅したフューン島のイーエスコウ城や、ハムレットの舞台となった城など、歴史的な建物の数々。あぁ、なつかしや。それらの映像とともに、ニールセンの音楽は華やかに、そして躍動的に鳴り響く・・・・あぁ幸せなり。
 産業の紹介なども。やはり、畜産。徹底した品質管理。日本の狂牛病騒動にて北欧のシステムは脚光を浴びましたっけ。
 そして、行き届いた福祉。この辺りのBGMはややロマン主義的な作風にて、ニールセンではなさそうだ。
 また、ニールセンが再び鳴り響く。
歌劇「仮面舞踏会」の序曲。本家のチボリ公園の楽しい様子とともに。これも、音楽と映像がマッチしているなァ。嬉しいね。想像するに、デンマークの人が作ったんだろうな、日本において、こんな映像を企画できる人はいないんじゃないか。それも、交響曲なんかではなく、「ヒューン島の春」「仮面舞踏会」・・・・デンマーク国内(のみ)での人気曲ではなかろうか。親しみやすいニールセンの姿、やや珍しい国民主義的作品ということで、かなり地元の知恵なんじゃないかと。これが、倉敷チボリ公園の制作だったら凄いよ。

 一気に気分は高まった。楽しい一時をチボリタワーにて味わった。トイレに入らなかったら、この幸運に出会えなかった。これも良縁なり。コロッケのショーに気を取られてたらこのタイミングで出会えなかったな。

 さて、最後に、デンマークの古い町並みを再現した店それぞれで、お土産などいろいろ売っていた。アンデルセン童話関連のみならず、ムーミングッズも、フィンランドの本家のものがずらり。こんなところで入手できようとは。さらに、トトロなども。北欧のものということで、ガラス製品なども、フィンランドのイーッタラを含め、そこそこあり。
 当初の、不安はどこへやら、ちゃーんと北欧づいていて安心。充実した旅行第一日目を送る事ができた。帰りに今後の予定と言うことでビラをもらって、情報あり。11/2は葛城ユキ・・・懐かしいですね「ボヘミアン」。地元出身のようです。11/9は、タイガース、星野監督・・・・こちらも地元。地元志向オンパレードで頑張っています。さらに、クリスマスは、本物のサンタの来場・・・・デンマークの自治領グリーンランドからだそうで。てっきりフィンランドかと思いきや、デンマークづいているわけか。ちゃんとこだわってるな。でも、グリーンランドのサンタは初耳だね。5周年の倉敷チボリ公園、これからも頑張って欲しいです。願わくば、もっとデンマーク色は欲しいけれど。さらに、ニールセンの音楽の日本受容の拠点にでもなってもらえるのなら・・・・無理か。でも、本家のチボリ公園で初演された、ニールセンの作品1「小組曲」とか、演奏したり、聞ける機会があれば、なおよろしいのだけれど。

 さて、倉敷ともお別れ、下関行きの普通電車でのんびりと3時間かけて広島へ。意外と遠いんだな。夜は、広島名物カキの店へ。ただ、冬のシーズンにはまだちょいと早かったようで、やや期待ハズレにはなってしまったが。翌日は、市内観光の後、北欧CDの専門店へ。そこで見た衝撃の体験(などとオーバーな)!!!

(2002.10.20 Ms)

 10/13(日)ノルディックサウンド広島

 広島市内観光。戦後復興の象徴、市内電車のフリーパスを買って移動。路線も多く、また、車両もいろいろ。ドイツ製の低床型のものには感激。人に優しい、いや、観光者そして身障者に優しい都市である。私の乗り込んだ車両にも、車椅子の方もいらして、なかなか他の都市では見られないのでは。安心して車椅子で出掛けられるのは良い。この福祉的な発想もまた、北欧的、などとふと思う。わが日本、もっと北欧から学び給え。どうみても、政治の状況見れば、利権集団、密室、長老政治・・・・消滅前のソビエトじゃないか。ホントに怖いんです、将来。おっと脱線気味。
 まずは、原爆ドーム前下車。アメリカのイラク攻撃が現実味を帯びる御時世にて、戦争の悲惨さはもっと我々、感じていなければ。外国人の観光客の方も当然みえる。日本人として、この地に立つのがこの年にして始めてというのはやや恥かしいような気さえした。ちょうど、写生大会だったのだろう、子供たち、そしてそれを見守る親。平和公園は人で溢れていた。常に、平和であるありがたさを感じていたものだ。子供の頃から、この原爆ドームと向き合って、あの時代の再現だけはないように誓う心、持ち合わせていたいものだ。
 資料館はちょっと後回し。今回の旅の目的の一つとして、10/16の広島交響楽団の定期演奏会が聴けないこともあって(平日で3日連続休めればベストだったのだがさすがにそれは無理でした。)、公開リハーサルをのぞこうという魂胆。練習場であるアステール・プラザで、リハーサルの曲順等確認。リハーサルの内容はまた、あと10/14分でまとめて書く予定。
 昼食は、これまた北欧探し。街の中心部、本通りまで戻って、ベーカリー・ショップの「広島アンデルセン」。お洒落な店頭、様々な食材の数々、あるある、北欧風なベーカリー。サーモンやアマエビ入りの、北欧旅行の思い出にひたれるような美味しい食事。暖かな日差しのもと、野外でのんびり食す。
 午後は、平和記念資料館を。入館料50円。しっかりと勉強させていただく。ただ、大人の私でも直視できない、悲惨な展示物もある。この恐さ、日本人、いや、アメリカ人も含めた全ての人類の共通認識であるべきと強く感じる。

 さて、雰囲気はガラリ変わって、北欧CD専門店の
ノルディックサウンド広島へ。マンションの一室の小さな店だ。そこに所狭しと北欧のCDがずらりと。試聴コーナーもとても充実している。早速いろいろ聞かせていただく。とにかく、ニールセン・ライブラリーの充実のため、が第一目的。まずは、デンマークのレーベル、コントラプンクトからニールセンものをいろいろ物色。彼の地元、オーデンセのオケによる交響曲、全集制覇のため、欠落していた1番と5番は試聴の上、購入決定。特に1番で気に入った、木管楽器ソロの歌い込み方。思い入れたっぷりなヤラシイまでのルバートが良い。その他、劇音楽の類。野外劇で管楽器による作品。昔バイキングの使っていたホルン風楽器を再現させたものも興味深いが、最晩年のもので、ほとんどストラビンスキーを思わせる強烈な複調の作品などとても面白い。現代的でありながら、ただ、なぜか人懐っこい、ユーモラスな雰囲気でもある。ニールセンと20世紀初頭の前衛的書法が意外と馬が合っているのがよく感じられた。
 あと、今回の目的の一つが、スウェーデン現代の、ボー・リンデ(1933〜70)の作品を確認したかったということ。日本におけるニールセン研究の第一人者でもある、
緒方恵さんがリサイタルで取り上げ、また、CDにも入れている、バイオリン・ソナタ第1番がわかり易く、なかなかの作品なので他の作品も聞きたかったわけだ。ソナタは20歳の若書き。これが、どう才能を開花させたのかどうなのか。聞いたのは、BISレーベルから出ている交響曲第2番。広上淳一氏の指揮。もう、しっかりと「現代」している。しかし、ショスタコーヴィチ並に緊張感溢れる深刻な内容。それでいて、オーケストレーションは精緻かつ、大胆にダイナミックに。まずまずの作品か。しかし、ちょっと決定打ともいかず今回は見送ってしまった。
 もうひとつ、新譜で気になっていたのが、トゥービンの5番。シベリウスの2番とのカップリングで、パーヴォ・ヤルヴィが、アメリカのオケで入れた代物。試聴したが、聞きどころのトゥービンのティンパニ・デュオがやや、乱れ気味と言おうか、雑な感じがしてパス。ちょっと残念。BISの父ヤルヴィのものもちょっと難点が感じられて、新譜は期待したい作品なのだが、まだまだ時期尚早か。もっといろいろな人が取り上げて欲しい・・・・。
トゥービン情報こちら。

 ・・・・ということで、今回の広島旅行。トゥービンの交響曲第3番の日本初演のリハーサル、が目的の一つだったりするのだが、なんと、なんと、この店内で試聴している私の目の前に現われたのが、トゥービンの息子夫妻である。今、トルコ在住のジャーナリストということで、今回の日本初演に合わせ来日という情報は得ていたが、まさか、この場でお会いできようとは・・・・。店長さんが、北欧音楽のプロフェッショナルということで、きっと表敬訪問ということであろう。ただ、私は単なる客。話しかける立場でも能力もないし。試聴を続け、購入CD選定をするだけだ。店内には、広島交響楽団の方や、その他、常連さんと思しき人もおり、適宜親しくお話をされていたようだ。トゥービン氏のために買ってきたと思われる和菓子など、唯一の客である私も、コーヒーと合わせいただくことになってしまい、恐縮至極。
 なんだか、この巡り合わせ、感激してしまった。トゥービンの作品、私にとってかけがえのないものとなりそうだ。外人の作曲家の息子さんと同室に滞在した、なんてこと、そうそうあり得ないだろう。何か、自分としての意志表示もしたくて、トゥービン作品購入をと。以前、愛知芸術文化センターにて視聴した、交響曲第10番(完成された最後の交響曲。単一楽章。)と倒れし兵士のためのレクイエム、のカップリングが最近店頭で見かけないものだし、また、この「広島」という地での思い出に相応しいものとも思われ、購入決定。
 3時間ほどの滞在。トゥービン氏の目前で、トゥービンCDを購入。店長さんは、トゥービン氏にもCD購入を知らせていたが、どう感じていただけたものか。「今日のこの偶然の思い出に」と店長さんには説明しつつ。愛知県から来た事を告げ、また、機会があれば是非視聴しがてら寄ってください、と。名古屋からの深夜バスもあるし・・・・ちょいとそれは辛そうだが。また、今度は、四国でも九州でも行きがてら、広島に一泊して、また、いろいろ聞かせていただこうかしら。山のようにCDカタログもいただいた。ありがとうございます。是非、私のこの文章、ここまで読んで下さるような方であれば、絶対楽しいと思いますので、ノルディックサウンド広島、一度立ち寄ってみたらいかがでしょう。これだけいろいろ珍しい北欧CDが聞けるところはきっと日本中、いや世界中探してもないのでは。是非是非。

 随分長居してしまった。夜はやっぱり、広島アンデルセンの味に後ろ髪をひかれて、再度。ということで、広島焼き、は最終日にとっておこう。

(2002.11.9 Ms)

 10/14(月)広島交響楽団 第223回定期演奏会 公開練習

 さて、トゥービンの交響曲第3番、日本初演を控えた広響さんのリハーサル。コンサート本番に行くことができないので、10/13,14と時間を見つけてリハーサルに潜入。
 潜入とは言え、ちゃんと本番3日前から、練習場のアステールプラザでのリハが公開されており、特に予約も必要なく、正々堂々練習を見学させていただく。まず、施設の充実ぶりに驚く。通常のコンサート会場の椅子の並びと同様に階段状に客席があって、それもオケの正面真ん前の高い位置に陣取っている。新しい施設で、練習の公開も前提にこの施設は作られていると思うが、本番以上にオケの生の醍醐味が堪能できる。言葉での説明だと、わかりにくいかもしれないが、イメージとしては、通常のホールで、ステージ正面1番前の10列ほどの客席が、中2階くらいの高さまで上に持って来たといった感じの位置である。
 普通、こういった位置でオケの音を聞くこともないのだが、音がストレートに体に伝わってくる。この体験は貴重だ。公開リハーサルということで、お客さんはガラス張りの向こう側で、とか、会場の隅の方で、とか、そんなイメージを想像していたのに、オケと正対し、こちらの方こそ緊張してしまうほど。奏者の表情まで細やかに把握できるし、客席の状態もまたしかりだろう。オケの活動のひとつとしての公開リハ、それも、こんな好条件での体験、こんな体験が日常できるとは、広島の方々は世界に誇れますって。

 二日間の練習で、とりあえず演目すべては聞く事ができた。ただ、ショスタコのヴァイオリン協奏曲第1番については、ソリストの合流が本番前日のみということで、私が聴けたのはオケのみの合わせ・・・・ただこれはこれでとても貴重な体験だ。

 最初に聞いたのは、アルヴォ・ペルトの「ブリテンへの追悼歌」。弦とチャイムという編成。練習初日というのに、弦がピタッと合っていて表情も豊か。さらに、それに先立つ、鐘の音も素晴らしい。特筆すべきは鐘を担当した奏者の力量の凄さ。最初はごくごく弱く。曲が弦の厚みを増すごとに鐘の音はどんどん遠くから近づくように現れ、クライマックスでは、生まれて聞いた事もないような、迫力のある鐘がそれも打撃の鋭さだけでなく、音程のある「音」、という存在感で、まさしく神々しく、ホールに響きを充満させ、溢れんばかりに鳴り響き、鐘が音楽を完全に支配下においていた。あの、のど自慢でつかう「鐘」である。ベルリオーズの「幻想」で使う鐘ではない。あのか細い金属の棒から、あんな響きを引出せるだなんて・・・・打楽器奏者だからそこまで私も今書いているのだが、あんな風に鐘を鳴らしている場面を生で体験したのは私の長い打楽器人生でも初めて。だいたい鐘というのは扱いの難しい楽器で、あれを存分に鳴らし聞かせるのは至難です。オケやブラスで使う時はだいたい聞こえないのが落ち。聞こえても打撃のカツンというあたりで消えてゆく。長く豊かな響きで、太く響かせるのはホントに困難。さすが広島まで来たかいがあった・・・・なんとも因縁めいているのだが、ヒロシマと鐘。故人の追悼、というにふさわしい鐘の響き、これは一生忘れ得ぬ思い出となりそうだ。正直、うるさ過ぎないか、鼓膜が破れそうだ、と最初にその場面を聞いた時は驚愕しきり。でも、鐘の音の追悼の響き、さらには警鐘として、また宗教的な厳かなる心持をも心の中に去来させるにいたって、評論家的な枝葉末節へのこだわりは消えうせて、鐘の音にただひれ伏すのみだ。
 曲の最後の鐘の余韻だけ残す効果も絶大。弦が分厚く最後の和音を延々と引き伸ばす間に、鐘を軽く叩き、弦が弾きおわった瞬間、鐘の余韻だけが微かに残るという、これまた難しいんだ。それが、鐘の打撃音も全くさせず、それでいて長い余韻の音だけが最後の静寂に吸い込まれてゆく・・・・これぞ、ペルトの理想の音響に違いないとすら感じる。これを2回も聞けたのはありがたい。
 打楽器をやっている都合上、鐘への感激ばかりで恐縮なのだが、凄いんだから。さて、弦の音色、厚み、というのも体感できて嬉しい。轟々(ごうごう)鳴るというのはこういうことか。でいて、最初に出てくる高音の風のような囁くような、切ない雰囲気。テンポ感も希薄で合わせどころもあまりなさそうな、つかみにくい楽想でありながら、パートでの統一感も伝わるし、パート間のアンサンブルへの配慮もよくわかるし、オケが一体となったらこんな風に響くんだ、と手応えをつかむ。練習の最中も、パートリーダーはさかんに指揮者との意志疎通、パート員への伝達をまるでオフィスにおけるビジネスマンの如く慌しく行い、仕事への情熱、すら客席に伝わるのだ・・・・オケの全体が一望できる至近距離で練習を見たのが初めてということもあり、そこまで見て取れたとは思うが、私の今まで身近にいたプロオケには(学生の頃、裏方仕事で練習を見る機会もあったけれど)、やや殿様商売、公務員的なダレがあったようなイメージが強くあって、この広響さんの意欲には感銘した。若い奏者も多く、意気盛ん、といった雰囲気は随所に感じられて良い。
 あと、指揮者の秋山和慶氏、高名ではあるが私は初めての出会い、ということで、指揮も間近に拝見させていただいたが、棒のテクニックの正確さ、には感動だ。そりゃプロだから、という訳だが、プロにしたって、何となく雰囲気で振ってるように見える人もいるでしょうに。秋山氏のこのペルトの棒さばき、鐘の入り、そして、各パートの入り、すべて把握して指示がどんどん出てくる。それも結構やらしいタイミングだったりするのだが、確実に音楽を、流れで把握し尽くして、余裕のなかで音楽作りをしていた、と感じる。
 音楽作りの現場、それもレベルの高いものが体験できて大変嬉しい。ペルトは10/13の午前の30分ほどのみ聞く事ができたのだが、十分堪能できた。これだけの実力あってこそ、この音楽のもたらす「癒し」は人々の心を打つわけだ。

音楽の持つ癒しの力を求めて、新たなる旅立ちの決意の日、記す・・・・(2002.12.7 Ms)


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