ニキータ
◆1990 フランス
◆監督 リュック・ベッソン
◆製作 ジェローム・シャルー
◆日本ビクター・日本ヘラルド共同提供
アクション映画の醍醐味といえば、自分が無敵になれることだ。
知恵と力のかぎりを尽くして、カーチェイスを易々とかわす。ぶっ放したライフル
は気持ちいいくらいにバンバン命中する。堪えられない。いいようのないカタルシス
だ。
だが「ニキータ」は、そんなアクション映画の構図に疑問符をなげかける。あなた
の望んでいるのは、本当にそれだけなのか? 人を殺すことは、「ただ、状況に立ち
向かう」ことなのか? やりきれなさや、愛する人の言葉を無視して、目の前のこと
をやり遂げることができたとして、それはそんなに格好のいいことなのか?
生っ粋の不良少女だったニキータは、素質を見い出されて政府工作員に任命される。
男のように濃い眉でバサバサ髪のニキータは、野獣のように反抗的だ。だが教育係の
ボブの力で、彼女は変わる。
誕生日の夜、レストランへの外出を許されたニキータとボブを迎えるのは、濃いグ
レーのベンツだ。磨きあげられた車体に、小さな雨粒が無数に光っている。ドレスア
ップしてマスカラを重ね塗りしたニキータにふさわしく。音もなく走り去るベンツの
表情はやさしい。
いろんな服を着たニキータの中でも、一番キュートなのは下着姿だ。
くつろぐ時はいつも、キャミソールかブラジャーにショーツだけ。白地にプリント
の花柄とかのやつだ。CMで見るような機能的なものではなくて、コットン素材のラフ
な下着は、無防備で、とてもニキータらしい。
恋人のマルコとの出会いは、ニキータの一方的な挑発からはじまった。彼女は食欲
を満たすのと同じように、性欲を満たしたかっただけ。その証拠に彼女は、自分の食
事が終わるとすぐに、マルコを押し倒してしまう。
なのに暗殺を決行するたびに、ニキータの心は引き裂かれる。自分中心の世界から、
マルコへの愛が溢れだしたからだ。
大使館員からデータを盗みだす仕事でニキータはトラブルを招く。組織は新たな殺し
屋ビクトルを送りこんでくる。
まるで掃除をするみたいに簡単に人を殺してゆくビクトルは、 警備員を片っ端から
撃ち殺し、ふたりはソ連大使の車ベンツ*で逃亡する。ここは派手ではないがなかな
か痛快なアクションシーンだ。前には煉瓦の壁。一貫の終わりだ。だが、ベンツは壁
をこなごなに壊して突破して、そのままパリの街並みを走り去る。負傷したビクトル
が運転不能になっても、エンジンは振動している。
ほんとにベンツって、こんなに頑丈なんでしょうか? と思わないでもないけど。
タフな表情のベンツも、なかなかいい。
「うたう歌はすべて自分のため」というタイプのニキータが、「あなたを悲しませ
たくない」と思うまでになる。愛する人のいる日常をいとおしむ歓びが、彼女の中に
溢れてゆく。
だがそれと同時に、派手なアクションや銃をぶっ放すカタルシスは、すべてニキー
タ自身の手によって、拒否されてしまうのだ。
(日経のウェブマガジンC-STYLE。2001年2月掲載)
こがゆき