ミケ子へ

1ぴき目のおさかな


1999年5月2日

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  きょう、わたしの人生でいちばん大きなできごとがありました。それは新しいおとうさ んとおかあさんに出会ったことです。
  今日は朝から晴れて真夏みたい。海沿いの道の両側にはハイビスカスの花がきれいに 咲いていました。わたしはおっぱいを飲むのに飽きたので、ひとりでお散歩していた ら、迷子になってしまいました。お腹がすいて、のどが乾いて、なにか音のする方へ歩 いて行くと、広い道路のまん中で車に囲まれてしまいました。
  そしたら、女の人が降りてきて私をつまんで手のひらに乗せ、車に連れ帰りました。 この人が私のおかあさん、運転席にいたのがおとうさん、うしろの席には友だちの野坂先生と 奥さんが乗っていました。
  「おなかへったよ」って必死に鳴いているのに、みんなは口々に、 「なんて小っちゃいんだろう」「ブスだねえ」などと勝手なことを言い、 麦茶しか飲ませてくれません。車はのろのろで、ずいぶん長い時間乗っていました。 途中、おかあさんが子猫用ミルクや缶詰を買ってくれました。 家に着いたときにはもうすっかり夜になっていました。
  ここは霧島という所だそうです。今日からわたしは霧島の猫になります。


 
1999年5月3日

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  ゆうべは涼しかった。毛糸のマフラーにすっぽりくるまって寝ました。 目を覚ますとすごく大きいトラ猫と、スリムな黒白のブチ猫が私の匂いを嗅いでいます。お兄ちゃんの「トラ」とお姉ちゃんの「ジョーム」です。二人はこの家のたいせつな子供たちです。だから私は、末っ子というわけ。
  おかあさんはお客さんを、ほったらかして、私のことで頭がいっぱい。私を料理用の秤に乗せて体重を計ったら280gでした。いったいこの子は生後何週間かしら、何を食べさせたらいいのかしらって、考え込んでいます。
  私おなかぺこぺこなの。なんでもいいから、早くちょうだい。


 
1999年5月4日

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  みんな朝早くから、作業服に麦わら帽子、長靴まではいて何をするのかな?
  野坂先生と奥さんは、東京から遊びにきて連休中ずっと泊まっています。おとうさんが高校生の時からの友だちで、人間のお医者さんだけど、園芸が大好き。奥さんは、お酒が大好きです。
  きょうは、いよいよ畑を作るんだそうです。何もない所に畑って、どうやって作るの かしら。おとうさんとおかあさんも3月に東京から引っ越してきたばかりで、畑のことは何も知りません。
  最初に日曜大工の店へ行って、スキとクワを選びました。(スキとクワの違いってわかる?)それから農協で、牛糞を5袋買いました。とっても重そう。そして園芸店で、ナスとキュウリとトマトの苗を買いました。

  近所の農家の林さんが心配して様子を見に来ました。林さんは大正13年生まれ。とても元気で親切です。もの静かで朴とつな人ですが、驚いた時の仕草が、アメリカ人みたいにオーバーなところが、ちょっとお茶目。「土を細かくするのは大変だよ」と言って、トラクターを持ってきて一気に耕してくれました。林さん、ありがとう。

  つぎは畝作り。畑の端に、同じ間隔に目印の棒を立てて、ひもを張って、それに沿っ て土を掘り返します。それでも曲がっちゃうんだって。けっこう難しそう。4人でやる と作業がはかどって、よかったね。畝に苗を植えて、種もたくさん播いて、畑ができました!
  おとうさんとおかあさんは感激。


1999年5月8日

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  いい天気が続きます。
  おとうさんは毎日裏山の杉の手入れで忙しそう。枯れた枝を長いノコギリで切り落とすんだそうです。
  おかあさんは買ったばかりのホンダカブで、はじめてのお買い物。東京では自転車しか乗ったことがないので大丈夫かな? 気をつけて行ってらっしゃい!

  野坂先生たちが帰ったら、さびしくなっちゃった。誰か遊んでくれないかな?
  トラ兄ちゃんが木陰でお昼寝中。後ろから飛びついて頭をかじったら、すごく迷惑そうでした。
  私が庭で遊んでいると、ジョーム姉ちゃんはそばにいてくれます。「大丈夫、こわくないよ」って言うのでクロマツの木に登ったら、わあ、いい眺め! 霧島連山がクッキリ見えます。下の方に林さんの段々畑と牧草地が広がっています。
  霧島って緑色の国!

 
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