マキリ -01 漁業用マキリ

マキリという言葉は不思議な響きを持っていますねぇ。
もとはといえばアイヌの言葉だそうです。
此の頃は「カスタム・ナイフ」等を扱う業者が、「魔〇X」てな、ツッパリ兄ちゃんのグループ名みたいな名前で売り出しているのもあるみたいですなぁ。
それもいわゆる作品と称する数万円の高価な物でっせ・・。
見たところ剣鉈を見てくれ良くしたような物なんです。
今時マタギは殆ど絶滅、かというて漁場で使うにはいかにも使いにくそう。
どんな人が買うんでしょうねぇ?
あんまりこき下ろすと営業妨害やと怒られそうやから、自分が持っている、使っっているものを中心に書く事にします。

先ずは漁業、漁場用の間切(マキリ)から、
実は漁業用マキリは以前ウチで商品として販売してたんです。
今でも思い出した頃にポツポツ注文が来ます。
上が昔扱っていた物、下が今細々と売れているマキリの箱のラベルです。
ようまぁ、昔の箱が残ってた事ですねぇ。
棚の奥から探し出したんですわ。
箱を開けてみたら、1本真新のが入ってましたわ、ウッヒッヒ・・・。

この間切は実用品の中の実用品。
ウチでは遠洋マグロ延縄向けの、少し大振りな刃渡り五寸五分(167ミリ)が主流でした。
価格的にはいたって安く、30年位前で一本400円そこそこだったと思います。
まだ漁業が盛んな時期で、箱単位で地方の同業者や、遠洋漁船の造船所に売れてたんです。
一人一本ずつ持って操業している時は四六時中使います。
大きな漁船では回転砥石でジャーッと砥ぐからチビルチビル。
人数が多いは、消耗は激しいは、で量が捌ける、となるとメーカーが増える。
切れ味が悪いと売れん、かというて競争が激しいから値段でも勝負せにゃならぬ。
そういう、安くて良い間切が生産された時代は1970年代で終ったようです。

今でも漁港の近くの鍛治屋さんで作っているところがあるそうですが、刃渡り四寸五分(約136ミリ)の小振りなのが多いようです。
何軒か量産している工場が残っていますが、形は同じでも刃は明らかに昔のものとは較べようが無いくらいお粗末ですねぇ。
刃の厚みが元から先まで同じなんです。
以前のは、先へ行くにしたがって薄くテーパーになっていました。
先まで同じ厚みだと重心が先端寄りになって、持ったときのバランスが変なんです。
バランスは柄で取れば良いんですが、どうも最初から軟鉄と鋼鉄の2層鉄板をプレスで抜いて作ってるみたいなんですねぇ。
焼きも、刃金の厚さも、う〜んいけませんなぁ・・・。

やはり、漁業の衰退で厳しく品質を要求される事が無くなったからなんでしょうか?
上のが和包丁と同じ造りの漁業用の「マキリ」で間切包丁と呼んでいました。
片刃で刃裏は和包丁と同じように軽くすいて有ります。
初めて持ったのはこの漁業用の「マキリ」でした。
一応簡単な柄はついているのですが、そのまま使うような人は、私の知る限りでは居なかったと思います。
柄も鞘も、自分の好みに合わせて造るのが当たり前のように思っていました。
社内で、ロープを切ったりするのも、もっぱらこのマキリが活躍してましたねぇ。

貨物船ではSea Knife(Sheath Knife)と呼ばれる洋式のナイフを甲板部の個人用工具備品として積んでいましたが、漁船上がりの船員は使馴れたマキリを使っていました。
下の方はずっと新しいステンレスの今風のものです。
これは柄を付け替える手間も無く、切れ味は今一でも錆びず実用品としては良いのかも知れません。
ロープや冷凍の餌などを切りやすいように波型の刃がついています。
「何と色気が無いなぁ・・。」と思うのは私だけやろか?

私の愛用の「間切」です。
「トンボシビ(ビンナガマグロ)」の解体はもっぱらこれでするんです。
大きな魚を捌くにはこれが使いやすいですねぇ。
出番は減りましたが、今でも現役のバリバリ。
年明けの出張の焼津で行き掛かり上買ったトンボシビはこれで捌きました。
柄は会社の前のケヤキの街路樹(今はもう撤去されて有りません)の大枝を剪定したのを貰い受けて芯持ちで作ったんです。
鞘は船の水圧装置に使うパッキング用の革のハギレ。(こういう革も最近見掛けませんねぇ)
根付は水牛の角の先っちょ。

船に乗っていた頃はロープを切ったりの作業には勿論、暇潰しに艫(トモ=船尾)からケンケンと呼んでいた仕掛けを流して、トローリングの真似事に掛かったシイラやサメを捌くのはこれ。
鉛筆も削れば、爪もこれで切ってましたね。
ともかく刃物はこれしかないから、何にでも使わざるを得なかったんです。
何故か機関部の連中は「間切」でなく「電工ナイフ(折りたたみのジャックナイフ)」を持ってましたね。
カシキ(飯炊き)のおっさんは何時も手近に包丁があるし、カシキ以外の乗組員は、何かしらの刃物を常時携帯してました。
(物騒な話ですなぁ・・)

切れない刃物は怪我のもと、それに万一切ったら痛いし治りが遅い。
変に力を入れるから傷も大きい。
良く切れる刃物で切った傷はくっつくのが早いし傷跡も残りません。
暇に任せて砥ぎに砥いで、乗組員同士で切れ味自慢をしてました。

改めて、上の新品の写真と較べると相当砥ぎ減ってますなぁ。
砥減りしない場所に鏨で切った自分の持物の印もかなり薄れてるみたいですねぇ。
全くの余談ですが、この白黒写真が何処にあるか判らず、家捜してたんです。
確か使い出してから5〜6年たった頃の写真だと思います。
接写レンズなど無いので、海図用の天眼鏡をレンズの前に固定して写したんです。

陸で山登りをする時は、このマキリは出番が無くて、鉈(ナタ)と、折れた刺身包丁に柄と鞘をつけて刃渡り三寸くらいに仕立てたミニ・マキリをもっぱら愛用してました。
その自作小型マキリは虚々実々の「U.S.A.1964 59-ED BARRAR-14-記念品」で書いたように友達に記念に贈ったんで、写真が無いんですよ。

次回は山で使うマキリ(剣鉈)の予定です。

2004/04/13

マキリ-02 山仕事用マキリ