戻る

fukuroumura

フクロウの読書ノート  2003年 八月 & 九月

★★ 『新子』  時実新子  朝日新聞社  1988年

  著名な歌人の 虚実入り混じった、自伝的?小説。随所にはさまる、この歌人特有の艶のある歌がさすがに良い。「河口月光 十七歳は死に易し」か、、、「愛咬やはるかはるかにさくら散る」と、、、身に沁みる。


★★ 『世紀末ロンドン・ラプソディ』   水城嶺子  角川書店  1990年

  最初はアレレ、という感じ。ホームズ物のパスティーシュで、ホームズに恋する若い女性がヒロイン、ホームズと共に探偵役を務める。構成は、その話が著者に託された原稿で、ヒロイン本人が序文で実話と述べる、というもの。これって、ローリー・キングの『シャーロック・ホームズの愛弟子』シリーズ(集英社。このシリーズお勧め。本格的で緻密、意外性と、文句なく面白い)とそっくりじゃないか。どっちが先なんだと、思わず調べた。(書かれた時期や翻訳時期からすると関係はなさそう)
  でも、読み進めば、違いはもちろん大きくあって、ヒロインは日本人、タイム・マシーン(なんとH・G・ウエルズ製作で、彼も重要登場人物)で、19世紀末のロンドンに行き、ホームズと会い、事件に遭遇するという、SFミステリィ&ファンタジー 。ちょっと洒落ていて、ナカナカのものです。横溝正史賞優秀作。


★ 『囁く谺』  ミネット・ウォルターズ  創元社  2002年

  『女彫刻家』『氷の家』『鉄の枷』『昏い部屋』と紹介された著者の作品は皆、きわめて面白かったので、この作品も期待して読んだ、のだが、今までのと較べると、ちょっと、、、の感。登場人物の造形や複雑な心理描写のうまさは相変わらずだが、ほんの端役にも軽重なくその手腕は発揮されるので、語られる事やエピソードが多過ぎて、大筋が時に見えなくなってしまう。この人、誰だっけ、これ、何の話だっけ、と何度もページをめくり返した。過ぎたるは及ばざるがごとし、か。それだけ力量があるということではあるけれど、ネ。


★ 『娘に語る祖国』  つかこうへい  光文社  1990年

  “日本で生まれ育った在日韓国人の活躍中の人気劇作家”が、日本女性との間に生まれた愛娘に、自分と祖国、韓国 との関わりを語る。当然、幾重もの複雑な差別構造が透けて見える内容だが、幼い娘に語りかける形式で、文章は平易、興味深くも簡単に読める。実際、一晩でスラスラ読了。
  ただ、「やはり女の子は、基本的にはお嫁に貰われていくもの」とか、「おまえが男の子だったら、ほっぽたって育ちます。でもおまえは女の子ですから」とか、祖国と日本の双方にある儒教思想による男女間の差別にまで考えが及んでいかないのが、いかに現実を踏まえている?とはいえ、“日本の女”としては気にかかる。
  例えば、著者は考えた末に、娘の幸せのために、妻の籍を日本のままにして、娘を母親の籍、つまり日本籍にするのだが、妻は韓国のおばあちゃん(著者の母親)に、「なんでうちの籍に入らんとね。そんなに韓国人になりたくないとね」と責められたはず、と書く。在日の彼の苦渋は重々察しつつも、なんで女側だけがいつも籍を変えねばならないんだ(法的には、日本ではどちらの姓を名乗ってもいいことになっています、平等に、建前は、ネ)と、そちらの方には一向に思いが向かないらしい男に、世界でただ二カ国だけ の家父長中心の戸籍制度を持つ国(韓国と日本。朝鮮人民共和国については?)に生まれ育った女は、ため息をつかざるを得ないのです。


★ 『暗い迷宮』  ピーター・ラヴゼイ  ハヤカワ文庫  2003年
 
  この作家も作品が出れば読むお馴染みさん。“ダイヤモンド警視シリーズ”の最新作。いつも通り、ウィットの効いた会話が楽しめるが、殺人の動機が本作は少々、弱い気がする。“記憶喪失ものミステリー”の範疇に入る。


★ 『蘭の影』  高樹のぶ子  新潮社  1998年

  自分の年齢と合った?中年以上の女性の性愛や心理を描くのがうまいので、いつも手が出る。本書は短篇集。ちょっと物足りなかった、、、かな。

fukuroumura

戻る