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fukuroumura

書評
 『寄鳥見鳥』 岩本久則

 タイトルの「寄鳥見鳥」は何と読むか。
 解答。“よりどりみどり”なり。
 好きだなあ、こういうの。ページを括る前からわくわくしてくる。期待に違わず、ユーモアあふれる鳥観察小品集(つまり、バード・ウオッチング・エッセイズ)である。
 中身も例えばこんな具合。「宮城県伊豆沼の荒れ野に立ち雁を見ている男を、荒野の雁マンという」「オジロワシとかけて何と解く?この本と解く。“尾も白い”」。
 加えて挿絵の漫画イラストが楽しい。例の、あの、すっとんきょうで憎めないヤツ(著者は、絵を見りゃすぐわかる…と思うけど、よく知られた漫画家です、念の為)。
 だから、特に鳥たちに関心が深いわけではない、わたしのような読者でも退屈などしないが、でもまず馴染みのある“ご近所の鳥たち”から登場する心配りはありがたい。わたしだって、その十七種中のハシブトガラス、キジバト、カイツブリ、スズメ、オオハクチョウ、ヒヨドリ、オナガ、ツバメ、ウグイス、トビの十種ぐらいは見たことも聞いたこともあるから。
 スズメの「交尾の時の声は一聴に値する」ことや、「自意識が強いから、鴉の写真を撮るのは大変難しい」なんてことは知らなかったけれど。
 次の“ちょっと目をこらせば”グループの鳥たち十六種となると、確率はぐっと落ちて、ウミネコ、カワセミ、ハシビロガモ、フクロウの四種のみ。最後の “会えたら感激!”グループ十七種とは、わたしには識別不可なので定かではないが、会った事はないと思う。本書のおかげで、お知り合いになれた。
 面白いだけではなく、日本文化の知識教養を深めることもできる。鳥たちを材にした三十一文字や俳句、言い回しなどがふんだんにでてくるのだ。
 鋭い社会批判のスパイス付きでもある。交通事故で死ぬツバメや、釣り人の使うナイロンテグスで命を落とす「川や湖、海岸近くに棲む鳥」たちのことや、あの“矢鴨事件”にも、ちゃんと触れている。自然・環境と人間の関わりに対する目は確かだ。「かわいそう」なんて甘い言葉でごまかしたりはしない。
 「鴨は人間との関係で言えば、ハンティングと、動物蛋白の摂取としてのつき合いであった」など、鳥類と人類の間に横たわる距離をしかと踏まえてもいる。 本書はいちおう単行本だそうだが、文庫の大きさだから、どこでも身も心も軽々と読める。鳥のごとき本である。

(信濃毎日新聞)
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