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フクロウの読書ノート 2003年 十月 & 十一月 & 十二月
★★★ 『アニマル・ロジック』 山田詠美 新潮社 1996年
この作家の作品はデビューからかなり読んでいる。数年前に『トラッシュ』(文春文庫)を読んだ時の読書ノートには、
「心理描写、分析は的を射ているし好きだ。でも、どうしていつも日本人の女の恋人がブラックなのかナ。本人の実体験がそうであるのと、被差別状況が見えるせいなのか。そこらへんがもう少し描かれると、もっと面白いかも。日本の男が出てこないのには何かワケがあるような気がする」と、記している。
本書では、黒人の女性が主人公。舞台はニューヨーク。ヒロインのセックスを媒介にした人間関係を描くのはいつも通りだが、肌の色を問わず、しかし、常に根底には肌の問題が潜んでいる様々な関係を、本書は真っ正面から描いている。語り手に人間の血の中で生息する生き物を配したSF仕立てで、それに"神の視点"を持たせ、言葉できっちり性や人種による差別を語らせて、出色。
性を通した究極の"自由"を求めてきた山田詠美の到達点、ベストの作品かな、と思う。
★★★ 『シンデレラ迷宮』 氷室冴子 集英社 1994年
この人の"少女小説"を少女時代に読めた世代がうらやましい。
童話やバレー、小説などの有名な登場人物 −白雪姫や継母、『白鳥の湖』のオデット姫や黒鳥のオディール、眠り姫やかぐや姫、『ジェイン・エア』のジェインら− を使って、良く知られた物語をスルリと創り直し、15歳の日本の少女の内面を描く小説に仕立て上げている。
童話を異なった視点から書き直す試みは多々あるが、これはその内の最良の部類に属する。特に、若い女性にはお薦め、だが、若くなくても、十分に楽しめます。
★★ 『理由』 宮部みゆき 朝日新聞社 1998年
この人の作品は安定した筆力でハズレがない。
本書は、登場人物それぞれの家族(いったい何家族になるのだろう)が描かれ、その家族関係が犯罪 ーそれも疑似家族四人の皆殺し事件ー の遠因になっているというミステリィ。家族関係が社会の縮図であるならば、現代の日本社会の一面も浮かび上がってくることになる。
殺人犯の父親を母親が殺すという、子にとっては最悪の男女関係が、平凡で善良な家族の中に受け入れられ、淡々と呑み込まれていくのが、不気味だ。
★★ 『不機嫌な恋人』 田辺聖子 角川書店 1988年
女性の心理、それも自立した女性の本音を描くのがうまい。 いつも安心して楽しめる。平安期の王朝が舞台の恋愛絵巻。
★★ 『マローン御難』 クレイグ・ライス 早川書房 2003年
この"マローン弁護士シリーズ"は、ユーモアにあふれ、読むと元気の出る感じで好みだ。新訳のせいか、従来の小泉喜美子翻訳に較べると、文章のスピード感に欠けるきらいがあるが、ともかく未読の作品が読めて嬉しい。
★ 『朱色の研究』 有栖川有栖 角川書店 1997年
トリックの説明を読んでいる感あり。会話と人物造形に面白さと深みが欲しいですねえ。
番外特別 『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界にようこそ』 金井美恵子 講談社 2003年
依頼書評で『母の友』(福音館書店)三月号に掲載中(p.57)なので番外。図書館などで、ちょっと覗いてみて下さい。
ところで、この雑誌、見たことのない人たちも多いかと思うが、同号で中山千夏さんが書いている通り、「昨今まれに見る質の高い月刊誌」。思いがけぬ出会いになるかもしれませんヨ。
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