マキリ -03 山仕事用マキリ(剣鉈)

カミさん二十年来愛用のマキリ(剣鉈)です。
私には長年使い慣れた七寸五分の鉈が有るんですが、カミさんには適当なのが無かったんです。
北摂の藪山を歩き回わるのに、道の有る所は良いのですが、一旦道から外れると最近は里山でも手強い藪が多くて、やはり夫々が鉈を持って無いと不便。
鎌もすてがたいんですが、細身の鉈の方が用途が広いし、持ち歩きしやすい。
ひょんな事から山に掘っ立て小屋を作ることになって、予定地の雑木林の整備をするのにカミさん用の鉈がいよいよ必要になってきたんです。⇒(山小屋つくろ!)

「何か手頃な良いものは無いかなぁ?」と思ってたら、山への行き帰りにいつも通る国道173号線で信号待ち中にヒョイと道路端を見ると、林業関係の金物屋がありまして、剣鉈の刃だけがウインドウの端っこに置いてあるのが目に付いたんです。
奥に能勢を控えた池田の辺りにはこういう店があるんですなぁ。
店に入って「其処の剣鉈を見せてくれ」と言うと鞘に入った出刃包丁みたいな鉈を出してきたんです。
「いやそれや無い、身だけで置いてある細身の方」
「あぁ、マキリねぇ」
あれ?これもマキリいうのんかいな?
なるほどシゲトさんに貰ったマキリに似ていなくも無い。
しかしこれは「マキリ」というよりも「ナガサ」とか「タシロ」の方が近いのと違うかなぁ?
手にとって見ると土佐刃物、軽いし刃の性質(タチ)も中々良さそう。

珍しいものを置いてるねぇ、と言ったら、猪猟をする御得意さんの注文で取り寄せたのに、現物を見たら気に入らんと言われて在庫になったんやそうな。
「柄は無料でお好みのを付けさせて貰いますよって。」とエライ弱気ですねん。
そんな事情を、聞かれても無いのに客に言うとは、あんまり商売気がないね。
確かに値段は「ホンマかいな?」と思うほどの大特価、スポーツ店で売ってるチャラチャラしたナイフより安いやんか!
ちなみに最初に出してきた鉈の値段を訊いたら、こっちは安くも高くも無く普通の値段やった。
見る度に気分でも悪いのか、よっぽど手放したかったんでしょうね。
見た目が不細工でも、鉈の柄を付けた方が絶対に使い勝手はエエ筈。
「こういうもんは一度買えば一生物や、巡り逢うたのも何かの縁、ヨシ決めた」と買いました。

ゆっくり丁寧に柄を付けて貰う事にして、翌週小屋を建てる作業に山へ行く途中で引き取りに寄ったんです。
柄が付くと刃だけを見てたのと全く違う感じになりますねぇ。
いかにも使い良さそうやし、格好エエがな。
「口金はサービスで上等のをつけときました。」
なるほど、私の鉈の単なる鉄の輪ッパとは大違いの、いかにも高級な口金が付いてますねん。
並べると私の鉈がなんや貧相に見えるなぁ。

そうなると、柄に負けんような鞘を作らんといかん、山の風すきを良くするのに切った「ソヨゴ」の丸太を素材に根性入れて作りました。
どうせなら、切れ味と使い勝手を確かめるのにこの新品のマキリで作ったろ、と砥ぎに掛かったんです。
こういう刃物は使う前に先ず砥いで、1〜2mm刃を減らして気持丸刃にして置かんと、ノッケから大きく刃毀れでもしたら目も当てられへんのです。
ソヨゴは材が緻密でキレイ、ところが意外に細工がし難うて、スギにしといたら良かったと途中で思いましたね。

それでも何とか削って、仕上げましたが、チョット優美さに欠けてますなぁ。
刃は少〜し焼きが堅いような気もするけれど、決して悪くは無い。
一見ヤワに見えるんですが、私の鉈と優劣付け難い切れ味と頑丈さ。
山の整備に、小屋の建築、料理に大活躍してくれました。
これは中々の拾い物でしたわ。

ところで、最近は両刃の刃物が増えたというか、片刃のが減りましたね。
刀、薙刀なんかの武器、斧や竹割鉈、菜切包丁以外は片刃が主流だったんですがねぇ。
両刃なら右利き、左利きの別なく使えるし、刳り小刀みたいに右勝手、左勝手を作らなくてもすみますしね。
片刃の刃物は利き手が違えば刃が逸れやすくてチョット危険で、使いこなすには慣れが必要なんです。
刃物を扱いなれていない人でもそれなりに使えるのは両刃ですねぇ。
そういう意味では両刃が良いんでしょうね。
その代わり片刃は刃が食い込む傾向があるので、使い慣れると反って安全で使いよいんですがねぇ。
同じ身幅、刃先の角度なら、身の厚さをより厚く頑丈に出来るのも片刃ならではなんです。
逆に言えばおなじ身の厚さならより鋭い刃を付けられるんです。

砥ぎやすく、鋭利な刃を付けやすいのは断然片刃です。
自分の用途に合わせた砥ぎをして、手に馴染んだ刃物は、使うてても安心感がありますねぇ。
ところが、最近は砥石がある家庭が少ないそうで「包丁の切れ味が悪くなったから買い換える」てな人も多いんやそうです。
砥ぎやすいてな事は利点になれへんのかいなぁ?
刃物を研ぎながら使う人が少なくなったんですなぁ。
作り手が減ったから使い手が減ったのか?それとも逆か?
いずれにしても日本の伝統的な片刃の良質な実用刃物はめっきりと少なくなってしまいましたねぇ。
考えたら、自分も親父の形見の西洋剃刀は恐ろしいて使うてませんわ。
もっぱら替え刃式の安全剃刀、五十歩百歩か?人の事は言えんねぇ・・・。

ついでに私の長年愛用の鉈も、
これも土佐刃物なんです。
木曾営林署の山仕事の人に教えてもらった木曾福島の金物屋で、40年以上前に買いました。
確か当時2,000円以下だった記憶があるんですが、大阪⇔松本間が学割で600円そこそこの時代ですから、一大決心で買ったように思います。
大阪の住人が長野県の金物屋で高知県の物を買うのは、どうも納得行かないのですが地元ではもう作っていないようでした。
並んでいた鉈は高知、新潟製がほとんどで、土佐の物が良いと店の親父さんが進めてくれたんです。

積雪期の森林限界までは鉈目(少し木の皮を削る目印)を付けとかんと、新雪が積もって足跡が消えたら迷子になってしまう。
ほとんど一人で登ってたから、迷子になったら悲愴でっせ。
目印に布裂を結ぶ手もあるけれど、同じルートを戻らない場合は付けっ放しになって、それもどうかと思うしねぇ。
鉈目ならアホみたいに切り込まん限り、木が自然に癒してくれますやんか。
鉈が要るような山とルートでばっかり登っていた事も有って、山に行くときには必ずお世話になっていました。

小屋の建設でも堂々の主役、役に立ってくれました。
野山ではこれとポケットナイフがあれば大抵の事はこなせます。
これも相当砥ぎ減って細くなってしまってますねぇ。
それでも出番が減ったから死ぬまでは充分保つやろ。
最近はもっぱら庭仕事での出番が主で、鉈も不本意でしょうなぁ。

2004/04/15

マキリ-04 アイヌマキリ