マキリ -06 アイヌ・マキリの自作(二)

一気に削りたい気持を堪えてチビチビと削っては冷やし、冷やしては削り。
なんと昼休み3日分かかった。
家に持って帰って、油砥石の荒目に石鹸をなすりつけて、グラインダーの目が消えるまで根気勝負。
全くの我流やけども、油砥石にはマシン油よりも石鹸と水の方が研ぎ易いし、何よりも後始末が楽。
毎朝、ゴリゴリ砥いで、4日で何とか格好がついた。
今度は中砥石で刃を砥いで見たら、お〜っ、結構切れるがな!

所々にグラインダーの目が残ってるけれど、その内砥ぎ減って消えるやろ。
全鋼の皆焼入なんかするもんやから、砥ぐのが大変。
そうかいうて、鋼の沸かしづけなんかようせんがな。
細めの砥石で仕上げをして、新聞の折込チラシで試し切り。
一番使う切っ先から1/3あたりが引っ掛るねぇ。
心残りやけど、ボチボチ会社に行かんならん。

翌日は中砥石からやり直して、紙はス〜ッと切れるようになった。
試しに顎のところのヒゲをちょっと剃って見たら、剃れるには剃れたけど、後がヒリヒリして難儀しました。
しかし、これだけ切れれば鞘の彫りには充分使えます。
刃が出来たから、いよいよ拵えの製作ですわ。
鞘の部分は、トペニ(イタヤカエデ)やネシコ(クルミ)を使うらしいですね。
生憎そんな材の手持ちはあれへん。

カエデは有るものの、径が一寸やそこいらでは細過ぎて使い物にならん。
しもた、この間山でネジキの適当なんが枯れてたのを持って帰ったらよかったなぁ。
イタヤカエデは、街路樹に植わってる所を知ってるんやけど、街路樹の枝払いをする秋までは待てん。
それに、何時作業するやら、太い枝が有るかどうかも判らんもんなぁ。
クルミも山小屋の近所の沢沿いに何本かあって、別に所有者といっては無いみたいでも、まさか勝手に伐るワケにイカン。
適当な太さの枝があるところへ登るのも大仕事やしね。
伐ってからせめて半年は乾燥させんと、反るは割れが入るはと暴れまくって使い物にならんけど、このイラチがそないに待てるもんか。

止む無く、何かに使えるやろ、と乾燥さしてある去年枝払いした桜を使う事にしました。
太さ80〜90mmの丁度適当な曲がりの有る鞘用のと、二周位い細目の柄に使う枝分かれした部分が丁度有って助かった。
何でも置いとくもんですなぁ!
刃にはSK材を使うた事やし、あんまりシビヤーに考えんとこ。
ドンドン安易な方へ流れてますなぁ・・・。
幾らサクラの材は目が細かいとはいえ、シラタ(外側)は根性が無いから、彫りやすい代わりにポロッと欠けやすいんですよ。
とりあえず、鉈でシラタの部分を削って適当な太さに荒削り。
このオッサンは、何かというと鉈を持ち出すんですなぁ。

山程木っ端を作って、さぁこれで材料は揃った。
「揃った」言うても全て代用品ですねん。
これでは大きな顔して、アイヌ・マキリの復元とは言えんねぇ。
「のような物」ですなぁ。
刃渡りはざっと四寸弱、拵えを付けた仕上がり寸法は八〜九寸の「一寸大振り本メノコ・マキリ風味のような物」に仕上がりそうやね。
さて問題はデザインやなぁ・・・。

飾りの彫刻はあとでゆっくり考えるとして、先ず刃に柄をすげん事にはイメージが湧かん。
それに、メノコ・マキリはアイヌの若者が「マキリ一本で心をこめて作った。」と大概の解説に書いてある。
いくら何でもそれは無いやろ?
飾り彫りなんかはそうかも知れんが、大削りはタシロ(鉈、山刀)でしたと思うねぇ。
とはいうものの、切れ味と使い勝手を試すために、拵えはできる限りこの刃で細工しょうと思うたんです。
しかし、柄のついていない刃だけでは、とてもや無いが細工等は出来ん。
何はともあれ、刃を柄を据えん事には始まれへん。
キリで2個所穴を明けて、その間をアーミー・ナイフでホジホジと削って刃を据える穴を明けました。
七分目くらいの深さにしておいて、中子を焼いて押し込んで、一応柄が付いた。

ものの本には「柄と鞘は一材で彫り抜き」と書いてある。
確かに、柄は「一材で彫り抜き」やないと信頼性が無いわなぁ。
鉈で荒削りをしている時にはそうも思わんかったれど、サクラの材は根性あるねぇ。
その割りには素直なんがまだしも救いですわ。
考えたら、細かな模様を彫るのが、軟らかなサクイ木ではかえって難しいか?
最期にポロッと欠けたりしたら、泣いてしまうよ。
そう言えば、欄間彫りは鳥の脚とか松葉の先みたいな一番細かいところを先に彫るそうな。
「最期の仕上げでドジを踏んだら、それまでの手間がパーになるからや」と言うてたなぁ。

しかし、鞘の方も「一材で彫り抜き」てかいな?
簡単に言うてくれるが、それは相当難儀でっせ・・・。
船食い虫やあるまいし、木に穴掘るばっかりもしてられへん。
どっちみち「のような物」やと開き直って、電気ドリルで下穴を三個所明けて、その間を船釘を削って作った道具でコリコリと掻き毟って刃の入る穴を明けたんです。
ところがドリルの長さがそう長くはないので、この手法で彫れたのは刃の長さの半分足らず。
残りはキツツキ小父さんで、こつこつ穿(ホジ)くるしか手がないんですわ。
柄はともかく、鞘は太さがあるので、端まで小さな穴を掘り抜いとかんと、芯持ちやから割れが入るやろなぁ。
この作業に思いの他時間がかかってウンザリしました。
仕上がっても見える部分や無いし、やってても精が無うて厭になりましたわ。

アイヌ拵えのマキリは、柄が一寸ほど鞘に嵌るようになっているのが特徴ですねぇ。
柄との嵌め合わせがシックリするようにしとかんと、ガタガタで下に向けたらスポンと抜けるようでは具合が悪いし、かというて、いざ抜く時にはスルッと抜けんとイカン。
鞘口を柄の太さに合わせて掘り込むんですが、ここばっかりは手抜きが出来ません。
これもメノコ・マキリの特徴の「下緒付け」をはめ込んでやっと出来た。
実は「下緒付け」をはめ込みにせずに、削り出しにした方が良かったんでしょうが、それに気がついた時は鉈で荒削りしてしもた後やったんです。
止む無く同じサクラの材で作ったのをアリ溝を切ってはめ込みましてん。
私のする事はこんなもんですわ、と開き直ってと・・・。

さて、いよいよ飾り彫りですわ。
どんな彫りにするかなぁ?
又々、あれこれ見ては、鉛筆で描いてみたんです。
紙にはいくら格好良く描けても、自分の腕で彫れんような物ではどうにもならん。
その腕が大した事無いから困りますねん。
かというて、あんまり単純、簡単な彫りでもなぁ・・・。
描いては消し、描いては消し、中々決められへんのです。

ん?そうか、自由で繊細なデザインがマキリの彫刻の特徴やねんから、「繊細」には目を瞑る事にして、自由=適当に彫ったらエエんやがな。
「おっとっと・・・」と余分に切り込んでしもたら、それも模様の一部にしてしもたらええねん。
そうなれば気が楽になった、先ずは端の方から彫り出して、先の事は彫りながら考えよう。
暇を見ては少しずつ彫ってたら、段々と鞘が模様で埋まって来たのはエエんやけど、何やらラーメン丼みたいなイメージになってしもた。
これはまずい!このまんまでは中華風のマキリになってしまう。

幸い鞘は「どうも少々太目やなぁ・・・」と思ってたので、彫った部分を全部削ってやり直し。
彫りが浅かったから丁度良い太さになったがな。
結果オーライ、こんなんばっかりやねぇ。
やっぱり、ざっとでも鉛筆で下絵を描かん事には全体のバランスが判らん。
ところで、マキリは腰のどっちに下げるんやろ?
それによって裏表が有るのか無いのか?
調べたらどうやら男の場合はタシロ(鉈、山刀)を左に、マキリを右に下げたらしい。
メノコ・マキリについてはどっちとも決め手が無いんです。
それに裏表とも飾り彫りをしてあるのが普通らしい。
そんなら「裏がどっちや?」と考える必要は無いんやんか。

自分が作ったという印の縄目と、海人にはつき物のセーマン、ドーマンは何処か端っこに入れるとして、メインの模様は幾何学模様にしょうかか、草花がエエか?
メノコ・マキリのつもりやねんから、やっぱり「花」にしょう。
周りをアイヌ模様で囲んでと、それらしい雰囲気になってきたがな。
しかしこれを彫れるやろか?

作った刃は思いの外切れ味が良い物の、これで細かい彫りをするのは真にもって危険。
「既に電気ドリルのお世話にもなった事やし、五十歩百歩や」と刃の幅3mm程の小さな平刃のノミもどきを急遽作りました。
替え刃式カッターナイフの刃を折ったのをグラインダーで整形して、間に合わせの柄をつけただけのもんなんです。
これで鉛筆の線に沿ってキコキコと折れ線みたいな切り目を入れておいて、仕上げは自分の作ったマキリの刃で彫り込んで行こうという作戦。
この俄か作りの助っ人が大変有効でした。
曲線でも何とか彫れたのはこれのお陰。
これが無ければ、相当バンドエイドのお世話になる羽目になったでしょうねぇ。

マキリ-07 アイヌ・マキリの自作(三)

2004/05/14