短編フラッシュ6
ダーターファーブラよ
ダーターファーブラよ
いくつもの世紀末を乗り越え
ここを司る 神よ
すべてが崩れ去る 世紀末を
人は おそれながらも待つのか
宇宙も 時間も 遠すぎて
在ることの不安に さまよい
人智を超える永久を 心に抱けない人間は
世紀末を 心に抱く
ダーターファーブラよ
いくつもの世紀末を乗り越え
ここを司る 神よ
わたしは 世紀の区切りなんて いらない
あるのは 自分の生と 自分の終わりだけだ
そのあとに続くものが 永遠だとしても
わたしはもう そこにはいられない
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世紀末
終わろうとしている 時代に なにを 残してゆけるのだろう
わたしが 紡いだ 少しの言葉と
言葉に 変換された 情景と 出来事と
生きてきた という 事実の ほかに
つぎに来る時代に なにを 持ってゆけるのだろう
わたしが 紡いだ 少しの言葉と
言葉に 変換された 情景と 出来事と
生きてきた という 事実の ほかに
もうすこし 持ってゆけるのならば
あなたの 言葉も 荷物に 詰めたい
わたしのなかにある 邪悪を
猫の背を 撫でつけるように 忘れさせてゆく
あなたの 言葉
終末を 見つめる わたしのまぶたを 静かに 閉じて
ここにいることの 喜びを
当たり前のように 溢れさせてゆく
あなたの 言葉を
かがやきが 消える前に
両の掌に 大切に くるんで
次の時代まで
このまま 持って ゆきたい
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まいにち
働いている まいにち まいにち 働いている
車にのせて 配達して
売り上げが あわなくって いやみを言われる
今日は ボスの 機嫌がわるい
コーネンキショーガイ って やつだろう
傷つける 言葉の うまい人
働いて まいにち 家で ごはんを たべる
炊きたての ごはんは 甘い
だけど 洗いものは きらい
まいにちは いつも そんなふうだよ
くりかえし くりかえし くりかえし
ただ すぎてゆくだけ
わたしの 知らない まいにちを
どっかで 生きてる あなたがいる
そのことを 思うと
乾いた 身体に 水が ながれる
ときおり たちどまり
続いてる 空なのだと 見上げてみる
働いて 働いて 働いて
ボスは 今日も 機嫌がわるい
まいにちは いつも そんなふうだよ
絵の具で ひと掃きしたように
あなたの
ことを 思う 以外は
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エンドルフィン
喉が 乾くのも
肋骨に 痛みが走るのも
ふとしたことに 涙するのも
すべて みな エンドルフィンのせいだ
変わってゆく
変わってゆく ものは
脆い 感情
意味のない 攻撃
あなたのせいじゃない
すべて みな エンドルフィンのせいだ
あなたには 何の罪もない
言葉にならない 歓喜の 世界で
わたしは わたしに 浸るだけ
エンドルフィンの どろりとした
液体の中に からだを 溶かし
見えている すべてのものが
かたちを 変えるのに
まなざしを 凝らし
世紀末も 何もかも
わたしの 中に あるだけで
あなたのことは 好きだけど
エンドルフィンの 海に
からだを 浸らせて
現実を すこしずつ 歪めてゆくのは
わたしのためだけの わたしの 繰り言
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夜明け前
除夜の鐘を 聞きながら まどろみ
煩悩も また
悪くない と おもう
つまらない 欲望は いつも
わたしを
いろんなところへ 連れてってくれるから
夜明けまぢかの 鋪道が
きらきら 光っているよ
ほら
時間とか いろんなものが
小石のように ころがってて
手をのばせば
いくらでも
拾えるんだ
夜が 明ける
それでも わたしは いつまでも
あの頃のままで
欲望とか
ひそやかな 楽しみの
小石を 拾いながら
ずっと ずっと
光る 鋪道で
遊び続けるんだ
こがゆき