短編フラッシュ16
落下する
夜中にストンと落下する
空を飛んでて 失速するみたいに
どこかに トーンと落ちてゆく
落下地点がわからない
無意識の中で
どこに落ちたか わからない
たぶん わたしは すでに
日常の繰り返しから 落下していたのだろう
底なしのようで どこまでもは 落ちてゆかない
少しだけ 落下する
夜中に 少しだけ
ときおり 少しだけ
だけども わたしは 幾度となく 落下したので
友だちと話していても うまく 意図がわかんなくって
恋人と話していても いつ 恋人だったんだろうと 不思議になって
自分の自信は とてつもなく 揺らいで
わたしは
夜中に 少しずつ 落下している
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堕ちてみたいか
堕ちてみたいか
どんなふうに
どこまで
堕ちてみたいか
最前線に ピンと 背筋を伸ばして
わたしは 平気って 顔してる
けっして 堕ちない
わたしは 堕ちないって そんな顔してる
世界には おまえの知らない風が吹くのを 知らないのか
その 暴風に
予期せぬ 流れ弾に
その 身体が 堕ちてゆくのを
おまえは けっして 想像しない
堕ちてみたいか
どこまで 堕ちたいか
指先の 引き金を弾くだけで
堕ちてゆけるほどに
おれの 目の前で
最前線で 笑っている
おまえは 奈落の 深さを知らない
堕ちてゆけ
堕ちてゆけ
膝をつき
地面に まみれろ
堕ちるほどに
求めよ
足を踏み入れたことのない 泥沼にまみれ
想うことの深さを 侮った 自分自身を後悔せよ
堕ちてゆけ
堕ちてゆけ
纏ったものを 泥だらけに汚し
その 愚かさに すべての身を委ねることを知り
そこから おれの 魂に
触れよ
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落ちてました
落ちてました
あなたの言葉のなかに
自信と 誇りのなかに
とりとめもない 足跡のなかに
ごつごつした石のような混沌が
落ちてました
拾いあげて 掌にのせました
ほんのりと あたたかく
光ってました
そんなふうにして 人は
言葉にならないものを
そのまま 抱えているのでしょう
言葉にすると 色褪せるほどの
些細な混沌を
言葉にしたいと思うのは
ほんとは幸せなんだろうかと
自問しました
無為な言葉よりも 深く
言葉にならないために 心にも置かれず
混沌は 投げ捨てられた石のように
転がってました
拾いあげました
言葉になるまえの 混沌は
混沌のまま あたたかかった
混沌は 混沌のまま
わたしの 胸に
言葉にならない なにかしらを 放っていきました
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犬
雨が落ちる
ぽとぽと落ちる
紅葉に染まった公園に
枯葉が落ちる
泣き濡れたみたいにして
身体が濡れる
ココロが濡れる
しっとりと
冷たくなってゆく
わたしは いつのまにか
居場所を忘れて
ぼんやりと
まわりを見回す
ずっと一緒だったのに
はぐれて
不安と つかのまの解放に
とまどい濡れる
名前を呼ばれる
手を差し伸べられる
上目づかいに 見つめてみる
やわらかい その手が
くしゃくしゃと 頭を撫でて
よしよし おうちに 帰ろう
と
わたしを もいちど鎖に 繋ぐ
迷い犬だったわたしは
探し当てられる
世のことわりのように
いともたやすく
探し当てられ
繋がれることを悦び
そのとき 犬だった わたしは
野原の無限のなかには
落ちてゆかない
こがゆき