戻る

fukuroumura

フクロウの読書ノート  2003年 二月

★★ 『浅い眠り』  岩橋邦枝  講談社  1981年

  "結婚生活の移りゆきを追う純文学連作小説"と帯にある通りの内容。結婚生活の短い夫婦から二十年の夫婦までの、微妙に違うが、妻と夫の感情の齟齬、距離感を描く。女性の、特に子どものいる(つまり、子育て中でもある)主婦の視点から、きっちりと結婚の内実を書いたものというのは、案外、ありそうで少ない。現在でも未だ(と、言うべきだろうか)、本質的、根本的なところで、女を(男も、か)幸せにはしない日本社会、結婚制度が透けて見える。


★★ 『毒薬』  エド・マクベイン  ハヤカワ文庫  1994年

  "87分署シリーズ"の一冊。この作家のものは常に水準以上の安心感がある。ヒロイン役の女性の過去の凄惨さは少々、こたえるけれど。


★ 『カリプソ』  エド・マクベイン  ハヤカワ文庫 2000年

  続けて、同シリーズ物を読む。でも、これは、後書きの作者自身のメモにある通り、あまりに"サドマゾヒスティックな作品"で好きになれない。彼が『暴力教室』の作家、エヴァン・ハンター(本名)であることを忘れていた。


★ 『千里眼』  松岡圭祐  小学館  1999年

  う〜ん、星印なしの 『Cの福音』(楡 周平)もそうなんだけれど、どちらもまず、人間が全く書けていない。これは、自衛隊出身のスーパーウーマンを主人公にしたハードボイルド風ミステリーなのだが、その主人公が女性である必然性がまるでない。そのまま男に移し替えたとしても、なんの違和感もなし。現実感のない薄っぺらな人物造形で、女性の重要登場人物が多いのは受けねらい? 女をこう簡単に使って欲しくないなあ。
  主人公がスーパーになる訓練を受けたのが自衛隊で、自衛隊や自衛官が良きものとしてためらいなく描かれるのもひっかかるが、それは世代のせいなのか、時世なのか、それとも個性か。
  二作とも、武器や戦闘機、インターネット、組織などにはすこぶる詳しく、それが内容の骨格を成していて、書きたかったのはこれだったのね、とすぐわかる。それで、人間が書けていないというのは、少々不気味。男性評論家諸氏にはすこぶる評判が良いらしいのも、勘弁して欲しい。

fukuroumura

戻る