短編フラッシュ2
サンライズニッポン
バイパスは渋滞している。
今日もいちにち よく働いた。
雷のすぎたあとの 夕焼けがまぶしい。
FMの夕方の番組は 中学生や高校生ばかりが 電話に登場する。
会議では うまく 自分の意見を言ったつもりなのに 伝わらなかった。
家では 待ってる家族がいる。
はやく夕御飯を食べて ゆっくりしたい。
「リクエストは、 サンライズニッポン」
「嵐」が歌っている。
口ずさむうちにカーブを曲がりそこねて。
記憶がそこで途切れた。
わたしの 生命も。
そこで途切れた。
そんなふうにして、 自分がなくなる瞬間を
わたしは いつも感じてる。
サンライズニッポンが流れてる。
いつ途切れるかわからない わたしが
今日も 続いていった。
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イマジン
イマジンを聞くと カップヌードルが食べたくなる。
いや 違った。
カップヌードルを食べると イマジンが聞きたくなる。
12月の8日まで
あんなふうに 幸せな顔して、カップヌードルを 食べてたのかしら。
わたしの想像する 未来は
わたしか あなたが死ぬ ところばかり
いつも その瞬間を怖れて 生きている。
「精神の調子が悪いと、ずっと遠い未来しか思い浮かべられないんです」
って、今日、カウンセリングの先生に言われた。
Imagine All The People Living for Today
今日のことを考えようか。
トマトで作ったスパゲッティ
明日の楽しみは何だろう。
本屋に行ってみることかな
夏の休暇は何をする。
今日子さんと見る花火
手に触れられる くらいの楽しみを 慈しみ
死を恐れない わたしをください。
Imagine All The People Living for Today
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「正しかった街」 椎名林檎
正しかった街なんて どこにもなかった
みんな わたしを 拒んだ みんな わたしを 傷つけた
いや
みんな わたしを 受け入れた わたしが どこも 入れなかっただけ
正しかった街なんて どこにもなかった
**** 都会では冬の匂いも正しくない
**** 百道浜もきみも室見川もない
なのに 林檎が そう歌うと
あの街だけは 正しかった かもしれないと 思うんだ
若さも 無敵では なかった
知らない分だけよけいに いろんなことに 苦しめられた
あの街で 愛した きみが去り
それから わたしも そこを飛び出した なのに
なのに 林檎が 歌うから
あんなに 馬鹿なことしてても
それを受け入れていた 正しかった街が
かつては あったって 思ってしまって
わたしは 車を運転しながら
ひとりで 涙を 流すんだ
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罪と罰
生きてるかぎり 罪を重ねてゆく
人を裏切り
人を欺く
だけど
死は けっして その結果としての罰ではない
裏木戸を開けて 死んだおじいちゃんが 帰ってきた。
おとうさんと おかあさんは
いつのまにか 仏壇で お茶を飲んでいた。
わたしの 罪は みんな 知ってるんですか。
わたしもまた いつか 塀を超えて そっちに行くんですか。
待ってるんですか。
それとも 時が満ちるだけ ですか。
死はけっして。
なにかの罰ではない。
だけども寝る前に電気を消すと。
死はいつも わたしを 押しつぶしてゆく。
まるで 生きてゆくことへの 罰のように。
いつもわたしに「なにか」を 思いださせる。
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名もなき歌
道を歩くときも
ゆるやかな川の流れを 風で受けるときも
手をかざして 夕暮れの虹を見上げるときも
いつも同じ歌が わたしの奥に 流れている
誰かが ときに 死を思えと 囁きかけ
誰かがまた 死を忘れよ すべては ここにしか なぃと 囁く
だけども
わたしにしか聞こえない 歌は ただ 流れているだけだ
歌は 言葉に変わらない
思想もまた 言葉にはならない
思想とはたぶん 流れている血の色と 流れている歌のことで
言葉はそれに追いつけない
言葉よ それを 追いかけろ
追いつかない夜には うちひしがれて絶望しろ
偽りの言葉に 妥協するな
追いかけども 追いかけども
言葉にならない
わたしの中に流れる歌が
ここにあることを 知り
絶望を 繰り返しても
けっして歩み寄らず
ただ流れている 歌があることを 抱えよ
こがゆき