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短編フラッシュ20
(~02年7月 テーマ『あのとき』から始まった、ちょっとエッチな雑文)
あのとき
両側をビルに挟まれた ひどく 薄暗い道を ふたりで 歩いた
その先は 大通りにぶつかる T字路で
そこまで来ると まばゆい光が 降り注いで
パレードの 紙吹雪のように わたしたちに 降り注いで
邂逅という言葉を わたしは 思いうかべた
この瞬間のヨロコビがあれば そのヨロコビの玉を 胸に抱いていれば
どこまでも 生きてゆけるだろう
と わたしは 思い
幸せとは 瞬間であって けっして 持続はしないのだと
君は 言った
結局 君が 正しかった
わたしのなかに あのときの 感触はあるけれど
ビー玉のように きらきらした光は 色あせた
「あのとき」は続かない
「あのとき」は 一瞬の輝きでしかない
だから 今 わたしは
別の 色あせてない ヨロコビの玉を 胸に抱きかかえている
そうして その 輝きが
もっとほかの ぜつぼう とか にくしみ に かわるまでの ちょっとのじかんを
わたしは まるで永遠のように 柔らかく 掌の中にくるみながら
今日を 生きているんだ
あのとき わたしは バザールで
あのときわたしは久し振りに、町におりてバザールで買い物をしていました。
バザールには険しい顔をした人が行き交い、値切ったり、呼びかけたりと、それは怒声のように聞こえました。
シナモンスパイスを買いに来ただけなのに、物売りはしきりに林檎ジャムを勧めるし、おまけに、シナモンはどこの店にも見あたりません。片言の言葉では、シナモンは通じないのでしょうか。
「何?」
「もう一度、言って」
みんな親切なのだけど、わたしの言葉は反射鏡に当たって跳ね返ってくるばかりで。跳ね返った言葉は、行き場なくココロに溜まって、どんどん重たくなってきました。
涙がぽろぽろ零れました。
泣きながら、シナモンを買えないままで、バザールから、戻る術も忘れてしまいました。
それは、バザールのせいじゃなくて。あなたのココロの問題なのですよ、と、辻占いが言いました。
そう言われて、もっとぼろぼろ泣きました。
もともとわたしは、バザールが嫌いなのです。
家の窓から眺めるバザールはにぎやかそうで、けっして嫌いではないんだけど。
その中にいることが、全くできないのです。
はたから見ると、その混沌の原因も状況もよくわかるのに。
中に入るとそれをすべて、見失うのです。
ある高さにいれば見える風景も。
人垣に隠れるとまったく見えない。
そういうことも、確かにあるのです。
結局、シナモンは買えずに。
間違った林檎ジャムをかかえて、わたしは、家への道をのぼっているところです。
あのとき、こうすればよかったと、ああ尋ねればよかったと。
今となっては思うのですが。
わたしはいつもバザールでは、めしいのように迷うことしかできないのです。
超短編小説 「あのとき」 (リレー小説より抜粋)
Oがベッドに座り込んで遥子の髪を撫でたのをきっかけに、遥子は目を開いた。
「あ、ごめん、起こした?」
「うん、でも、早く起きたかったの」
だって、会ってる時間が短すぎるから・・・
そう言った遥子の腕がOに絡みついて、引き寄せてゆく。
「夜中に地震があったよね・・・わたし、あなたが中に入ってて、ずっとわたしを揺さぶってるような感じだったよ。そう・・・こんな感じで、ベッドが揺れてて」
遥子の言葉のひとつひとつが、自分に対する感情を過不足なく伝えてくれる。
そんな言葉の素直さに、Oは、身体がためらいなく反応できるのが嬉しかった。
だけども。遥子をそんなふうに変えたのもまた、O自身なのであった。
若い頃の遥子はいつも乾いていた。
セックスをするときに自分の世界を見せてくれるような男をいつも求めていた。
男の身体の中の四角い宇宙。忌むべきものが否定され、見せるべきものがきっちりと広がってゆく宇宙。
自分の考えが、他者や、遥子自身を凌駕してゆくような男は。いつも遥子を陶酔させてくれていた。
若かったんだな、と、思う。
技量やサイズを自慢する男に限って、その動きが身勝手なことに気づいた。
わたしは、自分の一番して欲しいことも口にせずに、観客のままセックスしてたんだと、はじめて遥子は思った。
結局、セックスなんて、やだのやりとりなんだと思う。
遥子は、身体の中の自分の快楽のカードを取りだして、Oにそれを明け渡す。
そうして、Oの身体の中に隠されている快楽のカードを、遥子が抜き取り、そのカードを自分の中にとりこんでゆく。
ベッドの上には、赤と黒のカードがみんな引き出されて、それが、ひとつひとつ致してゆく。
過不足のない、身体のやりとり、カードが一致するときの、邂逅とも言えるほどの快感。
紋切り型の世界なんてみたくもなかった。
男の切り出す世界に屈服されるなんて、まっぴらごめんだ。
もちろん、世の中には、そんな人間はやまほどいるけれど。
過不足のない、フェアなカードのやりとりを、わたしたちは楽しんでいられる。たぶんそれ以上でもそれ以下でもないんだ、と、遥子は思った。
ウィンドウショッピング
中洲の路地を曲がって曲がったとことろに、その店はあるという。
といっても、夜はどこの路地も同じように見えるので、女性三人組みの不慣れなわたしたちは、少しだけ道に迷った。
先頭を行っていた案内役のSが、あったあった、と行って暖簾をくぐる。そこは小さめのスナックくらいの広さの空間だった。
スナックと違うのは、蛍光灯が白く光っているとこと、銀縁のメガネをかけた地味な女性が店番をしながらプロ野球中継を見ていること。
女性は無言で、テレビの音を小さくして、わたしたちは、やはり無言でショウウインドウに釘付けになった。
バイブがたくさん並んでいた。
クリアタイプのもの、肌色に血管まで浮き出ているリアルなもの。直径は5センチくらいまである。
大きいものもあるとは聞いていたけれど、はじめて見た。こんなの、ホントに入るのかなー、と、正直に嘆息。
それから、Sはローターという種類のものに目を移し、熱心に眺めていた。
「こういうのの、中が光るやつを持ってたんだけど、壊れたんです、光るのは、ありますか?」
Sがいきなりそう尋ねたから、ビックリした。
「ああ、それは光らないねー。こっちのクリアはどう?」
「わたしたち、暗いところで使うから、光るのがいいんだけど」
「これはどう?」
店員の女性は、不思議なカタチの器具を指さした。
「先がワッカになってて、その横の部分が震動するのだという。
「震動がソフトでね、男の人につけても、これだけでも使えるんだよ、これが一番人気がある」
「へーーーー」
としか、言いようがない。
「あのね、激しい動きのものより、ソフトなヤツの方がいいんよ。今は、そういうのが売れるの」
Sはいくつかの質問をしたが、わたしは、なぜこの器具は先が円形じゃなくて、ピンセットのように尖っているのか、とかいろいろ想像するばかりで、何一つ聞けなかった。
店をでた後にそう言うと、
「聞けば良かったのに」
とSは言った。
「あの人、地味だけどね、何でも知ってるのよ、わからないことはあの人に聞くの。有名らしいよ、道具のことで知らないことはないって」
銀縁のメガネの、フェロモンもなにも感じない地味でスポーティな女性。
彼女は、仕事に徹して、すべての使い心地を試しているんだろうか、それとも・・・
なんてことを、考えて、世の中、いろんなことのプロがいるんだなー、と妙に感心した。
中洲の川沿いに出ると、満月が真南で、だれかがサックスでスティービーワンダーを奏でていた。
川面にネオンが映り、カップルたちは肩を寄せ合い、サックスを聞いていた。
すごいよ、すごいのがいっぱいあったよ。あんなの試してみたら?って、ココロで話しかけて、わたしたちは、カップルたちの傍らを通りすぎていった。
コスプレと露出
おしゃれな友だちがいる。
先日、一緒に飲んでいたら、いろんな服を着てみたいと言っていた。
「うる星やつら」のラムちゃんとか、バービーちゃん人形とか、そんな格好がしてみたい。なんだかかぶってみたくて、「アフロヘアー」のヘアウイッグまで買ったと言う。
とても可愛い顔してて、まつげパーマをかけたばかりの目が、くりりんとしている。
それにスタイルだっていい。
「そんなに可愛いんだから、脱いだ方がいいんじゃない?」
酒席も盛り上がって、みんなではやし立てると。
「いや。わたし、毛深いから・・・着る方がいいの」
と、言われてしまった。
コスプレが好きな人って、案外多いんだなー。
おしゃれな人って、みんなコスプレ入ってるような気がする。
で。わたしは、どうかって言うと。
突き詰めて考えても、どうもコスプレではないようだ。
色っぽいキャミソールよりか。
ジーパンが好き。
古着のしかもアウトレットの、虫くいTシャツを大事に着ていたりする。
他人から見れば全然おしゃれじゃないけど。
それだって、輸入モノの、こだわりの一品だ。
わたしは。コスプレよりか、露出がいいな。
その、お気に入りのTシャツをはだけてみたり、ジーパンのボタンフライを外してみたりして。
寝そべって、おもいっきり露出してみたいな・・・
・・・なんて。
なんで、こんなことを考えるんだろうと、赤面して。それからすぐに、その理由がわかった。
そうだ。今日は、着ている服をみんな、かなぐり捨てたくなるくらいに、暑かったんだ。
今日の気分
あの人が、きれいな靴を履いてたから。
それは、甲高のわたしにはとても似合いそうにない、つま先の細いミハマの靴だったから。
わたしは、自分の確固としたものを見つけられなくなってしまって。
これが「嫉妬」という感情だということに、はじめて気づきました。
ほんとうのわたしは、些細なことを妬んだり。
他人と比較して、自分を貶めたりすることも、しょっちゅうなのですが。
生の感情というのは、どうもなまなましくていけません。
作品にしてしまうと、どんな感情だって羽の生えた服を着るようにたやすく描けるのに。
生のわたしに流れてるのは、どろどろで、カタチのない言葉で。
それは、自分がすごくちっぽけに見えてしまうくらいにカッコ悪いもので。
あまりのカッコ悪さに、わたしは、センコウ花火のように、しゅるしゅるとしぼんでしまうのです。
わたしの言葉も
わたしのメールも
わたしのポートレイトも。
みんな、作品であってくれればいい。
わたしは、創るのが好きな人間なのだから。
その隙間に、見え隠れする思いも。
みんな作品になってしまえばいい。
そうすればわたしは。
「人を好きになること」も。
きっと、自分の中で、作品として扱えるんじゃないか、と、最近、思えてくるのです。
アレが着てみたかった・・・
最近、大好きなドンキホーテ。
行くたびに、吊り下げられた、コスプレ衣装を眺めてしまう。
ピンクのナース服。
黒い、ミニドレス。
チャイナ。
エプロン風。
そして、チェックのスカートに、セーラー服。
着てみたいなー。
でも、高いとこに掛けてあるから、店員さん呼ばないとダメなんだ。
なんて思いながら、眺めていると、綺麗にお化粧したお姉さんが、セーラー服を買っていった。
それから、ちょっとエッチな下着売り場をみた。
レースのブラとショーツ。
ふわふわのベビードールもある。
だけども、若い女の子に占拠されて、わたしは売り場に入れない。
おまけに、男といっしょに選んでる。
チクショー。
はやく出ろよ・・・
なんか恥ずかしくて、入れないじゃないか。
下着売り場にカップルで来るのは、空いてるときにして欲しい。
あんたたちの隣りじゃ、選べない・・・
なんて思いながら、じっと下着売り場を眺めていると。
友だちのダンナにそこで会ってしまった。
ちょー恥ずかしかった。
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