アメリカの地方議会

更新1999/3/3


日本の国債、地方債、その他の債務残高は1998年度で600兆円を超えようとしてお り平成不況が続けばこの借金はさらに増大することが予想されます。これはやがて増税、 社会保障費(これも見えざる税金)の負担増しというかたちで国民にそのツケがまわって きます。財政赤字削減のために行政のスリム化は緊急の課題ですが米国の地方議会のあり 方はスリムな地方自治を考える上で参考になります。

昨年10月19日の朝日新聞の夕刊「窓」に米国テネシー洲のチャタヌーガ市を訪れた論 説委員のコメントが掲載されていました。
チャタヌーガ市の人口は16万人ほど。市会議員は女性2人を含めてたったの9人。ほぼ 同じ人口をもつ佐賀市、津市、小樽市などの4分の1しかいません。 議員が少ない理由の一つは市の計画策定や問題解決に最初から住民が直接かかわっている ことにあり、市内のあちこちで毎日のように小さな集会が開かれ、集会は夜に開かれると のことです。
住民の意向は専門のコンサルタント会社に依頼してまとめ次の集会で提示されます。それ をもとにさらにみんなで計画を練る。こうして住民の意向が街づくりに生かされます。

サンフランシスコ在住のジャーナリスト岡部一明さんによれば、これはチャタヌーガ市の 特殊事情ではなく米国全体の傾向のようです。
カリフォルニア洲の政府法(Government Code)は市会議員の数を5人と規定しており10 万人以下の都市の市議会は5人が標準になっています。但し洲内約500の自治体のなか で約2割の大都市は独自の市憲章を持っており10人以上の議員を持つ市議会もあります が人口比で日本の地方議会と比較すれば格段に少ないのです。
人口約350万人のロサンゼルスの議員は15人、72万人のサンフランシスコは11人、 78万人のサンノゼは10人です。

議員の数が少ないだけではなく議員の給料も少なく月数百ドルのところが多く、実際に議 員はボランテイアといって差し支えないのです。議会が夜開かれるのは住民も議員も昼間 は他に仕事を持つからでしょう。
サンフランシスコの市議年俸24000ドルは1982年から1998年まで変わりませんでした。市憲章で市議の給料は「ハーフタイム」料と規定されているのが興味深いところです。市議にはフルタイムで従事するほどの仕事はないとみているのでしょうか?
1996年11月に年俸を50000ドルに引き上げようとしましたが住民投票で否決さ れました。カリフォルニアの政府法で市長、市議の給料基準額を規定しており年5%以上 給料を増額する時は住民投票が必要とされ、議員がお手盛りで年俸を上げることはできな いのです。
(具体的な数値は「米国の自治体はNPO」に掲載しましたのでご覧下さい。)

一方日本の自治体は議員の数が多いだけではなく議員がお手盛りで決める報酬額も多く東 京都議の場合月収108万円、東京特別区議員の場合月収約60万円以外に調査費、年金 掛け金(半額)なども支給されます。
まさにいたれり尽くせりの待遇です。高額の給料に見合う働きを議員がしているかどうか 議会を傍聴すればわかるのですが、残念ながらそれを監視する市民は皆無に近い状況です。 住民不在が日本の地方議会の実体であり米国の地方議会との大きな違いです。
情報を提供していただいた岡部さんは「給料が安いため、市議が次々止めて高級の役人に転進していってしまうので困ります。」といっています。
米国では「官から民へ」「民から官へ」の人事交流があることも大きな特徴です。これが官と民の双方に活性化をもたらすのでしょう。日本では官から民への天下りはあっても民から官への人事異動は殆どありません。官の改革が遅々として進まないのは当然というべきでしょうか?

(文京区在住 松井 孝司)


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