マキリ -05 アイヌ・マキリの自作(一)

マキリと題していながら、その実は漁業用の包丁やら、鉈の姐さんの話ばっかり。
これぞ羊頭狗肉ですやんか。
これではあんまりやなぁ、と本家本元のアイヌ・マキリを申し訳に付け足したんですが、物は民博に陳列されてるのを見ただけでして、後は全くの伝聞、受け売りですねん。
どうも我ながら、これでは気分がすっきりしませんわ。

現物を手に持っての話やないから、中途半端な不完全燃焼で気色が悪い。
そうか言うて、本物のアイヌ・マキリはその辺で売ってないんです。
Webで「これが本物」と言い張ってるマタギのマキリ=剣鉈の類は多いんですがねぇ。
アイヌ・マキリとして出てるのは、チト別物のような気がします。
見て「欲しいな」と思うようなのはありませんねぇ。
有れば博物館の所蔵品。
たまに出る本物らしいのは完全に骨董品、工芸品扱いで、刃は二の次三の次。
道具としては遥か昔に寿命が尽きた風に見えるのばっかり。
とても木なり何なりを切ったり削ったりして、使い勝手がどうこうという対象にはなりません。
おまけに刃がワヤになってても、造りが健全やと腰が抜けるような値段ですねん。
値もさる事ながら、如何にも雑なのしか見当たらん。
つくりが雑やト刃もロクな物やないでしょうねぇ。

あの程度の出来なら自分で作れんやろか?
自分で作ったんやったら、雑でも何でも納得出来るがな。
第一なけなしの小遣いを使わんで済むのが魅力。。
よし、一丁作ってみるか?と考えるあたりがヤタケタ。
さりとて、いくら素人の不細工な仕事でも、余り寸法形状のかけ離れた物を作ったんでは、何をしてる事やら判らんから、ヤタケタなりに一応は資料を調べてはみたんです。
前回にも書きましたが、余りのバリエーションの多さに眩暈がしてしもた・・・。
それでも見ているうちに何と無く、自分なりに「こういうのが如何にもマキリらしいのとちゃうかいな?」というイメージが出来て来ました。
それが果たして当を得てるかどうか?

先ずは一番大事な刃。
これはバイト(金属を削る旋盤用の刃物)の古を鍛造して作ることにしました。
本来は炭素鋼でムクか、地金に鍛接、沸かしつけでしょうねぇ。
昔はSK材(工具鋼)何ぞは絶対に無かったでしょうなぁ、まぁ堪忍してもらお。
「一番大事」と言うて置きながら、既にこの時点でインチキ臭いねぇ・・・。
さぁ、こんな調子では、どこまでホンマモンに迫れるか?
形は素人が鍛治屋の真似して作るのに樺太型は難しすぎる。
反りの無い北海道型モドキとすることに決定。

アセチレンバーナーで焼いて、トンテンカンテンと叩いて、これが形になりまへんねん。
実は、最初はもう少し長いのを考えてたんです。
ところが叩いて薄くなると焼きムラが出来る。
耐火煉瓦で囲んで焼いても中々上手い事行かんのです。
ちゃんと鍛造しようと思えば、耐火煉瓦で炉を造って、重油かブロパンバーナー。
もっとも簡単なのでも、ジホロを掘って松炭は無理としても、炉+コークス+フィゴが要る。
そんなもん気紛れの素人の遊びに作るわけにいきませんがな・・・。

刃を作る段階で「手がもう一本欲しいなぁ!」と思う場面が多かったですねぇ。
有り合わせの道具を使った素人の手慰みでは、とてもやないけど長い刃は作られへん事が身にしみて判りましたね。

物が小さいからすぐ冷める、冷めたのをうっかり叩くと下手をしたら折れるんですよ。
ざっと大まかに叩き伸ばして、グラインダーで削り出したんですが、この時点で既にかなりの手抜きですわ。
曲がりなりにも刃らしい形になったのを真っ赤に焼いて、水での焼入れは難しいから廃油へジュッ。
どうかいな?と見てみたら、カッチンカッチンの白焼が入ってしもた。
温度高すぎ、急に冷やしすぎですなぁ。

鋼の肌がせめてベージュ、出来たら茶色やないと硬過ぎてアカンのです。
チョイトなましたら何とかなるかと、今度は少し黒っぽい赤色になった所でジュッ。
前回の焼入れで油の温度が上がってたか、油にボン!と火がついて焦り狂うたがな・・・。
あんまり変わりがないみたいやなぁ?と試しに目の高さから落としてみたら見事に真っ二つに割れた。
鍛造傷が有ったんやろか?と見たら、明らかに硬度が上がり過ぎ。
割れた断面は真っ白の瀬戸物みたいな肌。
ここまでで昼休み終了ですわ。

翌日気をとりなおして、又もやトンテンカンテン。
今度は前回よりももっと大まかな形に仕上げて、焼きを入れてからグラインダーで削り出す事にしました。
温度は鉄の焼けた色具合が頼りなんですが、周りの明るさによって違う色に見えますねん。
この前はカンカン照りやったから、仕事場も明るかった。
あの明るさで熟した柿の色に見えるんやから、夜暗いところでは黄色に近い色に見えるんやろなぁ。
温度が上がりすぎてたんでしょうねぇ。
前回に懲りて、少々低めの温度で、第一回目の焼入れをして、ヤスリを当ててみたら、アカン!
グッと食い込んでしまう。

なまくらもエエところです。
これやったらその辺の鉄板と変われへん・・・。
今日は曇り、今度は慎重にもう1回焼いて、少し叩いて薄くしてジュン。
キャッ、曲がった!。
焼いて曲がりを直して、反りの外側を下にして斜めにジュッ。
まだ心持曲がってるけれど、これは仕上げの整形で誤魔化せそう。
ヤスリのかかり具合ではマズマズの堅さみたい。
グラインダーがけは又明日。

こんな事なら、自動車のスプリングのような、焼入れ済みの鋼の平鉄を、一からグラインダーかベルトサンダーで削り出す方が素人向きで良かったですなぁ。
ウチにはベルトサンダーてな洒落たものは無いねんけどね
そもそも、廃物のバイトを材料に使おう、てなケチな事を考えるから苦労するんですよ。
水を用意して、冷やしながらグラインダーで形を整えるんですが、焼きが入ってるからそう簡単には削れません。
気長にやらんと折角の焼きが戻ってしまう。
線香花火みたいな火花の感じではひょっとしたらエエかも知れんぞ。
全部仕上げてから、砥いで見てアカンかったらメゲてしまうから、一部分だけ仕上げて砥いで刃をつけて見たんです。
ちょっと堅いけど、まずまず満足できる顔付きですわ。
ここで焦っては、元も子もないので、今日はこれまで。

2004/05/13       マキリ6 アイヌ・マキリの自作(二) →