ESPANSIVA! NIELSEN

オススメ曲紹介

 このコーナーでは、当HP主催のMsの個人的な判断によって、ニールセンの作品より「オススメ」なものをセレクトして紹介してゆきたいと思います。皆さんのニールセン探検の地図のような役割となれれば良いのですが・・・・。ただ、個人個人それぞれに趣味趣向が異なる訳ですから参考にならない場合もあるかもしれません。あしからずご了承のうえ、ご覧下さい。

弦楽合奏曲
 やはり、ニールセンと言えば「交響曲」というわけですが、ヴァイオリニストであった彼にとって若い頃から演奏を楽しみ、また、作曲を始める出発点にあった形式である「弦楽四重奏曲」、これと並んで「弦楽合奏」による作品も是非とも押さえておきたい分野です。
 北欧作曲家の先輩格、グリーグも、弦楽合奏の作品は、「ホルベルク組曲」「2つの悲しい旋律」始め、ペール・ギュントの中の「オーゼの死」など傑作を量産しており、また、同年のシベリウスも、「恋人」「ロマンス」「アンダンテ・フェスティーボ」など、同様な傾向です。北欧のムードを伝える楽器編成として、弦楽合奏という形態が好まれているのでしょうか。彼らに比べると、ニールセンの場合、量は少なく、また作品全体の中での重要度も低いとは思われますが、それにしても捨てるには惜しい作品たちです。3曲全てオススメとして紹介致しましょう。

 もちろん、まずは、小組曲(Op.1,FS6)1888年の作。
 記念すべき作品1。この曲の成功によって彼は作曲家としての第一歩を確実なものとしたわけです。とにかく美しい作品です。冒頭からして、ほの暗い抒情に満ちたもので心を捉えます。ただし、古典派及び前期ロマン派の範疇において、の美しさであり、後年のニールセンの独自性を感じさせる萌芽はまだ見られないようです。当時のデンマーク楽壇のレベルが、こういった作品を歓迎したということでしょうか?私自身、ゲーゼやスヴェンセンといった当時の作品を知らないので想像の域を出ないのですが・・・・。
 ただここで注目すべきは、グリーグの作品に比べるなら、民族色の表出という側面は希薄に感じられ、逆にグリーグには感じられない絶対音楽志向があります。小組曲なるタイトルながら、全3楽章はそれぞれ、「前奏曲」「間奏曲」「フィナーレ」となっており、ロマン派、国民楽派的な外見となっていません。さらに、第1楽章の主題が第3楽章で回帰するという主題循環をさせ、「小組曲」という控えめなタイトルながらも、全曲の統一という構成的な配慮がしっかりされているところも見逃せません(この手法をさらに手の込んだ形にしたのが、同時期の弦楽四重奏曲第1番のフィナーレのコーダにおける、「レジュメ(要約)」と題された部分。)
 さすが弦出身の作曲家だけあり、作品1ながらも弦の扱いには冴えが見られ、また、とても聴きやすく作られていますが、その背後にある彼の野心(時流に反した絶対音楽志向。彼の一生を貫くテーマと私は感じます。)を是非感じたいものです。

 続いて、アンダンテ・ラメントーソ 〜若き芸術家の棺の傍らで〜(FS58)1910年の作。
 題名のとおり、若き芸術家の死を悼んで作られた作品です。わずか30歳で亡くなった画家オルフ・ハートマンの葬儀のために書かれましたが、ニールセン自身の葬儀の際にも演奏されたそうです。
 悲しみを表現しながらも、厳しく、緊張感をはらんだ音楽が展開されます。ピーンと張り詰めた弦の雰囲気は、弦楽四重奏曲第4番(1906)の第2楽章にも見られ、そして、続く、交響曲第3番(1911)第2楽章の前半部分へと受け継がれてゆきます。小組曲と比較するなら、断然グリーグ風な北欧らしいムードは感じるものの、やはり、感情移入という面では、グリーグほどのロマン的な香りはなく(「オーゼの死」や「過ぎた春」と比べてみましょう)、過度に感情に流されることの無い、ニールセンらしさを感じ取ることはできるでしょう。

 最後に、パラフレーズ「ボヘミア=デンマーク民謡」(FS130)1928年の作。
 最晩年、交響曲第6番(1925)以降、前衛的な手法も取り入れた、やや難解な作風と化したニールセンではありましたが、ここでは素直に、民謡を感動的な弦楽作品に見事仕上げています。タイトルどおり、ボヘミアとデンマークの民謡を取り上げていますが、デンマーク民謡の方は、ボヘミアの王女でデンマークのワルデマールU世勝利王のもとへ嫁いだDagmar王妃を歌ったもののようです。デンマークの放送局が、チェコの指揮者Jaroslav Krupkaの来演にちなんで依頼したとのこと。晩年のニールセン、大家として様々な委嘱作もこなしていたと思われますが、最後の管弦楽を使用した大作「クラリネット協奏曲」と前後する、この「パラフレーズ」と「フェロー諸島への幻視旅行」の2曲、ニールセンとしては珍しく民謡を素材としつつも全く毛色の違う作品として仕上げており、この2曲の聴き比べも興味深いものです(ニールセンは、シベリウスと同様、単純に自国の民謡を自作に活用するような、あからさまな国民主義的な作風ではなかったようです。)
 素朴な旋律が、とうとうと流れてゆきます。時にはソロを交えつつ、ふとヴォーン・ウィリアムズをも思わせるような、古風な雰囲気を漂わせる美しい傑作です。
 余談ながら、ワルデマールU世、13世紀頃のデンマークの王で、バルト海へ進出、エストニア遠征の際、敗戦寸前のところ、天から血の色の旗(白十字がついていた)が降ってきて、神の加護と信じて逆転勝利。それ以来、赤地に白十字がデンマークの国旗となったという。彼は、過去のデンマークの輝かしい歴史を象徴する王の一人ということでしょう。また、ユトランド法典を制定、1900年まで一部効力を持っていたとのこと。世界史の勉強ではなかなか習うことの無い北欧の歴史も面白いものですよ。

 以上、北欧の作曲家として相応しい、弦楽合奏曲、いずれも美しく、また、ニールセンならではの作品ぞろい。3曲ともにオススメします。

(2002.4.13 Ms)

 


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