1989鈴鹿予選のデータから

セナ速さの理由、「セナ足」

TCSとの違い

(2001.12.8)

通算65回のPPを数える、アイルトン・セナの速さの理由は、「セナ足」にありました。セナ足とは何か、何のためにあるのか、TCSは同じことをするのかなどについて述べます。

 

1秒間に6回のアクセル開閉

セナ足とは1秒間に6回もアクセル開閉を繰り返すことで、バタ足というより、けいれんに近い状態です。これにより、コーナリング中のエンジン回転を上げ、高いスピードを維持することができました。これはセナならではの、限界を超えない感覚があってこそのことです。また、コーナー出口でアクセル全開にするときにも、加速の点で有利でした。さらに付け加えると、ホイールスピンをおこさないためもあります。

 

テレメトリに見るアクセル開度

 

 

1989鈴鹿予選の動画

1989年日本GP予選において、セナが1分38秒041でPPを取りました。マクラーレンホンダのチームメイト、2番手プロストに1秒7の大差をつけています。上はそのときのセナのテレメトリデータから、アクセル開度を表しています。左はコースのポイントごとの速度とギヤです。

アクセル開度は一番上が全開、一番下が全閇の状態です。当時はマニュアルシフトのため、ストレートでギヤチェンジするたびに、クラッチを切りアクセルを閉じています。

折れ線グラフで高密度にギザギザになっている部分が「セナ足」です。S字、逆バンク、スプーンの3ヶ所で特に顕著です。全閇と開度3分の1ぐらいのところで揺れています。

 

セナはあらゆる場面でセナ足を使っていたのではありません。シフトアップやシフトダウンでは使わないし、スローコーナーではそれほど使っていません。鈴鹿は長いコーナーが多く、連続するのが特徴ですが、その箇所でセナ足が見られたのです。したがって、ホイールスピン対策よりも、高速維持と出口加速力の目的の方が大きかったと言えます。

 

セナF1デビュー時にセナ足をいち早く知ったスチュワート

セナはおそらくカート時代にセナ足を使い始めていたものと思われます。21歳でイギリスにわたり、フォーミュラフォードやF3で連戦連勝したとき、セナはカートでつちかった技術を応用していました。

ジャッキー・スチュワート(1969,71,73チャンピオン)は、セナのF1デビュー時(1984年)、いち早くセナの才能を見抜きました。コーナリング中に細かくアクセルを操作するやり方を見たのです。もともと、微妙なアクセルワークは、ターボ時代にプロストやロズベルグが、ターボラグを嫌い、パワーを落とさずにコーナリングするために発案したものです。セナは、ターボに限らず、コーナーの立ち上がりで可能な限り早く加速するための技術として完成させました。

セナ足はホンダのメンバーがデータから驚いて知ったことから、日本だけの言葉です。しかし、まったく同じ意味でヨーロッパでも知られているセナの強さの理由です。

 

 

セナ足とトラクションコントロールの違い

トラクションコントロールシステム(TCS)は、コーナーでパワーオーバーとなりタイヤが空転することを回転数で検知し、エンジンの点火を部分的にカットして駆動力を落とすことです。これによってホイールスピン、すなわちグリップしないことによるタイムロスやタイヤ磨耗することを防ぐことができます。縦方向の限界という意味でセナ足と共通点があります。違う点は、セナが横方向のグリップ限界をセナ自身が検知し、超えないギリギリまでアクセルを踏むということです。TCSがあるからといって、中高速コーナーの速度を上げることはできません。また、フライ・バイ・ワイアという最適な燃料供給を自動的に行う仕組みも、横方向の限界と連動するわけではありません。

 

シューマッハのTCS限界走法

一方、M・シューマッハは、鈴鹿の予選でTCSを特殊な使い方で速く走ることに利用しました。それは、S字区間すべてでアクセル全開にし、コーナーはブレーキ操作で曲がれるようにするというものです。アクセルとブレーキを同時に踏み込んでいることになります。駆動力と制動力が同時にはたらき、TCSが作動します。これによりグリップを得て高いスピードでコーナリングしたのです。ただし、シューマッハならではの限界を予知する能力が必要です。

 

時代の頂点に立つ者は、他と違う何かを持っています。セナが持っていたのは、限界察知能力が支えるセナ足でした。65回のポールポジションという数字には、そういう意味が含まれていました。

 

 

参考文献:「F1解剖講座」「アイルトン・セナ最速のドライビングテクニック」「F1倶楽部」