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フクロウの読書ノート  2003年 一月

★★ 『女遊び』  上野千鶴子  学陽書房  1988年

  発売当時に既読。今読んでも面白いし、古くもなっていない。しかし、それは、状況が変わっていないということになるのではないか。フェミニズム運動の熱気も、当時の方がはるかに強かった。関西の女子短大で“女性学”の講座立ち上げに奮闘していた著者は、現在、東大教授。はたして、フェミニズムは広まったのか、社会を変えられたのか、現状を眺めつつ、考えた。


★★ 『柔らかな頬』  桐野夏生  講談社  1999年

  ミステリー仕立てだが、ミステリーとは言えまい。前作の『OUT』同様、犯罪を題材にした普通小説。この作家の描く女性は、シリーズ物の女性探偵ミロなんかより、これら二作に登場する、芯にどこか強い所のある女たちの方が、ずっとリアルで活き活きしている。日本で、ちゃんとしたフェミニスト意識を持った女性探偵を造形するのは、なかなか難しいかも、ネ。


★★ 『蔦燃』  高樹のぶ子  講談社  1994年

  女性の性愛を描くと、この作家は本当にウマイ。一見、何の不満もない平凡な主婦(ソンナモン、いるわきゃないけど)の、秘密の激しい恋、それも、そこには、近親相姦あり、狂気も自殺も“私生児”もからんでくる、ときた。“不倫”などというヤワなものではなく、女たちはずっと昔からひょいと枠を越えていたのよね、枠を壊すこともなく。一夜で一気読みした。


★ 『悔恨の日』  コリン・デクスター  早川文庫  2002年

  「モース主任警部シリーズ」最終作。特にファンであったわけではないが、一作目の『ウッドストック行最終バス』からほとんど読んでいる。シリーズ14作目。内容はいつも通り標準以上だが、どうしてもシリーズ主人公モースの死の方が気になる。クロスワードおたくのモースの姿や、レギュラーの仲間の刑事たちとのやりとり、関係が、きちんと書き込まれて、終了。


★ 『イーストサイド・ワルツ』  小林信彦  毎日新聞社  1994年

  深川が舞台で、出てくる場所が、同潤会アパートや深川江戸資料館、佐賀町のギャラリー、清澄庭園などの、我が散歩コース。ガイドとしては、これらの説明は表面的で中途半端。主筋の恋愛ともども、荷風の『墨東綺譚』とは比べるべくもない。主人公の中年男性に比して、女性たちが描けていないのも難。

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