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fukuroumura

フクロウの読書ノート  2003年 四月 & 五月

★★ 『心の砕ける音』  トマス・H・クック  文春文庫  2001年

  デビュー作以来、文学の香り高い作品を書き続けている著者だが、この作品も期待を裏切らない。人物造形や心理描写のうまさ。良質のものを読んだ満足感が残る。
  価値観や人生観が異なる夫婦と、性格は全く違うが、仲の良いその息子たち。家族のその相違と絆が、ミステリィを生む。
  隠れたもうひとつのテーマは、子どもへの虐待の犯罪性。"子どもの時の体験とその記憶"が、著者のミステリィのひとつの太柱だ。


★★ 『ホンの幸せ』  氷室冴子  集英社  1995年

  この人の書いたものを読んだことのない人はソンだよ、ホント。10年以上も昔、『なんて素敵にジャパネスク』を読んだ時にはお腹を抱えて笑った。あっという間に八巻を読破し、『ジャパネスク・アンコール』にも 『続ジャパネスク・アンコール』にも飛びついた。読み終わるのが惜しい程、いや、存分に楽しんだ。集英社のコバルト文庫のベスト・セラーだから、今でも手に入るのじゃないかな。 以来、注目しているが、本書のような、エッセイもなかなか。『冴子の母子草』(集英社)なんていうのも面白かったナア。
  著者も作品ももっと以前から、もっと評価されていい、と思っていたが、そうでなかったのはただ、「世間でいう少女小説」なるジャンルに押し込められていて、"一般"読者の目に触れにくかったせいだ。
  「、、、出版業界にははっきり階級制度が存在する。この場合、世間を反映していて、女であり、子どもであるところの"少女"を読者対象にしている小説を書いているという点で"少女小説家"くらい、この階級制度の最下級に属するモノ書きもいない」と、著者は本書で断言している。 その上、仕事上、決定権を持つ編集者や出版者側は男性で、「長い付き合い」で「信頼する相手」の男性は、「もし私が男性作家だったら、相手はこういう対応をするだろうか」と、このベスト・セラー作家をして、嘆かせているのだ。「私って、お互いの考えをいいあう対等な相手と思われてなかったのね。そうだったのかー。はれー」。30代後半の女性の作家はただの"女の子"だったのである、仕事相手のはずの男にとっては。いやはや、まったく。
  しかし、でも、著者を始め、 抑圧されてきた"少女小説家"たちは今や、芥川賞作家や直木賞作家となり、一般?作家として、不振の日本文学状況を背負って立っている。女性の作家たち(かつてはいちいち、女流作家だの閨秀作家だの呼ばれていた)の活躍は、皮肉にもこの男社会の抑圧が肥やしや修行になった結果なのかも、しれない。


★★ 『結婚詐欺師』   乃南アサ  幻冬舎  1996年

  面白かった。結婚詐欺師の手練手管と騙される女たちとのやりとり、そして、追う警察側の捜査状況、このふたつが交互に出てくる構成になっている。女と男の関係、つまり、恋愛関係は、多かれ少なかれ、騙し騙されることなのネ、と妙に納得。


★ 『無理愛』  中山千夏  飛鳥新社  2002年

  この人はエッセイの方が良い、と思う。わたしたちの世代には、本人の魅力が大きいし、その価値観や生き方に賛同するので、「わたしは」を主語にした方がストンと入ってくる。
  特に本書は、主人公のひとりが作者自身がモデルで、その姪が語り手、という小説なので、第三者の視点のかき分けがうまくいっているとは言い難く、ヤヤコシイ。
  親の子に対する愛は当然で、無償の愛と讃えられるが、実は、自己愛の変形で、子どもにとっては逃れられない"無理愛"であることを描く、ミステリィ仕立ての小説。


★ 『友よ、戦いの果てに』  ジェイムズ・クラムリー  ハヤカワ  2001年
 
  前作群(『酔いどれの誇り』『さらば甘き口づけ』など)の味を知っているので勇んで購入したが、それを味わっていなければ、読了できなかっただろう。
  主な理由はふたつ。マッチョな汚い言葉の洪水に、年のせいか、耐えられなくなっている?のが、ひとつ。その饒舌の中に、時や場所を色々入れ込んで、こみいった筋が語られるので、ミステリィ(謎)そのものが、読後もどうもすっきりとはわからない。それも、年のせいか。
  もうひとつの理由は、登場人物の人間関係や筋に、ベトナム戦争が濃い影を落としているのだが、その汚さ、非道さををののしりながらも、アメリカ側のことしか描かれていなくて、ベトナムやベトナム人のことは一顧だにされていないこと。侵略された側のはるかに凄惨な被害を知る身には、その理不尽さがこたえる。   


★ 『透光の樹』  高樹のぶ子  文藝春秋  1999年

  中年の男女の性愛を描いた、著者、自家薬籠中の物。老父や男の死がからみ、性と死の相関が浮かび上がる。


★ 『ブリジット・ジョーンズの日記』  ヘレン・フィールディング  ソニーマガジンズ  2001年

  このノリ、何かに似ていると思ったら、そう、TVドラマ、"アニー・マイ・ラブ"ね。ダイエットと男、セックス、結婚が関心事の30代の働く女性のデイリィ・ライフを描いたもの。ホントに、先進国?の若き女性の日々って、それだけが全てなのか?!それなりに面白くって、グイグイ読めるけれど、ウーム、それだけ。

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